37.対決!! 地球人の代表者!(1)
きっ子が朝起きてスマホを確認すると、さっそくカナタからチャットがきていた。
どうせ、「またアンドロメダに行きたい」とかぬかすのだろう。無視してやる! まてよ、甘い言葉で誘いだして、エラルドを奪いとるってのもいいな。もう誤作動なんてないだろうが、念のために。
「よし、そうしよう!」と独り言ち、メッセージを確認すると、予想外の内容だった。
『進路を決めた。進学する。くわしくは放課後に話す』
進路を決めた!? しかも進学ときたか! きっ子は一瞬唖然としてから、やっとカナタもわかってくれたのかと、達成感が湧いてきた。
具体的な進学先はもう決めているのだろうか? 専門学校? 短大? もし四大に進学するなどといいだしたら、今のままで受かる大学などないと、自覚させねば!
チャットは未來からも来ていた。未來らしいといえばらしい堅苦しい文面で、『お話したいことがあります。放課後伺います。』とあった。十中八九、昨日のことだろう。
あれは未來にとって刺激が強すぎる出来事だったはずだ。優子と同じように、記憶を消してほしいと、お願いされるのかもしれない。
きっ子はため息をついた。
記憶操作のアイテムを使うには、教師の月給と同額の使用料が必要になる。
げんなりとしながらも、『先約があるから少し遅くなるけどいい? 連絡するから進路相談室に来て』と返した。『承知しました』と、やはり固い返しを確認してから、きっ子は出勤の準備を始めた。
そして学校では、空き時間に何度か授業中のカナタを覗いた。たしかに真面目に勉強しているようだ。
放課後。きっ子は進路指導室に入って灯りをつけた。
すぐにカナタが部屋に入ってきて、椅子に座る。きっ子も座り、腕と脚を組んだ。ただでさえ大きい胸がさらに盛り上がり、タイトなスカートからすらりと長い脚が伸びる。
この姿が実に絵になることをきっ子は自覚している。貧相な身体をした小娘どもからの羨望を集め、同時に威圧感を与えているのも、知っている。
ただ、カナタには無効なようで、怯むような様子を目にしたことはない。今も堂々とした態度で相対していた。
「で、石油王はあきらめたの?」からかうような口調で、きっ子はいった。
「とりあえず今は勉強がしたい。だから進学する」
「ふうん。どこに進学するかは決めたの?」
「東京大学」
真剣な表情でカナタはいい、きっ子は椅子からずり落ちそうになった。
「あんた……自分の偏差値わかってる?」
「どうせ、無理だっていいたいんでしょ」
きっ子は慌てて首を振った。
せっかく勉強したいといってるのに、やる気を削いでどうするのだ。東大に受かる受からないは別にして、勉強するということは、確実にカナタのためになる。
「いやいや、驚いただけよ。いいんじゃない。できる限り応援するわよ」
「ありがと」
「ちなみに、どうして勉強に目覚めたの?」
「私はまた、アンドロメダに行くの」
「はぁ!? 私が連れて行ってやるとでも思ってんの? 絶対ダメよ!」
「最初は、また誤作動しないかと期待したし、サッキーにねだることも考えた。でも、そんなんじゃ人類はダメなの。いつまで経っても銀河を超えれない。私が人類をアンドロメダに導くんだ!」
「そ、そう……がんばってね?」
「ええ」カナタは頷き、バイトがあるから、といって忙しそうに部屋を出た。
きっ子は手足を投げだすようにして椅子に座り、ぼんやりと天井を眺めた。
カナタはアンドロメダにたどり着くということが、どれだけ大変かわかっているのだろうか?
確かに、きっ子たちはエラルドで気軽に移動できるが、そのワープシステムと中継ポイント網を使用するには、同様の科学技術を持ってることが条件となる。
つまり、一度は地球人が自力で銀河を超えねばならないのだ。それには、亜光速の宇宙船とワープ技術が必要だ。今の地球人には遠すぎる水準の科学となっている。
AI開発と地球人自身の遺伝子改良。この二つを両輪で進めながら何百回ものパラダイムシフトを起こし、生命はやっと宇宙へ羽ばたけるのだ。
その過程で、遺伝子改良失敗で自滅したり、AIが暴走したりで、滅びてしまった文明は数知れない。
絶滅の危機を回避する狭き道を登り続けたとして、どんなに早くても数百万年の月日が必要となるだろう。ましてや今の地球人は環境問題や核戦争のリスクなどをかかえており、百年先ですら存続が怪しい状態だ。
たとえ順調に進歩を続けていたとしても、運悪く巨大隕石でオジャン、なんて結末も普通にありえる。
まあ、私が気に病んでもしかたないことだな。きっ子は大きく伸びをしている途中に、未來との約束を思いだし、チャットを返した。
五分ほどでノックがして、未來が部屋に入ってきた。口を開けて天井を見上げていたきっ子は、ゆっくりと姿勢を整える。
「で、なんなの? 昨日のこと?」
「そのとおりです」と未來はいいながら、きっ子の腕をつかんだ。
「えっ、なに?」
「銀河連邦星間安全保障委員会付けパトロール隊員、通称、銀河パトロール、二級隊員のツクヨマです。斉藤きっ子こと、サイル・ト・ルー・キコ。あなたを銀河星系進化保護法一〇八七、未開人種への技術公開の罪で逮捕します」
「未來が銀河パトロールゥゥ!?」
きっ子はすっとんきょうな声をあげながら、未來を見る。




