36.本物ではなかった私たちが目にした輝きは(5)
「で、結局、エラルドってどういうモノなの?」
「生物転送システムの目的地自動判別機能付きユーザーインターフェース」
大人げなく、先生はソッポ向いたままいいます。
「わからん」
カナタさんが首を振ったので、私が質問しました。
「願ったことを叶えてくれる場所へ、自動でワープしてくれる……みたいなことですか? だったらこの近くに、石油埋蔵量の多い惑星がある、とか?」
「まあ、そんなとこだ」
「先生はどういう経緯で私たちの元へ? 優子さんが動いてくれたんでしょうけど、先生が宇宙人とは知らない優子さんが、先生に相談することはないだろうし……」
「優子からピンク屋。ピンク屋からエラルドの元持ち主、その元持ち主に連絡つかなかったから、ピンク屋から私に連絡がきた」
「そうか……。先生もピンク屋さんのお客なんですね。そうなるとピンク屋さんは宇宙人専用の質屋さん?」
「ああ」
「宇宙人といえば、円柱の部屋で何人かと会ったんですけど……」
「そうなのよ!」と、先生は私の言葉を勢いよく遮ります。「さっきログを確認したけど、ヤベェのと遭遇してたな。私が飛ぶ前に、ヤツが来てたのを知ってたら、あんたらの死体にご対面かって、パニックってたわ」
「それって、すごい歯がある大きなバケモノですよね……」
あのときのことを思いだし、身震いしました。
「いや、あれは虫も殺さないような慈悲に満ちたヤツらだ。危ないのはその前、全身タイツで変な棒を持っていただろ。狩猟を生き甲斐にするヤツらでな、保護されている地域の未開人すら、こっそり狩っているような連中だ。今回みたいに保護地域じゃないところで未開人を見つけたら、速攻殺されると思ったが……。無事でよかった……」
「そんなことが……」私は言葉を失いましたが、カナタさんはどこ吹く風で、挑むような表情を先生に向けています。
「それよりさ、今まで私が願ってもエラルドはウンともスンともいわなかったのに、どうして今さら動いたの!?」
「それは知らん。だいたい、普通は登録された所有者でしか起動できないはずだ。だから誤作動だな」
「誤作動なのか」
「まあ、誤作動で移動できてもさすがに支払いまではできなかったみたいだけどね。あの銀色の部屋から出るには、エラルドの利用代金を払わないといけないんだ」
たしかに私がいくら叩いても、通ることはできませんでした。
「支払いってどうやんの?」
「普通はエラルドに銀行口座を紐づけてるから、それで自動的に出れるけど、支払い方法はなんでも大丈夫。実は一万円札を十枚、銀の壁に押しやるだけでもよかったんだ」
「ほう」カナタさんは満足そうに頷きました。
「さて、そろそろ帰るわよ!」先生は立ち上がり、青い液体をごくりと飲み干します。
「待って!」とカナタさんが駆けだして、透明な壁にへばりつきました。
「これが、アンドロメダかぁ……」
私もカナタさんの隣にいき、アンドロメダの光たちを見つめました。天の川とアンドロメダとの違いなどわかりませんでしたが、ただただ美しい星の瞬きにため息がでました。
五分ほどそうしていました。やがて先生が私とカナタさんの肩を抱き、「地球へ」と呟きます。
一瞬だけ視界が闇に落ち、すぐに銀色の部屋に。そこもすぐに出て、天の川の星たちを堪能する暇もなく、先生が呪文のような言葉を発し、優子さんがいるファミレスに戻ってきました。
優子さんはテーブルに突っ伏しています。
「あの……優子さんは?」
「記憶を消して眠らせてる」
「まさか私の記憶も消すつもりっ!」
噛みつくような表情でカナタさんがいいました。
「今回のことで、私がどれだけ金を使ったと思っているんだ! 優子は小賢しいから記憶を消したけど、あんたらは別にいいわ。いっとくけど、今日体験したことを話しても誰も信じてくれないからね!」
先生は脅すようにいうと、ファミレスを出ていきました。
「スマホがなくて動画も撮れてませんし、確かに誰も信じてはくれないでしょうね。今日のことは忘れましょうか」
私はそういってカナタさんの表情を伺いました。私の言葉なんかはまったく届いておらず、ニヤリとなにやら企んでいるようです。
「ぐふふ、サッキーめ。誤作動でタカをくくって、エラルドは回収しなかったな。よしっ!」
カナタさんは私の手をとり、エラルドを握らせました。
「えと……これは」
「未來が持っててよ。そのほうがサッキーに奪われる可能性も低いし。そして次はちゃんとお金用意して、みんなでアンドロメダに行こう!」
「えっ」私は固まってしまいました。
「怖い目にあったし、もう行きたくない?」
カナタさんが残念そうにいい、私はハッとします。
あのときバケモノのおぞましさでパニックになって、カナタさんのことなど忘れてひとり逃げだしてしまった……。でも、カナタさんは私のためにあのバケモノに立ち向かってくれた。
私なんかの……こんな私なんかのために……。
「いえ、カナタさんとなら、どこにだって行きます!」
「そう。よかった」
「カナタさん!」
「おお……どうした、未來。そんな怖い顔して……」
「次は絶対、私は逃げません。命をかけて、大好きなアナタを守ります! 絶対に守ってみせます!」
「えっ、告ってんの?」
カナタさんは笑いながら、いいました。




