35.本物ではなかった私たちが目にした輝きは(4)
先生のおかげで、私とカナタさんは銀色の部屋から出ることができました。
そこでは、宇宙空間に放りだされたと錯覚するような星空が広がっています。私は驚きと感動で、ふぁー、とよくわからない声をもらしました。隣ではカナタさんも、「おおっ!」と声をあげています。どうやら、全面ガラス張りの宇宙船の中のようで、銀色の円柱以外はドアもテーブルもベンチも全て透明になっていました。
「ここは、どこ!?」
興奮した様子でカナタさんが訊きます。
「アンドロメダにあるワープの中継ポイントよ」
先生はため息混じりに答えました。
「アンドロメダ!? それって、別の銀河だよね!」
「そうよ」
「サッキーってナニモノ? ひょっとして宇宙人!?」
「まあね」
カナタさんは眼を輝かせたのですが、私にとっては驚きや感動よりも、日常が壊れていく恐怖や不安のほうが大きかったです。
カナタさんはさらに質問を続けたのですが、興奮のあまりというか、普段どおりというか、要領を得ない質問ばかりでした。くたびれた表情の先生が「どこかに座ろう」と提案し、私たちは従いました。
少し歩くとカフェみたいにテーブルと椅子が並んでいる場所があり、そのひとつに腰をおろしました。すると、テーブルの上にコップが浮き上がり、青色の液体で満たされました。それを手に取る気分にはなれませんでしたが、カナタさんは躊躇なく口にいれ、ぎょっとしました。
「おお、カツ丼の味がする!」
「それは今食べたいものの味がするんだよ。というか、宇宙人用で地球人には毒かもしれないとか、考えないのか?」
先生は叱る口調でいいます。
「ねえねえ、それよりさっきの続き! まだ半分も訊けてない!」
「アンタと質疑応答しても先に進まないから、まずは私から説明するわ」
ため息のあと先生がいいました。要約すると話はこうです。
まずは斉藤先生なのですが、アンドロメダのとある惑星の出身で、地球に来たのはただの観光だったそうです。だけど日本の教師ドラマの再放送にハマってしまい、ついには自身が教師になって地球に住みついてしまいました。
また、先生のように地球に住みつく宇宙人は少なくないとのことで、日本には数百人、世界では数万人いるらしいです。地球に来た経緯や住みついた理由もさまざまで、出身惑星もバラバラとのことでした。
「サッキーと同じ星のヒトばかりじゃないんだ!」
「あたりまえよ。宇宙に惑星がいくつあると思ってんの。ワープ技術を持った宇宙人なんてたくさんいるのよ! そんな星の人からみれば、地球人なんて未開人どころか猿みたいなもんなんだから」
「そんなにすごい宇宙人がその気になったら、地球人なんて簡単に滅ぼされてしまうのではありませんか?」
私は恐ろしくなって、先生に訊いてみました。
「そういう悪いやつらを捕まえる組織があるから大丈夫」
「漫画でよく見る銀河パトロールみたいな?」
カナタさんが目を輝かせます。
「まあ、そうね」
先生は面倒くさそうにいいました。
「宇宙人が地球人を傷つけたら、銀河パトロールに捕まるのですか?」
恐る恐る私は訊きました。さっきのバケモノが地球にいるかも……。そう考えるとすごく怖かったのです。
「規則としてはもっと厳しい。むやみに私たちの科学や文化を見せつけるだけでもNG。地球人の進化に影響するかもしれないからだって。ほら、最近でいうとラジッドの鮎川。あのヒトの曲って、私たちの中で流行ってる曲をもろコピーしたのばっかだったんだよね。そのうち捕まるだろうなー、って思っていたら案の定いなくなった」
「なんだと! じゃあ私が母に酷い目にあわされたのは、銀河パトロールのせいなのか!」
それに関しては自業自得だと思うのですが、特になにもいいませんでした。それよりもぼんやり、地球人離れした能力を持っていた『北極星の母』のことを思いだしました。彼女も同じように捕まってしまったのでしょうか。そこまで考えて、はっとしました。
「斉藤先生は大丈夫なんですか? 私たちを助けたり、いろいろな事情を教えてしまったり」
「地球人の命を守ったのだから、大目にみてくれるでしょ。それにさぁ、地球の進化に影響がなければ問題なしよ。鮎川みたいに音楽なら、世界中で影響がでちゃうけど、今回はふたりだけ。少人数でもアインシュタインとかなら問題だけど、底辺高校の中でさらに底辺生徒だしね」
「なにさ! 私が石油王になっても、サッキーには一バレルもやらないからな!」
「んなもん、いるか! それよりもカナタ! なんで、お前がエラルドを持ってるんだ、塾はどうしたっ!」
先生はカナタさんの胸ぐらをつかみ、手を振り上げてビンタの体勢です。
顔を青くさせたカナタさんはシドロモドロになって奇妙な言い訳を繰り返しましたが、先生の厳しい追及もあって、塾の代金の二十万は正志君が用意したお金が使われたと判明しました。そして、カナタさん自身が稼いだお金でエラルドを買ったのです。
そんなコトがあったとは知らず、私は私でこっそりカナタさんのためにバイトしていたこともあり、少しばかり惨めな気持ちになりました。
「覚悟はできているな、カナタ!」先生が眼をつり上げていい、「余計なお世話だ!」とカナタさんが反抗するやいなや、ビンタが飛びます。カナタさんは椅子から転げ落ちました。
「暴力はやめてください!」
私がそう非難するも、先生はソッポ向いて取り合おうとしません。
それをよそにカナタさんは、椅子とテーブルにすがりつくように立とうとします。私は慌てて肩をさしだしました。なんとか椅子に座りなおしたカナタさんが、頬に真っ赤な手形を残しながらもいいます。
「で、結局、エラルドってどういうモノなの?」




