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17.面談(4)

カナタが通う高校の正門に着いたのは、三者面談の五分前だ。電話で到着を伝えると、すぐにカナタはやって来た。


「へー、馬子にも衣装じゃん」


「いってろ。それより、早く行くぞ」


「はーい」カナタは嬉しそうにいって、校庭を横切り校舎へ向かった。キョロキョロしながら野口もあとに続く。


部活の生徒たちが汗だくになってダッシュをしている。扉が開けっ放しの体育館のほうを見ると、ダムダムとボールを突きながら激しく動き回るバスケ部員たち。微かにだが、吹奏楽の管楽器の低音も響いていた。カナタはここで青春を満喫しているのだろう。そう考えると、感慨深いものがあった。


カナタの先導で校舎に入り、階段を上がる。面談で使用する進路指導室は三階だった。カナタがノックもなしに扉を開ける。窓もない十畳ほどの部屋に、四人掛けの机と椅子があった。


ドア側に座っていた女が立ち上がる。この女が担任教師の斉藤きっ子なのだろう。


きっ子については、カナタから事前に説明があった。見た目も性格も凶暴だとのことだ。サッキーとの愛称で呼ばれてはいるが、陰ではメスゴリラと揶揄されているらしい。だが実際は、切れ長のつり上がった目にすらりとした鼻すじ、さらに百八十近い高身長、豊満なバストと張りつめた脚、まるで海外モデルだ。粗い画像の写真ではマイナスポイントだったソバカスも、きつめの顔を中和する意味ではむしろチャームポイントにすら思えた。


そのきっ子だが、まるで不審者でも見るような表情を向けてくる。それでも野口は、「はじめまして。カナタの父です」と頭を下げた。


きっ子は野口を一瞥してからカナタに顔を向けた。その眼光は鋭い。


「おい、カナタ。どういうことだ」


「えーと、ハハは最近忙しくてさぁ」カナタは視線を泳がせる。「だから、チチに来てもらったの。チチとは最近、偶然再会したの!」


野口はため息交じりの息を吐いた。どうやら自分が来ることも、その素性も一切説明していないらしい。


きっ子はカナタを睨んでいたが、やがて野口のほうに視線をやり、「どうぞ、お座り下さい」といって腰を下ろした。野口は頷き、正面に座った。隣にカナタも座る。


「単刀直入に訊きます。どなたですか?」きっ子の視線は容赦がなく、貫目があるヤクザのようだった。


「だから、私のチチですって!」カナタはいったが、きっ子はそちらを見ようともせず、野口を睨み続けた。


「訳あって一緒には暮らしていませんが、カナタの父の野口と申します。いつも娘がお世話になっています」


「野口さんですか……。では、その野口さんに忠告しておきます。もしアナタが、カナタにお願いされて善意で父親を演じているとしても、それは善意でもなんでもありません。スケベ心をしまって、すぐに帰って下さい!」


「父親は娘相手に、スケベ心なんぞ持ちません」


「まだいうか!」きっ子が机をバンと両手で叩いて、身を乗りだした。殺意すら感じるような鋭い視線に射抜かれてヒヤリとしたが、「あれ!? 本当に父親なんだ!」と急にきっ子が納得してしまい、「失礼しました。お父さん」と苦笑いを浮かべた。


「そうよそうよ。やっとわかってくれたのね!」


カナタはそう喜んだが、野口はやや戸惑った。理由はふたつある。きっ子がいきなり父と認めた根拠が不明なこと。もうひとつは、カナタの担任教師に父親と認められたことで、想定よりずっと大きな感動と喜びで心が満ちたことだ。


「それでは、あらためてお父さん。カナタさんの進路について相談したいことがあります」


「はい。なんでしょう」野口は姿勢を正した。


カナタは結局、どのような進路を希望し、なぜ三者面談になったのかを明かさなかった。金銭面の問題だろうから、深くは追及していない。


「カナタは進路について真剣に向き合おうとせず、石油王になるなどと、ふざけたことをいってます。さらに、その資金調達と称して校則違反の深夜バイトを繰り返し、本業の授業は居眠りばかり!」


野口は椅子からずり落ちそうになったが、なんとか踏みとどまった。


「あの、大学への進学が希望で、お金がかかるとかの話では……」


「大学!? えっ? カナタが受かる大学って、どんな大学ですか?」きっ子がきょとんとした。


「……カナタの偏差値ってどれくらいなんですか?」


「そうですね。偏差値うんぬんの話ではなく、このまま高校を卒業して社会に適合できるのかどうかということを真剣に考えていただいたほうがいいかと……」


「そんなにですか……」


「ええ」と、きっ子は頷いてから微笑んだ。「でも、私はカナタを信じます。カナタの中には、無茶や無謀へと突き進むだけの膨大なエネルギーがあります。私は教師として、それを正しい方向にもっていきたいのです。今さら進学なんてものは望みませんが、それでも進路はちゃんと考えるべきです。石油王なんていう夢想ではなくて、真剣に向き合ってほしいのです」


「先生のおっしゃるとおりだと思います」


「この件は、今日はいらっしゃらなかったお母さんにも、電話でお伝えしようと思っています」


「私が連絡することはできませんので、ぜひ先生のほうから」


野口が頷いた直後、足に痛みが走る。カナタに踏みつけられたのだ。横目で見ると、裏切者でも見るかのようにこちらを睨んでいる。

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