15.面談(2)
もう一度、二十四人の顔をじっくり見る。さらに見知った顔を見つけて、あっと声をあげた。
「やっとか。気づかなかったら、どうしようかと思ったぜ」
「この写真はどこから?」
「昨日、ウチのポストに入ってた」内川はあっけらかんに答えた。
「ポストだと! それがマジなら、やばすぎるシロモノだ……お前を嵌める気だぞ!」
「かもしれん。だが、俺は逃げない。弔い合戦だ」
「ふざけるな!」野口は机を叩きつけた。灰皿から吸殻が飛び落ち、灰が舞う。
「落ち着けよ。それより、何人知ってる?」内川は平然と煙を吐いた。
野口は舌打ちをしてから、再び二十四人の顔を見る。
「十五年前の失踪者が四人……あとは誰もが知ってるラジッドの鮎川ぐらいだ」
「赤星が七、青星は十二、無印は五。何を意味していると思う?」
「知らねーよ」
「俺たちが追っていた事件の失踪者は、全員赤星だな」
「知らねぇつってんだろ! 帰れ!」
「ああ、そうかい」内川は立ち上がり、のそりのそりと扉に向かった。
「内川!」
「なんだよ」内川が振り向く。
「今さら追ってなんになる。俺がなぜ辞める羽目になったのか、知らないわけじゃないだろ」
「正志君は元気か?」
「なんの話だ!」
「正志君は元気かと訊いているんだ」
「ああ、元気だ」
「そうか」と残して、内川は外に出た。
しばらくの間、野口は考え事をしていたが、まとまる気配はなく、モヤモヤがつのるばかりだった。やがて、どたどたと騒がしい足音が耳に入り、時間を確認する。深夜零時だ。
「遅くなった、ごめんごめん」カナタが入ってきた。
「明日にしろといっただろ!」
「ふたつ目の件は、明日じゃ遅いんだって。緊急事態なんだから」
「緊急事態だと?」
「そうそう」と頷いたカナタは、机の上に放置していたA4用紙を手に取る。「なにコレ?」
「お前には関係ない、返せ!」
「はぁ? 三人も関係者がいるんだけどぉ?」
「なんだと!?」野口は驚きで一瞬固まったが、すぐに身を乗りだした。「どいつだ?」
「まずは、この人」
カナタが指差したのは、鋭い眼光の若い女性だ。ソバカスは目立つが顔自体は整っており、間違いなく美人の部類に入るだろう。その女は無印だった。
「何者なんだ?」
「私のクラスの担任、サイトウキッコ。みんなからはサッキーと呼ばれてる」
その教師が行方不明になっていないか野口は尋ねたが、今日も元気に教鞭をとり、放課後にはカナタを進路指導室に呼びだした、とのことだ。
「進路に迷っているのか?」
「迷ってるわけじゃないんだけど、反対はされているの。私も折れなかったから三者面談することになっちゃってさ」カナタはやれやれと首を振ってから、神妙な表情になった。「ふたつ目の件、話していい? 三者面談には、チチに来てほしいの」
「俺なんかじゃなくて、母親が行くべきだろ」
「ハハには……知られたくないの……」カナタは俯いた。
金銭的な理由かもしれない。私立大学で独り暮らししようものなら、年間二百万以上かかる。四年間ともなれば卒業まで一千万だ。胸が疼くのを、野口は自覚した。
「わかった。でも、本当に俺でいいのか?」
「うんうん」カナタはパッと笑顔を見せる。「急で悪いけど、明日の夕方だよ。よろしくね」
「確かに急だな」
「いいじゃん。どうせ暇でしょ」
「うるせえよ」野口はタバコをくわえて火をつけた。「それより、この写真にいた残りふたりの関係者を教えてくれ」
「いいよ」と頷いたカナタが指差したのは、『北極星』と書かれたハチマキをした老婆。青星だ。
「この婆さんとはどんな関係だ?」
「占い師なの。二万払って運命の人を占ってもらったら、ここの住所を教えてくれた」
「占い? ここは興信所に探させたんじゃないのか?」
「チチに会いたいなんて全然思ってなかったけど」
野口はやや傷ついた。
「そういえば、俺に人探しをさせようとしてたよな? それって、この婆さんか?」
「そうそう。でもね、どっかいっちゃったみたい。正志にも協力してもらってさんざん探したけど、見つからなかった」
失踪した可能性が高そうだ。
「三人目は?」
「ラジッドの鮎川」
「それは関係者とはいわんだろ」
「ある意味、関係者。てか、迷惑してるのよ。鮎川、失踪しちゃったでしょ。ハハが奇跡的な確率で当選したラジッドのライブも中止になったから、今チョー機嫌悪いの」
「そうか……」
お互いに若かった二十代前半、彩とは同棲していた時期がある。不機嫌なときの彩は手に余ったものだ。そんな甘くも苦い記憶が溢れてきた。




