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14.面談(1)

「もうすぐバイトだから、あまり時間がない。単刀直入にいうから」


午後五時になる少し前、カナタがいきなり事務所にやって来て開口一番にいった。制服なので、学校帰りなのだろう。


「なんだよ、やぶからぼうに」野口は苦そうな顔でタバコの煙を吐いた。


「いわなきゃいけないことはふたつある。まず一つ目。二十万稼がなきゃいけないんだけど、私が放火魔とか殺人鬼を捕まえたら、警察からの懸賞金ってどのくらい出るの?」


「知るか」


「なんでよ。チチは元刑事なんでしょ」


「なぜ、それを知っている!?」


「正志に聞いた。なんか問題あるの?」


「別に」舌打ちのあと、野口はいった。「正志とは、よく会ってるのか?」


「会ったのは数回だけ。はじめて会ってから、まだ一週間ちょっとだし」


「正志はカナタのことを、どう思っているんだ?」


「知らないわよ。自分で訊けば? それより、懸賞金のこと教えてよ。早く!」


生意気な口をきくな! そう怒鳴ってやりたかったが、タバコを吹かすことでこらえた。


「そもそも、お前が捕まえる必要なんぞない。捜査特別報奨金制度というものがあってだな、有力な情報には三百万だ」


「へー、詳しく教えてよ」


「自分で調べろ。ネットに載ってる」


「ケチッ!」カナタは口を尖らせ、スマホを操作しだす。


「なんで、二十万が必要なんだ?」


「なんだっていいでしょ!」カナタはスマホを睨んだまま、顔を上げようともしない。


「まあ、確かになんでもいいや。だが、意外だったな。報奨金なんて狙って貰えるもんじゃないが、俺にタカるんじゃなくて、自分で稼ぐ選択をするなんてな」


「しょうがないじゃない! チチが立派な社会人ならともかく、ほとんど無職のごくつぶしでしょ。そんなヒトにタカって、正志がお腹すかせてひもじい思いしたら可哀想じゃん!」


正志にひもじい思いなどはさせん! 妻がしっかり稼いでる!


そう反論しかけたが、ますます自分が惨めになることに気づく。無言でむっつりしていると、カナタが不意にため息を落とした。


「私が石油王になったら、チチにもなにか仕事を回してあげるね」


「石油王だと? 何をくだらないことをいってるんだか」


「くだらないとはなによ!」カナタが怒鳴った。


「なに怒ってるんだ? 石油王なんていうのはジョークだろ?」


カナタはふんっと鼻を鳴らして、視線をスマホに戻すも、慌てた様子で立ち上がる。


「チチがくだらない話するからもう時間じゃん! もう一つの話はバイトが終わってからにするわ。少し遅くなるけど、またここに来るから、待っててよね!」


「ここら辺は、あんまり治安がよくないんだ。明日にしろ!」野口はいったが、カナタは振り向きもせずに出ていった。




夜十一時過ぎ、階段を上がる音がしたが、カナタの騒がしい足音とは別のものだった。のっそりと重量感のある男の足音に思われる。


それは扉の前で止まった。少しばかりの静寂のあと、「誰だ!」と野口は脅すように声をあげた。


扉が開き入ってきたのは、窮屈そうに背広を纏った筋肉質の男だ。背は低いがプロレスラーのような厚みがある。


「内川か!」


「久しぶりだな、野口。お前さんが警察をやめてからだから、二年以上になるか」


「そうだな……」野口は頭を掻いた。


内川とは同期だった。先輩の矢崎にしごかれながらも、切磋琢磨してきたライバルでもあり、友でもある。そんな男だからこそ、今の自分を見られたくはなく、居心地が悪かった。


「俺より先に警部補になったっていうのに、ずいぶんな落ちぶれようじゃないか」


内川はガハハと笑いながら対面のソファーにずっしり座り、タバコに火を着けた。


二年ぶりだというのに、こいつは変わらないな。腹立たしいぐらい無神経でガサツだ。そうあきれるも、昔と変わらない友の姿にほっとした。憐れむような態度をとられていたら、きっと傷ついていた。


「こっちは一国一城の主だぜ。お前ら公僕は、せいぜい上司とか世間とかに尻尾振ってろよ」


「いいたいこといいやがる」内川は鼻を鳴らした。


「で、なんの用だ。今さら陣中見舞いってわけでもないだろ」


「まあな」内川が背広のポケットから手帳をだし、それに挟まれていた四つ折りのA4用紙を二枚、机に置いた。


内川が目で合図するので、それを広げる。一枚につき十二人の顔写真が印刷されていた。合計二十四名で、その顔写真の右下には赤色の星マーク、もしくは青色の星マークが描かれていた。数は少ないが何も書かれていないものもある。星マークはこの紙に直接書かれたものだ。


写真の人物には、ひとつだけ知った顔があった。日本人であれば誰でも知っている顔だ。一年前に彗星の如く現れ、革新的な楽曲で大ヒットをとばし続けているバンド、ラジッドのボーカル兼作詞作曲の鮎川創影だ。その彼が謎の失踪を遂げたのは二週間前。いまだにワイドショーはそのネタで持ちきりだ。ネットも荒れに荒れている。そんな彼の精悍で挑発的な顔の右下には、青の星マークがあった。


「これがなんだっていうんだ?」野口は訊いたが、内川は答えようとしない。

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