10.僕は食後のケーキ君(3)
自分でいうのもなんだが、僕の顔の造りはかなり整っている。街中で怪しい中年がよってきて、芸能事務所へ勧誘されることも一度や二度ではない。昔は社長秘書をしていた美人の母さんに感謝だ。父さんも、身なりを整えればイケメンのたぐいなのだが、僕とは似ていない。僕の外見は母さん似なのだ。
「占いのお婆さんですけど、どの辺りにいたか教えていただけませんか?」
客がいなかったこともあってか、彼女はわざわざコンビニの外まで出てくれた。そして、傘立ての横を指差す。
「あのお婆さん、たまに、ここにいました。でも、今どこにいるかはわかりません。ごめんなさい。こんなことしか知らなくて……」
「ありがとうございます」と僕は深く頭を下げた。
「あの……」と彼女はなにかいいかけたが、店に客が入ったので、戻っていった。
「やっぱり、どこに行ったかは、わからないかぁ」カナタさんが残念そうにいった。
「他の場所にも行きましょう」
「私がネットで調べた限りでは、これだけなのよ」カナタさんが肩を落とす。
「なるほど、そうですか……」
僕は地図アプリでこの場所に旗を立てた。はじめの喫茶店も含めて、旗は三ヶ所だ。続けてこぐま座の情報を表示した。『北極星の母』を名乗るくらいなのだから、こぐま座と関係があるかもしれない。そう考えてみたのだが、どうやら僕の推理は正しかったようだ。
「『北極星の母』の居場所がわかるかもしれません。行きましょう」
「えっ、まじ? すごいじゃん!」カナタさんは手を叩いて喜んだ。
僕の先導で十分ほど歩き、古びた小さい公園に入った。辺りも古い民家が多く、閑散としている。おおよそ商売には向かないところだ。ましてや占いなどなおさら。
公園にはベビーカーを押す金髪の若いママさんがいた。小走りでママさんに近づき、可愛い赤ちゃんですね、と微笑んでから『北極星の母』について訊いた。ビンゴだった。この公園で見かけたことがある、との話が聞けた。
だが、最近は見ていないという証言も、他と一致してしまった。別の候補地にも向かわねばならないようだ。僕は礼を述べ、立ち去ろうとしたが、ママさんに引き留められた。
「彼女さん?」ママさんは少し離れたところにいたカナタさんを一瞥してから、小声でいった。
「いえ。姉です」
「ふーん、そうなんだ……」ママさんはなにかいいたげだったが、再度礼を述べてから、僕はカナタさんのもとに戻り、公園をあとにした。
さらに僕たちはふたつのポイントを回ったが、結果は同じだった。『北極星の母』の目撃者はいたのだが、最近は姿を見せていないとのことだった。残るポイントはあとひとつだ。近いポイントから回ったこともあり、本命といっていい場所が最後となった。
「ねえ。なんで、『北極星の母』がいた場所がわかるの? まさか……正志も占いができるとか?」
「僕は占いなんて非科学的なものは信じていません。カナタさんが父さんと会えたのも、奇跡的な確率とはいえ、やはりただの偶然だと思っています」
「じゃあ、どうやって『北極星の母』の居場所が?」
「法則性を見つけただけです」僕はスマホを取りだし、地図アプリに立てた七つの旗を見せた。
「今まで回ってきた場所だよね。これがなに?」
「この形を見て、ピンときませんか?」
「んー、四本足で歩く熊みたいな形」
なんとも予想外な回答に、びっくりした。
「……えーと、これは、北極星ことポラリスを含む星座、こぐま座です」
「へー、星座だったんだ! 正志って賢いんだね」
カナタさんは驚いた顔を見せたが、僕も驚いていた。『北極星の母』という呼称と、初めにカナタさんから得た三ヶ所の位置情報から、こぐま座に至ったのはちょっとした知識と閃きだ。たいそうに自慢できることではない。それに比べてカナタさんは、なんの知識も持たない状態で、こぐま座を見て四本足の熊を連想したというのだ。そんな感性の持ち主が存在するのだろうか? 百歩譲って四本足と尻尾のある動物までは連想できたとしても、普通の感覚で思い浮かべるのは、熊ではなく犬や猫だ。
「ところでさぁ、『北極星の母』はどうして一ヵ所にとどまらず、星座をなぞって移動したんだろう? やっぱり、占いに必要だったのかな?」
「演出だと思います。出没箇所を線でなぞるとこぐま座になるぞ! てな感じで、神秘性とか話題性をプロデュースしたかったんでしょう」
「まあ、本人に訊けばいいや。それより、六つ回ったのだから、あと一ヶ所よね、どこどこ?」
「残るは、北極星。ここです」
僕は北極星に立てた旗をタップした。旗が赤色に変わる。
「めっちゃ遠いじゃん!」
「近いところから回っていったら、最終的にはそうなってしまいましたね……」
「えー」とカナタさんは不服そうな表情をした。
「そういわずに、頑張りましょうよ。あと一ヶ所じゃないですか」
そのようにカナタさんをなだめたのだが、そんなことまで僕がするのはさすがに違うだろうと思った。さらにカナタさんは、目的地まで一キロを切った辺りで道端にしゃがみこんだ。
「だめ! もう歩けない! 腹も減った!」
まるで幼児だ。とても年上とは思えない。




