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ドラゴンのうろこ

 ドラゴンのうろこを体のどこかに貼り付けると、そのドラゴンの力を我がものと出来る。


 そんな噂が、冒険者たちの間でささやかれるようになったのはいつからだろう。

 もちろん、がめつい商人たちがその噂にのらないわけがない。彼らにとって噂が真実か嘘かはどうでもいいのだ。たちまち店頭に色鮮やかなうろこがいくつも並ぶこととなる。

 冒険者たちがドラゴンのうろこを体の一部に貼り付けるのは、今となっては特に珍しくない光景だ。


   ◇◆◇◆◇


「ふう、やれやれ。なんとか勝利できたな」


 男は汗を手で拭いながら、地面に倒れ伏すモンスターの群れを見下ろした。

 隣では自分の恋人である女戦士が剣の血糊ちのりを布で拭き取り、鞘に納めるところだ。


「もう……あなた最近、私の動きについて来れてないわよ?」


 口をとがらせる恋人に対して、男は気まずそうに笑いながら頭をかく。


「悪い悪い……っていうか、お前が強くなりすぎなんだよ」

「そう? たしかに、自分でもすごく成長してるのを感じるわ。やっぱりドラゴンのうろこのおかげかしらね!」

「ドラゴンのうろこか……体に何かを貼り付けるのはどうも苦手なんで敬遠してたんだが、俺も試してみようかな?」

「それが良いわよ! うろこを貼ったところが時々痒くなるくらいで、他にはデメリットもないし。ほら見て見て、カッコイイでしょ?」


 女が短い袖をまくりあげ、二の腕に貼ってあるドラゴンのうろこを恋人に見せつける。

 自分を見つめるにこやかな女とそっくりの笑顔が浮かびかけた男だったが、その笑みが一瞬で凍り付いた。


「……!? お、おい、それ……!?」

「えっ? どうしたの?」


 女は自分の視界に入らないので気づかない。

 一枚だけ張り付けてあるはずのドラゴンのうろこが、いつの間にか増殖して二の腕の一部をびっしりと覆っていることに。


「う、腕を見ろ!!」

「え……? !? な、なにこれ!?」


 あまりのおぞましさに女は目を見開き、もう片方の手で二の腕を押さえた。戦いの最中には気づいていなかったが、いつの間にか腕の痒みもひどくなっている。


「ちょっ……どんどん広がってるぞ!!」

「い、いや……! 痒い……痛い……た、助け……あ、あ、あ」


 口から悲鳴が漏れ出し、耐えられない苦痛と恐怖に女はがくりと膝をついた。

 慌てて男は恋人を支えようと近づく。


「お、おい! しっかりしろ! い、今すぐ助けを……」


 しかし、男は突然の衝撃にもんどりうって倒れる。女が男をその手で突き飛ばしたのだ。これまでの彼女には、ありえない膂力りょりょくだった。


「あ、あ、あ、ア、ア、ア、アアアアアアアアアアアアアアア……!!」


 痛みをこらえて起き上がる男の前で、恋人の叫び声がどんどん変質していく。

 悲鳴と共に、肉がつぶれ、骨がきしんで折れるような音がいくつもその場に響いた。それと共に美しかった彼女の姿形がどんどん変化していく。


 やがてすべてが一段落した時、男の目の前にいたのは人ではなかった。人と竜を混ぜ合わせたような、異質な存在であった。

 二足で立ってはいるものの、頭は竜のようなあぎとを持ち、左右の手は鋭いかぎ爪が生え、全身にはびっしりと鱗が生えている。

 経緯を知らない人が見たら迷うことなくこう判別しただろう。モンスターだと。


「ひっ……」


 自分の恋人であったはずのそれに、男は剣を構えた。もはやかつての面影はどこにもない。モンスターの瞳は、冷たく男の姿を映していた。


「く、来るな……来るな……!!」


 震える剣を手にしながら後ずさる男にモンスターは一瞬で距離を詰め……。

 その腕が一閃した時、男の首はすでに宙を舞っていた。

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