ドッペルゲンガー
ダンジョンを歩く男女のペア。
単純なペアという言葉以上の親密さが、その二人からはうかがえる。
それもそのはず。二人はこれまでに何度も危機を乗り越えてきた冒険者コンビであり、同時に恋人同士でもあるからだ。
今は、最下層にあったお宝を手に入れて、来た道を戻るところである。
二人の足取りは軽い。
女は隣を歩く恋人を見上げておどけるように言う。
「今回も無事に攻略できたわね。帰ったらいつものバーに飲みに行きましょ。今日もあなたのおごりで良いわよね?」
「ああ。もちろん」
女の言葉に、男はにこりと笑った。
そんな油断があったからであろうか。
男が床のでっぱりにつまづき、たたらを踏んで壁に寄りかかると。
突然、壁の一部が回転し、男は女から隔てた場所に放りこまれた。
「……!? これはトラップドア!?」
入り込んでしまった隠し部屋の中で驚きの声をあげる男の前で、一体のモンスターが蠢く。
不定形だったそれはやがて、とある人の姿をかたどった。男にそっくりの姿に。
「な……こいつ、ドッペルゲンガーか!?」
ドッペルゲンガー。
人の姿を完全に模倣するモンスターだ。
姿かたちだけでなく、記憶すらも模倣できるという。
男の姿をとったそいつは、ゆっくりと剣を抜いた。男とまったく同じ剣を。
「くそっ……」
男も遅れて剣を抜く。
相棒から離されてしまった今、一人でこの危機を切り抜けねばならない。
「くらえ!」
男は気合の声と共に、鋭い突きを自分そっくりの相手へと見舞った。
「……ねえ! 大丈夫!? ああ、もう、どうやったら開くの……きゃっ!?」
必死の形相で壁を叩いていた女は悲鳴をあげた。
さきほど自分の恋人が突然消えた時と同じように、突然恋人が姿を見せたからだ。二人を隔てたトラップが内側からふたたび作動したのである。
現れた恋人の顔を見て女はほっと息を吐く。
「良かった……いきなり壁の向こうに消えちゃったから心配したわよ。……大丈夫だった?」
「ああ。もちろん」
女の言葉に、男はにっこりと笑った。




