原石を求めて
男は地面をざっくざっくと掘っていた。
手に持つのは使い古しのスコップ。
男がずっと使っている相棒だ。
スコップで黙々と掘り進めるそのうちに……。
カチン、という小気味の良い音が響く。
男は笑みをうかべ、お目当てのものを傷つけないよう注意しながら、スコップで周囲を掘削していく。最後には両手で丁寧に土を取り除いて、ようやく姿を見せたそれを掴んだ。
男が地中から取り出したのは、一塊の原石。磨けば光る宝石になることが約束されているような、見事なものだった。
「やっぱりここの土地は良いな。掘れば掘るだけ素晴らしい原石が手に入る」
満足げに呟いた男は立ち上がってぐるりと見回す。あたりにも男と同じようにスコップを持って穴を掘る者たちが大勢いた。
みな、男と同じようにこの地で原石を探し当てようとしているのだ。友達とまでは言えないが、同じ目的を持つ仲間のようなものである。
その日の活動を終えると見つけた原石を手に仲間同士で集まり、笑顔でお互いに綺麗な石の色や形を褒め合うのだ。もちろんその原石を探し当てた功績も。
――これからも、ずっとこの場所で原石を探そう。
戦利品を袋に入れた男は、ふたたびスコップを手に持って新たな採掘作業に挑んだ。
そんなある日。
男のそばに一人が近づいてきた。この地で同じようにスコップを手に採掘作業をする仲間だ。今は手ぶらで、その代わりにずいぶんと大きな荷物を背負っている。
「あれ? そんなに大荷物を背負って、どうしたんだ?」
「いや、そろそろ別の土地に行こうかと思ってな」
「え? 何でだ? たくさんの原石に巡り合える素晴らしい場所じゃないか、ここは」
「うーん……たしかにその通りなんだが……最近、良い原石が見つからないことが多くなってないか?」
その発言を受けて、男は近ごろの収穫がどうだったか思い返した。
「……言われてみると、昔より時間がかかるようになった気もするが」
「だろう? 原石とは到底呼べない石ころにぶち当たることが増えちまった……。だから俺はここじゃないどこかで、原石を探したいと思ってるんだ。きっと、他にもこの土地みたいに原石が埋まっているところがあるはずだからな」
「雲をつかむような話だな。この地にだってまだまだ眠る原石はたくさんあるんだぞ。目の前にある原石をほっぽり出してやるようなことか?」
「だからお前を誘わなかったんだよ。たぶんそう言うと思ったからな。でももう俺は新天地を探すと決めたんだ」
「そうか……寂しくなるが、しかたない。良い土地が見つかることを祈ってるぜ」
「ありがとう。それじゃあな!」
去って行く仲間の背をしばらく見送り……男はふたたびスコップを手に目の前の作業に戻った。
スコップで土を掘り進めながらも、頭の中にはさっきの出来事が思い浮かぶ。立ち去る仲間が見せた、迷いから解放されたかのような笑顔。
――この土地を捨てるなんて信じられない……他所の土地に原石が眠っている保証なんてどこにもないのに。
男はそんなことを考えながら、黙々と採掘を続ける。
ややあって、スコップの先端がカチン、という音を鳴らす。
土を払うと、見えたのは石ころじゃない、美しい原石の輝きだった。
周囲の土を取り除いて原石を取り上げた男は、うっとりとした瞳でそれを見つめる。かつてないほどの大きさだった。
「ほらみろ。やっぱりこの土地は最高だ。他の土地に行く必要なんかないんだ」
去って行った仲間に対してわずかな憐れみを抱きながらも、男はさらなる原石を求めてスコップを手に取った。
それからしばらく経ち。
「おかしいな……今日も原石が見つからない。石ころばかりだ、どうなってやがる」
男は立ち上がって周囲を見回した。いつの間にか、男と同じようにスコップを持って活動する者の数がずいぶんと減った気がする。
引退したのか、それとも以前の仲間のように新天地を求めて旅立ったのか。
男は少し迷う。自分も、今から別の土地へ向かうべきではないかと。
しかし、今となってはもうすでに新たな土地も掘り尽くされていることだろう。
ここと同じように石ころばかりが見つかるのではないか……とためらう気持ちが湧きおこる。
思い浮かぶのは、かつての仲間が去り際に浮かべた笑顔だった。あの時は仲間のとった行動がまったく理解できなかったが……。
男は目の前に広がる大地を見下ろした。すっかり枯れ果てたのか、もはや正当な報酬を渡してくれなくなった場所を。
――俺ももっと早く新天地に向かうべきだったのか? いや……でもあの時はまだまだ原石があったんだ。ここに残った俺の選択は正しかったはず……。
しかしその正しかった選択の末路がこれだった。
掘っても掘っても石ころしか見つからない、徒労だけの日々。
「でも、今さら他所へ行けるわけないだろ! 俺はここで原石を探すしかないんだ……」
苦しげな顔でそうつぶやいた男は、相棒のスコップを持つ手に力を込めた。のろのろとした動作で採掘作業に戻る。
ずいぶんと長い間、ひたすらに掘り続け……。
ガチリ、と硬い感触がスコップを持つ手に伝わった。




