どうのつるぎ
「どうのつるぎなんて、金のない駆け出し冒険者が使うものだぜ!」
ボクは、店先で何度似たような言葉を聞かされただろうか。
ずっとうらやましかった。鉄の槍や、鋼の剣といった、ボクよりもはるかに高性能の武器が。
ボクはこのまま埃をかぶって過ごすのかなと、そう諦めていた。
でも、勇者と呼ばれる女の子がボクを手にしたその時。
ボクの剣生が、まさに始まったんだ。
勇者の女の子は最初は危なっかしかったけど、すぐにボクを使いこなせるようになった。
はじめて一緒にモンスターを退治した時のことは、今でもすぐに思いだせる。
やがて勇者は強くなり、ボクを買った街から遠くへと連れていってくれた。
見たこともない景色に感動する余韻もなく、遠くに行くごとに比例してモンスターもどんどん強くなっていく。
それはボクにとって、この世のどんなことよりも恐ろしいことだったんだ。
だって、ボクは強くなれないから。勇者の女の子やその仲間たちと違って、成長しないから。
そしてボクより強い武器はこの世界にいっぱいある。次に訪れた新しい街でも、ボクよりも強そうな武器をたくさん見かけた。
勇者といえど、道中はもちろん苦戦の連続だった。
だから勇者の女の子も、きっとそのうちボクを手放して新しい武器に乗り換えるんだろうなって。
そんな未来に怯えていたんだ。
そしてボクが恐れていた通り、勇者と仲間たちはとある街で、これまでに稼いだお金すべてを持って武器屋に入った。
仲間たちは嬉々として新しい武器を手に取る。勇者の女の子にもボクを売って、一番高値のものを買うよう促したんだ。
ああ、ボクの冒険はここで終わりか。
でもありがとう。楽しかったよ。キミの初めての武器になれて、すごく幸せだった。
そう心の中で呟いた。
でもその時、女の子が仲間たちを見上げてこう言ったんだ。
「今使ってるこの剣はあたしにぴったりなの。売ったり捨てたりなんて、考えられないわ」
ボクはその言葉にずいぶんと驚いたよ。もちろん仲間たちも驚いていた! ……当然だけど。
「それに、どこかの遠い国では愛着を持ってずっと使い続けた道具に魂が宿るって言われてるそうなの。きっと、このどうのつるぎも、いつか魂が宿ってあたしの大事な相棒になるんだわ」
仲間の人たちは呆れてたみたいだけど、その言葉を聞いたボクがどんなに嬉しかったか! お姫様に忠誠を誓う騎士の気持ちが、ボクにも分かった気がしたんだ!
ああ、勇者よ! 必ずボクがあなたを守って見せます!
そして勇者の言葉に嘘偽りはなかった。
魔王直属の強大なモンスターが現れるようになってさえ、勇者はボクを手放すことはなかった。
どうのつるぎであるボクを使い、華麗に敵をばったばったと斬り倒す!
さすがにこの頃になると、仲間たちももう何も言わなかったよ。だって、ボクはすでに勇者の大事な相棒になれてたから!
そしていよいよ魔王との決戦の日がやってきた。
魔王も驚いていたっけ。まさか、それがお前の愛剣なのかって。
勇者はそうよって答えてくれたよ。
もちろん魔王は笑ったさ。でも勇者は笑わなかった。
勇者はボクを構えて、まっすぐに突撃。ボクから繰り出された剣技のすさまじさに、魔王もすぐ笑みを引っ込めたよ。
もちろん魔王との戦いは一筋縄ではいかなかった。
でも勇者とボクによる果敢な攻めと、仲間たちのサポートや魔法の力もあってじりじりと優勢になりはじめ……。
長い戦いの決着がつく時がきた。
ついに、魔王をやっつけたんだ!
勇者の女の子がボクを使って、あの魔王を!
どうのつるぎであるこのボクが、魔王の心臓を貫いたんだ!
ああああああああああああああああああああああ!!
お願い溶かさないで! ボクがボクじゃなくなる! ボクはまだ役に立つから! きっとボクにしか出来ないことが……! 勇者の女の子と出会ってそれから……!!
「最後にいい夢でも見れてたら良いんだけどねえ……」
「結局、誰にも買われなかったもんな」
「やっぱり、今時どうのつるぎなんて時代遅れなんだろうねえ……」
「そうだな……今度はフライパンでも作るか。きっと、つるぎよりは必要とされるだろう」
溶かされるどうのつるぎを前に、鍛冶屋の夫婦は穏やかな笑みを浮かべた。




