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ゴブリンを賢くする方法

 世の中に無数にいるゴブリンの部族の中に、めきめきと頭角を現している一団がある。

 今日も抗争に勝利し、勢力圏を広げてさらに奴隷を増やしたところだ。


 玉座ともいえる骨細工の椅子にふんぞりかえるのはゴブリンの王。その体躯たいくは一般的なゴブリンより遥かに大きい。

 並の戦士程度では、このゴブリンの王と一対一で戦って勝つことは難しいだろう。


 しかし、この部族の勢いを目覚ましいものにしているキーパーソンは、この王ではなかった。

 王のそばに付き従う参謀のゴブリン。

 このやせっぽちのゴブリンこそが、この部族に連戦連勝をもたらしているのである。


 参謀ゴブリンは、ゴブリンの中では異端と言ってよいほどの知恵者だった。

 彼はいつも不満だった。なぜ他のゴブリンは、自分とこうも違うのか? と。


 食べる犯す殺す寝る。

 この四つがゴブリンの主な行動原理である。ほとんどの場合においてこの四つのことで頭がいっぱいであり、考えるという行為をしているかどうかすら疑わしい。

 雑兵たちが自分の言いつけを守らないせいで、余計な犠牲が出てしまったことも一度や二度ではない。

 王はまだマシなほうだが、それでも対話の相手としては不満を覚えているのが現実である。


 いったいどうすれば、ゴブリンを賢くできるのか。

 それこそが最近の彼にとっての一番重要な課題だった。

 ゴブリンの四つの行動原理を必要最低限にたしなみ、それ以外の時は常に思考を巡らせていたそのうちに。

 ようやく彼が思い至ったことがある。


 それは自分たちの言語、ゴブリン語に関することだ。

 まず前提として、ゴブリンが話す言葉は単純である。



 俺。

 おまえ。

 腹減った。

 飯、食べる。

 敵、来た。人間、数多い。

 痛い。

 むかつく!

 こいつ、強い。

 やばい。逃げろ。

 こいつ、弱い。

 馬鹿め。

 捕まえろ!

 犯す、犯す、犯す!

 やっちまえ!

 殺す、殺す、殺す!

 ああ、楽しい!



 大体こんな感じだ。

 そして、ゴブリンに知性が芽生えないのは、このあまりに単純すぎるゴブリン語を使っているせいだと考えるようになったのである。


 人間が操る言語を見よ。

 あれほど多種多様な言葉を話すからこそ、あそこまで知性が育つのだ。

 ならば、ゴブリンの知性を増やすために必要なのは、ゴブリン語の語彙ごいを増やすことだ。

 そう結論付けたのである。


 しかし、ゴブリンたちがいきなり多数の言葉を覚えることは難しい。聡明な彼はもちろんそのことにすぐ気づいた。

 何か良いやり方はないだろうか?


 参謀ゴブリンはそれから必死に勉強した。

 人間の言語を。人間の文化を。

 そしてついに彼は、長い学習と思考の果てに、天啓てんけいのようなひらめきを得たのである。


 とある国に住まう人々が使う言語には、雨を表現する言葉がたくさん存在するという。

 雨が生活に密接していたから、雨と共に暮らしてきたから、その折々で雨を表す言葉が次々に生まれたのだそうだ。


 ならば簡単だ。ゴブリン族である我らも、一番密接なもの、共に暮らしていくものの言葉を増やせばよい。

 そうして増えた言葉によって、ゴブリン語は今よりも複雑なものになるはずだ。

 そしてそれを用いた会話を続けていれば。

 いつかきっと、ゴブリンどもも頭が良くなるであろう。そのことがこの部族に繁栄を……いや、やがてはゴブリンという種族すべてに繁栄をもたらすのだ。


 参謀ゴブリンは喜びに歯をむき出して笑った。

 思い立ったが吉日きちじつ

 さっそく王に進言し、部族内の全ゴブリンに、奴隷たちをこう呼ばせることにしよう。


 苗床なえどこ人間。薪割り人間。食料人間。砂袋サンドバッグ人間。武器作り人間。防具作り人間。道具作り人間。火起こし人間。見張り人間。人質人間。突撃人間。飯作り人間。毒見人間。飼育人間……。

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