表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギャルはシャッター商店街を盛りたい  作者: 御茄子之与一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/10

第9話 ステージの上で

夜市のステージで、莉愛たちの反撃が始まる。

 白灰商店街の夜市は、最後になるはずだった。


 アーケードには赤い提灯が吊られ、古いスピーカーから盆踊りの曲が流れている。けれど、提灯の下には灰原不動産の説明会ブースも設けられていた。白いパネルに、完成予想図。ガラス張りの複合施設、整った歩道、統一された看板。


 きれいだった。


 きれいすぎて、誰の顔も見えなかった。


 莉愛はセト・コスメの前で、最後の確認をしていた。


 色見本帳のページの写し。

 景観協定の資料。

 美玲が持ってきた広報部メール。

 レオンが調べた図書室記録。

 備品スマホの貸出記録。

 そして、怜司が教えてくれた搬入口で確認した住民同意書の控え。


 そこには、小さな文字でこうあった。


 『景観保存条件については、別紙参照』


 けれど、住民に配られた説明資料には、その別紙がなかった。


 宮田さんが言った。


 「俺、その別紙見てねえぞ」

 「他の店も?」

 「たぶんな」


 莉愛は唇を結んだ。


 これで全部ではないかもしれない。


 でも、十分に戦える。


 ノエルは、空色のリボンを髪に結んでいた。


 校則違反だ。


 でも今日は夜市で、ここは学校ではない。


 それに、ノエル自身が選んだ色だった。


 「似合う」

 「落ち着きません」

 「落ち着かないくらいでちょうどいい」

 「莉愛さんも、爪」


 莉愛の爪には、桃色のラメが戻っていた。


 派手すぎない。

 でも、ちゃんと光る。


 「決戦仕様」

 「かわいいです」

 「ノエルちゃん、ほんと見る目ある」


 ノエルは、少しだけ笑った。


 その笑顔を見て、莉愛は胸がいっぱいになる。


 この顔を、なかったことにはさせない。


 説明会ステージは、夜市の中央に作られていた。


 灰原宗一郎は、スーツ姿でマイクを持つ。怜司はその後ろに立ち、資料を抱えている。表情は硬い。


 宗一郎の声はよく通った。


 「白灰商店街は、長い歴史を持つ場所です。しかし現在、老朽化、空き店舗、防災上の問題を抱えています。私たちは、安全で清潔な新しい街を作るため、住民の皆さまと合意を進めてまいりました」


 パネルに数字が映し出される。


 空き店舗率。

 耐震不足。

 同意済み世帯数。


 数字は強い。


 誰かが頷く。


 莉愛は、それを否定しなかった。


 古い建物が危ないのは本当だ。商店街に空き店舗が多いのも本当だ。夢だけで店は続かない。


 だからこそ、嘘を混ぜられると困る。


 宗一郎が続ける。


 「一部では、感情的な反対活動も見られます。しかし、街の未来を考えるなら、清潔で統一された新施設こそが最善です」


 感情的。


 その言葉で、莉愛は一歩前へ出た。


 「質問」


 周囲がざわめく。


 宗一郎は莉愛を見た。


 「質問は後ほど」

 「今がいい。感情的って言われたから」


 莉愛はステージへ上がった。


 宮田さんが「行け」と小さく言ったのが聞こえた。律がスマホで録画を始める。美玲は震える手で録音データを握っている。レオンは資料の束を持ち、ステージ脇に立った。


 宗一郎の眉が動く。


 「無許可でステージに」

 「説明会でしょ。説明して」


 莉愛は住民同意書の控えを掲げた。


 「この『別紙参照』って何ですか」


 宗一郎の表情が、ほんの少しだけ変わった。


 「専門的な資料です」

 「住民に配った資料には入ってない」

 「概要には影響しません」

 「影響するよ。景観保存条件って書いてある」


 ざわめきが広がる。


 宮田さんが声を上げた。


 「俺は見てないぞ、その別紙」

 「うちもだ」

 「説明会で聞いてない」


 宗一郎はマイクを握り直した。


 「古い協定は、現行計画では参考資料にすぎません」

 「じゃあ、最初からそう言えばよかったじゃん」


 莉愛は、色見本帳の写しを広げた。


 「十年前の景観協定には、各店の色と看板を残すって書いてある。ノエル写真館のおばあちゃんと、セト・コスメのおばあちゃんが記録してた。これを見せずに同意取ったなら、それはちゃんとした同意じゃない」


 宗一郎の声が冷える。


 「未成年の感情的発言で、事業を混乱させるのはやめなさい」

 「未成年の写真を切り抜いて、地域浄化の資料に使おうとした大人が言う?」


 美玲がステージへ上がった。


 顔は青い。


 けれど、マイクを持つ手は下ろさなかった。


 「灰原不動産広報部から、学園周辺の風紀悪化に関する素材提供を求めるメールが届いています。私は、生徒会備品スマホの管理者として、その指示を受けました」


 会場がどよめく。


 宗一郎が美玲を睨む。


 「真白さん。発言には責任が伴う」

 「はい。だから言います」


 美玲は録音データを再生した。


 スピーカーから、宗一郎の声が流れる。


 『学園の乱れと商店街の老朽化を結びつければ、浄化計画の必要性が伝わる。素材は多少強く見えるほうがいい』


 ざわめきは、怒りへ変わった。


 莉愛はノエルを見た。


 ノエルはステージ下にいた。


 空色のリボンを握りしめている。


 ここから先は、莉愛が全部言ってはいけない。


 ノエル自身の声が必要だ。


 莉愛はマイクを差し出した。


 「ノエルちゃん」


 ノエルは一歩も動けなかった。


 宗一郎が低く言う。


 「ノエル。戻りなさい」


 その声だけで、ノエルの肩が震える。


 怜司が動いた。


 宗一郎の前に、一歩出る。


 「父さん」

 「怜司」

 「ノエルに、話させてください」

 「お前まで」

 「僕も、覚えています。ノエルが写真館で笑っていたことを」


 ノエルが顔を上げた。


 怜司は彼女を見なかった。


 見たら言えなくなると思ったのかもしれない。


 「僕は、家を守ることと、家族を黙らせることを同じにしていました」


 宗一郎の顔が怒りに歪む。


 「怜司、下がれ」

 「下がりません」


 怜司の声は震えていた。


 けれど、彼は下がらなかった。


 ノエルが、ゆっくりステージへ上がる。


 マイクを受け取る手が震えている。


 莉愛は横に立った。


 何も言わない。


 ノエルの声が、夜市の中に落ちた。


 「私は、灰原ノエルです」


 それだけで、彼女は息を吸い直した。


 「ノエル写真館の孫で、灰原家の養女です。どちらの場所にも、私はうまく立てませんでした。商店街の人には灰原の人間として見られ、灰原家では写真館の孫として見られました」


 会場が静まる。


 ノエルは続けた。


 「でも、祖母が残した写真を見て、思い出しました。私はこの街で笑っていました。セト・コスメで青いリボンを選んでもらいました。魚辰の前で転んで、宮田さんにみかんをもらいました。私は、どちらかの敵ではありません」


 宮田さんが目をこすった。


 ノエルは色見本帳のページを掲げた。


 「この記録は、古いものです。でも、古いから価値がないとは思いません。ここには、誰かが自分の店を、自分の色で続けてきた記録があります。再開発が必要なら、話し合えばいい。危ない建物は直せばいい。でも、知らないまま同意したことにされたくありません」


 宗一郎がマイクを奪おうとした。


 莉愛がその前に立つ。


 「まだ話してる」

 「どきなさい」

 「やだ」


 宗一郎の目が怒りで光る。


 その時、会場から声が上がった。


 「聞かせろ」


 宮田さんだった。


 「ノエルちゃんの話、聞かせろ」


 別の店主も続く。


 「別紙なんて見てないぞ」

 「説明し直せ」

 「写真を勝手に使ったのか」


 声は広がった。


 夜市に来ていた学園の生徒たちも、スマホで録画している。今度は、切り抜かれるためではない。残すためだ。


 宗一郎は一歩下がった。


 その顔を見て、莉愛は思った。


 勝った、ではない。


 でも、黙らせることはもうできない。


 ノエルは最後に言った。


 「私は、私の色を誰かに決められたくありません。この街も、そうであってほしいです」


 空色のリボンが、夜風で揺れた。


 その瞬間、拍手が起きた。


 最初は小さく。


 やがて、アーケード全体へ広がっていく。


 莉愛は隣のノエルを見た。


 ノエルは泣いていた。


 でも、顔を隠していなかった。


 説明会は中断された。


 灰原不動産は、同意書の再確認と景観協定の再説明を求められることになった。SNSでは、夜市の動画が広がり始めている。今度のコメントは、前と違った。


 『ギャルの子、筋通ってる』

 『ノエルさんの声、震えてたけど強かった』

 『色を残す再開発、普通に見たい』


 それでも、全部が解決したわけではない。


 商店街の老朽化は本当だ。

 資金も足りない。

 灰原不動産が完全に引くとも限らない。


 けれど、勝手に終わったことにはされなかった。


 夜市の終わり、莉愛はセト・コスメの前に座り込んだ。


 足ががくがくだった。


 「疲れた」

 「莉愛さん、ずっと立っていましたから」

 「ノエルちゃんもね」


 ノエルは空色のリボンを外さず、莉愛の隣に座った。


 怜司が少し離れた場所に立っている。


 莉愛は手招きした。


 「怜司も座れば?」

 「僕は」

 「立場?」

 「……足が震えているので、少し」


 彼はぎこちなく座った。


 三人で、色の戻ったシャッターを見る。


 藍、若草、山吹、桃、空色。


 完璧ではない。


 でも、生きている。


 ノエルが小さく言った。


 「これから、どうなるのでしょう」

 「わかんない」


 莉愛は正直に答えた。


 「でも、わかんないって言えるところまで来た。前は、終わりって勝手に決められてたから」


 怜司がうなずく。


 「再開発案は、作り直しになると思います」

 「手伝う?」

 「僕にできることがあるなら」

 「あるでしょ。数字の人」


 怜司は少しだけ笑った。


 夜市の提灯が、風で揺れる。


 莉愛は自分の爪を見た。


 桃色のラメは少し剥げている。


 でも、その剥げ方まで今日の記録だった。


 断罪返しは終わった。


 次は、残し方を決める番だ。


 夜市が終わっても、誰もすぐには帰らなかった。


 提灯の明かりが一つずつ落とされ、スピーカーの音楽が止まり、屋台の鉄板が冷めていく。祭りのあとには、いつも少し寂しい匂いが残る。ソースと油と、濡れたアスファルトと、人がたくさんいた場所の熱。


 その中で、商店街の人たちは中央広場に集まっていた。


 灰原不動産の白いパネルは、まだ片づけられていない。ガラス張りの完成予想図は、提灯の赤い光を受けて少しだけ色を変えている。きれいな建物だ。莉愛は改めてそう思った。


 きれいなものが悪いわけではない。


 新しいものが悪いわけでもない。


 ただ、そのきれいさの中に、誰の顔も入っていなかった。


 宮田さんが腕を組んで言った。


 「で、どうするんだ」


 誰もすぐには答えなかった。


 さっきまで拍手していた人たちも、現実の話になると黙る。老朽化。耐震。資金。後継者。空き店舗。言葉にすると、どれも重い。


 魚辰の奥さんが言った。


 「うちは建て替えが必要だよ。冷蔵設備も古い。色だけ戻しても、店は続かない」


 山吹文具の管理人も頷いた。


 「息子は戻らない。思い出でシャッターは開かない」


 その言葉に、莉愛は胸が少し痛んだ。


 でも、もう感情だけで反論する気にはならなかった。


 ノエルが、色見本帳の写しを広げた。


 「祖母たちが残したかったのは、建物そのものだけではないと思います」


 みんながノエルを見る。


 ノエルの声は震えていた。


 けれど、さっきステージで声を出したあとだからか、誰も急かさなかった。


 「色と、記録と、誰がここにいたかです。建て替えるなら、何を残すかを話し合う必要があります。壊すか残すかの二択ではなく」


 レオンが続けた。


 「景観協定には、保存条件の再協議条項があります。住民同意が不完全なら、計画を見直す余地がある」


 美玲はノートを開く。


 「学園側も、地域活動として関わる余地があります。申請制度の運用見直しと合わせて、地域記録の活動を提案できます」


 律が赤いミサンガを見せた。


 「僕たち、生徒も手伝えます。全部は無理でも、夜市みたいなことなら」


 芹は少し迷ってから、撮影不可カードを握ったまま言った。


 「記録する時、撮られたくない人のルールも作りたいです」


 莉愛はみんなの顔を見た。


 ばらばらだ。


 言っていることも、守りたいものも、怖いものも違う。


 でも、それでよかった。


 同じ色に塗らないこと。


 それが、この街を盛る最初のルールなのかもしれない。


 灰原宗一郎は、少し離れた場所でその様子を見ていた。社員に片づけを指示しながら、表情は崩さない。


 怜司が彼の前に立った。


 「父さん。説明資料の別紙を、正式に公開してください」


 宗一郎の目が冷える。


 「君は、自分が何を言っているかわかっているのか」

 「はい」

 「会社を裏切るのか」

 「違います。会社がこの街で仕事を続けるために必要なことです」


 莉愛は、怜司の声が震えているのに気づいた。


 でも、彼は言い直さなかった。


 宗一郎はしばらく息子を見ていた。


 「理想論だ」

 「数字に入れていなかったものを、あとから計算に入れるだけです」


 怜司らしい言い方だった。


 硬くて、回りくどくて、でも確かに一歩前へ出ている。


 宗一郎は答えず、社員に車を出すよう命じた。謝罪もしない。負けを認めもしない。


 それでも、彼はその場で別紙を否定しなかった。


 今はそれだけで十分だった。


 ノエルは父の背中を見ていた。


 莉愛は声をかけようとして、やめた。


 ノエルは自分から言った。


 「父は、きっとすぐには変わりません」

 「うん」

 「私も、すぐには許せません」

 「許さなくていいと思う」


 ノエルは莉愛を見た。


 「許さないまま、話し合ってもいいのでしょうか」

 「いいんじゃない? 許すのと、黙るのは別だし」


 ノエルは少しだけうなずいた。


 その夜、片づけの最後に、ノエルは写真館跡のシャッターの前で一枚だけ写真を撮った。


 顔は写さない。


 空色の線と、そこに立つ足元だけ。


 莉愛のスニーカー。

 ノエルのローファー。

 怜司の革靴。

 律の赤いミサンガが覗く足元。

 美玲のきれいに揃えた靴。

 芹が少し離れて立つ影。


 ノエルは写真を確認して、静かに言った。


 「笑っていなくても、今日の日です」


 莉愛は胸が詰まった。


 「うん。ちゃんと今日」


 病院の祖母へ電話をかけると、サチ子は開口一番に言った。


 『勝ったのかい』

 「勝った、っていうか。終わらなかった」

 『なら上等』

 「おばあちゃん、これから大変だよ」

 『知ってるよ。店も街も、人の顔も、残すほうが大変なんだ』


 莉愛は夜空を見上げた。


 アーケードの屋根越しに、星はほとんど見えない。


 でも、商店街の端に塗った色は見える。


 藍。

 若草。

 山吹。

 桃。

 空色。


 全部を昔に戻す物語ではない。


 自分たちで、これから残す色を選ぶ物語だ。


 翌朝、夜市の動画はさらに広がっていた。


 切り取られた悪意ある投稿も残っている。けれど、芹が管理した撮影カードの話や、ノエルの言葉を最後まで映した動画も広がっていた。


 コメント欄には、いろいろな声があった。


 『感情論だと思ったけど、別紙隠しはだめでしょ』

 『古い商店街を全部残すのは無理。でも色を残す案は見たい』

 『ノエルさんの「決められたくない」が刺さった』

 『ギャルの子、口は軽いけど筋通ってる』


 莉愛は最後のコメントを見て、少し笑った。


 口は軽い。


 否定はできない。


 でも、軽い言葉でも、誰かの重い気持ちを持ち上げられるなら、それでいいと思えた。


 セト・コスメのシャッターには、昨日の貼り紙跡とは違うものが残っていた。


 小さな付箋。


 『また相談に行っていいですか』

 『母の髪留め、申請通りました』

 『魚辰の藍、かっこよかった』


 誰が貼ったのかわからない。


 でも、誰かがここまで来て、文字を残した。


 莉愛は一枚ずつ剥がさず、透明なフィルムで上から保護した。


 消されないように。


 でも、いつか剥がせるように。


 残し方を決めるとは、そういうことなのかもしれなかった。


 昼過ぎ、灰原不動産の公式サイトに短いお知らせが出た。


 白灰商店街再開発計画について、住民説明資料の一部に確認不足があったため、協議を一時停止する。


 謝罪の言葉は、形式的だった。


 でも、一時停止という文字は確かにあった。


 商店街のグループチャットが一斉に動いた。


 『止まった!』

 『一時な、一時』

 『でも止まった』

 『次の会議いつだ』


 莉愛は画面を見て、笑った。


 勝利のファンファーレではない。


 でも、次の相談を始めるためのベルくらいには聞こえた。


 ノエルから写真が届いた。


 昨日、足元だけを写した写真。


 添えられた言葉は短い。


 『ここから、続きです』


 莉愛はその写真を保存した。


 そして、セト・コスメの予約ノートの新しいページを開いた。


 最初の行に、こう書く。


 放課後サロン準備。


 まだ何をする場所なのか、全部は決まっていない。


 でも、誰かが自分の色を選ぶために座れる椅子だけは、必ず置こうと思った。


 ノエルが店に来たのは、その少しあとだった。


 手には、昨日の足元の写真を印刷したものがある。


 「これを、最初の一枚にしてもいいでしょうか」

 「地域記録部?」

 「はい。まだ部ではありませんが」

 「じゃあ、仮部」


 ノエルは写真をカウンターに置いた。


 顔の写っていない写真。


 でも、誰がそこにいたか、莉愛にはわかる。


 「顔がなくても、記録になるんだね」

 「はい。顔を出さないことで残せる人もいます」


 芹のことを思い出した。


 撮られたくない人のための記録。


 それは、撮ることが好きだったノエルにとっても、新しい考え方なのかもしれない。


 莉愛は予約ノートの隣に、その写真をそっと置いた。


 放課後サロンと、地域記録部。


 まだ名前だけの小さな予定が、並んでいる。


 昨日まで終わりにされそうだった場所に、明日の予定が増えていく。


 それだけで、莉愛は少し泣きそうになった。


 泣く代わりに、莉愛は黒板を出した。


 夜市の翌日で、まだ通りには紙くずも少し残っている。けれど、黒板の文字だけは新しくしたかった。


 放課後サロン、準備中。

 見るだけでも、大丈夫。


 書き終えると、通りかかった宮田さんが親指を立てた。


 莉愛は笑って、チョークの粉を払った。


 終わらなかった街で、次の入口を作る。


 それが、今日の最初の仕事だった。


 入口があれば、人は迷いながらでも立ち止まれる。


 昨日の自分たちが、そうだったように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ