第2話 校則より先に、顔を見て
セト・コスメに、静かな写真館の孫がやってきます。
十七時きっかりに、灰原怜司はセト・コスメへ来た。
莉愛はその時、カウンターに積まれていた古い紙袋を開けていた。中から出てきたのは、口紅のサンプル、手鏡、昔のポイントカード、そして祖母の顧客メモだった。
祖母は几帳面だった。
誰に何を売ったかだけではなく、短い言葉が鉛筆で添えられている。
宮田さん。赤はまだ怖い。まずは薄桃。
魚辰の奥さん。疲れ顔を隠すより、目元を明るく。
ノエルちゃん。写真の日。笑わなくていい。青いリボン。
最後の一行を見つけた時、莉愛は手を止めた。
ノエルちゃん。
あの子は、ここにもいた。
幼いころの記憶の中に、祖母の店で見かけた細い女の子がいる。いつも写真館の女性の後ろに隠れていた。けれど、ネイルカラーの棚だけはじっと見ていた。莉愛が「これかわいい」と青い瓶を指さすと、その子は小さくうなずいた。
あれがノエルだったのかもしれない。
ドアベルが鳴った。
「失礼します」
怜司は外と同じ冷えた顔で入ってきた。制服ではなく、黒いジャケットを羽織っている。学生というより、会社の人間みたいだった。手には薄いファイル。
莉愛は紙袋を抱えたまま言った。
「靴、マットで拭いて」
「……はい」
怜司は一瞬だけ眉を動かしたが、従った。
そういうところは育ちがいい。
「同意書の件です。瀬戸サチ子さんは、以前から説明を受けています。補償金も提示済みです」
「おばあちゃん、まだサインしてないんだよね」
「はい。ですが、商店街全体の安全性を考えれば、早期の合意が望ましい」
「安全、安全って言うけどさ」
莉愛は、カウンターの顧客メモを指で押さえた。
「ここに来てた人のこと、見た?」
「店舗の顧客情報に興味はありません」
「だよね。興味ないまま、店なくそうとしてるんだ」
「老朽化した建物を残すことは危険です」
「建物だけの話にすれば楽だよね」
怜司の目が少し鋭くなる。
「感傷で判断すると、被害が出ます」
「感傷って言えば、人の大事なものを下に見ていいわけ?」
「莉愛さん」
「サインはしない。ウチに権限ないし」
「では、サチ子さんが退院するまで保留ということですか」
「うん」
「時間稼ぎにしかなりません」
「時間稼ぎ、上等」
莉愛は笑った。
「三週間ちょうだい」
「三週間?」
「おばあちゃんの店、開ける。商店街でイベントもやる。ちゃんと人が来るか、色が戻るか、見てから決める」
「イベントで耐震基準は変わりません」
「そこは後で専門家に聞く。今は、壊す前に何を壊すのか見てって話」
「無謀です」
「ギャル、だいたい無謀から盛るんで」
怜司は呆れた顔をした。
「あなたは、何でも軽く言いますね」
「軽く言わないと、重すぎて誰も持てないことあるじゃん」
その時、ドアベルが小さく鳴った。
二人が振り向くと、ノエルが立っていた。制服の上に薄いグレーのコートを着ている。手には、昨日の写真。
「すみません。写真を、返し忘れて」
「返してもらってるよ」
「いえ、裏に挟まっていた紙が」
ノエルは封筒を差し出した。
莉愛が受け取る前に、怜司の表情が変わる。
「ノエル。帰れ」
「……お兄様」
莉愛は二人を見比べた。
「え、兄妹?」
「戸籍上は」
怜司が答えた。
言い方に温度がなかった。
ノエルは下を向く。
「私は、灰原家の養女です。祖母が亡くなって、写真館が閉まったあとに」
「ノエル写真館の?」
「はい」
莉愛の胸の中で、いくつかの線がつながる。
写真館の孫。
灰原家の養女。
再開発会社の一族。
炎上したと責められている子。
居場所がないわけだ。
ノエルは封筒をカウンターに置いた。
「写真の裏に入っていました。祖母の字です」
莉愛が封筒を開けると、中から小さな色見本の紙が出てきた。
化粧品のカラーチャートではない。手書きで、商店街の店の名前と色が並んでいる。
魚辰 藍。
宮田青果 若草。
山吹文具 山吹。
セト・コスメ 桃。
ノエル写真館 空色。
最後に、こう書かれていた。
白灰は灰色ではない。混ぜる前の色を忘れないこと。
莉愛は、思わず笑った。
「めっちゃいいじゃん」
ノエルの目が揺れる。
「祖母は、商店街の色見本帳を作っていました。店ごとの色、看板、祭りの衣装、写真。全部記録していたそうです。でも、今は見つかりません」
「それ、あったら強くない?」
「強い?」
「この街がただ古いだけじゃなくて、ちゃんと色を持ってた証拠になる」
怜司が口を挟む。
「感傷の記録です」
「また出た、感傷」
「再開発の判断材料にはなりません」
「でも、壊す前に何を壊すか知る材料にはなる」
ノエルは小さくうなずいた。
「私、探します。色見本帳」
「だめだ」
怜司の声が鋭くなった。
「ノエル、今は学園の処分保留中だ。余計な動きをすれば、さらに立場が悪くなる」
「でも、私は何もしていません」
「それを証明するまでは、黙っていろ」
ノエルの肩が跳ねた。
莉愛はカウンターの内側から出た。
「黙ってたら証明できなくない?」
「部外者は口を挟まないでください」
「この店の鍵持ってるから、今は部外者じゃないし」
怜司は莉愛を睨んだ。
「あなたがノエルに関わるほど、彼女は傷つく」
「傷つけてるの、今どっち?」
空気が固まった。
ノエルが小さく言う。
「お兄様、帰ります」
「ノエル」
「でも、明日また来ます。莉愛さんに、話があります」
怜司は何か言いかけたが、やめた。それ以上同意書の話もせず、ファイルを閉じる。
「三週間は保証できません」
「じゃあ一週間でもいい。まず見に来て」
「何を」
「盛った商店街」
怜司は答えず、店を出ていった。
ドアベルの音が消えたあと、莉愛はカウンターに肘をつく。
「兄妹、重」
言ってから、誰もいない店内に声が吸われていった。
翌日、莉愛は白灰学園へ向かった。
正門横の掲示板には、『清潔感週間』のポスターが貼られている。
髪色は自然に。
爪は短く清潔に。
制服は正しく。
不要な装飾を慎む。
莉愛は自分の爪を見た。
桃色のラメが朝日で光る。
校門に立っていた教師が眉をひそめた。
「あなた、うちの生徒ではありませんね」
「はい。商店街のセト・コスメの者です」
「その爪で?」
「この爪で」
教師は困ったように口を開きかけた。
そこへ、ノエルが走ってきた。
「莉愛さん」
「ノエルちゃん。炎上動画、見る」
ノエルは青ざめた。
「見ないほうがいいです」
「見ないと、何が起きてるかわかんない」
「でも」
「大丈夫。ウチ、悪口見るの慣れてる」
言ってから、少しだけ胸が痛んだ。
慣れてる、なんて本当は言いたくない。
ノエルはそれに気づいたのか、莉愛の爪を見て、ゆっくり言った。
「きれいです」
「え?」
「その爪。朝みたいで」
莉愛は一瞬、言葉に詰まった。
派手だとか、校則違反だとか、清潔感がないとか。そう言われると思っていた。
きれい。
たったそれだけで、昨日沈んだものが少し浮いた。
「ノエルちゃん、見る目あるじゃん」
「思ったことを言っただけです」
「それが強いんだって」
校内へは入れなかったので、二人は正門横の植え込みのそばでスマホを開いた。
炎上動画はすぐに見つかった。
『白灰学園の清潔感指導、時代遅れすぎて草』
そんなタイトルで、短い動画が投稿されている。
映っているのは、教室の隅でリップを塗る女子生徒。顔はぼかされているが、制服は白灰学園のもの。机の上には、ノエルの名前が書かれたノートが置かれている。
コメント欄は荒れていた。
校則くらい守れ。
白灰って名門じゃないの?
灰原ノエルって再開発会社の子でしょ。炎上商法?
ギャルメイク講座でも始めるんか。
莉愛は画面を睨む。
「これ、ノエルちゃんじゃないじゃん」
「はい」
「でも机の名前だけ映して、そう見せてる」
「はい」
「その時間、どこにいた?」
「図書室にいました。でも、証明してくれる人はいません」
「貸出記録は?」
「あります。でも、先生方は動画の拡散対応で忙しくて」
「忙しいって、本人確認より評判管理してる感じ?」
「……はい」
莉愛はスマホを閉じた。
腹が立つ。
見た目だけで決める。
机の名前だけで決める。
所属だけで決める。
ノエルの顔を見ている人が、誰もいない。
「まず、顔見よ」
「顔?」
「校則より先に、炎上より先に、ちゃんと本人の顔を見る場所作る」
莉愛はセト・コスメの方角を指した。
「放課後、店に来て。盛り相談室、始める」
「盛り相談室」
「悩み聞いて、似合う色探して、必要なら証拠も集める。メイクするかどうかは本人が決める」
「校則違反になります」
「学校の外なら?」
「……グレーです」
「じゃあ、白黒つくまでグレーで行こ」
ノエルが少しだけ笑いそうになった。
その時、校舎の二階から誰かがこちらを見ているのに気づいた。
白いリボンの女生徒。
目が合うと、すぐにカーテンの陰へ消える。
ノエルの顔が強張る。
「真白美玲さんです。生徒会の副会長で、清潔感指導の中心です」
「さっきの動画と関係ありそう?」
「わかりません。でも、私を嫌っています」
嫌っている。
ノエルはそれを、天気の話みたいに言った。
莉愛は決めた。
この子に、嫌われるのに慣れた顔をさせたままにはしない。
放課後、セト・コスメのシャッターは半分だけ開いた。
店内には、祖母の古い椅子を並べた。棚を拭き、鏡を磨き、色見本の紙をカウンターに置く。
最初に来たのは、ノエルではなかった。
小柄な男子生徒が、店の前を何度も行ったり来たりしていた。
莉愛が声をかける。
「入る?」
「え、あ、いや、僕は」
「見るだけでも」
彼はおずおずと入ってきた。
名前は吉沢律。白灰学園の一年生。制服の袖口をぎゅっと握っている。
「清潔感指導で、これを外せって言われて」
彼が見せたのは、細い赤いミサンガだった。
「姉が受験の時に作ってくれて。派手だからだめだって。でも、切りたくなくて」
「切らなくていいじゃん」
「でも、校則が」
莉愛はミサンガをじっと見た。
ただの赤い糸ではない。ところどころに白い糸が混ざり、小さな結び目が七つある。
「これ、願掛け?」
「はい。姉が、七回転んでも八回目で受かれって」
「めっちゃいい姉」
律は初めて少し笑った。
その笑顔を見て、莉愛は思った。
校則は、この笑顔を見る前に赤い糸を切れと言う。
それは違う。
「派手に見えないように、でも切らなくていい方法にしよ」
「できますか」
「できる。袖裏に留めて、見せたい時だけ見えるようにする。あと、説明用の紙も作る。『装飾』じゃなくて『家族からの激励品』」
「そんなの、通りますか」
「通すために言葉盛るんだよ。嘘じゃなくて、ちゃんと伝わる形にする」
律はミサンガを見つめた。
「僕、これがあると少し頑張れるんです」
「それが一番大事」
その時、店の外で足音が止まった。
ノエルが立っていた。
彼女は律の赤いミサンガを見て、莉愛の顔を見て、少しだけ息を呑んだ。
「本当に、始めたんですね」
「始めた」
「怒られます」
「怒られる前提で、ちゃんとやる」
ノエルは店内へ入り、律のミサンガを見た。
「白灰学園の校則には、医療、宗教、家族事情に関わる装着物は申請により許可される、とあります」
「マジ?」
「はい。ただ、生徒手帳の後ろのほうに小さく」
律が顔を上げる。
「じゃあ、申請すれば」
「できます。申請書、私が書き方を知っています」
ノエルは鞄から生徒手帳を出し、該当ページを開いた。
その手つきは静かだったが、確かだった。
莉愛は笑う。
「ノエルちゃん、めっちゃ頼れる」
「そんなこと」
「ある。今、律くん救った」
ノエルは困ったように目を伏せた。
でも、昨日よりほんの少しだけ、肩が上がっている。
盛り相談室の初日は、三人で申請書を書いて終わった。
律が帰る時、彼は店のドアの前で振り返った。
「また来てもいいですか」
「もちろん」
「僕、動画のこと、少し知ってるかもしれません」
ノエルが固まる。
律は声を潜めた。
「撮影してたスマホ、真白先輩のじゃないです。でも、生徒会室の備品スマホだったと思います」
店の中の空気が変わった。
莉愛はカウンターの上の色見本を見た。
灰色に塗られた話の奥から、最初の赤い糸が出てきた。
「律くん」
「はい」
「その話、今度ちゃんと聞かせて」
律はうなずき、ミサンガを袖の中へしまって帰っていった。
ノエルがぽつりと言う。
「私、何もできないと思っていました」
「今日したじゃん」
「申請書を書いただけです」
「それで一個、切られずに済んだ」
莉愛は店の鏡を指で拭いた。
鏡の中に、二人の姿が映る。
派手な髪の莉愛と、灰色みたいに静かなノエル。
でも、その間のカウンターには、赤いミサンガの申請書と、商店街の色見本が並んでいた。
色は、まだ少ない。
でもゼロじゃない。
その夜、莉愛のスマホに知らないアカウントからメッセージが届いた。
余計なことをすると、セト・コスメも炎上します。
添付されていた画像には、祖母の店の前に立つ莉愛とノエルが写っていた。
莉愛は画面を見つめた。
怖い。
でも、その怖さの奥で、怒りが静かに色を持つ。
彼女はメッセージをスクリーンショットで保存した。
「証拠、いっこめ」
誰もいない店内で、莉愛は小さく笑った。
盛り相談室は、たぶんもう始まってしまった。
翌日のために、莉愛は店の奥から折りたたみ式の黒板を引っ張り出した。
祖母が昔、店頭におすすめ商品を書くために使っていたものだ。角は欠け、黒板面にはうっすらと過去の文字の跡が残っている。『春の新色』『乾燥対策』『口紅一本で顔を上げる』。祖母の字は丸く、少し右へ傾いていた。
莉愛は白いチョークを持った。
最初は『盛り相談室』と書こうとした。
でも、手が止まる。
盛り。
自分にはわかる言葉でも、怖がっている子には強すぎるかもしれない。派手にされる場所だと思われるかもしれない。
莉愛は少し考え、書き直した。
色えらび相談室。
話だけでも、見るだけでも。
その下に、小さく付け足す。
盛りたい子も歓迎。
「これなら、入れるかな」
独り言を言った時、ノエルが店の入口に立っていた。
「すみません。まだ開いていますか」
「開いてる。てか、ノエルちゃんはもう常連」
「常連」
ノエルはその言葉を、初めて聞くものみたいに繰り返した。
莉愛は椅子を勧める。
ノエルは座る前に、店内をゆっくり見回した。
「この店、覚えています」
「来たことある?」
「たぶん。祖母に連れられて」
ノエルは棚の一番下にある、古いネイルカラーの瓶を指した。
「青い瓶が好きでした。でも、買ってもらった記憶はありません」
「おばあちゃんのメモにあったよ。ノエルちゃん、写真の日、青いリボンって」
「青いリボン」
ノエルは目を閉じた。
思い出そうとしている顔だった。
けれど、すぐには戻らない。
「思い出せません」
「無理に思い出さなくていい」
「でも、思い出したいです」
「じゃあ、探そ」
莉愛は黒板を見せた。
「明日から、こここうする」
「色えらび相談室」
「派手すぎ?」
「いいと思います。盛り相談室より、入りやすいです」
「やっぱり?」
「でも、小さく盛りたい子も歓迎と書いてあるのが、莉愛さんらしいです」
莉愛は少し照れた。
誰かに「らしい」と言われるのは、悪くない。
その夜、二人は炎上動画の時系列を紙に書き出した。
動画投稿日。
ノエルの図書室利用時間。
生徒会備品スマホの貸出時間。
最初に拡散したアカウント。
そこから商店街再開発を批判するアカウントへつながった時間。
ノエルの字は小さいが、きれいだった。
「ノエルちゃん、こういうの得意?」
「記録することは、好きです」
「写真館の孫って感じ」
「そうでしょうか」
「うん。写真も記録じゃん。誰かがそこにいたって残すやつ」
ノエルはペンを止めた。
「私も、残せるでしょうか」
「何を?」
「自分が、ここにいていいということ」
莉愛はすぐに答えなかった。
軽く「いいに決まってる」と言うのは簡単だ。でも、それはノエルが何度も信じ損ねてきた言葉かもしれない。
だから、莉愛は紙を指した。
「まず、ここに残ってる。ノエルちゃんが今日、律くんの申請書を書いたこと」
ノエルの目が紙へ落ちる。
そこには、莉愛の雑な字でこう書かれていた。
ノエル、申請条項を見つける。律、ミサンガを切らずに済む。
「事実として残ってる」
「……はい」
「こういうの増やしてこ」
ノエルは、ほんの少しだけうなずいた。
店を閉める前、莉愛は黒板を外へ出した。
商店街の通りには、もうほとんど人がいない。
それでも、黒板の白い文字は街灯の下で読めた。
色えらび相談室。
話だけでも、見るだけでも。
莉愛はスマホで写真を撮った。
その時、通りの向こうで制服の影が二つ止まった。
白灰学園の生徒だ。どちらも店へ入るつもりはなさそうに、黒板を見ては顔を見合わせている。片方の子は髪留めを外した跡なのか、前髪を何度も手で押さえていた。もう片方の子は、靴紐に小さな青いビーズを通している。
莉愛は声をかけようとして、やめた。
今ここで「入ってきなよ」と言えば、あの子たちは逃げるかもしれない。勇気には速度がある。押すと折れる勇気もある。
だから、莉愛は黒板の下に一行足した。
見るだけでも、大丈夫。
チョークの粉が指につく。莉愛が離れると、二人はもう一度黒板を読んだ。店には入らなかった。でも、帰る時、髪留めの子がほんの少しだけ会釈した。
ノエルがそれを見ていた。
「来ませんでしたね」
「今日はね」
「それでも、書く意味がありますか」
「ある。扉って、開ける前に何回も見るじゃん」
ノエルは黒板を見つめた。
色えらび相談室。
話だけでも、見るだけでも。
「私も、昨日は扉の前にいました」
「うん」
「入って、よかったです」
その一言は小さかった。
でも莉愛には、今日いちばん大きな変化に思えた。
するとすぐ、知らないアカウントからまた通知が来た。
『看板まで出すんですね』
莉愛は画面をノエルに見せた。
ノエルの顔は強張ったが、今度は目を逸らさなかった。
「証拠、二つめですね」
「そう」
莉愛はスクリーンショットを保存する。
怖い。
でも、怖いものに名前がつくと、少しだけ戦いやすくなる。
匿名の誰か。
生徒会備品スマホ。
灰原不動産。
点はまだ遠い。
けれど、白いチョークの線みたいに、つなげば形になるかもしれない。




