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第25話「H-Hour 上陸開始」

【作中時間】2026年6月21日 00:00 - 01:00(台湾標準時 / UTC+8)

※日本標準時(JST / UTC+9):6月21日 01:00 - 02:00

00:05 台湾・新北市/淡水タンスイ河口~林口リンコウ海岸

2026年6月21日、午前零時。

台湾本島の北西部、淡水河口から林口にかけての約20キロに及ぶ海岸線は、もはやこの世の風景とは思えない、紅蓮の炎と硝煙、そして金属が砕け散る絶叫のるつぼと化していた。

ドキャァァァァァァァンッ!!

砂浜に乗り上げた中国軍の先陣、ZBD-05水陸両用歩兵戦闘車のキャタピラが、台湾軍が波打ち際に敷き詰めていた対戦車地雷(M15地雷)を踏み抜いた。

耳をつんざく爆音とともに、重さ26トンの装甲車が下から真っ二つに引き裂かれ、空中に数メートル跳ね飛ばされる。内部に詰め込まれていた十数名の中国軍歩兵たちは、ハッチを開ける暇すらなく、爆炎と破片に巻き込まれて絶命した。

「止まるな! 止まれば的になるぞ! 地雷原を強行突破しろ!」

後続の装甲車の車長が、無線越しに悲鳴のような指示を飛ばす。

海から途切れることなく押し寄せる中国軍の水陸両用車両は、前の車両が地雷で吹き飛んでできた「安全なわだち」をなぞるようにして、次々と砂浜へと上陸していく。

しかし、彼らを待ち受けていたのは地雷だけではない。

海岸線の背後、コンクリートのトーチカや防風林の影に隠れていた台湾陸軍の防御陣地から、凄まじい十字砲火クロスファイアが浴びせられた。

「撃てェッ! 海に叩き落とせ!」

台湾軍の歩兵中隊長が絶叫する。

M2重機関銃(12.7ミリ)の曳光弾が真っ赤なレーザーのように砂浜を薙ぎ払い、装甲車から飛び出してきた中国兵の体を容赦なく薙ぎ倒していく。

さらに、トーチカの奥から発射されたBGM-71「TOWトウ」対戦車ミサイルが、有線誘導のワイヤーを引いて暗闇を切り裂き、砂浜で立ち往生している中国軍のZTD-05水陸両用突撃砲(105ミリ砲搭載)の砲塔に突き刺さった。

内部の砲弾が誘爆し、巨大な砲塔が吹き飛んで砂浜に突き刺さる。

「……くそっ! 敵の火力が濃すぎる! 空軍の爆撃で完全に沈黙したんじゃなかったのか!」

上陸した中国軍の小隊長は、焼け焦げた装甲車の陰に身を隠し、降り注ぐ銃弾の雨の中で怒鳴った。

中国軍は開戦以来、無数の弾道ミサイルとロケット弾で台湾の海岸線を徹底的に耕してきた。しかし、台湾軍は地下の堅牢な掩体壕バンカーに身を潜め、嵐が過ぎ去るのをじっと耐え忍んでいたのだ。そして敵が波打ち際に到達した「H-Hour」の瞬間に、温存していた火力を一気に解放したのである。

工兵エンジニア! 爆破筒を持ってこい! 鉄条網とバリケードを吹き飛ばせ!」

中国軍の歩兵たちが、泥と仲間の血にまみれながら、砂浜に這いつくばって前進を試みる。

ズガァァン! ズガァァン!

今度は台湾軍の陣地めがけて、上陸した中国軍の装甲車に搭載された30ミリ機関砲と、海上の揚陸艦から放たれたロケット砲弾が着弾し始めた。

コンクリートのトーチカが吹き飛び、周囲に土煙と破片が飛び散る。

「……第1小隊、全滅! 第2小隊の陣地も突破されそうです!」

台湾軍の通信兵が、血まみれの顔で中隊長に報告する。

「下がるな! ここを抜かれたら、敵は一気に淡水河を遡って台北市内に突入してくるぞ!」

中隊長は自らのアサルトライフル(T91)を構え、土嚢の隙間から、波打ち際を埋め尽くす黒い影に向けて引き金を引いた。

圧倒的な防御陣地と地の利を持つ台湾軍。

しかし、中国軍の最大の武器は、防御側の弾薬が尽きるまで、際限なく押し寄せる「人海戦術ヒューマン・ウェーブ」という物理的な質量であった。

破壊された味方の装甲車を盾にし、さらに多くの中国兵が上陸用舟艇から吐き出され、怒号を上げながら砂浜を駆け上がってくる。

水際の血戦は、互いの肉と肉を削り合う、凄惨極まる消耗戦へと突入していた。

00:25 中国・北京/中南海 中央軍事委員会 地下統合作戦指揮所

「……第一波の上陸部隊、淡水、林口、および桃園の各海岸にてビーチヘッド(橋頭堡)の確保に成功! 現在、後続の第二波が揚陸を継続中!」

北京の地下バンカーに、待望の「上陸成功」を告げる報告が響き渡った。

開戦から丸一日。日米の介入によって大損害を被り、スケジュールは大幅に遅延したものの、ついに中国人民解放軍の兵士のブーツが、台湾本島の土を踏んだのだ。

「よくやった! これで勝負は決まった!」

東部戦区の司令官が、興奮して拳を握りしめた。

「海の上ではアメリカのミサイルに苦しめられたが、陸地に上がってしまえばこっちのものだ。米軍は味方である台湾兵が入り乱れる地上戦では、広範囲な爆撃を簡単には行えない。我が軍の圧倒的な機甲戦力で、夜明けまでに一気に台北を制圧するぞ!」

しかし、ホログラム・テーブルの奥に座る最高指導者(総書記)の表情は、決して明るくはなかった。

「……損害率はどうなっている」

冷徹な声で、総書記が問う。

統合参謀部総参謀長が、顔を強張らせて報告書を読み上げた。

「……第一波として投入された水陸両用装甲車および揚陸艇のうち、約45%が上陸前に撃破されました。さらに、海岸線に到達した部隊も、台湾軍の強固な水際陣地による反撃を受け、現時点で……兵員の死傷率は30%を超えていると推定されます」

バンカー内に、冷や水のような沈黙が落ちた。

軍事学の常識において、部隊の3割の損害は「全滅」と同義であり、組織的な戦闘能力の喪失を意味する。たった一時間の戦闘で、中国軍は数千人、いや数万人単位の兵士を台湾の砂浜に散らしたのだ。

「……台湾のネズミどもめ、まだそれほどの牙を残していたか」

総書記は、忌々しげに舌打ちをした。

「総書記、このままでは犠牲が増えるばかりです。一旦上陸部隊を再編し、空軍による精密爆撃で敵の残存陣地を完全に破壊してから、第二波を送るべきでは……」

慎重派の幹部が具申する。

「馬鹿者!」

総書記が怒鳴りつけた。

「時間をかければ、日米の補給と援軍が整ってしまう! ここで圧力を緩めれば、第一波で砂浜に張り付いている兵士たちが全滅するだけだ! 損害など気にするな。我々には14億の人民と、200万の正規軍がいるのだ。……第二波、第三波と、弾薬が尽きるまで兵士を送り込み続けろ。数の力で敵の銃眼を塞ぐのだ!」

独裁者の冷酷な命令が、再び前線へと下される。

中南海の指導部にとって、兵士の命とは、国家の歴史的偉業を達成するための「消費財」に過ぎなかった。

「それと、ロケット軍に命じろ」

総書記は、目を細めて言った。

「台湾の都市部――台北、台中、高雄のインフラ施設(発電所、浄水場)に対して、残存する巡航ミサイルを全弾撃ち込め。……市民から水と光を奪い、パニックを極限まで引き上げるのだ。内部からの崩壊を加速させろ」

00:40 台湾・台北市/衡山ホンシャン指揮所(地下バンカー)

『……林口の第3大隊、防衛線を突破されました! 敵の装甲車が海岸道路へ進入!』

『桃園の陣地、弾薬が尽きました! 敵兵が鉄条網を乗り越えて浸透中! 陣地を放棄し、後退します!』

台北の地下深くにある衡山指揮所には、最前線から送られてくる絶望的な悲鳴が次々と叩き込まれていた。

「……くそっ! やはり数時間しかもたなかったか」

国防部長が、机を拳で激しく叩いた。

台湾軍は精強であり、地の利を活かして中国軍に凄まじい出血を強いた。しかし、一人倒せば三人が湧いてくるような圧倒的な物量差の前には、いかなる強固なトーチカも、いずれは弾切れとなって飲み込まれてしまう。

「閣下、沿岸部の第一防衛線は崩壊しつつあります。敵の先鋒部隊は、すでに市街地への進入ルートを確保しつつあります」

参謀総長が、頼総統へ向けて重々しく報告した。

頼総統は、スクリーンに映し出された台北周辺の地図――海岸線から市街地へと真っ赤な矢印が食い込んでくる様子を、血走った目で見つめていた。

「……水際での遅滞戦闘は、十分にその役割を果たした。兵士たちには感謝の言葉しかない」

総統は、深く息を吸い込み、冷たく研ぎ澄まされた声で命じた。

「これより、作戦フェーズを『市街地での縦深防御アーバン・ディフェンス』へ移行する。……海岸部の残存部隊は、あらかじめ指定された第二防衛線(市街地外縁部)へ後退しろ。橋を落とし、道路を破壊し、敵の進軍ルートを限定させろ」

総統の視線が、市街地の地図に無数に打たれた「青い点(予備役と市民防衛隊のバリケード)」へと移る。

「敵の装甲車がコンクリート・ジャングルに足を踏み入れた瞬間、予備役部隊による対戦車ミサイルとRPGの十字砲火で迎え撃て。……一つ一つの交差点、一つ一つのビルを要塞化し、一歩進むごとに敵に出血を強いるのだ。台北を、中国軍の巨大な泥沼にしてやる」

それは、街が完全に破壊され、おびただしい数の市民が戦火に巻き込まれることを意味する、地獄の決断であった。

しかし、台湾が生き残るためには、この街そのものを「盾」と「矛」にして、アメリカの本格的な地上介入(あるいは中国軍の継戦能力の枯渇)まで、時間を稼ぎ続けるしかなかった。

ドゴォォォォンッ!!

その時、衡山指揮所の分厚い天井のコンクリートが、かつてないほどの激しい衝撃で揺さぶられた。照明が激しく点滅し、システムの一部がダウンする。

「何事だ! 直撃か!?」

「違います! 地上からの報告! 台北郊外の変電所、および主要な浄水施設に中国軍の巡航ミサイルが着弾! 台北市の約80%が完全にブラックアウト! 断水も発生しています!」

「……街のインフラを破壊して、市民を渇きと暗闇で殺す気か」

頼総統は、歯を食いしばった。

「自家発電システムを最大出力に切り替えろ。……夜明けまでが勝負だ。絶対に持ち堪えろ」

00:50 日本・東京/防衛省 統合作戦司令部(JJOC)地下指揮所

日本標準時、午前1時50分。

日本の市ヶ谷・JJOCでも、台湾の海岸線が突破されたという決定的な事実が、極めて重い沈黙とともに受け止められていた。

「……台湾軍の第一防衛線、事実上の崩壊を確認。中国軍の水陸両用部隊が、台湾本島に『橋頭堡ビーチヘッド』を築きました。これより戦闘は、台北市街地へ向けた陸上戦へ移行します」

情報幕僚の報告に、統合作戦司令官は腕を組んだまま、小さく頷いた。

「台湾はよく耐えた。だが、これで後戻りはできなくなったな」

司令官の横で、統合幕僚長が苦渋に満ちた表情で呟いた。

「中国軍が陸地に上がった以上、我々自衛隊と米軍の海空戦力(アウトレンジ攻撃)だけでは、戦争を終わらせることはできなくなった。米軍が直接、地上部隊(海兵隊)を台湾に送り込まない限り、台湾の陥落は時間の問題だ」

「だが、米軍のロジスティクスも悲鳴を上げている」

司令官は、画面の隅に表示されている、日米の補給ネットワークの稼働状況を示すデータを一瞥した。

「パシフィック・ホープ沈没の影響によるシーレーン停止で、我が国の民間港湾は完全に麻痺している。先ほど、総理の決断で我が国のミサイル備蓄を米軍に引き渡したが、これも焼け石に水だ。……もし米軍が台湾へ上陸部隊を送るなら、我が国は『兵站基地ロジスティクス・ハブ』として、中国軍からのさらなる激烈なミサイル攻撃の標的となる」

司令官の言う通りであった。

中国軍が台湾本島での地上戦に本腰を入れた今、彼らの最大の脅威は「アメリカの増援部隊が台湾へ到着すること」である。

それを防ぐため、中国は必ず、在日米軍基地や自衛隊の港湾施設(沖縄、佐世保、横須賀)への弾道ミサイル攻撃をさらにエスカレートさせてくるはずだ。

「……司令官、J3(作戦)より具申します」

作戦幕僚が、進み出た。

「我が国の領土と国民を守るためには、もはや飛んでくるミサイルを撃ち落とす(ミサイル防衛)だけでは限界です。……防衛出動に基づく『反撃能力』の行使、すなわち、中国大陸のミサイル発射基地に対する、我が国自身のトマホークや12式地対艦誘導弾(能力向上型)による直接攻撃(スタンドオフ防衛)の決断を、官邸に具申すべきです」

指揮所の空気が、ピンと張り詰めた。

日本が、自らの意思と兵器で、他国の領土(中国本土)を直接爆撃する。

それは、戦後日本の安全保障の概念を根本から覆す、最も重いタブーへの決断であった。

「……分かっている。すでに防衛出動は下令されており、法的なハードルはクリアしている。問題は、それを撃った時の中国からの強烈な報復リスクを、総理と国民が受容できるかどうかだ」

司令官は、深夜の東京の地下で、来るべき朝の決定的な破局を見据えながら、静かに、しかし断固たる声で言った。

「官邸の危機管理センターへ連絡を取れ。反撃能力行使の具体的なターゲティング(目標選定)のリストを、至急総理へ提出する」

午前2時。台湾標準時で午前1時。

開戦から丸一日が経過し、戦争は「二日目(D-Day+1)」へと突入した。

台湾の海岸線は血と泥に塗れ、台北の街は暗闇の中で市街戦の恐怖に震えている。

そして日本もまた、自国の領土への攻撃を食い止めるため、ついに「矛」を抜き放ち、中国本土を直接叩くという、引き返すことのできない破滅の階段を登ろうとしていたのである。

この話はシミュレーション小説であり現実のいかなる国を中傷するものでは有りません。

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