表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十四回も転生させられた賢者、もう限界なのでポンコツ女神を猫にして輪廻を終わらせる  作者: 在河りゅう
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/53

第47話 崩落の奥に潜むもの

 鬱蒼と茂る木々に囲まれ、先史からある遺跡が眠っていた。

 柱は崩壊し、苔に覆われている。


 周囲を見渡すと、教師陣や探索に参加した生徒が各々準備を進めていた。

 タキ・アルコが軽く手を上げる。


 その頭の上には、白い猫。

 きりっとした顔で、周囲を見渡していた。

 軽く尾を振ると、周りの猫が隊列を変える。


 野営地からずっとこうだ……


「……なんで、先生の頭におるんやろな」

「――先生も気にせんのかいな」


 マレオンが小声で言う。


「馴染みすぎやね」フィデアが返した。


 周りの生徒も気にした様子はない。

 言葉も出ない。


(……あいつ、完全に指揮系統に入っているな)


 タキが全体を見回し、話し出す。


「今回の探索は、崩落による調査が目的だ」

「そこまで危険のない遺跡だが――何か見つけても深追いするな。異常があればすぐ報告。無理はするな」


 その言葉の後ろで、イグナス・アルデンが腕を組んでいる。


「火は使えるが、出力は抑えるぞ。遺跡ごと吹き飛ばすわけにはいかんからな」


 隣で筋肉質な大柄な教師ムルス・ロブスが笑った。


「はっはっは!任せろ!壁でも魔物でも叩き割ってやる!」


「お前が割るのはだいたい余計なものだろうが」


「細けぇことは気にするな!」


 笑い声の裏で、生徒の表情が強張る。

 場慣れしているものは数人だけ。

 横を見ると、アルヴァも軽く肩に力が入っているようだ。


 遺跡に視線を向ける。

 澄んだ空気に、靄に反射する太陽の光。

 神秘的な場所なのだろう、普段は。


 今は、遺跡の入口から漂う空気が重い。光がわずかに濁っている。

 猫たちが感じ取り、尾が逆立つ。


 ――押さえ込まれていた何かが、出たか?


 タキの方を見る。目に僅かな迷いが浮かんでいた。

 だが、タキは軽く頷き静かに宣言する。


「……行くぞ」


 誰も、すぐには動かなかった。


 ***


 遺跡に入ると、空気が変わった。


「……こんなに湿ってたか?」


 ムルスが鼻を鳴らし、タキを見る。タキは小さく首を振った。


「土の匂いやな」フィデアが言った。


「石ばっかりやけどな」マレオンも続く。


 アルヴァが壁に触れる。


「魔力は……ある。でも、変」


 周りのパーティも何かを感じ取り、随所で環境を確認している。


「薄いな……」イグナスが呟く。


 テルムは足元を見て、地面に触れた。


(流れが歪んでいる)


 完全に止まっているわけではない。

 だが、自然な動きでもない。

 ――食われてる。


「おい、これ見てみろ」


 後ろの生徒が叫んだ。

 振り返ると、通路の隅の蔦に指を向けている。

 タキが近づき、ナイフで軽く叩く。


 ——カン。


「……金属だな」タキが呟く。


「は?」マレオンが目を丸くする。

「植物やろ?」


「こっちにもあるわ」


 アルヴァの方を向くと、足元を差していた。

 近づき、軽く指で触れ、魔力を流してみる。


「金属性の植物だ。魔力で作られてる」


 アルヴァが眉を寄せた。


「……テルム君のに似てる?」


「同じ原理だ」


 短く答えた。

 蔦の魔術はこの世界では一般的ではないはず。

 しかも、それを硬質化するのは普通ではない。

 だが――


(やれる奴がいる)


 さらに進むと広い空間に出た。

 手分けして周囲を調査していくと、柱から柱へ、糸が何本も張られていた。


「これ、糸やな」


 マレオンが槍で払う。


 ――カン。


「なんや、これ、かったいのと、くっつくのと——」


 マレオンが切れた糸に触れようとした。


「触るな!」


 匂いでわかる。

 ——おそらく毒か麻痺系。


 マレオンが慌てて手を引いた。

 フィデアが糸に顔を近づけ、目を細める。


「色、違うね」


 よく見れば、糸には微妙な色の違いがあった。

 透明に近いもの。鈍く光る灰色のもの。薄く緑がかったもの。


(……三種か)


 粘着、硬化、——毒


(触れたら終わる)


 周囲の生徒に警告しようとした、そのとき。


「おい、おい、こんな穴あったか?」


 反対側の通りを調べていたイグナスが声を上げた。

 穴の周りに猫が集まり、唸り声を上げる。

 近づくと、地面に大きな穴があき、その下に石畳が見えていた。


「この遺跡、地下があるのかよ」


 ムルスが呟き、「どうする」とオキに視線を送る。


 オキが生徒たちを見回す。


「ん? 少ない?」


 瞬間、穴の奥から叫び越えが聞こえた。


「「なんだ!?」」


 全員の反応が一瞬遅れる横を、反射的に飛び込み、声の元に駆けだした。


「おい、待て――」


 オキが言い終わる前に、別の生徒が掛け寄り叫ぶ。


「先生! あっちの穴から一人落ちました!」


「ちっ……穴は一つじゃなかったってことか――」

「全員で行くぞ! 別れるほうが危険だ」


 ***


 暗闇の中、倒れている女子生徒の元に近づく。

 足を押さえている。


「失礼する」


 一言だけ言って、足に手を当て、治癒魔術を発動する。

 切り傷だけじゃない。麻痺毒もか。

 二種類の淡い光を放つと、表情からこわばりが薄れていく。


「ありが――」


 女子生徒がお礼を言おうとしたとき、エルが、テルムの横に飛んできてぴたりと止まった。


「……エル?」


「……います」


 小さな声だった。だが、はっきりしていた。


「近いです」


 空気が変わる。女子生徒の目が恐怖に揺れる。


 テルムは通路の奥を見た。暗がりの中。何かが、動いた。

 ——すう、と。糸が、横に走る。速い。目で追えないほど。


 女子生徒を抱えて、静かに後ずさりする。


 まずい。


「……来る」


 音が、消えた。


 その瞬間。後ろに飛ぶ。


 上から、何かが降った。


 ——ズン。


 床に刺さり、石が砕ける。


 ——灰色の糸。


「……鋼か」


 その直後。何かが横を通り過ぎた。

 見えない。暗すぎる。

 だが——そこを通った“気配”だけが残る。


 後ろからタキの声が飛ぶ。


「構えろ!接触するな!」


 手の平から光る鳥の魔術を放つ、うっすらと周囲が明るくなった。

 次の瞬間。全員が理解した。


(いる、そして、速い)


 暗がりの奥。

 八つ。

 赤い光が、同時に“開いた”。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ