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十四回も転生させられた賢者、もう限界なのでポンコツ女神を猫にして輪廻を終わらせる  作者: 在河りゅう
第二章

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第48話 巣の主

 暗がりの奥。八つの赤い光が、ゆっくりと揺れた。


「……来るで」


 マレオンが槍を構える。その声と同時に——影が、滑った。


 速い。目で追えない。


「左!」フィデアが叫ぶ。矢が放たれる。——ギン。弾かれた。


「硬っ……!」


 その瞬間、影が止まる。壁に、張り付いた。


 ようやく輪郭が見えた。黒い体。長い脂。そして、鈍く光る外殻。


「……でかいな」


 ムルスが一歩前に出る。人の胴ほどもある蜘蛛。だが、それ以上に異様なのは——


「……光ってる」アルヴァが言った。外殻が、灰色に鈍く輝いている。


「硬質化してる」


 テルムが短く言う。「今は攻撃が通らない」


「ほな、解除待ちか」マレオンが歯を見せる。「それまで逃げ回るんもアリやな」


「いや——」テルムは首を振った。「来るぞ」


 ***


 蜘蛛が、消えた。


「上や!」ムルスが叫ぶ。


 次の瞬間。——ズン。鋼の糸が、地面に突き刺さる。石が砕ける。


「それかい!」マレオンが跳ぶ。


 続けて、緑の蔦が走る。フィデアの足元へ。


「っ!」避けきれない。蔦が足に触れ棘が刺さる。


 フィデアの膝が、一瞬だけ崩れた。


「フィー!」マレオンが声を上げる。


「……しびれる」「毒やな、それ」


 マレオンが引き抜こうとする。だが——


「触るな!」テルムが止める。「無理に剥がすな、広がる」


 フィデアは冷静に息を整えた。「……大丈夫、動ける」「軽い麻痺や。長くは続かん」


 テルムは状況を整理する。(鋼、毒、粘着——三種、全部出た)


 先ほど通路で確認した糸の色。灰色が鋼。緑が毒。そして——透明な糸が、横に走った。マレオンの腕に絡む。「うおっ!」引かれる。「粘着か!」ムルスが斧で叩き切る。「おおきに!」


 使い分けている。状況に応じて、瞬時に。これは本能ではない。


「イグナス!」タキが短く呼ぶ。


「焼く!」


 炎が走る。蜘蛛を包む。一瞬、動きが止まる。


 その隙に、テルムが土で拘束する。


「今や!」マレオンが踏み込む。槍を突き出す。——ギン。弾かれる。


「まだ硬い!」


 槍が、滑る。


 刃が入らない。


 ムルスが横から叩き込む。——ズン。今度は通った。外殻にひびが入る。その瞬間。光が、消えた。


「解除や!」マレオンが再度突く。——ズブ。今度は、刺さる。蜘蛛が悶える。フィデアの矢が、目を貫いた。アルヴァの炎が、包み込む。


「落ちた!」蜘蛛が、崩れた。


 ***


 静寂。誰もが一瞬、息を止めた。


「……いけるやん」マレオンが笑う。


 だが——テルムは動かなかった。(おかしい)


 一体だけではない。気配が、消えていない。「……来るぞ」


 その言葉と同時に。左右の壁。天井。床。同時に、光った。


「うわ、増えとる!」マレオンが叫ぶ。


 同じ個体が、三、四、五——数えきれない。


「囲まれてる!」


 フィデアが位置を取る。「タキ先生!」


 タキは即座に判断した。「固まるな!分散して対処!」


 エルが高く鳴いた。「数が増えすぎてます!」


 イグナスが低く言う。「焼ききれん!」ムルスが笑った。「数なら任せろ!」


 斧を振るい蜘蛛をなぎらって行く。


 各所で戦闘が同時に開始された。


 金属のぶつかる音が響き渡り、悲鳴、苦痛の音が混ざりあう。


 ***


「……おかしい」


 戦場を無尽に駆けながら、テルムが呟く。


 風を使い・土を使い・植物を使い、各パーティを支援し、状況は好転しているはずだった。


 倒している。確実に仕留めている。だが——


 一体、倒す。


 その間に、二体増えている。


 その時。一匹の蜘蛛が、糸を吐いた。天井へ。その糸が——繭のように、膨らんだ。


「……あれ」アルヴァが目を見開く。


 一つの繭が、脈打つ。


 次の瞬間。中から、新しい蜘蛛が這い出た。


「……生成してる」テルムの声が低くなる。「巣だ」


 見渡すと、通路の奥まで繭が広がっていた。


(……この数はまずい)


(支えきれない)


 マレオンが歯を食いしばる。「本体が別におるってことやな」


 フィデアも頷く。「これ、ぜんぶ子どもやん」


 タキが即座に声を上げた。「深追いするな!本体がいる!」


 イグナスが炎を広げる。ムルスが前線を押し返す。「タキ、一旦、引くか!?」


 ***


 その瞬間。空気が、変わった。全員が止まる。


 ——音が消える。


「……来たな」テルムが言った。


 暗がりの奥。さっきまでとは違う“何か”がいる。重い。圧が違う。


 そして——ゆっくりと、糸が垂れた。一本。音もなく。床に触れる。


 上から、視線。見上げる。そこに——いた。


 巨大な影。八本の長い足が壁と天井に張り付き、その中心に——人の上半身があった。


 白く、人形のように整った顔。だが目は八つ。


 赤く、非常に静かに、こちらを見下ろしていた。糸をまとった腕が、ゆっくりと広がる。


(……これまでの個体とは、別だ)


 誰も、動けなかった。

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