第46話 遺跡探索メンバー
「えー、全員集まれー」
タキ・アルコが手を打ちながら言った。
武術の授業中だった。振り向くと、タキの周りに何十匹もの猫が集まっている。
その中に見慣れた猫を見つけ、二度見した。
――なぜそこにいる……
トントンとタキが足を鳴らすと、猫が一斉に動き始める。
タキの真後ろにエルが並び、エルに続き、猫が横十匹、二列に並ぶ。
「なぁなぁ、テルさん、エルちゃんおったで」
「知ってる……」
「エルさんやばいな、あの位置、隊長やん」
「なにしてるんだろうな」
それ以上の言葉が出てこない。
「それにしても、今日は猫がぎょうーさんおるな、なんかあるんか?」
「マル、なんか話あるって、行ってたやん。ほら、いくで」
タキの前に生徒が集まる。
生徒の列と猫の列が向かい合い、妙な緊張感が走るなか、タキが口を開いた。
「先日、お前たちに話があると伝えていたな」
「先週設営した野営地の更に先に遺跡があるんだが、そこで崩落が起きた。二年と合同で調査を行うことになったので、希望者を募る」
『遺跡』で空気が変わる。ざわめきが広がる。
「今日は野営地でキャンプしつつ魔物の間引きを行う。遺跡の調査は明日だ。魔物との戦闘があるから、自身で対処できると判断した者だけ前にでて、三、四人の班を組んでくれ」
タキが話し終わると一斉に生徒が動き出す。
半数以上が前に出た。
「テル、今回も一緒に行こか」
「ああ」
「お、テルさん素直になったなぁ、偉い偉い。その調子で島にもな」
「それは別だ」
「ケチ臭いこと言うな、もうわいら親友や。あ、せんせー! 班できたで!」
マレオンが大きく手を振り、タキを呼ぶ。
タキが一匹の丸い猫を連れて近づいてきた。
「前の三人だな? 問題ないと思うが一応チェックする」
タキが猫に視線を向けると、いそいそと丸い猫が三人の周りをまわる。
なんだ?
何もしていないように見えるが……
「にゃー」
「問題ないな。そっちで待っててくれ」
それだけ言って、タキは別の班のところに向かっていった。
このやりとりが訓練場の至るところで繰り返され、班編成が決まっていく。
……あの猫だけ、魔力の帯び方が違う。
タキ先生のスキル?
「あれなんやろな、テルわかるか?」
「いや、わからん」
「なぁなぁ、テルさん、エルちゃんっていつまであそこにおるん?」
フィデアは、タキの周りに集まる猫たちの先頭を指差す。
一匹だけ背筋を伸ばし、微動だにしない。
「俺が聞きたい」
——いや、考えたくない。
***
タキに連れられて指定の場所へ移動すると、二年生が既にパーティに分かれていた。
教師イグナスが困った顔をして立っている。
「どうした?」タキが問う。
「いやなぁ」
イグナスは視線で答えた。
視線の先。
広場の端で、一人ぽつんと腕を組んでいる人影があった。
アルヴァだった。
周囲はパーティで話が弾んでいる。アルヴァに声をかける者はいない。
空白のように、そこだけ人が避けていた。
そのことを気にすることもなく、アルヴァは静かに正面を向いていた。
「本人が頑なにな——」イグナスが言う。
その言葉が終わる前に、アルヴァがテルムに気づき――
ぱっと、笑った。そのまま一直線に来る。
手を握られる。強い。
「おい、もう――」
「テルム君、よろしくね」
笑顔で押し切られた。
視線を横に向けるが、マレオンもフィデアも異論はないらしい。
ふぅと息を吐く。
「先生、私このパーティで行きます!」
アルヴァは手を上げ、宣言した。
マレオンが楽しそうに言う。
「テル、人気者やなー」
「うるさい」
アルヴァに握られている手を見る。
離す気配がない。
——逃がす気はなさそうだ。
タキとイグナスが顔を見合わせ、頷き合う。
タキが声を上げた。
「よし、まずは野営地に向かう。間引きはその後だ。隊列を組んでついてくるように」
***
野営地につくと、タキから指示が出る。
「イグナスと二年で遺跡に近いところの間引きをする。一年は俺と野営地の周辺を手分けするので、こっちに集まってくれ」
タキのところに集まると、パーティごとに担当を割り当てられていく。
俺達は北西の範囲を任された。
「それじゃ、何かあれば猫に言ってくれ、駆けつける」
タキが言い終わると、周りにいた猫の中から各班に一匹ずつ進み出てきた。
エルが班に合流した。
「……何してるんだ?」
「わたしは、今は猫隊の一員です。戦闘は期待しないでくださいね」
猫隊?
「いや、いつもしてないから大丈夫だ」
エルはちらっとこちらを見ただけで、すぐ前に向きなおした。
……猫として扱えということか。
「本当に、何をしてるんだ?」
「……『にゃん従士』です。猫隊を率いるの、やってみたかったんですよね」
「それだったら、こっちじゃなくて先生についてなくていいのか?」
「細かいことは気にしないんで大丈夫です」
エルが小声で答え、にやりとする。
いつも通りだった。とりあえず好きにさせる。
「では、行きましょうか」
アルヴァの声で、森に進む。
アルヴァが一番前、マレオンが次、フィデアがその後ろに来て、その後ろに俺……さらに後ろを猫隊もといエルがついてくる。
周囲を警戒しながら、仲間に意識を向ける。
アルヴァは足場の悪さに少し慎重気味。だが、重心は乱れない。気配察知も十分だ。
よく稽古できている。
マレオンとフィデアは……絶妙な距離感だった。
森での動きがいいのは実習で知っていたが、狩りでも集団の間合いの取り方がうまい。
これは、相当経験を積んでる。
「来たわよ」
アルヴァが小さな声で告げる。
がさがさと五メートルほど先の木が揺れ出し、胴ほどの大きさの影が飛び出すのが見えた。
猿の魔物だ。
手を開き、魔力を放つ。
——蔦が蠢き、動きを阻害する。猿がバランスを崩す。
アルヴァが一歩踏み込む。
炎が走る。
その横を、マレオンの槍が貫いた。
エルが毛づくろいをしている。
「向こうから何か来るで」
人の丈を大きく超える、巨大猪。牙が土を削りながら突進してくる。
フィデアの弓が空気を割き、猪の勢いを削ぐ。
アルヴァが駆け込み、一閃。
前足を焼き、猪が勢いのままつんのめる。
マレオンが大きく踏み出す。
合わせて、土魔術で地面をせり上げ台を作る。
台を踏み込んだマレオンが宙に飛び出し、頭から一突きした。
エルが背中を伸ばす。
「テル、わいらめっちゃ息合ってんな!」
「うるさい」
「フィデアさん、この視界であの距離よく当てましたね」
「うちら、慣れてんねん。アルヴァさんのその火もすごいで。剣に纏わるんやな」
「クラヴィスは火剣の名家なんです。鍛えられましたから」
「それでか、板についてる」
アルヴァが胸を張った。
「この調子やったら、明日も楽勝やな!」
「みなさん、実地訓練も兼ねてます。気を抜かないように」
エルが後ろから声を掛けた。
振り返ると、エルが欠伸をしていた。
溜息が出る。
「今日のエルさんは、先生やな」
「なぁ、偉そうで可愛いわ」
「ふふ、それじゃ次行きますね」
アルヴァが索敵をし、進んでいく。日が傾くまでそれを続け、野営地に戻った。
――魔物は少なかった。




