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十四回も転生させられた賢者、もう限界なのでポンコツ女神を猫にして輪廻を終わらせる  作者: 在河りゅう
第二章

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第45話 満腹の夜、森が静かすぎる

 フィデアが板を持っていた。


「ほら、できたで。腹減ったやろ?」


 振り向くと、板の上に串焼きが並んでいた。

 マレオンもフィデアの後ろから歩いてくる。


 お前逃げたよな。

 マレオンを睨みつけると、マレオンは下手くそな口笛で誤魔化した。


 網を火にかけて串を並べていく。

 三人で囲みながら焼けるのを待つ。


 ふと、調理台の方に視線を向けると、アルヴァが何か仕込んでいた。

 水と野菜を入れた鍋を持ってきて、火にかける。


「アルヴァ様、わいらやるから、やらんくてええのに……」


「いえ、私もここで頂くので、少し働きます」


「え!?」


 マレオンが目を丸くした。


「……アルヴァ様、もしかして友達おらん?」


「失礼なこと言うな、アホ」


 パーンと軽い音が響いた。


「……監督ですので、気にしなくて結構です」


 エルがいそいそと寄っていき、「いつものスープですか? これ、わたし好きです」と話しかけている。

 周囲を見ると、火が起きた班から監督役の二年生が自分の班に戻っていくのが見えた。

 アルヴァに視線を向ける。


「……なんですか?」


「いや、なんでもない」


 笑みが浮かんだ。



 ***



「テルムくん、いつものください!」


「あ、私も」


 エルとアルヴァから声がかかった。

 持ってきたカバンに手を伸ばし、中から密封した袋を取り出す。


「なんや、なんや」


「調味料だ」


 面倒で、短く答えた。


「魚粉とガーリックと、後なんだっけ?」


 アルヴァに続きを促される。見ると、ニヤニヤしている。

 さっきのお返しか。


「……山椒と唐辛子、あと、他にもいくつかスパイスをブレンドしている」


「へー、テルムさんは料理もできるんや?」


「これがあれば大体なんでも食べられるからな、非常時用だ」


「どんな状況を想定してんねん」


 マレオンが呆れる。


「これすっごくおいしいんですよ。毎日食べてます!」


 エルのお皿の上に少し出してやると、器用に串を持ち、調味料をちょんちょんして口に運ぶ。

 尻尾が激しく動いた。


「エルさんは、毎日が非常時やね」


 笑いが広がった。


「わいにも、それ分けてくれ」「うちも」


 調味料の袋を全員に回す。


 マレオンが串焼きにつけて口に入れる。


「んっ!? ほんまや! やばいなこれ――」

「止まらん!」


「これ、病みつきになるわあ――」

「あとでレシピ教えてくれへん?」


「マレオンさん、フィデアさん――まだです」


 エルが話を割って切り出す。神妙な雰囲気だ。


「……まだ?」


 ごくり、とマレオンが喉を鳴らす。


「この後に、アルヴァさんのスープ――」


 スプーンを使って、スープを口に含み、こくりと喉を鳴らす。

 耳と尾がへにゃりと垂れた。


 目が蕩け、ほぅと、暖かい息を吐く。


「……これ、だめです」

「もう普通の味に戻れません――」

「神の領域……」


 お前が言うな。


 マレオンとフィデアが、エルからスープに視線を移す。

 静かに手を伸ばし、スープを口に運ぶ。


「「――」」


「な、なんやこれ!?」


「ピリ辛の調味料と、まろやかなスープの調和……」

「体が溶けはる……」


「ほんまや……」


 ばっと二人はアルヴァの方を見る。

 アルヴァは照れながら言う。


「テルム君の調味料があまりに美味しいから――」

「悔しくって、合わせていったら、こうなりました……」


「同棲してるって噂があったが、ほんまやったか……」


「居候です!」


 アルヴァが強く否定した。



 ***



 食器を片付け、火の番をしながら座る。

 マレオンが大きく伸びをした。


「はー、食った食った」

「動けへんわ……」


 焚き火が、ぱち、と鳴る。


 フィデアが膝の上のエルを撫でる。

 エルは満腹で半分寝かけていた。


「テルム君、焚火用の枝、そろそろ補充した方がいいかも」


 アルヴァが火を見て言う。


「ああ、行ってくる」


 立ち上がると、エルが眠そうに薄目を開けた。


「わたしは、ここで火の番を……」


 そのまま尻尾だけ振って、また目を閉じる。



 ***



 少し森に入る。


 良さそうな枝を探し、いくつか拾う。

 身を屈めると、広場の賑やかな音が薄らぐ。


 しゃがみこみ、木の根の間に手を伸ばす。

 一瞬、そのまま動きが止まる。


 風はある。

 葉も揺れている。

 ——なのに、音がない。


(……虫、少ないな)


 森なら、もう少し音があっていい。

 羽音や、草の擦れる音――


「どうしたの?」


 声に振り向くと、アルヴァが覗いていた。


「静かだと思っただけだ」


「確かにそうね。虫、少ないよね今日」


「去年はどんな感じだった?」


「んー、煩いぐらい虫が鳴いてたかな――」

「でも時期はもっと後だったから、今年はまだ早いのかもね」


「そんなものか」


 考えても答えは出ない。

 気のせいということにしておく。


「テルムくーん! お肉、まだありますよ!」


 広場の方から、エルの声が響いてきた。

 アルヴァが小さく笑う。


「呼ばれてるよ」


「ああ」


 立ち上がる。

 焚き火の明かりが、木々の隙間から温かく揺れていた。


 ――遺跡で崩落があり調査をすると、タキから話が出たのは、この翌週のことだった。

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