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十四回も転生させられた賢者、もう限界なのでポンコツ女神を猫にして輪廻を終わらせる  作者: 在河りゅう
第二章

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第43話 王権の番人

 うまくいった。


 カーナ・アウグアはそう思っていた。


 窓の外、中庭を渡る風が白髪の端を揺らした。

 静かな部屋の中、老いた指先が机の表面をゆっくりと撫でる。

 報告書はすでに読み終えていた。


 アルヴァ・クラヴィス。王族から切り離せた。

 それだけで十分だった。


(あの家系は、いつもそうだ)


 血が古い。意志が強い。精霊と結びつく素地がある。


 ――だからこそ厄介だ。民は信じやすい。


 精霊に言葉を借りる者を、人は神の使いと呼ぶ。

 神の使いが王の隣に立てば、王権は揺らぐ。それがわからぬほど、愚かではない。


 ――王国とは何か。


 指先が、机をなぞる。

 それは民が王に忠義を捧げることで成立するものだ。


 精霊信仰が入り込めば、民の心は分断され、王への忠義は塗り替えられていく。

 王国が、神の国に変わる。


 それは、許されない。


 神ではなく、王が国を治めるのだ。

 ――そのために、五十年以上尽くしてきた。



 ***



 第一王子ヴァレンスは、よく育った。


 幼い頃から見ていた。感情より義務。私利より国益。

 孤立せず、流されない。王族として、申し分ない。


(あの血が、この国を次の世代に繋ぐ)


 初代王と共にこの地を治め、王国の骨格を作った者たち。

 この王国の骨格を維持するのは、最初からここにいた者たちだ。


 これは、揺るぎようがない。


 だから、少し変化があると報告が上がってきた時も、大して気にはしなかった。


(王族も人の子だ。少しは堪えるだろう)


 断罪の場は誰にとっても重い。

 ヴァレンスが数日、部屋で考え込んだとしても不思議はない。


 時間が経てば、義務の感覚が戻る。

 それが信じられる器だからこそ、ヴァレンスに賭けてきたのだ。


 ――想定内だ。



 ***



 次の報告を見て、違和感を覚えた。


(何かがおかしい)


 ヴァレンスが最近、よく笑うようになったと言う。

 人当たりがよくなった。言葉に張りが出た。

 側近への当たりが柔らかくなった。


(何を吹き込まれた)


 報告を読む指が止まる。

 悪い変化ではない。

 だが、人間が急に柔らかくなる時、その裏には必ず何かがある。


 そして、次の報告が来た。

 男爵家の娘が聖女と呼ばれているらしい。

 それだけならいい。

 ヴァレンスが自ら歩み寄っている、だと。


「……なんだと」


 声に出てしまった。

 とっさに手で口を塞ぐ。


 振る舞いがまさに聖女である。魅力があるとのこと。

 ――どうでもいい。そういう問題ではない。


(男爵家の娘)


 静かに息を吐いた。

 叙爵されたばかりの血筋だ。

 国のために戦った功績があるとしても、それは一代の話だ。

 その血が、王の隣に立つ。

 ――許されるわけがない。


 ヴァレンスが誰かに好意を持つのは構わない。

 若者が誰かを慕うのは自然なことだ。

 しかしそれが、国の行く末を左右するような話になるのならば——


(引き離さなければならない)


 誰か使える者はいるか。近しい者の中で、動かせる人材は。

 騎士団長の倅が腹を割って話せると聞いていた。

 あの者なら、ヴァレンスの耳に自然な言葉を届けられるかもしれない。


 指が机を叩く。

 一度、二度。思考を刻む。

 焦る必要はない。

 五十年以上、この速さで動いてきた。



 ***



 だが、その翌朝。

 部屋に飛び込んできた報告に、表情が落ちた。


 第一王子が。

 大仰な首飾りを。

 男爵家の娘に。

 公の場で。

 ――贈った。


 音が消える。


 窓の外、朝の光がやけに穏やかだ。

 心はこんなにも乱れているのに。


 机の表面をゆっくりと撫でた。


(誰だ……)


 静かな声が、胸の中で響いた。


(あの芋娘を、誰が連れてきた!)


 爪が、机を抉った。

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