第4話 蔦は逃がさない
「え? なんですか!? この木の人形たちは?——」
目の前には、頭にサボテンの花を咲かせた可愛らしい木のゴーレムがまばらに立っている。
全部で十体ほど。
「というか、どうやって発動しました? 魔力の流れが全然見えなかったです」
「俺のゴーレムだ。仕込みは済んでる」
テルムが水平に手を伸ばす。
ゴーレムがてけてけと動き出し、腕の向きに沿って一列に並んだ。
「倉庫を探れ、怪しいものを見つけたら消えるんだ——」
「行け!」
号令と同時に、一斉に駆けだした。
「すごい、早さですね……」
「風魔術も乗せてる」
「十五歳のやることじゃないです」
「積み重ねだ」
「……重すぎます、その積み重ね」
(……確かに、な)
テルムは視線を眼下に向け、呟く。
「何かあれば反応がある」
縁に腰を下ろし、目を閉じた。
「手がかりとか探すのかと思っていたのに、ちょっと残念です」
エルは尾を丸めて、倉庫街を眺める。
なにか小さいものが、隠れるように動き回っているのが見えた。
——数刻。日が傾いてきた。
(……一体、消えた)
テルムが目を開ける。
「行くぞ」横で丸まっていたエルに声をかけ、駆けだす。
倉庫街の一番東、古びた扉のこじんまりとした倉庫だった。
人の気配はない。
(何を見て消えた……)
被害者か、犯人か——それとも別の何か。
扉には大きな錠が掛けられていた。
細い蔦を錠に差し込み、中を探る。
沈黙。
空気が張り詰める。
エルの呼吸が止まる。
尾に、じわりと力が入っていく。
カチリ。
小さな音が響く。
錠が外れる。
隣で、エルが小さく息を吐く。
「盗賊みたいですね」エルが小さな声で言う。
(うるさい……)
わずかに扉を押し、中を伺う。
(人の気配はしない……)
扉をゆっくり押し開け、音もなく入り込む。
倉庫は二部屋だけだ。どちらも雑多に物が積まれている。
(外れだな)
静かに、物の影を確認していく。
二部屋目の部屋の隅に——
魔術印の片割れが結界に包まれ捨てられていた。
「どういうことです?」
「見ての通り——囮だ」
「……では被害者はどこへ?」
「行くか」
「え!? どこにですか?」
***
日暮れ。
東の牧場にある小さな小屋で二人の男が机を囲んでいた。
一人は腰に剣を携え、もう一人は魔術師のローブを着ている。
僅かな灯りが揺らぎ、壁に影を映し出している。
そこに一人の女が遅れて合流する。
「うまくいったわね。あとはそれを馬車に乗せて運ぶだけ——」
「乗せて頂戴」
声がかかるやいなや、二人の男が小屋の奥から大きな樽を運びだしてくる。
小屋の外に出ようかとした瞬間——
「やっぱりお前か……」
テルムが声を掛けた。
女は振り向き、とっさに表情を取り繕う。
いつもの侍女の顔に。
「……テルム様ですか? なぜこちらに?」
「お前もな。ラーラのことはもういいのか?」
「……お嬢様のことは、他の従者に任せております。私は他の仕事を——」
「その樽は?」
「……こちらは領に持ち帰る農作物です」
「一つだけか?」
「……」
テルムと女の視線が交錯する。
女が何かを話そうとした瞬間——エルが叫んだ。
「あー! あの男! 魔術印の結界と同じ魔力です!」
その声をきっかけに三人が動いた。
女が馬車へ駆け出す。
すれ違うように剣士が剣を構え突っ込み、頭を越えて魔術師の火が走る。
邪魔だ——テルムは種を撒き、即座に次の術へ移った。
それだけで、十分だ。
(一人も逃がさない)
奥の馬車に視線を定める。
魔力を込め、地面に手を付く。
遠くの地面が盛り上がり、馬車の車輪を固める。
(まずはこれでいい)
同時、火の魔力に反応し、撒いた種が弾けた。
蔦の壁が吹き上がる。
火と衝突する。
煙が音を立てて広がる。
「——」
魔術師が何か叫んでいる。
テルムは煙の先の剣士に視線を向ける。
目の前を剣閃が斜めに走る。
(場馴れしているな。だが——)
蔦と煙が同時に裂け、その間から、剣士と目が合った。
剣士の目が歪む。
二閃目を放つため、更に一歩踏み込む。
ピキッ
足元で種が割れた。
——蔦が芽吹く。
剣士の身体が宙に浮く。
脚を取り、腕を絡め、何本もの蔦が重なり、繭のように剣士を包む。
剣士が声にならない声をあげる。
繭が、ぎしりと軋む。
しばらくして、動きが止まった。
——一人目。
詠唱が聞こえてきて、辺りが、突如明るくなる。
テルムが立ち上がり、魔術師に視線を移す。
魔術師の目の前に、人の胴ほどに膨れ上がった炎があった。
(魔力効率が悪い……潰す)
「行け——」
魔術師が叫ぶと同時、
テルムが地面を強く踏む。
勢いよく土が隆起し、炎を飲み込んだ。
魔力が途切れ、炎は音もなく消えた。
魔術師の目が揺れる。
「化け物か…..」
逃げようとして、足がもつれた。
そのまま尻餅をつく。
杖を前に出し、照準も定めず、小さな火の玉を複数乱れ撃つ。
(当たるわけないだろ)
テルムが駆け込み、すれ違いざまに種を打ち込む。
蔦が乱れ咲き、全身を一気に締め上げる。
魔術師の呼吸が止まり、魔力が途切れる。
力を失い、頭が垂れた。
——二人目。
「ちょっと、なんで動かないの!?」
女は激しく馬を叩き、馬が暴れている。
馬車が激しく揺れる。
だが——車輪はびくともしない。
テルムが近寄り、蔦の魔術を展開する。
「早くしないと——ひぃっ!!」
女は辺りを見渡し、暗闇に浮かぶテルムの顔を見て、引き攣った声を上げた。
蔦が手足に絡みつき、這い上がる。
「洗いざらい話してもらう」
その声を最後に、女は意識が遠のいた。
女の身体が崩れ落ちる。
——三人目。
「すごい……あっという間でしたね」
エルがテルムの肩の上から見下ろして言う。
足元には、小さなゴーレム達が列をなして、三つの大きな繭を運んでいる。
「まあ、魔王軍と比べたらな」
テルムは、パンパンと土を払う。
「……テルムくん。恐ろしい子」
エルの声が、遅れて落ちた。
***
樽を開けると、ラーラ・レニスが眠らされていた。
「怪我はなさそうです。よかった」
「ああ、早く送り届けて、俺たちも帰らないとな」
テルムが見上げると、空には星が出ていた。
「従者の方心配してましたもんね……あれ? テルムくんのところの従者の方は?」
「うちは、放任主義なんだ」
「……なるほど、従者の方、苦労されたんですね」
「おい」
エルが尾を大きく振る。
「それにしても——テルムくんはなんでここがわかったんですか?」
「この侍女、断定してただろ?」
「だから種を仕込んでおいた」
「え!? その種って場所までわかるんですか?」
「魔術印と同じ仕組みだ」
「便利すぎませんか?」
「転生の賜物だ」
「ちょっと、笑えません」
エルは小さく息を吐いた。
テルムは肩をすくめ、視線を上に戻す。
広がる星が怪しく揺らめいているように見えた。
「”王国を救う”か……」
(神託の直後にこれだ)
(……嫌な流れだ)
本日あと一話更新予定です。




