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十四回も転生させられた賢者、もう限界なのでポンコツ女神を猫にして輪廻を終わらせる  作者: 在河りゅう
序章

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第5話 神託と火種

 男爵家の令嬢の誘拐で、街は騒然としていた。


 眠るラーラを連れて騎士の詰所に着いた頃には、夜はしっかり更けていた。


 レニス家の関係者にラーラを引き渡した。


 感動の再会だった。


 涙ながらに感謝された。


 良いことをしたはずだった。


 なのに、今、父の執務室で、執事長セルウスに叱られている。


「何度言ったらわかるのですか」


「いや、急な事件で——」


「言い訳は不要です。使用人一同、神託の結果を楽しみにしていたんですよ。それがいくら待っても帰ってこない」


「連絡一つできなかったのですか?」


「……」


 言葉に詰まる。『報・連・相』何度転生しても身につかないな——と考えるのを放棄する。


「聞いていますか!?」


「セルウス、もうよい」


 父カルス・ヴェレントが言葉を挟んだ。


「レニス男爵から感謝状が届いている。セルウスの言うことにはしっかり反省してもらうとして——この件はよくやった」


 テルムは小さく頷く。


「動機は何だったのでしょうか?」


「まだ、聴取中だが……おそらく別の貴族が絡んでいる」


「王国の歴史は長い。増えすぎた貴族をよく思わない者もいる。テルムもよく気をつけるように」


「……わかりました」


「セルウス、いったん下がってよい。ここからは神託の話しだ」


「承知しました。失礼致します」


 セルウスが部屋を出て、ドアが閉まる。


 足音が遠のいていくのを確認し、カルスが話し出す。


「して、それが神獣か?」


「はい」


「エルです! よろしくお願いします」


 器用にお辞儀する。


「皆から聞いてはいたが、目の当たりにすると驚くな——種は?」


「わからないとのことです」


「神託は?」


「二つ。神獣を育てろ。王国を救え。でした」


「王国を救え……か」


 解釈が幅広いなと、呟き、唸る。


「ちなみに、スキルは?」


 エルが小さく耳を揺らした。


 尾が丸まる。


「授かりませんでした」


「ふむ」


 なるほどな、と再びエルを見つめ考え込む。


 カルスの視線が細くなり、空気が一段静かになった。


 テルムが話題を変えるように問いかける。


「”王国を救え”とは何でしょうか?」


 カルスはテルムのほうに視線を変える。


 表情は元に戻っていた。


「今の王国は一枚岩ではない。複数の思惑がぶつかり合っている。近いうちに、必ず火がつく」


「我々は第二王子を支えることを決めた。願わくば、お前の神託が、同じ道を歩むことであって欲しいと思う」


「もし違ったら?」


 カルスはすぐには答えなかった。


 一度だけ目を細める。


 短い沈黙のあと、静かに言った。


「お前の神託だ。お前の信じる道を進めばよい」


 真っ直ぐにテルムを見つめていた。


 ***


 執務室とは反対側、庭に面した静かな離れがテルムの自室である。


「少し離れてるんですね」


「いろいろしたからな」


 幼い頃から実験で何度も屋敷を壊した。その結果、この離れが建てられた。


 ここなら前世の魔術も試せる。失敗しても、セルウスに怒られるだけで済む。


(この環境は有難い)


 自室の扉を閉め、上着を椅子の背にかけた。


 長かった。生まれてから儀式までの十五年は、いつも長すぎる。


 ——ようやくか。


 息を吐いたところで、後ろから声がかかった。


「テルムくん、たくさん本持っているんですね」


 振り返ると、そこには見慣れた少女がいた。


 ——猫ではない。


「……人型になれるのか?」


「えっ? なれますけど。知ってましたよね」


「地上では猫だと」


 エランが少し目を丸くした。


「それだと読みにくくないですか?」


(そういうことではない)


「……自由に替われるのか?」


「当たり前じゃないですか——」


 その場で一回転し、片手を腰に当てて、何かを期待する顔をする。


 ——どこで覚えたんだその姿勢は。


「どうです?」


「……イラッとした」


「却下です」


 エランが不服そうな顔をした。


「もっと他の感想はありませんか」


(なんだ、この女神は……)


「目立つから、他の人の前ではその姿になるなよ」


 テルムは頭をかき、目を背けながら言った。


 エランは一度、二度頷く。


「神々しいってことですね、まあよしとしましょう」


「言ってない」


「それより——」


 エランが本棚に向き直る。


「本がたくさんあって良いですね。何を集めているんですか?」


「雑多だ。魔術書、歴史書、あとは資料だな。神界にも本があるのか?」


「ありますよ!神界をなんだと思ってるんですか……私は特にラノベが好きなんです——」


 エランが語る。意味はわからないが、情熱だけが残る。


(初めて見るな——だが)


「……神様って、案外暇なんだな」


「むっ……忙しいですよ! で、この世界にラノベは?」


「聞いたことがない」


「そんな……」


 エランは膝から崩れ落ちた。


「おい、——」


 声を掛けようとした。


 だが、「普及しなくては——」と繰り返し呟く声が聞こえ、動きを止めた。


(いつも通りだ)


 テルムは机に向き直り、厚い紙の束へ手を伸ばした。


 パラパラと捲り、書き込みを進める。


「テルムくん、それなんですか?」


 いつの間にか再起動したエランが後ろから声をかけた。


「……覚えていることを書き留めてる。全部じゃないが」


 エランが近づきそっと手を伸ばした。テルムは止めなかった。


 束を受け取ると、思ったより重みがあった。


 一枚、二枚とめくる。


 細かい字、図、書き込みが圧し込まれるように目に入る。描き方に統一はなく、別々の世界の記録を無理やり繋いだようだった。


「すごい……」


 ほんの少しだけ、声が揺れていた。


 どれくらいの時間と、どれくらいの世界が、ここに収まっているのか。


「……前世の記憶ってあるんですか?」


「ぼんやりとな。ほとんど覚えてないが、魔術のことは結構覚えてる」


 途中、エランの手が止まった。


 魔法陣が描かれたページだった。


 幾何学的な線が複数走り、記号が密集している。複数の文字が入り混じり、一部は欠けていた。


「……これ、なんですか」


「古い魔術の構造図だ」


「この世界とは形式が違うから、組み換えている途中だ」


「いいですね! これ、続きをやってみましょう!」


「……なぜ」


「複数世界の統合! 興味あります!」


(今進めている物だから、断る理由はないが……)


 ただ、高純度の魔石の入手が難しい。


 エランを見る。


(適当……って訳でもなさそうだな)


 前のめりに立ち、紙を持つ手に力がある。


 眩しいぐらいに期待に満ちた目をしている。


(神様視点の意見を聞けるのも面白い)


 そう思うと、実験欲がふつふつと湧いてくる。


 純度を落としても、ギリギリいけるか。


「素材が足りない。買いに行くか」


 エランの顔が、ぱっと明るくなる。


「私もいっていいですか」


「好きにしろ」


 エルの姿に戻るのを確認してから、


 テルムは上着を取った。


 ——まずは、買えるもので試してみるか。


 エルの尾が楽しげに揺れていた。


 市場に向かう中、テルムは考える。


 日常は変わらず回っている。


 街は活気に満ち、実験の楽しみも増えた。


 “王国を救う”……か。


 これまでもそうだった。


 何度も見てきた。


 何かが崩れるときは、決まってこういったときだ。


 賑わう通りを見渡し、短く息を吐く。


 ——火種はある。


 あとは、いつどこで火がつくか。


 ***


 この日、第二王子派の貴族が二つの大きな被害を受けた。


 一つは誘拐による身代金請求。


 もう一つは魔物の異常発生だった。


 同時期、同一派閥。


 偶然で済ませるには、出来すぎていた。


 ——火は、すでに燃え始めている。


 それがどこに広がるのか、まだ誰も知らない。


【序章 完】

ここまで読んでいただきありがとうございます。

明日の朝も更新予定ですので、よろしければブックマークしていただけると嬉しいです。

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