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十四回も転生させられた賢者、もう限界なのでポンコツ女神を猫にして輪廻を終わらせる  作者: 在河りゅう
序章

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第3話 貧民街と三つのルート

 テルムは貧民街へ駆けていた。


 横でエルが飛ぶ。


「テルムくん、スキル狩りってなんですか?」


「神託でスキルを得た子供を攫って、奴隷商に流す——悪どい商売だ」


「子供を攫う……」


「まさか、貴族の子供にまで手を出すとはな。この国は思った以上に歪んでるのかもしれない」


「わたしの与えたスキルで、そんなことに……」


「気にするな、悪いのは攫ったやつに決まってる——奴隷商に接触するまでが勝負だ」


「場所はわかるんですか?」


「さっきの従者から、魔力印を預かった。これで魔力を辿れる」


 方向がわかる程度だが——十分だ。


「被害者のところにひとっ飛びですね!」


「いや、まずは情報だ。うちの領に奴隷商はいない。決まったルートから外に向かうはず」


「なるほど、間に合いたいですね」


「ああ」


 ***


 暫く駆けると、石畳みが途切れ雑な石道となる。


 空気が澱み、錆びた鍋や食器が無造作に転がっている。


「ここが貧民街ですか……」


「離れるなよ。エルは金になりそうだから、すぐ攫われるぞ」


「えっ!? テルムくんは平気なんですか? 貴族の子どもが来るところじゃないですよね?」


「俺は色々やらかしてるからな」


「何やらかしたんですか!?」


 懐かしい話だ。悪党退治と称して、兄弟で暴れ回った。


 それ以来、誰も近寄らない。


「着いたぞ」


 貧民街の中ほどにある小さな酒場の前でテルムは止まった。


 看板はない。内部は薄暗く、昼間だというのに人の気配がまばらに沈んでいる。


 エルはテルムの肩に乗り、息を潜める。


 カラン。


 扉を開けると、乾いた音が鳴り響いた。


 一歩、二歩踏み込む。


 途端、空気が止まり、視線が一斉に突き刺さる。


「ヴェレントの三男坊……」


 誰かが呟いた。息を飲む音が聞こえる。


 テルムは気にせず、奥に進んだ。


 カウンターの端に、一人の男が座っていた。


 背が高い。身なりは悪くないが、どこかくたびれている。鋭い目で周囲を一瞥する癖があった。


 スネークと呼ばれる。この辺りを仕切る男だった。


「おやおや——ヴェレントの坊ちゃん、こんなところでどうしました?」


「急用でな。奴隷商へのルートを教えて欲しい」


 スネークの眉が動く。


「私たちのルールをお忘れで?」


「貸しがあっただろ?」


 テルムとスネークが睨み合う。誰も口を挟まない。


 暫く静寂。


 スネークが視線を外し、酒場の奥のほうに向く。


「おい、坊ちゃんに説明を」


 ガタン。


 暗闇の奥、何かが動く音が聞こえた。


 闇が揺らぎ、一拍。一際がたいの良い男が出てくる。


 手には地図を持っている。


 カウンターの上に地図を広げ、三点を指し示す。


「ルートは三つ、北の農地、南の倉庫街、東の牧場」


 テルムは手の中に視線を落とした。


「その中なら南の倉庫街だ。時間は?」


 男がスネークに視線を送ると、スネークは静かに頷く。


 テルムの方に向き直り、口を開いた。


「……次は明日の日の出だ」


「わかった」


(それだけ時間があれば十分だ)


 テルムは南の倉庫街のルートを記憶し、踵を返して、出口に向かって歩き出す。


 その背に、スネークの声がかかる。


「坊ちゃん、これで貸し借りなしですぜ」


(散々貸しを作らせておいて、よく言う)


「……また俺に貸しを作らせるなよ」


 振り返らず、酒場を出た。


 カラン。


 乾いた音が鳴り終わると、エルが大きく息を吸う。


「すごいですね! まるでギャングの一シーンです」


「”ぎゃんぐ”が何か知らないが——楽しむな。急ぐぞ」


 ***


 貧民街を南に抜ける。


 その先に、倉庫街が広がっていた。


 領南に広がる伯爵量との流通を一手に担っており、規模が大きい。


 テルムは一帯の倉庫を見渡せる一段高い建物に登った。


 眼下には所狭しと倉庫が並び、積まれた木箱の影が夕陽に引き延ばされて、まるで迷路のように絡み合っていた。


「この中のどこかにいる」


 人を隠すには十分だ。


「この中に……」エルが緊張感を増していく。


 テルムは手元に一度視線を落とし、倉庫へ向き直る。


「魔術印が反応しない。結界だ」


「えっ? この後、どうするんですか?」


 エルの尾が小さく揺れる。


 テルムはポケットの中に手を入れ、十ほどの種を握る。


「これを使う」


 腕を振り、ばらりと地面に撒いた。


 地面に当たるなり、種は弾け、中から手のひらサイズの木のゴーレムが次々と生まれた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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