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十四回転生の疲弊系賢者、今度こそ終わりたい ~ポンコツ女神を猫にして輪廻を終わらせる~  作者: 在河琉盤
序章

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第2話 ポンコツ女神を詰める日

第2話です。

——今日、女神を問い詰める。


(場合によっては、拘束する)


神殿へ向かう馬車の中で、テルムは目を閉じていた。


(十四回分の神託は、全て嘘だったのか、今日で明らかになる)


テルミアは、今世では小貴族ヴェレント家の三男テルムとして生まれ、今年で十五歳になった。


十五歳になれば、神託とスキルを授かる。


この国では当たり前の儀式だ。


他の子供たちにとっては、一生に一度の晴れの日だろう。


しかしテルムにとっては意味が違う。


この場は——尋問の場に他ならない。


***


街の中心に近づき、ゆっくり目を開ける。


今日の段取りは、もう頭の中で組んである。


まず前世の条件確認。


次に転生が止まらなかった理由の問い詰め。


泣かせるつもりはないが、泣いても止めない。


感傷に引きずられるほど、もう若くない。


——若く見えるだけで。


窓の外の声が増えてきた。


参道に近づくにつれ、人の気配がざわざわと膨らんでいく。


馬車がゆっくりと止まった。


外に出ると、エラン教会の白い塔が目に入った。


王都でも特に古い建物のひとつだ。


神殿前の広場には、すでに何組かが集まっていた。


ここに来るのは皆、似たような家格の子供たちだ。


見知った顔がこちらに気づいて近づいてくる。


「……やっぱり来てたんだ」


「当たり前だ」


「神託、来なかったらどうしようって思わない?」


「……思わない」


「なんで?」


「来る。必ず」


ぶっきらぼうに答えると、その子は少しだけ表情を和らげた。


「……そう言ってくれると、なんか安心する」


テルムは前を向いた。


来ることは保証できる。


何度も確認しているのだから。


神殿の扉は、大人の背丈の五倍はあった。


白大理石に金の透かし彫り。女神の紋章が中央に刻まれている。


名乗ると神官が深く礼をし、奥へと案内された。


天井は視界の外まで続き、柱の聖句が灯篭の光に浮かび上がる。


足音が響く。


何度転生しても、どの時代でも——この雰囲気だけは変わらない。


テルムは息を一つ吐いた。


さて、時間だ。


***


白い光の中に降り立つと、女神はもう待っていた。


この空間には床も天井もない。


ただ、どこまでも続く柔らかな白だけがある。


何度来ても慣れない。


——いや、慣れたくない。


女神はいつも通り、中心に立っている。


ふんわりとした明るい雰囲気。


柔らかく波打つ髪。


いかにも「女神です」という顔で、変わらず微笑んでいる。


邪気がない。


邪気がないのが、いちばん厄介だ。


「テルムくん! 今世もよく来ました!」


「……毎回強制的に来させられてるんですが」


「元気そうで良かったです!」


「聞いてないですね」


「今世はどうですか、慣れてきましたか、十五歳の体!」


「慣れたくありません」


「若いっていいですよね!」


テルムは脱力した。


この女神に言葉は三割しか届かない。


残りの七割は、笑顔で塗り潰される。


長い付き合いで学んだことのひとつだ。


***


「では、今世の神託を授けます!」


女神が胸を張る。


「少し待ってください」


「え?」


「その前に確認したいことがあります」


女神の笑顔が、微妙に固まった。


「前世の条件、果たしましたよね」


「……はい」


「魔王、倒しましたよね」


「……はい」


「勇者も支えました。世界も救いました」


「……はい」


テルムは一呼吸置いた。


「では、なぜ私はまた転生しているのですか」


沈黙。


白い空間が静まり返る。


女神の視線が揺れた。


「……その件なんですけど」


「聞きます」


「少し、複雑で」


「聞きます」


「怒るかもしれなくて」


「話次第です」


逃がさない。


***


女神は観念したように息を吐いた。


話を聞くにつれ、テルムの感情は静かに平坦になっていく。


要するにこうだ。


転生スキルは本来、神の従者を生み出すための上位スキル。


それをこの女神は、勢いで人間に付与した。神専用だと知らずに。


その結果——解除の仕方が分からなくなった。


「……それが、私ですか」


「……はい」


静寂が落ちる。


「……なんで、そんなことに」


「……ラノベで読んで、使ってみたくて。本当に軽い気持ちで……ごめんなさい」


てへ、と笑った。


テルムは三秒、女神を見つめた。


「毎回の神託で誤魔化していたってわけです?」


「……適当ではなく、その都度真剣に——」


「農村に生まれて出会いがゼロだったんですが」


「それは想定外で——」


「海のない世界に海を探しに行かされたんですが」


「あれは本当に申し訳なくて——」


テルムは一拍置いた。


「虫になったんですが」


女神が固まった。


「……虫、ですか」


「ある時、全部嫌になって死を選んだら、虫になりました。意識はありました。声は出ませんでした」


「それは——」


「蜘蛛の巣に引っかかって、ゆっくり死にました」


白い空間に言葉が落ちる。


「……本当に申し訳——」


「足が八本ありました」


「それは蜘蛛では——」


「……」


(言いたいのは、そういうことではない)


怒りは、言葉になる前に消えていった。


***


しばらく沈黙が続いた。


女神は小さくなっていた。


いつもの自信満々の姿は影もない。


テルムは追い打ちをかけなかった。


「終了条件は」


女神が顔を上げる。


「……本来は、役目を終えれば止まるはずで」


「……役目」


「……神託を達成すれば止まると思うじゃないですか……? 私も確認したんです。上位神にも掛け合って……会ってくれませんでしたけど」


「……つまり」


「……よく分かりません」


テルムは静かに息を吐いた。


神の常識は、人には分からない。


そしてこの女神だけでは、解決できない。


だが。


ここで終わらせる。


神界に戻られれば、次に会えるのは次の転生後だ。


それでは遅い。


——ここで終わらせる。


もう、次はない。


ならば——


こいつを使う。


(従魔契約で縛る)


過去の記憶にある。


人と契約し、現世に留まる精霊。


——神に使えない理由はない。


(女神には、責任を取ってもらう。絶対)


テルムの意図を感じ取ったのか、女神が後ずさった。


「……あっ、そろそろ時間ですね!ではまた来世で!」


光が広がり始める。


逃がすか。


術式を展開した。


白い空間に幾何学的な紋様が走り、女神の周囲を囲む。


「ちょ、ちょっと——これ何ですか!?」


「従魔契約です」


「え?」


「今世で終わらせる方法を探してもらいます」


「そんな話してましたっけ!?」


「今しました」


光が膨らんでいく。


女神が何か言いかける。


だが——


その前に、白がすべてを塗り潰した。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

本日このあとも更新予定です。

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