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朱の足跡 fast contact  作者: 有知春秋
皆藤愛沙編
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18/19

終章 芯にある一本の刀の生き先

 

 中央校舎の玄関から校舎内に入った勇也、校舎内にいる上級生や新入生の視線が自分を畏怖しているのが解った、大階段を上がる、十戒のように割れる人類の道、自分が歩くだけで自然と出来上がる道、数日間四臣家と過ごした楽しい記憶が蘇る。


「……、(母親もこんな気持ちを経験したのか……いや、あの母親なら加瀬光二郎みたいな弱い人間を相手にしない、最初から微塵も気にしないで親父に殺らせるだろうな)」


 2階に上がりそのまま大階段を上がり3階に向かう、周りの視線が気にならない程に頭の中ではミルクの事を考えていた。


「(ミルクは朱の血筋としてどうなるんだ……、朱の血筋らしくない俺を見てるからな……、ミルクに継がせたい世界か……)、……んっ?」


 3階に差し掛かった時に階段を上がる自分を見下ろす気配に気づく、殺意の無い気配、足を止めて見上げる。


 髪型はセミロング、顔立ちはキリッとした落ち着きある真面目な少女を思わせる、礼実や芽衣華のような古白街の住人特有の雰囲気があると勇也は感じた、だが、着ている制服はブレザー制服、そして服装には似合わない大刀を帯刀している、無言そして無表情のまま勇也を見下ろす。


 勇也はこの少女が学園のヌシか? と思った、それほどに少女のまとう気配や隙のない自然体が自分には無い巨漢熊(ヌシ)と似た風格があると感じた。


「刀見せか?」


「…………。」


 勇也の問いに返答をせずただただ勇也を見下ろす。


「?、……。」


 少女の気配は微塵も変わらない、自分に用事があるというのは解る、この微塵も変わらない気配から抜刀が出来るのか? と警戒する、もしもこの状態から抜刀が出来るとしたら剣の腕は自分以上、そして帯刀する日本刀は先程上級生30人が使っていたのと同じ刀匠富士が打った刀、良くて五分、こんな気分でなかったら楽しめたのにな……と思った、すると——


 スッと一礼した少女は踵を返しその場から去る。


「……、……さすがヌシ、俺の迷いを読んだか……」


 勇也は階段を上がる、先程まではミルクの事を考えていたが3階から4階そして屋上に出る重曹な扉の前までセミロングの少女の事を考えていた。


「アレは強い、かなり強い、」


 先程までの雑念が消えたように嬉しそうな独り言、更に続ける。


「修行だな、上級生達の流派も見たし俺の流派を作って挑んでやる」


 屋上に出る重曹な扉を前にする、両開きの扉の右側を開けると外の光が薄暗い室内に入る、勇也は眩しさを感じる事なくそのまま屋上に出る。


 最初に視界に入ったのは蒼と美礼そして礼実、その背後では真一と茜が校庭内を見ている、視線を下に向けると俯せになる明流の背中から苗木が弾丸を取り出し竪郎が助手をしている、2人の正面でミルクが指先を震わせて薬を塗り、愛沙が心配そうに見ている。


 蒼はおつかれさんというような軽い笑み顔を向けて勇也の前に来る。


「最後まで見てたのは俺と美礼と西の本家と真一と茜だ、安心すれ」


「気を使わせたな、……」


 礼実に視線を向ける、いつもと変わらない微笑み顔だが勇也には解る明らかな不機嫌。


「ミルクはライフル弾ぐらいなら掴み取る、誰と雪合戦してると思ってんだ?」


「そんなのは百も承知、『あなたが裁かない』と解るから秩序が乱れる前に私(わたくし)が裁くつもりでした、……どうされるのですか?」


「この程度で秩序が乱れると大人等が思ってんなら『母親の四臣家は大した事ないな』」


「朱の血筋が我が子に銃口を向けられても結果的に許すという行為が秩序を乱すのです、……」


「朱の血筋らしくない、だろ? お前がよく解っているだろ? 俺等の親代わりは巨漢熊(ヌシ)だ、

 何も解らない俺等に弱肉強食を教えてくれて、食える野草や木の実を教えてくれて、生き方を教えてくれたのは親では無く巨漢熊(ヌシ)だ、

 許していると思われるならそう思わせておけ、『まだ食えるレベルじゃなかっただけ』だと気づいた時に挑むか挑まないかは加瀬光二郎や他の共犯者が決める事だ」


「挑んで来たらどうされますか?」


「巨漢熊(ヌシ)ならどうしていた?」


「巨漢熊(ヌシ)に挑む獣はいませんでした」


「それが答えだ、」


 ミルクの隣に行く、俯せになる明流を朱い眼で視ると秘薬で煙を出す傷口に手を添える。


「巨漢熊(ヌシ)の縄張りで巨漢熊(ヌシ)に挑む獣はいない、それは巨漢熊(ヌシ)が作った秩序だ、そして他の獣が巨漢熊(ヌシ)からは逃げるという法律だ、

 俺は刀工達や実力者の刀見せで関係無い連中が首を突っ込む程度のヌシなんだ、愛沙や明流やミルクに銃口を向けられる程度のヌシなんだ、……、

 ミルクの言う通りだったな、巨漢熊(ヌシ)に護られた俺にメンツなんて無い、巨漢熊(ヌシ)のように縄張りの獣や自然を護ってきた実績も無い、口だけのヌシだ」


「どうされるのですか?」


「実績を作る、朱の血筋の実績では無い俺の実績だ、……大人達が加瀬光二郎や共犯者を許さないなら俺が護る、学園(ここ)は……俺の縄張りだって言えるみんなからも認められる本当のヌシになる」


 朱の血筋らしくない答え、慈桜勇也らしい巨漢熊(ヌシ)の背中を見てきた答え、四臣家は朱の血筋慈桜勇也のこの答えに——


 蒼は勇也の背中をバンッと叩く。


「好きに創ればいい、それが勇也の出した答えなら前だけ見てヌシになれ、その後ろは俺が整理していくだけだ」


「俺は、では無く、俺等だ」


 メガネをクイッと上げる真一が会話に加わる、視線を横に移す、竪郎は聞くまでもなく苗木や明流も聞くまでも無い、既に屋上武装化計画のために測定している茜も聞くまでも無い、美礼と礼実で視線を止めると更に続ける。


「西桜臣家はどうする?」


「……どうする、ちゃうやろ……」


 気だるそうに頭を掻きながら言うと更に続ける。


「朱の血筋が朱の血筋らしくない答えを出すなんて前代未聞や、……おもろいやないか」


 気だるくない、歴史の変り目に起きる混沌(カオス)こそ自分の本領が発揮されると悪どく目元口元を笑わせる。


 真一はため息を出したい気持ちを抑えて礼実に視線を向ける。


「西桜臣本家はどうなんだ? 慈桜家として答えてくれ」


「……モジャモジャ?」


「なんだ?」


「歴史の変り目に生まれる混沌(こんとん)は歴史を変わらずに護ってきた四臣家の望む形ではありません、特に西桜臣家はその思想には断固反対します、

 モジャモジャが次代に繋げる縄張りを創れないと判断された際には西桜臣家が秩序の元に次代に残る不穏の剪定に動きます、それが朱の血筋であるモジャモジャでもミルクがいる以上は剪定対象です、

 今のモジャモジャには有言を実行する為の力はありません、私(わたくし)は西桜臣家としては断固反対、慈桜家としては『巨漢熊(ヌシ)を継ぐにはまだ未熟』……」


「答えは?」


「次はありません」


「十分だ」


 礼実の次はありませんという言葉の意味は好きなようにすれという意味が含まれる、朱の血筋らしくない勇也の子供のミルクが朱の血筋らしい訳がないのだ、礼実はミルクの事を考え、大人達に作られない今のミルクを護る為に『次はありません』と1度目は乱れる秩序に目を瞑ると言ったのだ。


 勇也が思想の実現が出来なければ西桜臣家としての剪定が行われる、ソレは勇也の思想に付いて行った四臣家や民の剪定になる、朱の血筋らしくない数多い者達の命を背負う責任、自由人である性(サガ)を捨て1つの大義の為に貫く意思が出来上がる。


 勇也の中で鞘に納まる芯にある一本の刀がハバキを覗かせた瞬間だった。


 誰しもが朱の血筋には芯にある一本の刀は無いと言う中で、藤野愛沙は勇也には芯にある一本の刀があると11年前に解り11年間信じ抜いてきた、そして今、その芯にある一本の刀の鞘からハバキを覗かせた音を聞き取った——


「お孫様……」


「?、なんだ?」


「……、芯にある一本の刀を見させて頂きました、……刀の銘を下さい」


「……、?、俺なんかしたか?」


「……、……。」


 勇也には自分に大義への曲がらない意思が出来上がったという自覚は無い、そもそもソレが芯にある一本の刀だとは思ってもいない、愛沙は返答に困りプルプルと震え出し頭頂部からモクモクと煙を出し始める。


「うおっ! わかった! 考えとく!」


「……はい」



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