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朱の足跡 fast contact  作者: 有知春秋
皆藤愛沙編
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17/19

第四章 下 罪と罰は双方に等価交換では無い

 

 南門の外にいる勇也と愛沙そして健太を筆頭にした農化街出身の少年達、校舎の屋上からミルクが何かを叫んでいる、勇也は口元を笑わせて横にいる愛沙を見る。


「あの36人が十死零生を受け入れる強者みたいだな」


「手前の6人は私(わたくし)には無い刀匠の芯にある一本の刀を持ち、お孫様が刀匠として認めるべき方達です」


「……(プルプルしないな)、礼実も言ってたろ? 古白街には刀屋藤野しか残す気が無い、てな」


「……方々の芯にある一本の刀を見てください」


「勘違いするなよ、礼実も俺も『朱の血筋が使える刀』として残すのが刀屋藤野しか無いと思ってるだけだ」


「方々の芯にある一本の刀を見てください」


「……、証明してやるよ、」


 両手を出す。


 愛沙は両手で大事そうに持つ2本の日本刀を勇也に出す。


 一本は柄と鞘を黒塗りに仕立てた『鍔(つば)の有る刀』。


 一本は柄と鞘を白塗りに仕立てた『鍔の無い刀』。


「黒が11年前……」


 左手で黒塗りの日本刀の柄を握り、右手で白塗りの日本刀を握ると更に続ける。


「白が11年後、鍔を付けないのは?」


「……。」


「まぁいいか、」


 2本の日本刀を鞘から抜く、黒塗りの日本刀の刀身は直刃が鋭く研がされ徹底的に手入れされた輝きは11年間使ってきたとは思えない、白塗りの刀身は暗闇のまとわりつく禍々しい悪寒を体現させる乱れる両刃。


 勇也本人も手入れをした黒塗り、仕立てあげた白塗りを見たのは今が初めて、直感したのは白塗りの日本刀には鍔はいらない、湧き上がる高揚感で口元がつり上がる。


「見事だ、今更だが刀の銘はなんだ? 名の無い刀だと味気ないだろ?」


「刀匠富士の家系では自分が認めた者に『御神刀にした一刀』の名を頂きます、その名が富士の名を継ぐまでに入道名になり刀銘になります」


「それを俺に言わなかったという事は愛沙は俺を認めていないという事だな?」


「……刀匠の芯にある一本の刀を持つあの方々の刀をお孫様は知りません、他にもお孫様の芯にある一本の刀を私は見定めていません」


「(畳で見せたと思ったが刀でなく手刀だからダメなのか……?)、こうなる事は予想してたって事か……、愛沙に認められなくても俺は愛沙の刀を使う、好きなだけ見定めろ」


「はい」


「6人が待ってる、行くか」


 南門を通り校庭内に入る、愛沙は勇也の2歩後ろを歩く、その左右を愛沙を中心に11人の少年が壁を作る。


 新入生で作られる道、勇也が通り過ぎると36人の上級生と勇也と愛沙を囲うように円を作っていく。


 新入生約300人で作られる壁は三重の壁になり前列に刀や槍を持つ古白街出身の約100人の少年、中列に古白街出身の100の少女、後列に美岩街出身の少年少女。


 校舎前にいる上級生からは威圧からの重圧、新入生は構える手を震わせ足元を震わせる、その背後から突如襲い掛かる気合い。


『うらぁ!!!!!!!!』


 ビクッと背筋が伸びる咆哮、震えていた手元や足元がピタッと止まる、声の主は振り向かなくても解る、朱の血筋慈桜勇也。


「俺の縄張りにいる事を忘れるな、俺の縄張りにいる事を自覚すれ、俺の縄張りにいる事に自信を持て、俺がお前等のヌシだと……理解すれ」


 ズドン!! と新入生の背中に向けられる気合いは正面の上級生6人とその後ろの30人に向ける殺気になる。


 新入生は背中を叩かれたように気合いが入り表情を強くし校舎前にいる上級生を見る、先程よりも視界が広がり全体が見える事に気づく、そして勇也をヌシと認めてしまう自分がいる事に嬉しさが出る、新入生は自然と口元を笑わせていた。


 その気合いを殺気として向けられた上級生36人、気合いと殺気では大きな違いはあるが新入生と同じく口元を笑わせていた。


 1人の少年が2歩前に出る、先程新入生に声をかけた少年だ、彼は勇也との距離10メートルの位置で会釈をして一礼する。


「本日は我等に刀見せの機会をくださりありがとうございます、」


 ゆっくりと頭を上げて勇也を真っ直ぐに見ると更に続ける。


「後ろに控える5人そして私を含めて刀匠になる為に日々精進しています、ですが『刀の進化が見られる場は戦場』……残念な事に我等に剣術の腕はありません」


「それで30人の腕の立つ実力者か……、一つ聞く、30人が死んだ後お前等はどうする?」


「腕を切り落とすなり同じく天に送るなりして下さい、我等6人認めた者達と同じ道を歩き、朱の血筋に挑む日を……この日を最後では無く最初と考え幼少期から精進してきました」


「……その心意気、無駄にはしない」


「感謝致します、それと……」


 勇也の後ろにいる愛沙を見る、プルプルと震えだし怖がるように俯く、少年は表情を柔らかくする、チラッと勇也が握る2本の日本刀を見ると更に続ける。


「藤野愛沙さん、刀匠の芯にある一本の刀は強さだけでは無い、刀工1人1人にある芯にある一本の刀が刀匠の芯にある一本の刀になる、……もしも我等が腕を切り落とされ死を迎えたら今の私の言葉を忘れないでほしい、あなたの刀は『刀匠富士の名を継ぐに相応しい』、私は……我等は刀工藤野愛沙を最初から認めている」


 !……ピクッと反応した愛沙はチラッと少年を見る、その表情は自分を受け入れ自分を認めている、何も返答が出来ない自分に悔しさが込み上げ頭からシュ〜と煙が出る。


 少年は返答の無い愛沙を気にする事なく勇也に視線を移す。


「それでは……」


「名前を聞いときたい」


「……、戦場(いくさば)に刀工や刀匠が名乗る名はありません」


 会釈をして一礼すると踵を返し5人の上級生の元に行く、視線を合わせ頷くと5人の上級生は勇也に会釈する、そして30人の上級生と入れ替わる。


「健太? この36人は大丈夫だ、校舎前にいる連中が暴れ始めたら道が欲しい、西桜臣家の親衛隊(100人の少女)に言ってその時になったら道を作らせろ」


「わかった」


 健太は100人の少女のリーダー格であるロングヘアの少女の元に行く。


「よし、愛沙とみんなは下がって見ててくれ」


「わかった」


「……。」


「?、どうした?」


「ここで見ています」


「……わかった」


 勇也が歩を進めると30人の上級生は鞘から刀身を抜く、勇也を囲うように円を作ろうとすると愛沙が歩を進め勇也の2歩後ろに立つ。


「……?」


 頭に? を浮かべる勇也。


「「……?」」


 頭に? を浮かべる30人。


 一同は勇也に視線を向ける、どうしたんだ?、という視線だ、それが解らない勇也ではない。


「愛沙?」


「ここで見ています」


 愛沙の『ここで見ています』とは勇也の2歩後ろ。


「……邪魔なんだが?」


「母は同じ状況でお孫様を救いました」


「な、なるほど、それなら仕方ない、このままでやるか」


 !……30人の上級生は気を使うように勇也を半円に囲う。


「ああ〜……気を使わないでいいぞ? 娘を背負ったり走り回るのを庇いながら闘ったりしていた、愛沙も間違って斬られるのは覚悟の上だ」


「いや、最初から背中を斬る気は無い、刀を見えやすいようにしたかっただけだ」


「そうか、……一目見たら記憶に残る、まぁ、俺から動けなくなったから『調度いいハンデ』だ」


 !?……ハンデという言葉に反応した訳では無い、朱い眼を見て気を引き締めたのだ。


「いざ!!」


 正面にいる少年が上段に構える、同時に29人の少年少女がそれぞれの流派を主張するように中段下段と構え、体制を低くし逆手に刀を握り構える少女もいる。


 勇也は切っ先を下げた自然体の構え、正面の少年のみを視る、自分の間合い内では愛沙がプルプルと震えている、正面の少年との距離約10メートル。


 ジリッと摺り足で左側にいる刀を逆手に握る少女が動いた、勇也が反応する、30人の上級生はその一動作で勇也の間合いを確認、「(間合いは半径10メートル)」、一斉に1歩前に出る。


「えぇ……と前言撤回だ、刀の他にも『使い手の実力も見たい』、」


 警戒心を上げる30人に更に続ける。


「一気に行くぞ」


 刹那——


 バギィン! 左側にいる刀を逆手に握る少女の刀が粉砕、直後左右にいる中段下段で構える少年2人の握る刀を粉砕、空間に向けて刀を振り下ろす少年がいるがギィンッと刀身が真っ二つになる、左側にいる上級生は10人、次々と握る刀は粉砕し真っ二つにされ地面に刀身を落とす、その間3秒にも満たない。


 正面と右側の少年少女は構えを変える、左側には勇也がいない、愛沙の2歩前に自然体のまま立つ。


「今10本の刀を砕いた刀は愛沙が11年前に打ったこの刀だ、」


 左手に握る黒塗りの日本刀を6人の刀工に向けると更に続ける。


「だが、砕いた刀も将来が楽しみな刀だ、使い手も申し分ない」


「「……。」」


 ものの3秒程の時間で砕かれた10本の刀そして10の流派、実力差から生まれる芸当だが上級生には砕かれた刀や流派よりも勇也の握る黒塗りの日本刀を見る。


「見事な刀だ」


「さすがは富士の血筋です」


「藤野愛沙、我等も富士の跡継ぎとして認める」


 左側にいる10人の少年少女は口元を笑わせて愛沙を賞賛する、いや、賞賛するしかないのだ、10本の刀を砕いた黒塗りの日本刀は刃こぼれはおろか輝きも失っておらず威風堂々と砕かれた刀身を見下ろしているのだから。


「なっ? 愛沙の刀が一番だろ?」


「……残り4人の芯にある一本の刀が来ます」


「解ってるって」


 その瞬間、右側にいる上級生5人が勇也に向かって飛び込む全員捨て身の上段構え。


 勇也は左手に握る黒塗りの日本刀を横向きで空にかざし、右手に握る白塗りの日本刀を逆手に握る。


 ガギギギギン! と5本の刃を黒塗りの日本刀で受け止める、刹那、逆手に握る白塗りの日本刀が5本の刀身を——


 ————無音————


 腕を交差する勇也の目元が見開き口元がつり上がる。


「すげぇ!!!!」


 5本の刀身は黒塗りの日本刀で受けたまま、だが、勇也から見て右側から順にスッスッスッスッスッと刀身の3分1を落とし地面に刺さる。


「愛沙!? 技と刀が合わさらないと出来ない無音斬りだ!! 11年前の刀では出来ない技が11年後の刀では出来る!! 恐ろしい刀だ!!」


「まだまだ!!」


 刀身の切っ先を斬られた上級生5人は柄を握りしめ黒塗りの日本刀ごと勇也を押し込む、同時に頭を下げるとその背後から上段に構えて勇也の頭頂部を狙う5人の少年少女。


「残念!! 11年後の刀は両刃だ!!」


 興奮状態になる勇也、押し込まれる左腕をグンッ! と伸ばし上級生5人を押し込み無理矢理後退させる、交差している右腕を「よっしゃあ!!!!」と声を上げて広げる、白塗りの日本刀の逆刃は無音で5本の刀身を通り抜ける、同時に左手にある黒塗りの日本刀の柄頭で5本の刀身の切っ先をキンキンキンキンキンと弾いていく。


「「お見事!!!!」」


 無理矢理後退させられた上級生5人は尻餅をつき、地面に着地した上級生5人は声を上げて賞賛する、勇也への賞賛では無い、愛沙への賞賛である、握る柄を顔に向け斬られた部分を見る、落ちている切っ先の斬られた部分を見る、再度。


「「『刀匠』藤野愛沙!!!!お見事!!」」


 ビクッと強張る愛沙、プルプルと震え出し勇也の背後で顔を隠す、だが、上級生からの賞賛は終わらない。


「残り10本!!!! 好物は最後に取っておいた!? 残り2人の刀工!! 残り10人の実力者!! いざ尋常に!!」


「「勝負!!!!!!!!!!」」


 目元口元をつり上げ嬉しさが全面に出る勇也、その背後でプルプルと震える愛沙、そして2人の刀工の刀を握る上級生10人、朱の血筋に挑める事を喜ぶように飛び込む。


 音を立て刀身が真っ二つになる、無音で刀身が真っ二つになる、もったいないと言うように1人ずつ勇也に挑み次々と刀身が真っ二つになる、最後の1人になり交差する2本の黒塗りと白塗りの日本刀を視線に収めた時には、少年が握る刀の刀身は3分1は音を立て3分1は無音で地面に落ちていく、1本の刀身を三等分にした。


「「お見事ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」


 6人の上級生の刀工は愛沙を賞賛し拍手をする、他の30人も両手を強く叩き愛沙を賞賛する。


 そんな校庭の中心に声が届く。


『勇也!!!! 来るぞ!!!!』


 校舎の屋上から蒼が叫ぶ、勇也は朱い眼のまま周りを見渡す、新入生の三重の壁から先を視る、36人の実力者との刀見せを楽しみすぎて周りを見ていなかった、いつの間にか新入生の壁の先が360度上級生に囲まれ一触即発状態になっていた。


「遊びすぎたな」


 上級生30人のリーダー格であろうつり目の少年が半笑いで言うと隣にいる刀を逆手に握っていたショートカットの少女が呆れるように応える。


「相変わらずバカな連中ね、……」


 そのまま6人の刀工に視線を向けると更に続ける。


「満足した?」


「十分だ、腕を落とされても悔いは無い、後は『お前等の本当の実力を見せる番だ』、悔いを残すな」


 刀を逆手に握っていたショートカットの少女は隣にいるリーダー格の少年に刀身の斬られた刀を渡す、そのまま腰に両手を回し平行に帯刀している小太刀2本を逆手に握り鞘から抜く。


 リーダー格の少年は勇也を見る。


「朱の血筋? いいもんを見させてもらった」


『邪魔するよぉ〜〜〜〜』


 新入生の中をかき分けるように1人の小柄で小太りな少年が現れる、蒼よりも背が低く苗木と同じぐらいだ、その背中には刀や槍が大量に入った籠(かご)、勇也の前にいる30人の上級生が集まる場に行く。


「誰だ?」


 勇也は正面にいるリーダー格の少年に聞く。


「運び屋だ、俺等の得物を預けていた、もし死んだら全て刀匠富士に返すつもりだった」


「ご注文の品を届けにきたぜ」


「刀匠富士の?」


「入学祝いに親に無理言って買ってもらった、『学園に行くなら富士の刀を握ってなんぼだ』ってな……、一度も使わず死ぬのは悔いが残る」


 上級生は次々と籠から自分達の得物を取る、ある少年は槍、ある少年は長刀、ある少年は大太刀、ある少女は身の丈はある斬馬刀、ある少女は中刀に小太刀。


 勇也は30人と立ち回っている最中に1人1人の流派が持っている大刀に合っていないと感じていた、だが、今目の前にいる上級生は本来の流派と本来の得物を得たように先程までには無かった余裕と威圧を放つ。


 リーダー格の少年は籠(かご)に残る長巻——刀身と柄の長さが同じ太刀——を取る。


「朱の血筋? 入学祝いだ、俺等の流派を見せてやる」


 上級生30人は口元を笑わせるとゆっくりと視線を逸らし360度に散る。


「「新入生!!!! お前等の3年間!!!! 俺等(私等)が作ってやる!!!!」」


 新入生の中を通り抜ける上級生、新入生の壁を抜け出ると立ち止まる事なく校舎側にいる上級生の元に走る、迎え討つように校舎側の上級生も走り出し乱戦が始まる、力の差は上級生30人が圧倒している、だが、数が違いすぎる、慣れたように1人に対して10人1組の波状攻撃、隙を見せれば自分だけではなく背後にいる新入生に雪崩れ込む、上級生30人は新入生という大ハンデを背負いながらの乱戦、不利にしかならない。


『1年!!!! 30人を守れぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』


 背後からの気合い、振り向かなくても解る朱の血筋慈桜勇也の声、新入生約300人は一斉に走り出し30人の上級生の背後に立つ。


「先輩! 背中は任せろ!」


 呉服屋の少年は刀を抜刀、長巻を持つリーダー格の上級生の背後に立つ。


「敬語を! 使え!!」


 後輩を襲う刃を受け止め相手に蹴りを入れる。


「足を引っ張んなよ!」


「お、おい! はい!」


 勇也は朱い眼で東側中央西側の玄関を視る、外と中には予想通りと言わんばかりに上級生が塞ぐ。


「愛沙? 予定外の乱戦だ、悪く思うなよ」


「?」


 頭に? を浮かべる。


 勇也は右手に握る白塗りの日本刀の柄を口に咥え込む、続けて愛沙を右肩に担ぎ屋上を視る、その瞬間、愛沙の頭頂部からボボンッと空気砲が放たれる、その空気砲が合図と言わんばかりに言い放つ。


「作戦開始ぃ!!!!」


 勇也の大声と共に健太が中央校舎右側向けて一直線に走り出し、他の少年達は勇也の周りを固める、更に古白街出身の100人の少女は健太の走る道を作るように中央校舎の右側に向けて2列になり道を作る。


 乱戦の中で出来上がる道、愛沙を担ぐ勇也と少年達は中央校舎右側に向けて走り出す。


「よっしゃあ!! ミルク!? 投げろ!!!!」


 屋上にいるミルクに向けて言い放つ。


 ザンッ! と屋上の凹部分に仁王立ちするミルク、その手には近代的で重曹な茜釣竿、大きく振りかぶり、「ワタキのぉぉぉぉ!! 出番じゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」、と言い放ち茜釣竿を勇也に向けて振る、その背後から出遅れるように影が飛ぶ。


「どわぁぁぁぁぁ!! 何回やっても慣れねぇぇぇぇ————」


 ミルクの振る茜釣竿から出遅れて現れた影は未智明流、茜釣竿から繋がる糸(ワイヤー)を腰に巻き餌になる。


「明流!!!! 受け止めろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 走りながら右手で愛沙の腰帯を掴み大きく振りかぶる、先には両手を重ねて中腰になる健太、勇也は健太の両手に左足を載せる、健太はその衝撃に反抗するよう両手を振り上げ重力に逆らうように勇也と愛沙を投げ飛ばす。


 明流は両手を広げる、勇也と愛沙は一直線に明流に向かう、だが、距離が足りない、失速する寸前で愛沙を明流に向けて投げ飛ばす。


 滞空時間は1秒にも満たない、ボンッと空気砲を放つ愛沙を明流は見事に全身で掴む、その瞬間ボボンッと更に空気砲を放つ。


 空中から落ちる勇也、ミルクに向けて言い放つ。


「ミルク!!!! 引けぇ!!!!」


 地面に視線を向けて体勢を整える。


 ミルクはリールをロックし糸(ワイヤー)を伸びなくするとリールを回し弛みを無くす、そして一気に竿先を上げる。


「大!!!! 漁!!!! じゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 糸(ワイヤー)がピンッと張る、明流と愛沙の体重合わせて約100キロの重さと振動そして重力により竿先が下がる、ミルクはそれ以上の力で竿先を上げ2人を空に飛ばす、さながら悪足掻きをするカジキマグロのごとく明流と愛沙は飛び上がる。


 空中遊泳をする明流と愛沙、浮遊感が気持ち悪さを身体に伝えるが明流は震える愛沙を強く抱き締める。


 着地した勇也、屋上に視界を向ける。


「南介隊長!? 屋上に入ったら受け止めろ!?」


「よしきた!!!!」


 明流と愛沙の着地点に走る。


 だが————


 明流と愛沙が屋上に差し掛かかった瞬間。


『明流!!!! 愛沙を投げろ!!!!』


 声を上げたのは蒼、その視線は東側の玄関、視線の先では近代的なライフル銃を構える少年、背中を向ける愛沙を狙っている。


 明流がライフル銃を構える少年を視界に収めた時には遅く引き金に指先が掛かる。


「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 身体を180度回す、その瞬間、銃声と共に明流の背中に穴が空く、視認で心臓部。


「ぐっ!!」


 声が漏れる、奥歯を噛み締める、喉奥から鉄分臭い何かが口の中に流れ込む、血だというのは直ぐに理解出来た、閉じる口から血が出る、愛沙がそれに気づく。


「は、離して、離してください!」


「離さない!!」


 強く愛沙を抱き締める、更に銃声が3回鳴り響く、明流の背中からの衝撃が愛沙に伝わる、灼熱の激痛に歪む明流の表情、体内に残る弾丸が内蔵を焼き更に血を吐く。


「離さない! もう!! 愛沙さんを!! 不幸にしない!!!!」


 着地点では耕介が両手を広げる、ミルクの横では蒼と美礼がライフル銃を構える少年がミルクに銃口を向けたのを確認しガントンファーと黒刃•村雨を構える、2人がライフル銃を構える少年に向けて殺気を向けたと同時に銃声が2回。


 ミルクに向けて銃弾が襲う、ブチッと切れる音は聞こえないが美礼がキレる、ミルクと弾丸の距離1.5メートルの所で弾丸を黒刃で弾く、もう1弾がミルクに向かう、蒼の目には回転する弾丸、ミルクとの距離1メートル、弾丸の軌道に合わせて右手に握るガントンファーを合わせ衝撃ごと受け止める、ミルクはカッコつけて弾丸を握り取ろうとしたのか空振りして屋上から落ちそうになる、それを蒼は左手で捕まえる、同時に明流と愛沙が耕介の腕の中で着地。


「明流!! 良くやった!!」


 耕介が声を上げる。


「まずい!! 美礼!! 西の本家を止めろ!!」


「!、チッ、アヤちゃんあかん! ミルクちゃんは無事や!!」


 殺気をむき出しに東側の屋上出入口に向かう礼実を抑える。


 だが、止めるのは礼実では無く地上にいる朱の血筋慈桜勇也だった事に蒼は気づく。


「まずい!? 勇也がキレてる!!」


 !!!!!……地上にも届いた蒼の声、ミルクの一本釣りと銃声で乱戦は静まり一同は屋上を見ていた、だが、蒼の声が届いた瞬間、校庭内の空気が変わっていた事に気づく。


 朱い眼は一点を視ている、朱い眼には殺気が満ちている、朱い眼には————


 恐怖が満ちている。


 無言で走り出す、朱い眼で収めるのはライフル銃を持つ少年。


 ライフル銃を持つ少年は校舎の中に逃げる、だが、朱い眼からは逃げれない、懐から小型拳銃を出しライフル銃と二丁で勇也に備える、大階段を上がり2階の廊下を走り階段教室に着く。


 勇也は校舎の2階を見上げる、玄関から校舎には入ろうとはせず校舎の凹凸に足をかけて2階まで行く、ガラスを割り階段教室に入ると同時に銃声が鳴る。


 校庭内では何度も鳴る銃声に勇也の生存を心配する者は1人もいない。


 カチ! カチカチ! と引き金を何度も引くが弾切れ、ライフル銃を構える、勇也に銃口を向けて引き金を引く。


 銃声と同時にギィンッ! と勇也に届く前に弾ける弾丸、更に銃声が鳴るがギィンッ! と弾丸を弾き、一歩、一歩、少年との間を詰める。


 少年はライフル銃と小型拳銃を床に投げる、両手を上げ引き攣ったニヤけ顔で半笑いで言う。


「はははぁ、まいったまいった、さすが朱の血筋だ」


 吐き気がするニヤけ顔に人をなめ腐った半笑いの口調、無防備の愛沙に銃口を向け、明流の背中を貫き、ミルクに銃口を向け、引き金を引いた事など忘れたと言わんばかりの態度。


 そんな腐ったモノに刹那の時間も同情はしない。


 右手に握る白塗りの日本刀を振り下ろす、少年の左腕を無音で通り抜ける。


 ズッ……と左腕がズレる、ボトッと床に落ちて遅れて血が吹き出す、痛みがない出血、少年は痛みではない腕が無くなった恐怖と血が吹き出す光景に絶叫する。


 その絶叫は校庭内にも響き渡り屋上にも届く、蒼と美礼は苦虫を噛んだように顔を歪めると地上を見下ろす。


「上級生!? 朱の血筋の記憶にはお前等1人1人の顔が残ってる!! 死にたくなかったらその場から誰一人逃げるな!!」


「健太!? 一年で門を塞ぐんや!! 上級生を1人も出したらあかん!!」


「わかった!! 一学年!? 門を塞げ!!」


 蜘蛛の子が散るように新入生は走り出し東門西門南門を塞ぐ。


 階段教室では少年の懺悔が始まっていた、撃つ気はなかった、当たるとは思わなかった、など自分は悪くないという言い草。


 勇也は左手に握る黒塗りの日本刀を振り下ろす、少年の右腕はズバンッと音を立て斬り落ちる。


 斬られた瞬間から感じる痛み、吹き出す血が教室の床を赤く染める、教室の出入口から少年の仲間であろう上級生が現れる。


「あ! 朱の血筋! そこまでに!……」


 ズバァァァァン!!!! と出入口までの机や椅子が横一線に斬れる、刀で斬れる範囲では無いと解りながらも刀とその風圧で斬ったと理解するしか無い。


「一歩でも入ったらお前から殺す」


 !!……出入口から遠ざかるように後ずさる。


 勇也は間髪入れず遠ざかる上級生を見て呆れるように鼻から息を吐く。


「お前の友達はお前を見捨てた、お前が無防備な人間を撃ったからか? お前が3歳のガキに銃口を向けて発砲したからか? それとも俺が朱の血筋だからか?」


「命だけ! 命だけ! 命だけは!」


「無防備な人間は命乞いする暇があるのか? 3歳のガキは銃口を向けられたらソレがなんなのか解るのか?」


「命だけ! 命だけ! 命だけは!」


「……、……腐ってるな、」


 右手に柄を握りながら切り落とした少年の左腕を拾い口に咥える、続けて左手で柄を握りながら少年の左腕を拾う、そして少年の髪の毛を右手に柄を握りながら鷲掴みする。


「……命乞いをしたいなら俺では無く、共犯者に頼め」


 少年を引きずり階段教室を後にする、少年の腕を咥える勇也の異常さに出入口前で溜まっていた上級生は尻餅を着く。


「お前等? 今死にたかったら逃げろ、今死にたくなかったら校庭に行け」


 間髪入れず走り出す上級生、足がもつれ廊下で転び、大階段を転げ落ちる者もいる、だが、誰一人逃げずに東側の玄関から悲鳴を上げながら出る。


 屋上から見る蒼はミルクが地上を見ていないか確認する、ミルクは俯せになる明流の傷口に指先をプルプルと震わせながら苗木の秘薬を塗っている、その正面では寝起きでボサボサの頭をした苗木が弾痕に野草の汁を垂らし、背中から出したメスとカンシで銃弾を取り除いている。


「……、(秘薬自体医療の知識が無いと作れないからもしやと思ったが……苗木は医療も出来るのか)、美礼? ミルクを頼む」


「わかっとる」


「真一? 竪郎? 最悪の事態の対処法は?」


「既に学慈街の外では『こうなる事を解って動いている』、上級生が全て裁かれても問題は無い」


「……、親共は最悪の事態を想定していたか……、南介隊長? 俺に考えがある、他の四院家と————」


 東側の玄関から少年の腕を咥える勇也が現れる、両腕を失った少年の髪を鷲掴みし引きずり校庭の真ん中に向かう。


 それを見る上級生は手に持つ得物を鞘に納め地面に置く、これから始まる『朱の選別』には武器を持つ者が全て同罪として処理されると解っているからだ。


 門を塞ぐ新入生は斬った腕を咥える勇也の異常さに生唾を飲み込む。


 校庭内は勇也の足音と少年の懺悔と引きずる音のみ、気持ちの悪い空気が流れている。


 校庭の中心に到着する、少年を朝のゴミ捨てのように投げる、咥える腕を右手に取り、左手に持つ腕と一緒に少年の顔に向けて投げる。


「……さぁ、お前が命乞いする共犯者がいるぞ、全員で俺からお前を救ってくれるように命乞いをするんだ」


 !?……少年は西側校舎前にいる上級生を見る、東側校舎前にいる上級生を見る、中央校舎前にいる上級生を見る、更に門前にいる新入生を見る、その瞬間。


 勇也の下駄が顔面にめり込み後ろ向きに倒れる、両腕の無い相手への容赦の無い蹴り、見ている者に恐怖を植え込むには十分。


「どこ見てんだ? そっちは新入生だろ? 俺は共犯者と言ったんだ、次に見当違いな事をしたら足を斬り落とすぞ」


 !?……バタバタと両腕を動かす、出血が激しくなる。


 勇也は少年の胸ぐらを掴み上半身を起こす。


「命乞いする前に死ぬぞ? 言っとくがお前が死んだら次は共犯者だ」


「た、助け! 助け!」


 喉が震えて声にならない。


「俺に刀を見せたかったら6人のように正々堂々と正面から来たらいい、俺に流派を見せたかったら30人のように正々堂々と正面から来たらいい、俺が言う共犯者とは『その他』だ、

 何故、愛沙を狙った? 何故、明流を狙った? 何故、ミルクを狙った? 共犯者? 誰かコイツの代わりに俺に教えてくれ」


 朱い眼で共犯者達を視るが全員が頭を下げて自分は関係無いと装う。


「……どうやらお前の命乞いは届かないようだ、『ただ気に入らなかった』だけでも俺には十分に納得出来る理由なんだけどな、とりあえず友達や娘を狙われて黙ってる程俺は人間が出来ていない、全員死ね」


 右手に握る白塗りの日本刀を振り上げる。


『朱の血筋、待ってくれ』


 校庭の真ん中に向かう四人、2人は勇也も解る南桜院耕介と西桜院芽衣華、残り2人は————


 勇也に声をかけたのはボサボサの頭に血色の悪い顔色の少年、ブレザー制服の上に白衣を羽織る、その白衣のポケットから透明な液体が入るビンを出しキャップを開く。


「東桜院家(とうおういんけ)長男、東桜院(とうおういん)悟(さとる)だ、俺が管轄する東の民が恥ずかしい無礼をした、謝って済む問題では無いが『体面上』は謝らせてくれ、申し訳ない」


 深く頭を下げる、同時に少年の斬れた両腕にビンに入る薬品をジャバジャバとかける。


 耕介の隣にいる長髪の少年は歩を進め東桜院悟の隣に立つ、顔立ちは女性受けする遊び人風、蒼と似た軽さがあるが勇也に向ける表情は真剣そのもの、ブレザー制服の裏ポケットから薬品が入るビンを出しキャップを開ける。


「北桜院家(ほくおういんけ)長男、北桜院(ほくおういん)康浩(やすひろ)、四院家を束ねる者として東と同じく『体面上』謝らせてもらう、申し訳ない」


 深く頭を下げる、同時に両腕を斬られた少年の切断部分にビンに入る薬品をジャバジャバとかける。


「体面上、コイツをどうしたいんだ?」


「四院家の役割はコイツや共犯者の剪定だ、」


 答えたのは東桜院悟、白衣のポケットから手の平サイズの拳銃型注射器を出し、両腕を失った少年の肩に押し付ける。


「コイツの名前は加瀬光二郎、美岩街出身だ、長男が家業を継いでいるからコイツが死んでも家業も美岩街的には何の問題も無い、だが、『体面上』では朱の血筋が裁く前に俺が裁かないと四院家として示しが付かない、5分だけでも東桜院家としての時間が欲しい」


「あくまでも『体面上』だ、気に入らなかったら遠慮せずコイツを含めた共犯者を剪定してくれ」


「……、……ふっ、」


 口元を笑わせる、右手に握る白塗りの日本刀を下げると2歩後ろに下がり更に続ける。


「5分だ」


「感謝する、……」


 悟は手の平サイズの拳銃型注射器の引き金を引く、プシュと音が鳴る、そのまま加瀬光二郎の正面に行き地面に膝を着けて涙と鼻水でグシャグシャになる顔を見る。


「加瀬? 2年と3年の約半分が生と死の天秤に載った、遊びじゃない、全てお前が銃口を向ける相手を間違えたからだ」


「あう! ああ! あう!」


 声を裏返し言葉が言葉にならない。


 パンッ! と両手で加瀬光二郎の顔を叩く、「しっかりすれ」、と一言、首を何度も縦に降る光二郎を視界に収め更に続ける。


「答えは3つある、時間は残り4分、お前が選んだ答えで約半数が死ぬ、責任重大だ、いいな?」


「あああう!」


 首を左右に振る、自分が抱え切れる責任では無い、と訴えたいが口は思ったように動かない。


 悟はそんな光二郎の気持ちを解りながらも5分という短い時間しかないため、時間を惜しむように3択を出す。


「1つ目、共犯者全員で加瀬光二郎にトドメを刺す」


「!?」


「2つ目、加瀬を含めた全員が学園を去る」


「!?」


「3つ目、加瀬を含めた全員に執行猶予」


「しし、しし執行??」


「解りにくかったな、四院家から朱の血筋に頼み、残りの2年間と1年間を執行猶予期間にしてもらうんだ、

 朱の血筋に正々堂々と挑んで勝てば卒業できる、負ければ死、1人でも自主退学をして逃げれば全員の死、朱の血筋に認められなかったら卒業式が葬式だ」


「!?」


「答えを間違えるな、『お前が死んだら共犯者は全員死ぬ』、『学園を去れるなら既に去っている』、『執行猶予は『体面上』で朱の血筋に俺が言うだけだ』、ダメと言ったらそれまで、……さぁ、選べ」


 3択には答えは無い、と光二郎に教える、答えは自分で出さなければならないのだ、と。


「と、東桜院! な、なんとか俺だけ! 俺だけ! にしてくれ!!」


 答えが解った訳でも浮かんだ訳でもない、命の責任を背負えないから簡単な死を選ぶ、既に死ぬ事が償いという判断しか頭に無いのだ。


「……お前だけが学園を去るのか?」


「違う!……朱の! 朱の血筋に俺だけを……」


「加瀬光二郎?」


 勇也は悟の後ろで右手に握る白塗りの日本刀を振り上げる、シュッと降り下ろし首の皮を斬ると更に続ける。


「お前が死ねば全員を殺す、答えを間違えるな」


「!?」


「4つ目はダメなようだ、残念だったな」


「全員が死ぬのをその目に焼き付けて自分だけ生きるという5つ目を加えてやる、選べ」


「!?」


「選べ!!!!」


「いい! いいち!」


「あぁ!? 1だぁ?」


「にに! ににぃ!」


「2? さて、全員を殺しに行くか」


「まっ! 待ってくれ! 挑む! 執行猶予を!!」


「今日がお前等の卒業式だ」


「!?」


「加瀬光二郎? 答えは……5だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


「!!!!!!!!」……白目を向いて気絶する。


「ジャスト5分、麻酔薬の実験成功」


 悟は倒れる加瀬光二郎を支えながら軽く言うと白衣のポケットから先程とは違う手の平サイズの拳銃型注射器を出し光二郎の右太ももに押し付け引き金を引く。


「朱の血筋? 手術(おぺ)開始だ」


 加瀬光二郎の右腕を勇也に向ける。


「治す前提とはいえやりすぎたな」


 表情は先程とは一変し申し訳無さそうにする、両手に握る日本刀を地面に起き光二郎の右腕を受け取る。


「次は無い、と2年と3年もこれで解っただろ……だが、治す前提とは朱の血筋らしくないな、本当に治すとは思わなかった」


「?、腕を出したろ? 解ってたんだろ?」


 朱い眼になり切断部分を合わせて両手で包む。


「いや、東桜臣家の蒼が四院家の『体面上』と『3択』を用意した、朱の血筋なら殺すが慈桜勇也は殺さない、と加えてな……」


「……、ミルクに銃口を向けたのはマズい、礼実が出る前に俺がミルクに銃口を向けた事に対しての罪と罰を与えないと加瀬光二郎だけが殺されちまう」


「満足してそうか?」


「無理だな、腕を治したらまたミルクを狙うと言い出す、もしも加瀬光二郎に硝煙の臭いがしたら即殺される、その辺を目が覚めたら言っといてくれ、出来れば他の連中にも」


「わかった、……朱の血筋は大丈夫なのか?」


「大丈夫じゃないな」


「……、それなら東桜院家が実験材料(モルモット)にしたと言え、……」


「嘘は通じない」


「嘘では無い、ビンに入る消毒液も麻酔も増血剤もマウスがことごとく死んでいる、人間はマウスよりも大きいから大丈夫だと思うが……俺的には実験材料(モルモット)で間違いない」


 茜以上の狂科学者を思わす悟の発言、勇也は光二郎の身体を視る。


「……、麻酔は効きすぎてる、増血は……マズイな、増えすぎて鼻血になってる、蘇体治療で余分な効き目を無くしておく、消毒液は成功だ、かなり良い保存状態だ」


「朱の血筋の切り口だから得れる保存状態だ、他なら失敗かもな」


「刀がすげぇから出来る芸当だ、俺だけならこうはいかない、あと朱の血筋ってのは好きじゃない勇也でいい」


「解った、……お互い弘法筆を選ばずとはいかないな」


「弘法は筆をめっちゃ選んでたみたいだぞ?」


「それなら問題無しだな、次は左腕だ」


 勇也が主治医、悟が助手、手際よく加瀬光二郎の手術(オペ)という名の蘇体治療をしていく、その間も勇也と悟の雑談が続き昔からの仲のように慣れ親しむ、そこに耕介が入る。


「勇也、……」


「どうした改まって?」


 神妙な面持ちの耕介、4日間だけの短い付き合いだが耕介が見せた事の無い表情、勇也は四院家として自分を心配していると直ぐに解った。


「俺の予想だが苗木が南桜臣本家かもしれない……」


「南桜臣本家は死刑執行人だろ? 美礼ならともかく苗木が人を死刑にするのは無理だ」


 自分の知る苗木と耕介の表情が吊り合わない、口には出さないが屋上で何かがあったと予測する。


「苗木が明流の身体に入る弾丸を抜き取る手術をしている、人を殺す技を極めた者は同時に医療にも精通した技が磨かれる……苗木の医療や消えてからの気絶させる技……『気をつけろ』」


 自分が見た現実を勇也に伝える、気をつけろと加えたのは耕介が知る南桜臣本家への警戒。


「気をつける? 何をだ?」


 勇也は蒼と同じぐらいに苗木に絶大の信頼を持っている、例え苗木が耕介が心配する南桜臣本家だとしても変わらない。


「……加瀬を助ける今の行いは『法に反する』」


「……ミルクか?」


「そうだ、勇也や藤野愛沙や未智明流までなら学園内の実力主義でどんな方法でも刃や弾丸を向けるのは法律には反しない、

 だが、ミルクは別だ……苗木だけなら加瀬を学慈街から出せばいいがこの問題は間違いなく南桜臣本家の棟梁が入ってくる、下手したら学慈街の外の四臣家が『ミルクに不穏を向けた連中』を裁きにくる、最悪……島主やお祖母様も……そうなれば……」


 耕介は勇也が苗木を信頼していると解ったら話しを四臣家に向けた、それは苗木がもしも死刑執行人になれば誰も敵わなく、勇也も苗木に裁かれるなら割り切れると苗木を信頼してるからだ。


「……加瀬光二郎や共犯者は裁かれる、だな……」


「勇也と悟……策を講じた蒼もだな、勇也が治すと解って蒼はこの策を俺に言ってきたからソノ策にのった俺や芽衣華も同じだ、

 最悪学慈街の外の政治と武力が入ってくる、ミルクを護る為に……」


「大層なもんだな、とりあえず苗木は大丈夫だ、もしも南桜臣本家だったとしても加瀬光二郎を裁かない、俺的には『異変からの瞬時の判断力とあの体制から急所を外した明流の方が南桜臣本家らしい』、能ある鷹は爪を隠す的な感じたな」


「明流が爪を隠すか……確かに南桜臣本家が正体を現さないで朱の血筋の近くにいるとなれば『たまたま』出会った苗木より『自分から』近づいた明流の方が怪しいな、だが苗木の技や医術は異常だ、大丈夫なのか?」


「隊長らしくないぞ、俺が加瀬光二郎を治した、『ただそれだけの事だ』、その俺が……」


 ゆっくりと屋上に視線を向ける、そこには蒼と美礼が顔を出す。


「俺が加瀬光二郎を治した!! 何か問題があるか明流と苗木に聞いてくれ!!」


 屋上では——


 蒼は背後に振り向き明流と苗木を見る。


「愛沙を狙い明流を撃ちミルクに発砲した加瀬光二郎に勇也は蘇体治療をした、……明流と苗木の意見は?」


「ケガしてたら治すんだよ!!」


「結果オーライじゃね?」


「四臣家的には鼻血ブーやで? ガチでママや大ジジが来たらお手上げやで?」


「……同意見だ、美礼はばあさんを抑えろ、竪郎は勇也よりもミルクの側にいろ、真一は外を警戒、苗木?」


「なに?!」


「俺も勇也も苗木には絶大な信頼を持っている、もしも俺が死んだり気絶したらそれがどんな相手でも殺さなくてもいいから倒してくれ、もしもミルクが拐われたらミルクを勇也と西の本家の元に取り戻してくれ、もしも勇也が殺されそうなら相手を倒してくれ、絶対にミルクを2人から離さないで……」


「当たり前だよ!! 私は東桜臣家だよ!!」


「助かる、……」


 校庭内を見下ろす、すぅと息を吸い込み勇也……いや、校庭内全体に言い放つ。


「問題ねぇ!!!! 朱の血筋とは違う慈桜勇也の時代を作る道は!!!!……全て東桜臣家の『計算通り』だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 計算通りでは無い、だが、裁かれる対象が学園生に向けられたら朱の血筋勇也が裁かなかった学園生を四臣家として守らなければならない。


 勇也は自分が裁かないで生まれるであろう大人達からの裁きを計算通りになるとは思ってはいない、だが、計算通りにする覚悟はある。


「なっ? 言った通りだろ?」


「……あの化け物連中と一戦やる気か?」


「手に負えないなら逃げる、それが勝つ為の秘策だ、俺の代の東桜臣家当主が問題無いと言ってるんだ、問題無い」


「信頼してるんだな」


「当たり前だ、俺と蒼が揃えば負ける相手なんていない、いたとしても苗木がいる、それに四院家と愛沙がいればミルクは俺の子として育つ、そうだろ?」


「……、(最終的には自分が犠牲になる気だな……)、難題を吹っかけやって……」


「勇也? 俺は東桜院としても動く気は無かったが……蒼が東桜臣家として動くなら話しは別だ、俺も朱の血筋らしくない勇也の助手として主治医のミスは補う」


「無茶だな、と言いたいが……真一が東桜臣家の蒼に口を挟まない時点で俺の仕事は決まった、北桜院としてやっと動ける」


「……最大の敵は法律でしか動かない南桜臣本家ではありません、現西桜臣分家の主人、そして東桜臣家当主……最悪の場面は元西桜臣分家であり現本家と分家の親、苑水老……この方が出てきたら島主やお祖母様を凌ぎます、カイ……いえ、お父様と連絡を……」


「無理だな10年間合ってない、……そもそも親の力を使ったんじゃ意味がない、俺が……いや、俺の代の四臣家と四院家が俺の代の民を護る、……いや、護れる、それが大事だろ? 俺が死んでも最後の一人が加瀬光二郎を守るんだ、」


 口元を笑わせると更に続ける。


「将来、ミルクが必ず加瀬光二郎みたいな弱い人間を護って育てる朱の血筋になり次代の四臣家を育てる、

 親バカに聞こえるかもしれないが……ミルクは同じ歳の俺よりも弱いがライフルの弾丸ぐらいなら素手で取る、そもそもライフルでミルクを撃ち抜くのは難しい、その辺は3歳の俺以上だ、

 一見ミルクは座敷童だが実はスゴい、アレでも根が真面目だ、俺に似て、片付けは苦手だが記憶力がある、俺に似て、どっかの堅物女みたいに俺を無下にしない、たまに言う事を聞かないがこの辺は母親に似たんだな、99%言う事聞かないのは母親似だ、それ以外は俺の背中を見て育つ良い子だ、我が子ながら俺に似て器量やヌシとしての風格を持つに相応しい娘だ、それに————」


 勇也の娘(ミルク)自慢が続く、四院家はとりあえず朱の血筋ミルクはライフル銃ぐらいでは子供騙しにもならない事を知る、それは四臣家や四院家が知る朱の血筋とは違い、どんな経験をしてきたのか不安な気持ちにもなるのだった。


「よし、終わった、次は明流だな」


「……、勇也? 周りは気にするなよ」


「んっ?……」


 チラッと辺りを見渡す、校庭にいる上級生は刀見せの36人以外は加瀬光二郎の命を朱の血筋が『弄んだ』という軽蔑に近い畏怖を持った顔をしている、明日の我が身を見るように怯えていると言った方が正しい。


 蘇体治療をするべきでは無かったのだ、殺す殺さないを別にして加瀬光二郎を死の淵に立たせ蘇体治療をするのは命の『弄び』、勇也は殺さないのなら蘇体治療をせず四院家に丸投げするべきだったのだ、朱の血筋の後ろには政治を作る四臣家が歩き民をまとめる四院家が歩いているのだから。


 そんな中、健太達が勇也の元にやってくる、その表情は他の新入生や上級生と違い一仕事終えたというような爽快感がある。


「勇也なら生かすとは思ってたが蘇体治療までしてやるとはな」


「……加瀬光二郎は3択で追い込まれた時に1択目の共犯者に留めを刺されるより、4択目を出して『俺に自分を殺してくれ』と言った、最終的に加瀬光二郎が出した答えだ、

 ただ強くなるだけなら誰でも出来る……、だが、それだけだと今までと変わらない、俺は死と生の恐怖を知った者が強くなる資格がある……と思っていた、

 思っていただけだったな、……ヌシが弱い俺を殺さないで守ってくれていた理由が解った……」


 自分の未熟さ考えの浅さを実感した、自分と民の溝には深すぎる事を実感した、自分が朱の血筋らしくないと言われる理由を理解した。


「……勇也?」


「なんだ?」


「朱の血筋らしくない勇也を一年全員が否定しても俺……俺等は勇也を否定しない、四臣家みたいに心強くはなれないが……」


「何言ってんだ、健太やみんなと四臣家や四院家との差なんて無い、

 野生の世界にも入れなく人間の世界にも入れない朱の血筋を受け入れてくれてるんだ、……」


 健太に向けていた苦笑いを地面に向け2本の日本刀を拾う、中央玄関の方へ向き歩を進めながら更に続ける。


「……心強いに決まってるだろ」


「……、……勇也の世界を創れ、ミルクに継いで欲しい世界を勇也が創れ、俺はその世界の畑を創る」


「……健太?」


 振り向く、口元を笑わせているが孤独が滲み出る寂しさがある。


「いい案だ、朱の血筋が必要の無いミルクがみんなと人間として付き合える世界を創る」


「勇也なら絶対創れる」


 健太や少年達は勇也の寂しさある表情を見て奥歯を噛み締める、バッと振り返り新入生のいる門まで走る、勇也に対して動揺する新入生等を見る、古白街の呉服屋の少年を健太が殴る、少年達も次々と新入生達を殴っていく。


 朱の血筋らしくないから共存が出来ない孤独を勇也は理解してしまったのだ、自分のヌシとしての教育は人間の世界では『弄び』にしか受け入れられないと解ってしまったのだ。


 健太はソレが解ったから新入生達を殴る、『勇也があそこまでやるそれまでの過程を忘れたのか、見ていなかったのか』と声を張り上げ、新入生全員を自分が敵に回すように殴り続ける。


 朱の血筋は俺等と変わらないただの15歳なんだぞ……と。



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