第四章 上 お前等何勘違いしとんねん?
学園休校2日目、慈桜家仮屋敷。
南側の庭では広範囲の土を耕す勇也•ミルク•蒼•耕介。
玄関の右前にある畳20畳程の愛沙の畑スペースでは5つのプランターに群がる11人の農化街出身の少年、その中には愛沙•礼実•美礼そして長椅子の上で寝袋に入り爆睡する苗木がいる、現在昼前の11時過ぎ。
5つのプランターを見る美礼は農化街出身者のリーダー健太に視線を向ける。
「見事に全部枯れとるな」
「見事だな」
「どないするん?」
先日の健太の話しでは5つのプランターで雑草が生きているプランターが畑になる土という話しだった。
結果は5つ全部が枯れている、西桜臣家の屋敷の土を加えて雑草を生き返らせようと悪足掻きをしたが結果は変わらない、美礼が疑問と疑惑を向けるのは仕方がない。
「正直に言うと予想通りだ、この時点で今の俺等の知識では不可能というのが決定した」
「どないするん?」
「どうしたらいいと思う?」
八方塞がり猫の手ではなく素人の知識も借りたいと言わんばかりに額に汗を溜める。
「お前等が肥料になるなんてどうや?」
「なるほど……藤野さんの為に肥料になるなら我が人生一片の悔いなし」
「心意気や良し、お前等全員愛沙の畑に座れ」
あっさりと受け入れる美礼、あっさりと実行する11人の少年は愛沙の畑スペースに歩を進める。
「西の分家? 俺はこの辺がいいんだが?」
「愛沙の畑は畳20畳分や、1人1畳ちょっとや、好きな位置で首を斬ったる」
少年達は死んで詫びるのでは無い、潔く肥料になり生きる道を選んだのだ。
「言い残す事は無いか?」
正座をして首を差し出す健太の横で黒刃•村雨を振りかぶる。
「春の土、来春の土、芽吹くかな……、辞世の句だ、俺等が肥料になったからには来年は生きた土になり夏野菜が豊作だ」
「心意気や良し、……」
グッと両手に力を入れる、美礼に健太達の首を斬る事に一切の躊躇は無い、本気で肥料になると思っている。
愛沙は少年達の訳の分からない本気にプルプルと震えてしまい止めたいが止めれない、もしもこの場に礼実がいなかったら少年達の生首が愛沙の畑に並んだ事だろう。
「何故、南桜院隊長はミルクに同じ所を耕すような事をさせているのですか?」
?……一同はネギ畑に夢見るミルクを見る。
「……同じ所?」
「冬場に土を起こして土を雪の下で眠らせる農法を聞いた事がありますが?」
「寒起こしの事を言ってるのか? 作土範囲を返してもエリアの土だが……」
「ミルクは天地がひっくり返ると言っておりましたが?」
「天地がひっくり返る? 天地返しか?……作土の更に下の心土を……、おぉおぉぉぉぉ! 心土だ! 俺等は昨日の時点で掘ってるじゃねぇか!! しかも心土が浅い!!」
「おぉ!! 毎日同じ所を返してるのは作土範囲と心土範囲を混ぜて作る土が畑になる土って事か!?」
「作土範囲が死んでるのに心土は生きている! 死なない土って事だ! それなら何度も耕して作土になる土を作ればいい! 命拾いした!! やるぞ!!」
天地返しとは本来作土範囲の土と心土範囲の土を入れ替える農法である、だが、健太がミルクを見て得た知識は作土範囲であるエリア内の土と心土範囲の生きた土を混ぜるという一見死んだ土と生きた土を混ぜる意味の無い行動に見える、だが、この混ぜるがエリア内の土には大事になり、健太達のエリア内の土と西桜臣家の土を混ぜるというのは80%当たっていた事になる、残り20%というのが『どの土と混ぜるか』だったのだ。
「どないするん?」
「耕す!」
「この5個の鉢はなんや?」
「やり直しだ! 1日目2日目3日目と心土と混ぜた土を入れて観察する!」
「……お前等めんどいな、パッと出来んのか?」
「野菜が簡単に出来てたまるかぁ!? 農家の苦労を解らない素人はこれだから困る!!」
「土なめんなよ!? 普通に野菜が実る土なんか無いからな!!」
「土だけじゃない天候もだ!! 毎年細かい挫折と大きな挫折が襲うんだ!? 素人がパッととか言うんじゃねぇ!!」
ツッコミでは無い、農家の心の叫びだ、だが、ツッコミで無いなら本気で受け取るのが美礼、黒刃•村雨を11人の少年に向ける。
「教育が必要なようやな?」
ヤバい!?……目がマジだと本能で解った11人は即座に立ち上がり逃げる。
黒刃•村雨は容赦無く健太達を襲う、ギリギリで躱される黒刃は地面に刺さる、躱された事にイラッとした美礼は地面に刺さる黒刃を健太達に向けて振り抜き土は弾け飛ばす、次から次と健太達を襲うがギリギリの所で躱され結果的に愛沙の畑スペースは美礼の黒刃•村雨により心土が表に出てくる。
2日目にして畑の幸先が見えてきた、きっかけは礼実だがミルクが耕介に教わった事を礼実に話して礼実から健太達に言った、所謂、耕介の方法を又聞きした事になる。
愛沙の畑スペースでだけアクティブな土の耕しになっているが賑やかな休日を過ごす一同、そんな慈桜家仮屋敷に訪問者が訪れる。
西側の門を通る前に一礼する少女、腰まである黒髪を襟足から毛先までに白色のリボンで3箇所結ぶ、顔立ちは自然な微笑みを醸し出す落ち着いた女性、美人という言葉よりも美しい人と言葉を変えた方がニュアンス的には正しい、だが歩を進めて南側の庭に来る今の表情は神妙な面持ち、女袴の学園制服を着ている。
少女に最初に気付いたのは礼実、振り向くと愛沙も続けて振り向く、そしてお決まり通りプルプルと震え出す。
「ご安心下さい、西桜院家の跡継ぎ、西桜院芽衣華さんです」
「……はい」
「なんや、メイ姉やないか」
健太達を追い回していた美礼も芽衣華に気付く、死に物狂いで逃げ回っていた健太達は注意力が逸れた事に胸をなで下ろす。
美礼は歩を進める、礼実の元に来る芽衣華の前に立つと切れ長の目と口元を緩やかに少女を見る。
「立場上のもんや、気を悪くせんでな」
礼実の前には何人たりとも立たせる訳にはいかない美礼の西桜臣家としての立場、芽衣華はそれを理解している、2人を懐かしむように神妙な面持ちだった表情を軽く微笑ませる、そして落ち着いた声色で美礼に話す。
「西桜臣本家様、西桜臣分家様、ご機嫌麗しゅうございます、本日伺いましたのは……」
「あかんあかん! あかんあかんあかん! なんっかむず痒い! あかんあかん!」
「芽衣華お姉様、家の仕来りなど気にせず、学園に入学される前と変わらず礼実と呼んで下さいませ」
「仕来りなんか建て前や!」
「……、2人共仕来りは普段から守らないと思いがけぬ所でボロがでますよ?」
「ええんやって、堅苦しい仕来りなんかそんなもんもあったなぁだけでええんやって」
「相変わらずね、……それでは仕来りは建て前にして昔と変わらず2人を妹のように接するわ」
「ありがとうございます」
礼実が会釈をすると美礼は愛沙の横に行く、礼実と美礼で愛沙を挟む形をとり芽衣華を正面にする。
会話を切り出したのは美礼、会話というよりは愛沙の紹介。
「メイ姉? 刀屋藤野の愛沙や」
「藤野、愛沙です……」
「西桜院芽衣華です、無理しなくていいわよ、ゆっくり慣れてくれたらいいから」
プルプルと震える愛沙に自分から距離を空けるように優しく接する。
愛沙は芽衣華の落ち着きある大人の対応と美礼が姉のように慕うのを見てプルプルと震えなくなる。
芽衣華は愛沙の震えが収まるのを確認すると優しく微笑む、大した問題じゃないから気楽に聞いてね、と言うと更に続ける。
「正直言うと『刀を打てる事を四臣家と四院家の大人達が隠していた』のは正解ね、愛沙さんは何故秘密を朱の血筋に言ったの?」
「……、3日間で問題が解決しても……お孫様の刀を見る者が見れば富士の一刀では無い事が解ります、問題の先送りは学園生徒の学ぶ時間を無駄にするだけでは無く、四臣家や四院家の信用を落とします、私事で皆様の時間を使わす訳にはいきません」
「模範解答ね、……本音は?」
言葉を用意していた愛沙の返答を見抜いた芽衣華、最初から問題が大きくなる事を愛沙は覚悟していたと解釈する、そして自分が聞きたいのは本音だと簡潔に聞く。
愛沙は俯く、言葉を探している訳では無い、本音は11年前から変わっていないのだから。
「……、……お孫様の芯にある一本の刀を刀工として見てみたいと思いました」
神妙な面持ちになる愛沙の本音、それに間髪入れず答えたのは芽衣華では無く、美礼だった。
「サビて腐っとるで? なぁアヤちゃん?」
「打ち直せない程に腐っています、そもそもモジャモジャには芯がありません、モジャモジャです」
「朱の血筋に芯にある一本の刀を求めるのは私も……気が進まないわ」
「……、……お孫様は、刀で斬られそうになり、刀で斬られる母を見て、その直後に刀に興味を示しました、」
キュッと両手を握り更に続ける。
「私は刀匠の芯にある一本の刀を失いましたが、お孫様は刀を持ち逆の道を歩まれました、
目の前で刀の恐怖を植え付けられ、負けた私には無い恐怖に打ち勝つ強さ……鞘に納められた芯にある一本の刀がお孫様にはあると私は思います」
「気まぐれやろ、刀がカッコいいとかそんな感じやで?」
「幼少期に居合の稽古をしておりましたが、虚無僧を斬った女剣士がカッコよかった、と言っていました、愛沙さんのご期待には応えれないと思います」
美礼と礼実は勇也をバカにしている訳では無い、朱の血筋には芯にある一本の刀を期待しても答えがでないのだ、所謂、自由人の朱の血筋は『その時その時の事象で芯が変わる』という意味である。朱の血筋慈桜勇也は刀を持つとカッコいいから刀を持っているだけなのだ。
愛沙もそれは理解している、それでも勇也の中には鞘に納められた芯にある一本の刀がある、と思っている。
芽衣華はそんな愛沙の気持ちを否定せず本題を話す。
「芯にある一本の刀が見れるかは解らないけど『愛沙さんの刀を見せる場』は作ったわ、正直言うと礼実の提案が無かったら難しかった、……今更だけどいいのよね?」
「朱の血筋はミルクがいます、モジャモジャは死んでもかまいません」
「どんな提案をしたん?」
「後々の遺恨を残さないように富士の刀を持つ朱の血筋に十死零生の場を与え、不満のある者達を相手に富士の刀を教える事を進めました、今は富士の刀が愛沙さんの刀に変わっただけです、」
十死零生とは戦場で使われる言葉になり、10割の可能性で死に0割の可能性で生きる、即ち、相手の思い付く限り勇也が100%死ぬ場を用意すれと礼実が提案したという事だ。礼実は更に続ける。
「モジャモジャが負けて死ねば解決する問題です、モジャモジャが勝てば愛沙さんを認めなければならない問題です、
どちらに転んでも後々に遺恨を唱える者がいれば筋違いになり、南桜臣分家が処罰をします、
愛沙さんの学園生活や将来はモジャモジャの命で解決しますので安心して学園に通えます」
ボンッ!……愛沙は頭頂部から空気砲を放ちプルプルと震え出す。
礼実の言った事を簡単に説明すると、『勇也が死ねば全てが解決する、勇也が死んで愛沙が学園に通えたら安いもの』となる。
愛沙は勇也の芯にある一本の刀を見たいだけである、その気持ちから刀を見せ過去を話した、問題が大きくなるとは理解していたが勇也の十死零生とまでは考えてはいなかった、自分の生んだ種だと思い受け入れる事は出来ない。
「い、いけませ……」
「十死零生やったら四臣家や四院家の出る幕無しやな、」
愛沙の言葉を止めるのは美礼、気にするなと言わんばかりに更に続ける。
「アヤちゃんも大盤振舞したなぁ、愛沙? これで安心や」
「美礼ちゃん……お孫様は……」
「アホ天パが死んだらミルクちゃんの時代になるだけや」
「…………。」
愛沙は感じていた、軽く割り切る美礼の言葉には込み上げてくる笑いも含まれていると、そして美礼との11年間の付き合いでこういう反応をする時は『勇也の生存を心配するよりもミルクの時代になってからどうするか』が問題視になると言っている事になる、十死零生こそ朱の血筋が喜ぶ生きる道であり愛沙が勇也を心配する必要は無い、全てをまとめると『遊ばせておけ』と美礼は言っているのだ。愛沙は俯く事しか出来なかった。
昼の12時、土を耕すを一旦止め愛沙の畑を見渡せる位置でバーベキューの準備をする、慈桜家使用人が玄関前に食材やテーブルなどを用意していたため運ぶだけになる、ドラム缶を半分に切った簡易的な調理器具が5つ、中に木炭を入れミルクの期待に応えるように蒼の魔法が発動、網を乗せバーベキュー開始。
ドラム缶は半円になるように4つ並べ、その正面に2.5メートルの位置に保温用が1つ、そこに礼実•茜•愛沙が椅子に座る、基本的なスタイルはミルクと耕介のように焼けたのを食べ歩くか保温用の所で椅子に座りゆっくりと食べるかになる。
焼き役は各種肉を勇也と蒼、野菜を健太、焼き飯や海鮮物を少年達が焼き同時に保温用に焼けた食材を配膳する。苗木は長椅子の上で寝袋に入り爆睡。
肉や野菜が焼ける匂いが上がる、ミルクは丼と箸を持ち健太の焼く野菜を見ながらヨダレを垂らし今か今かと待っている、その隣にはミルクの突発的な行動に対処する耕介がいる。
勇也と蒼が肉を焼く所に美礼と芽衣華がいる、芽衣華は神妙な面持ちで勇也に話しをしているが勇也は普段と変わらない、蒼や美礼も普段と変わらなく神妙な面持ちになるのは芽衣華だけ。
会話内容は芽衣華が四院家として上級生や下級生から訊いた愛沙問題に対しての不満、そして十死零生という対処法を『四院家が提案』し【刀見せ】を勇也に実践してもらうという報告。
勇也は表面だけ焼けた生焼けのブロック肉を火バサミで刺すとガブリと噛みちぎりモグモグと食べ始める、保温用の所にいる愛沙をチラッと見ると申し訳なさそうに俯きプルプルと震えている。
「刀の真価は戦場にあるからな、モグモグ、十死零生の刀見せか、モグモグ……ハンデはそれだけでいいのか?」
!……愛沙はチラッと勇也を見る、その表情は自分に気を使っているとは思えないいつもと変わらない勇也、正確には勇也は常に愛沙に気を使っている、がそのいつもの表情さえ無い純粋な勇也の発言だと受け取れる物足りないと言わんばかりの表情だ。
芽衣華は予想通りの勇也の発言に神妙な面持ちのまま答える。
「古白街で名を連ねる刀匠の元に生まれ育てられた者達が打った刀、その刀を持つのも古白街を代表する名家に生まれた者達、他にもコレがチャンスだと不満を作り加わる者が多数、総勢約300人の者を1人で相手に出来ますか?」
「先日の烏合の衆とは違うでぇ、アホが大半やけど一部はほんまもんの実力者や、特に上級生はな」
「殺してもいいんだろ?」
ボンッ!……愛沙は頭頂部から空気砲を放つ。
「大問題になるでぇ」
「俺が十死零生で相手は十生零死か? それが学園の教えなら……蒼?」
勇也の言う十生零死とは、10割の可能性で生きて0割の可能性で死ぬ、勇也の相手は100%死なないという意味だ。
「なんだ?」
「門を作り直す必要は無い、ついでに学慈街にいる学生全員を朱の血筋慈桜勇也が学園生として認める、と触れ回ってくれ」
「大問題だな」
「俺を相手に十生零生だぞ? そんな奴等が学園を卒業して家業を継ぎ、学園以外を卒業した連中の上に立つ? 笑わせんな、生まれた家や親の力が強いって言うなら学園なんか必要ない」
「同意見だ、十死零生には十死零生で相手をする、それが学園だ、西桜院家? 東は勇也の提案に乗る」
「大問題ですね」
「何言ってんだ? 愛沙は自分の命を賭けて俺を含めて刀を持つ人間に死ねという魂を込めた刀を俺に見せた、
何が愛沙問題だ? 愛沙のように命を賭けないで愛沙のように刀を認めてもらおうなんて虫が良すぎる、なっ? 愛沙?」
ボンッ!……空気砲を放つ、愛沙に返答出来る相槌では無い。
「愛沙もその通りだボンッと言ってる、なっ? 蒼?」
「そうだな」
ボンッ!……空気砲を放つ、助けを求めるように茜を見るが保温用に乗る肉や野菜の微妙な保温加減を見て食材をズラすのに忙しい、視線を茜から礼実に移す。
礼実には視力が無いが愛沙が困っている事は気配で解る、私生活や会話に支障が無いと断言出来る程に視覚以外の感覚は失った視覚を補っている。
「愛沙さん、お気に病まず、」
愛沙を落ち着かせる一言、安堵した気配を感じ取り更に続ける。
「モジャモジャ? かまいません、朱の血筋を相手に命を賭けれない者など古白街に必要ありません、
家業や親という問題も気にする事ではありません、『朱の血筋を相手に十生零死を望むそんな子を育てたとなれば親の罪』、家業や親ごと秩序と教育の元に裁きます、
十死零生には十死零生、元より刀屋藤野の刀以外を残す気はありません」
坦々と話す礼実の一言一言、愛沙の安堵は数秒で終わり頭頂部からシュ〜……と煙を出す。
美礼は愛沙の重くなる気持ちを逸らす為、話しの筋を2つに分ける。
「大盤振舞やなぁ、でもまぁ、私も同意見やな、メイ姉? 学園の門を無くす方がめんどくなるし好きにやらせたらええんちゃう?」
筋道は刀屋藤野や愛沙問題だが、勇也が提案した学園の門の撤廃は四臣家としては大人の政治が大きく関わり学園で処理出来る愛沙問題以上に厄介になる、愛沙にこの問題は自分だけでは無く全員で支え合っていく問題だと教える。
美礼の意図を解らない芽衣華では無い、勇也が朱の血筋というのを前提に会話を進める。
「そうね、朱の血筋を相手にするのに十死零生というのを解らない者は死んでもらいましょう、ですが……」
勇也に視線を合わせる、神妙な面持ちは既に無い、四院家としての西桜院芽衣華が愚問と思いながらも問う。
「相手は烏合の衆だけではありません、勝機はありますか?」
「勝機? そんなもん愛沙が打った刀を握る俺には100%の勝利しかない」
「安心しました、『刀の打てる刀屋藤野の跡継ぎ』ですから後は島一番の刀匠はやはり富士の血筋から生まれる事を証明するだけです、……、後始末は西桜院家が持ちますので……」
「私も……」
芽衣華の言葉を止めるのは頭頂部からモクモクと煙の量を増やす愛沙、俯く顔をゆっくりと上げ更に続ける。
「その場に立ち会います……」
?……一同頭に? を浮かべる、不意に発言した愛沙の言葉の意味を理解出来ないのだ。
「私はお孫様と共に十死零生の道を歩みます」
ぶっ!……吹き出したのは勇也と蒼、何言ってんだ!、と言葉には出さないが驚愕する表情を愛沙に向ける、先に言葉を発せれたのは蒼。
「あ、愛沙? 何言ってんだ?」
「私もお孫様と共に……」
「いや、300の刃が勇也を襲う訳だが……その中には愛沙を狙う輩もいる、刀が証明されても本人が死んだら意味ないだろ?」
「他の刀工や名家の方々が十死零生に立ち、私が立たぬのは後腐れを残します」
愛沙の言うことは正しく道理にかなっている、芽衣華は礼実に視線を向けるが額から流す一滴の汗で愛沙のこの発言は予想外だった事が解る、芽衣華自身も考える限り愛沙が表に出る事など予想もしていなかった、非常にマズイ、と芽衣華•礼実•美礼は大量に額から汗を流し始める。
「ゆ、勇也? 愛沙は十死零生に挑む気だが……?」
説得をすれ、と含ませる、もちろん美礼や芽衣華からの睨み付けるような強い視線に、説得をすれ、が含まれている。
一同の視線を浴びる勇也は顔を引き攣らせるしかない、誤魔化すようにブロック肉を食べる、視線を泳がせるがどこにも逃げ場はない。
そもそも愛沙を説得する以前に、先日の愛沙からの会話以外はプルプルと煙は変わらない、勇也が愛沙を説得するなど皆無なのだ。
視線を足元に向ける、そこには肉を取りに来たミルク、唯一の逃げ場が見つかり安堵する、焼けた肉を丼に入れ、さて、どうやって言い逃れするかな……と考えながら口の回りを肉汁でテカテカにするミルクを見る、だが、ここで第二の問題が勇也の頭を過る。
「ミルクもその日学園にいるよな……?」
「「!?」」……一同も気づく。
十死零生の場に3歳のミルクがいるのは教育上良くない、『勇也が十死零生の場で相手に十死零生を与えて勝利を収めたとしたらそこには死体の山、ミルクの中ではそれが当たり前の事になり朱の血筋ミルクは十死零生を与えるのが自分の運命だと記憶に留める事になる』、母親礼実と離れ離れになるトラウマをやっと無くしたミルクに新たなトラウマを与える事になる、それ以前に朱の血筋とはいえ3歳のミルクには十死零生の世界は精神衛生上早すぎる。
幼い頃に刻まれた記憶や経験はその人間の基礎にもなる、優れた記憶力がある朱の血筋なら尚の事、礼実はゆっくりとミルクの方へ顔を向ける、一呼吸置き勇也をキッと睨み付ける。
「モジャモジャ? 相手に十生零死を与えながら愛沙さんを守りなさい、出来なければその場でモジャモジャだけが死になさい」
「四院家が思い切った提案をしたと思ったらやっぱりお前が犯人か……」
「死になさい」
「よくそんなこと言えるもんだな、十死零生だから愛沙の刀の勝利を見せれるんだ、それを愛沙というハンデを背負い十生零死? ハンデがデカい、本気で俺を殺す気か?」
「ミルクのためです」
「……ミルクのためで全てが解決するのはお前の堅い脳みその中だけだぞ? 愛沙を守り切れるのは十死零生だけだ、
昔オオカミの群からお前というハンデを抱えながら見事に勝利をしたのを思い出して十生零死にすれと提案したのはいい、だが、相手はオオカミでは無く剣術や武術を学ぶ人間だ、十生零死で愛沙を守りながらは無理、高望みするな」
「出来ないのですか? ヌシは報復に来たオオカミの大群からモジャモジャと私を守りました、それもオオカミを1匹も殺さずに」
「それは違う、オオカミはヌシを見たら一目散に逃げただろ、ヌシは俺が倒したオオカミを横取りしに来ただけだ、案の定美味い部分だけ食って満足して帰りやがった」
「オオカミが逃げたのはヌシの風格です、モジャモジャにはヌシのような風格が無く相手を殺戮する事でしか力を誇示できないだけ、十生零死を与えて力の差を学ばせる者こそヌシに相応しいのです」
「ああ言えばこう言うだな、……」
チラッと視線を玄関に向けると未智明流と赤樽美酒が現れた。
明流は朝食後、慈桜家仮屋敷の東側にある調理場に行った、目的は皿洗い、居候の為自発的に休日ぐらいは何かをしたいという気持ちになったのだ、だが、調理場に入った瞬間に目に飛び込んだのは250キロのマグロ、間髪入れず土下座をすると調理人に頼み込んでマグロの解体をやらせてもらう、今の今まで刺身の盛り合わせやカブト焼きなどを作っていた、手に持つのは刺身盛り合わせの大皿、赤樽美酒は機能性あるアームを出しカブト焼きが載る大皿を持つ、大満足した顔と気楽な足取りでバーベキュー広場に来た。
「んっ? どうした?」
「明流? 四臣家と四院家が入れない十死零生の戦場に愛沙も参加する、俺は相手に十生零死を与えながら愛沙を守り抜くという無理難題を押し付けられた、勇士同盟から十死零生を与えられる明流から見てどう思う?」
「そんなもんここにいる11人が藤野さんを守ればいいだろ、四臣家や四院家だけが入れないだけで一般人は関係無いんだろ?」
!……一同の視線は11人の少年に向けられる。
「一般人が参加可能なら頼まれるまでもないな、あくまでも刀を持っていない連中に限るけどな」
「それはそうだな、刀を見せるのが前提だからな……、西桜院芽衣華? 問題無いか?」
「四院家は手出しをせず、四臣家は校舎の屋上にいてもらう事になります、刀見せの場は南門から朱の血筋が屋上に行くまでの間、その間は四臣家と四院家は手出しを出来ません、11人が狙われても我々は助ける事が出来ませんが?」
「足手まといが増えるだけだな、勇也と愛沙だけの方が…………うおっ!? いた! とんでもねぇヤツがいた!」
蒼が指を差すのは爆睡する苗木、一同は寝袋で寝る苗木を見る……が、束の間の喜びである。
「……刀見せは何時からだ?」
「朝の登校時です」
「蒼? 苗木は午前中に起きるのか?」
「昨日の引越しみたいに遠足病が再発して徹夜してくれれば……、それか一士シリーズを徹夜して見せるか……、」
蒼と勇也は一晩中苗木の遠足病に付き合わされ、お笑い芸人•一士と語る全集を見せられていた。
「勇也? 苗木は非確実な裏ワザだ、確実じゃない、苗木がいない前提で策を考えた方が早い」
「そうだな……、……礼実? 次からはちゃんと考えてから提案すれ、『高望みな十生零死は今回だけだ』、解ったな?」
「……。」
「……、とりあえず……蒼と明流と健太とミルクは昼からの作業はみんなに任せて作戦を練るのを付き合ってくれ」
「モグモグ? モグモグ?」
午後からは勇也と蒼と明流と健太そしてミルクは作戦会議、ミルクまで参加させたのは『次もこうなる』と礼実に解らせる為でもある、5人の作戦会議は農作業が終わる夕刻を過ぎても終わらなく晩食も作戦会議をする別室に運ばれていた。
礼実に解らせる為である、と言いたいが勇也はそこまで意地悪でも捻くれてもいない、蒼が「策ならコレだ」とA4サイズの携帯情報端末で出した三国志に勇也とミルクが興味を出し脱線したのだ、特に張飛が万の兵を足止めした武勇伝や趙雲の一騎駆けなどが2人を興奮させた、結果5人は漫画三国志を読み漁って策が二の次になってしまった。
礼実はミルクを独り占めされた事に物申したい気持ちでいたが今回に限り美礼が勇也の肩を持った、もしも漫画から策を考えようとしていたのがバレたら怒りを買うのは間違いない。
そして苗木は、午後からの農作業中や晩食中そしてミルクの寝る夜の21時になっても爆睡していた、ここまでの爆睡になると先日の徹夜が響いているどころでは無い。
本堂に戻ってきた勇也と蒼、勇也の腕の中にはミルク、寝る時は美礼に任せているためミルクを渡す。真っ先に礼実が寝顔を見(?)にきたのは言うまでもない。
「苗木はまだ寝てるのか?」
「寝とるな、夜行性かもしれんな」
「今後の為にも苗木の生態を知っておかないとダメだな、勇也? 俺は苗木の生態調査をする」
「わかった、俺は明流と夜の学園にでも行ってくる」
「学園に行くんか?」
「作戦には現場視察は大事だろ? 明日はミルクを連れて朝から誰もいない学園で作戦会議をする、礼実? お前が生んだ自業自得の種だ、明日はミルクの分の土を耕してろ」
「!……。」
勇也は偉そうに言っているが漫画からではフワフワとした策しか浮かばず、張飛と趙雲がカッコイイという客観的な感想のみ、現場視察をしてフワフワした頭の中を整理したいだけだ。
翌日、朝の4時にミルクの朝のお参りが終わり朝の7時に朝食、それから勇也•ミルク•明流•蒼•茜は大きなリュックサックを背負い礼実の無言の圧力を背中に受けながら学園に行った。
その後、作戦会議に参加した健太が礼実からの冷たい気配と美礼の作戦を聞き出そうという口舌にあくまでも黙秘を貫いた、もちろん漫画を読んでただけとは口が裂けても言えないだけである。
そして苗木は、蒼が夜中の3時まで生態調査をしていたが起きる気配がなく就寝、朝に寝袋がモゾモゾと動き1日半振りの起床、朝食を済ませた現在は元気が有り余る程に土を耕す、苗木の解明が無さそうな生態調査はこれからも続く。
学園休校3日目は礼実がミルクが帰ってくるまで終始ご機嫌斜めだったがごく平凡に1日が終わった。
ミルクが寝た後に真一と竪郎を含めた一同を集めて『刀見せ』の策を勇也から告げる、健太が「(昨日の三国志はやっぱり意味がなかったな)」と心の中に留める中、濃密に練った作戦からの実質的な効果を茜がシュミレーションし蒼が体現した立証データを出して一同納得、愛沙が策に異議を唱えたいようにボンッと頭から空気砲を出していた。
そして翌日——
光財学園、柵状の門が仮付けされた南門の外から一同は校庭と校舎を見る。
校舎の窓からは学園生が興味ありげに南門前を見る、校庭では袴制服や女袴の制服を着た古白街出身者の上級生が中央玄関前に溜まる、その数約200人、そして西側と東側の玄関前にはブレザー制服を着た上級生が『中央玄関しか行く道は無い』というように塞ぐ。
中央玄関前に溜まる約200人を見る蒼、西桜院芽衣華が報告した人数よりも少なく違和感が生まれる。
「少なくないか?」
「表にいるのは上級生だ、新入生が100人ぐらいいたんじゃないか?」
「やはり新入生は『話しを聞いていただけ』だったようだな……、あれを見ろ……」
メガネをクイッと上げる真一が指を差すのは西門、ぞろぞろと袴制服を着た新入生が列を作り校庭内に入る、続けて東門からぞろぞろとブレザー制服を着た新入生が校庭内に入る、西と東を合わせて約200人、1人1人顔に見覚えがある。
「講堂で苗木に気絶させられなかった連中だな」
「約200人、元々朱の血筋や四臣家に好意的な親の元に生まれた連中だ、古白街の連中が四院家の元に行っていたが『話しを聞いていただけ』と思い、3日間俺と竪郎で声をかけた、今時期に上級生を相手にこちら側に付くとは思わなかったがな」
西側と東側から集まる新入生は南門を前に集まる、その中からリーダー格であろう男子2人が一同の前に来た。
袴制服を着る短髪の少年は一歩前に出る、お世辞にも女受けする顔立ちとは言えない。
「古白街出身者約100人、3年後全員で卒業するという朱の血筋の言葉に着いて行く、後ろに控える古白街の女達、我等男子の背中を護れ」
緊張した面持ちで勇也とその後ろにいる100人の少女に言うと踵を返し中央玄関に向かう、その後ろを袴制服を着た男子約100人が続く。
「誰だアイツは?」
「古白街の悪たれ共を束ねる呉服屋のアホや、……真っ先に敵になると思ったんやけどな」
「信用出来るのか?」
「背中を護れ言うたやろ? 不穏があれば斬ってもかまわんって事や、」
チラッと後ろを振り向き100人の少女を見ると更に続ける。
「護って欲しいみたいやからな、邪魔やったら斬ってもええで」
100人の少女は口元を笑わせ会釈をして一礼すると校庭内に入っていく。
ブレザー制服を着る男子生徒は数歩前に出ると勇也に会釈をして一礼する。
「古白街出身者と同じく美岩街出身者約100人も朱の血筋が作る3年後を支える事を決めた、……正確には生き残れる可能性が高い方を選んだ、」
チラッと蒼を見ると更に続ける。
「東桜臣家? 勝算は?」
「なんで俺に聞く? 茜に聞いた方がいいんじゃないのか?」
「俺は妹よりもお前を評価している」
「見る目ないな、とりあえず東桜臣家は正しい方にしか付かないとだけ言っておく」
「十分だ、それでは刀見せに関係無い者達を実験に使わせてもらう」
「無茶するなよ、ヤバくなったら逃げろ」
「当たり前だ、科学者も武術家も勝てる相手に勝つのが勝者の道だ」
踵を返し中央玄関に向かって歩いて行く、その後ろに約100人の美岩街出身者が着いて行く。
「誰や?」
「東桜臣ビルで生物の研究をする親父さんの手伝いをしている、ルゴーリの細胞をパクる時に手伝ってもらった、悪いヤツじゃ無いが自分にプラスにならない事は一切やらない」
「パクるの手伝って何のプラスになるん?」
「初めは思春期男子らしく茜とデートする券で交渉したが見事に断られた、仕方ないから手詰まりしていた研究を俺が解明してやった」
「……大丈夫なんか?」
「自分のプラスにならない事には関わりを持たない、取り引き無しで関わってきたという事は今から朱の血筋や四臣家とのコネクションを作っておけば将来的にプラスになると判断したからだ、その変わりプラスにならなくなったら掌を返す」
「解りやすいやっちゃなぁ」
「科学者だからな」
総勢約300人の少年少女は中央玄関までに道を作るように2列に並ぶ、古白街出身者の手には刀や薙刀や槍、美岩街出身者の手には棒やホウキ、科学者らしくないと思うかもしれないが茜のように重火器を持つには資格が必要になり、更に子供が出せる小遣い程度では重火器の研究をするには雀の涙、蒼が勇也の祖母に借金しているから生まれる実力差である。
美岩街出身者は基本的に茜のように好戦的では無い、蒼のように徒手空拳やトンファー術を学んでいる訳でも無い、一部いるかもしれないが基本的に頭脳で勝負するのが美岩街出身者である、このような場では無力と言ってもいい。
古白街出身呉服屋の少年は一歩前に出て言い放つ。
「我等は刀見せに関係無い者の侵入を防ぐ為にいる! 双方に利の無い争いは避けたい!」
上級生からの返答は無い、その変わりに殺気に似た威圧が向けられる、先日の講堂での重圧を思い出し足元が浮いた感じになる。
新入生と上級生の睨み合いは上級生に部があるのは明らか、南門の外では一悶着がある前に動き出す。
「勇也? 俺等もそろそろ行く、とりあえず策は『愛沙が狙われてからだったが誰か1人でも狙われたら作戦開始だ』」
「わかった」
蒼と美礼を先頭に校庭内に入って行く、2人の後ろには礼実と茜が歩き、その後ろに爆睡する苗木が顔だけ出す軍用のリュックサックを背負う明流と目を輝かせるミルクを抱く耕介、そして最後尾に真一と竪郎が続く。
四臣家が現れた事に上級生からの威圧は更に上がる、周りにいる新入生は威圧が上がった事に更に重圧がかかり足元を震わせる。
「危なくなったら逃げるんやでぇ」
軽く新入生に声をかけるが古白街出身の100人の少女以外にはその声は届かない、明らかな経験不足、美礼の殺気に慣れている少女達以外は段々と威圧感が上がる上級生をまともに見る事も出来なくなる。
中央玄関に着く、蒼と美礼は威圧してくる上級生を前にしてピタッと足を止める、正確には中央玄関の前に上級生がいて入れない。
「なんやお前等? 私の前に立って?」
呆れるように軽く言う。
「なんか悪いのか?」
上級生男子が小馬鹿にしたように言う。
その瞬間——
スパンッ! と黒刃•村雨が振り下ろされ上級生男子の左腕が斬り落とされる、絶叫したその瞬間に上級生は美礼に向けて刀を向ける。
「お前等何勘違いしとんねん? 刀見せには手を出さんでも西桜臣家の前に立つのは別やろ? 忘れとんのやったら刀見せを前に刀以外を刻んでもかまわんのやで?」
西桜臣家の後ろには西桜臣家がいる、切れ長の目に殺気を籠らせ左腕を斬り落とした少年を見下ろし黒刃•村雨を振り上げる。
「いつまで西桜臣家の前にいるんや? 頭かち割んぞ?」
!?……腕を斬られた上級生はバッと道を空ける。
「おい? お前の腕は私の前に立ちはだかっとるで? 連帯責任やな」
足元をおぼつかせ腕を拾う、そのまま逃げるように校舎の中に入って行く。
「お前等? 誰に刀を向けとんねん? 相手を間違えたで済むのはお前等の脳内でだけやで? 言うとくけど朱の血筋を前にして生きて帰れるなんて考えてないやろな? 十死零生の場はお互いに十死零生やからな?」
「刀見せでは無いのか!?」
「ほんなら愛沙みたく朱の血筋に命を賭けて刀を見せたらええやろ、どこの世界に刀工が刀を見せる場に『出しゃばるお前等みたいなアホがおんねん?』 中途半端な気持ちで刀を打っとる刀工やから朱の血筋と面と迎えんのやろ?」
「何を言うか!? 藤野家が優遇されているだけだ!」
「お前等を優遇して何の価値があんねん、『命を救われ命で返す』のは当たり前やろ? そんなのも知らんのやったらお前等の家業は古白街にはいらん」
「四臣家とはいえ家業を冒涜……」
「黙れ、」
ズドン! と上級生を圧倒する殺気、切れ長の目からは人間的な恐怖では無く狂気からくる恐怖を上級生に与える。
「誰に口を聞いてる?」
関西弁から標準語になる。
「古白街に必要無いと言ったのが聞こえなかったのか? 秩序がお前等みたいなアホが継ぐなら必要無いと言っているだけだろうが? 朱の血筋を殺して秩序に認めさろや、それがお前等の生きる道だ、親の七光りで家業を継げると思うなよ」
「……、チッ」
スパン! 舌打ちをした少年の右肩から胸の中央を通る黒刃、血が吹き出す。
「あぁ〜〜〜……あかんあかん悪い癖や、『家業に相応しくないアホな跡継ぎなら殺してもええと言われとるからな』、ついついお前等の親の為に黒刃を振ってもうた」
「秩序の押し付け……」
スパン! と口を開いた少年を斬る。
「秩序が無いとお前等みたいなアホが好き放題に遊び回るやろ? 押し付けてなんぼや、……ところでお前等? 」
後列に控える30人ぐらいの一団に視線を向ける、その一団は抜刀もせず前にいる連中とは我関せずという空気を出していた、美礼はその一団に向けて言う。
「秩序を相手にしたいんか? 愛沙の刀を相手にしたいんか?」
「ふ、ふじ……」
スパン! と手前にいる口を開いた少年を斬る。
「秩序乱すなや、誰がお前に喋ってええって言ったんや? ……あぁ、そやそや、朱の血筋が持ってた刀なんやけど11年前に愛沙が打った刀やった」
!?
「11年後に打った刀を朱の血筋に命を賭けて見せとった……、今の愛沙が打った刀や、」
30人の一団の前列にいる6人が口元を笑わす、馬鹿にしている笑みでは無い、高揚していると言った方が正しい、美礼は視線を手前の連中に合わせると更に続ける。
「個人的にはお前等で試し斬りさせてあげたいんやけど……」
スパン! スパン! と上級生を斬って行く。
「あかんあかん、悪い癖や、『まともに刀を見せる気が無いアホは斬ってまうわぁ』〜〜〜〜〜〜」
次々と30人の一団以外が握る刀を砕き、そのまま斬撃を与えていく、美礼が強すぎるのか手前にいる連中が弱いのか、実力者かもしれないが美礼との力の差がどれだけあるのかは解らない。
だが、彼等はけして弱い方の人間では無い、単純な集団心理なのだ。
腕を斬る事で『殺される』と植え付けられた人間が、その場で立ち直るには斬った本人である美礼に並ぶ精神力が必要になる、だが、その精神力は生まれた時から秩序の元に狩る方として育てられた美礼と秩序の元に狩られる方として育てられた彼等とは精神力に大きな差がある。
更に、『野次馬根性の中途半端な気持ちで自分の得意分野でも無い十死零生の場に踏み込む人間とはこんなモノなのだ』、死を見て精神力で負け、得意分野では無いから不利になり、生に執着してしまい逃げ腰になる、結果は黒刃•村雨に砕かれ斬られ抑止力という名の恐怖を植え付けられるのだ。
けして彼等が弱い訳ではない、四臣家のような生まれながらの狩る方に立つ人間に勝つには、精神的に有利に立つのが第一条件になるのだ。
だが、有利に立つ為には使う相手を選ばなければならない、今回彼等は愛沙を的にした事で相手を間違え、美礼の前で発言の自由さえも奪われ、この場に立つ資格も無くなり、美礼に圧倒されるだけの雑魚になり下がってしまった。
だが、どんな状況でも雑魚になり下がらない成り上がる者がいるのが光財学園である。
『何故、彼等のような判断を間違え、雑魚になり下がるモノが生き残っているのか?』と疑問になる、だが、答えは簡単なのだ。
『集団心理の弱者自論』
群れの中に入り、それを自分の強さと安全を確保したと勘違いしてしまい成長を止めてしまい、後進に追い抜かされると気付いた時には新入生をイビル事が自分の生き残る道になる。
社会でも良くある集団の中の弱者の強がり、仕事の出来ないゴマスリ社員が仕事の出来る社員を煙たがるのと似ている。
彼等はけして弱い訳では無い、正確には彼等はけして弱い方の人間では無かった、強い方の人間である、だが、学園は実力主義、色濃く力の差を見せつけられる、その実力差が見えれば簡単に上下が出来上がる。
2年生は1年で3年生は2年で個々の上下関係がすでに出来上がり、群れは強いが個々は弱くなっているという現状が出来ていると言っていい、もちろんその逆も然り。
「弱いなぁ、弱いなぁ」
チラッと自分を見る30人ぐらいの一団を見る。
「邪魔者はこんなもんか?」
「ありがとうございます」
目を瞑りながら会釈をして感謝を見せる。
「刀工が刀匠になる為には命ぐらいは削らなあかんで、『愛沙の刀』は富士の名を継ぐには相応しくないけど富士の名が霞むぐらいの刀匠の刀や、……手強いで?」
「朱の血筋に認められた時点で刀工では無く刀匠、我が刀を見ていただく機会を与えられた事が我が人生の好機、感謝します」
エリートしか入学が出来ないのが光財学園、大半の生徒は『幼少期から英才教育を受けれる環境で育った者』、力の差が一般人と出来て当たり前、定員1000人というのは島の人口を考えたら親の力の差で学園入学が『ほぼ』決まると言ってもいい、もちろん明流や苗木のような雑草魂を持つ一般人からの入学者もいる、学園もアホではない、度が過ぎた七光りや臑齧りは本人の為に落とす、先にも言ったのを更に簡潔に言うと学園という檻の中に入れられたら『自分の実力は親に作られたキラキラの衣服、本当の実力者を前には脱がされて裸の王様に変わる』。
その本当の実力者こそ芽衣華が懸念していた名家の中でも親子共に本当の実力者となる者達、そしてその実力者達は共通して『どんな状況でも』十死零生を受け入れる器の持ち主、四臣家に匹敵する精神力を持ち、勇也の実力、愛沙の実力、本当の意味で相手を見れる者達である。
本当の実力者、そして刀工を家業にする上級生、その刀工が剣術が未熟な為に代行した本当の実力者、愛沙が勇也に刀を預けたように彼等も彼等を認めて刀を預けた実力者、彼等は最初から美礼の前には立っていない、相手を間違えないから目の前で同級生が斬られても助けもしなく最初から相手にもしていない。
美礼は本当の実力者達が勇也の勘違いで斬られたら秩序が乱れると判断しあのモノ達を斬った、秩序の剪定と言葉を変えたら解りやすい。
蒼と美礼は歩を進める、一同も後に続き校舎の中に入って行く、数分して屋上に着き、屋上から校庭を見渡す。
6人の少年が前に出る、その後ろに30人の少年少女が続く、その手には刀が握られ1人1人が死を覚悟した十死零生の死地に歩を進める強者の顔。
6人の少年の中の1人が新入生を見る。
「新入生弱い先輩で悪かったな、生きてお前等の前にもう一度立てる事があったら、お前等を守らせてもらう」
!……少年の声が聞こえた新入生達は呆気に取られる、だが、古白街出身の100人の少女は36人の上級生に会釈をする、その意味を理解するのに時間はいらない、この36人こそ純粋に刀見せを求める実力者そして本当の先輩。
新入生は36人の上級生に背中を向け外からの邪魔者の侵入を阻むように半径30メートル内の外周を囲いながら歩幅に合わせて移動する。




