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朱の足跡 fast contact  作者: 有知春秋
皆藤愛沙編
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第三章 中 芯にある一本の刀

 

 昨晩、夕食時に耕介を含めて3日間の休校を利用した畑作りと愛沙•明流の引越しプランを立てる。


 明流の引越しは『たまたま』を装う為に着替えを取りに行く程度、西の街と南の街の境目にアパートがあるらしく愛沙の引越しの次いでに立ち寄る事になった、愛沙の荷物も家財道具が用意された家だったため着替えや私物のみ、主な引越しは愛沙の畑になる。


 朝4時、毎朝の恒例行事ミルクの御参りを終えた後、学園制服に着替えた一同は玄関前に集まる、真一と竪郎は愛沙問題の諜報活動のため昨晩からいない。


 学園制服を普段でも着るのは、自分達は光財学園の生徒であると主張し将来のために顔を売るというのを学園の規則で任意に決められている。

 学園以外の素行を制限する為でもある、普段の素行が悪ければ卒業後に会社を経営しても信頼性が無く人が集まらなくなる、制服一つでの自業自得を学ぶのも光財学園生徒の役目であり、常に監視された環境に身を置くという意識の向上を目的としている。あくまでも任意のため罰則は無いが校則な以上は教師からの口頭尋問がある。


 引越し隊は愛沙•苗木•明流•礼実•美礼•茜、畑部隊は勇也•ミルク•蒼•耕介、全員が制服を着る中で校則違反をする3人がいる。


 苗木は首にタオルを巻きモンペにTシャツのいつものスタイル、「私は樹海の管理人だよ!? フリーランスだよ!!」とあくまでも自由を貫く、耕介はムキムキの筋肉で制服を破いてしまったので浴衣を着ている、勇也は言うまでもなく白色を基調にした浴衣。


 一同の目の前には近代的なバスと近代的なユニック付き4tトラックが止まっている。


 茜は一同を正面にすると近代的なバスとトラックに指を差して言い放つ、


「対面ソファのくつろぎ空間を追求した20人乗り茜バス!! こっちが茜ユニック装備の茜トラックです!!」


 茜の作品説明が続く中、一同は茜バスに乗り込む、一番奥のソファ席に勇也とミルクが座り、対面ソファに礼実•美礼•愛沙•苗木と座る、その正面に蒼•耕介•明流が座り茜はマイクを取り茜バスの説明をしている。


 その内容は、見た目は近代的なバスだが茜シリーズの武器を武装した装甲車という説明だった、勇也は茜の研究や発明の幅が広すぎる事が気になり蒼に聞く、が返ってきたのは「東桜臣家はそんなもんだ」、と軽く返されるだけだった。


 時間にして30分のドライブ、西の街と南の街の境目にある明流のアパートに到着する。


 セキュリティ無しの一般的なコンクリート造りの5階建てアパート、玄関側は解放されエレベーターなどは無く階段で各階を繋ぐ、朝早いというのもあり人気が無い、住人は寝静まっているようだ。


「ここが勇士同盟未智明流討伐隊本部か……」


 ぷっ……と笑いを吹き出すの美礼と苗木、明流の不幸が笑いのツボになっているようだ。


 明流の引越しプランは、勇也が朱い眼になり勇士同盟が寝ているのを確認、明流が自分の部屋に忍び込むという筋書きだ。


【ミッション•勇士同盟に見つからずに着替えを持ち出す】


 明流は窓から勇士同盟本部(アパート)を見る、人気が無い事を確認し勇也を見る。


「勇也、頼む」


「よし、」


 朱い眼になり5階建てアパート全体を視る、六畳一間のワンルームが1フロアに10部屋全50部屋を確認、決まった位置にベットがあり全員が寝静まっているのを確認。


「全員寝てる、チャンスだ」


「行ってくる」


 茜バスから降りると20メートル先にある勇士同盟本部(アパート)に全速力で走る、階段の踊り場に行きコソコソと左右を確認し物音を立てないように2階に行く、踊り場から左右の廊下をコソコソと確認、右側の廊下を泥棒のように抜き足差し足忍び足で廊下を歩き3つ目のドアの前に行く、左右を警戒しながら鍵を入れゆっくりと開けて中に入る。


 自分の部屋に警戒しながら入って行く明流に笑いを堪える蒼•美礼•苗木•耕介。。


「明流って不幸を背負いながらもなんだかんだで長生きしそうだよな」


「明流の幸運は不幸と同居しとるからな」


「あっ……」


 勇也が何かの異変を確認。


「?、どうした?」


「両隣と下のヤツ等が起きた」


 明流を視点にして朱い眼で視る勇士同盟本部(アパート)では隊員3名が起き上がる。


「さすが勇士同盟だ」


「携帯で何かしてるな……うおっ!」


 勇士同盟隊員は携帯情報端末を操作、未智明流帰宅をメールで一斉送信。


「全員が一斉に起きたぞ!!」


 ぎゃはははははははははははははははははははははははは!!!!


 朱い眼で視ている勇也の実況に大爆笑、車内から勇士同盟本部(アパート)を見ると各部屋のドアが次々と開き、寝間着姿の男子がぞろぞろと明流の部屋の前に集まる。


「四面楚歌だ! 四面楚歌だ!」


「ガチやろ! 笑いの神降臨や!」


「ヌシ!? 明流は!?」


「ショルダーバッグに着替えを入れてる」


 明流は外の異変に気付かずクローゼットから服を出してショルダーバックに積める。


「ヤバイでヤバイで! このままやと新たな笑いが発生や!」


「フラグ立ちすぎだよ!?」


「詰め終わったな、このままだとヤバイ、……」


 明流はショルダーバックのファスナーを閉じると抜き足差し足忍び足で玄関に向かう、ドアノブに手を添える瞬間ピタッと止まり覗き穴から外を見る。


「んっ? 異変に気付いたな」


「勘の鋭いやっちゃなぁ」


「でも逃げ道ないよ?」


「勇也? 明流は?」


「部屋に戻って携帯を探してる」


「なるほど、助けを呼ぶ為だな」


「あぁ、だが明流の携帯は……」


 テーブルの上に指を差す、そこにはぽつんと置かれる明流の携帯情報端末。


「明流、見事だ」


「天然(ガチ)だね!?」


「狙って意図したんなら天才やで!」


 腹を抱えて爆笑する蒼•美礼•苗木、車内では次の明流の行動に期待が膨らんでいた。


「んっ? 釣竿を持ってベランダに出た」


「釣竿?」


 明流は部屋の隅に置いてある釣竿を取るとベランダに出る、鉄の柵に釣り糸を結び釣竿を持ったまま柵を上がる。


「なるほど、柵に糸を結んでリールをゆっくり巻いて降りるみたいだ」


「切れるだろ」


「マグロ用の糸(ワイヤー)なら大丈夫じゃないか?」


「おっ! 手を離した! 糸は……」


 明流が釣竿を両手で握った瞬間。


「残念、見事に切れた」


「生きてるか?」


「ショルダーバッグがクッションになった」


「天然(ガチ)だけじゃないよ! 持ってるよ! 運も持ってるよ!」


「天性や、運まで兼ね備えた天性や」


「明流と勇士同盟の化学反応は見逃せないな」


 アパートの横から抜き足差し足忍び足で現れる、玄関側が開放されているのでこのままでは明流は勇士同盟に見つかる、明流もそれは理解しているためアパートの壁に寄りかかりコソッと開放される階段踊り場を見る、そこには勇士同盟の男子2人が外の見張りをしている。茜バスを警戒しているようだ。


「バスと明流との直線距離40メートル、バスと勇士同盟との直線距離20メートル、明流どうする、バスは動かさないぞ」


「絶対動かさんで」


「バスに手を振ってるけど動かさないよ!!」


「気づかんフリだな」


 茜バスに向けて必死に手を振る明流を見捨てる、化学反応が楽しみなのだ。


 笑いの神が天に掲げる杖は、明流が追い詰められれば追い詰められる程に『笑力(エナジー)』を溜め込み笑いの雷雲を大きくする、笑いを求める蒼•美礼•苗木•耕介が助ける事は無い、勇也もなんだかんだでおもしろいから傍観する。


「んっ? なんかやってるな」


「昨日護身用に欲しいって言うからあげた茜BOMだね」


 蒼は茜からアンゴラウサギ型茜双眼鏡を受け取り明流を見る、茜BOMを出して何かをしている。


「やる気か?」


「いや、釣り糸とピンを結んでるな……、んっ? いなくなった、勇也? 明流は?」


「アパートの反対側に走ってる、罠を仕掛けるんじゃないか?」


「明流のやつ逃げ慣れてるな」


 明流はアパートの反対側に到着する、そこには駐輪場があり一台の自転車を出す、そのまま自転車で強行はせずアパートの横に止める。


 ポケットから予備の釣り糸が入るケースを出し茜BOMをサドルに縛り付ける、十徳ナイフで予備の釣り糸を切ると糸ケースをポケットに入れ、釣竿のリールから出る糸と結び付ける、若干予備の糸を弛ませる、そしてリールを開放し糸を弛ませながら反対側に戻る。


「おっ!明流が現れた」


 明流はリールに繋がる釣り糸を十徳ナイフで切る、切った釣り糸を手繰り寄せピンっと張り、茜BOMのピンが抜けない程度の手応えを指先で感じ取る。


「よし……コレでイケる」


 深呼吸を数回する、「いざ!」と心の中で言い放ち、右手を上げ釣り糸を引っ張る、釣り糸の先の反対側では茜BOMのピンが外れる、弛ませた予備糸が引っ張らされ自転車がバタンと倒れる。


 勇士同盟は自転車が倒れた音の方に視界を向ける、階段踊り場にいる2人は走って行く。


 明流はそれを見逃さず走り出し茜バスに向かう、アパートの中にいる勇士同盟が明流に気づく、外にいる2人に伝える間も無く茜BOMが大爆発、勇士同盟の男子2人は爆風に飛ばされる。


 茜バスのドアがエアー音を鳴らしながら開く、飛び込むように明流は車内に避難。


「出発!!!!」


「かしこまりました」


 慈桜家使用人(女性)は笑顔で応えるとドアを閉めて茜バスを発進。


 勇士同盟は茜バスに逃げ込んだ明流に罵声を送る、その罵声に応えるように窓を開けた明流は言い返す。


「なにが勇士同盟だ! 俺は一般人だぞ!!」


「宣戦布告と受け止めた!! 覚悟しとけ!!!!」


「うるせぇ!! なにが宣戦布告だ!! 逃げ切って卒業してやる!!」


 車内では一同が腹を抱えて大爆笑していた、普段笑う事の少ない礼実や笑う事の無い愛沙も表情を柔らかくしている。


「なんで助けに来ない!」


「な、なにか……あったのか?」


「あっただろ! 勇也に関したら朱い眼で視てたんじゃないのか!?」


「疲れ眼で視力が低下していた」


「嘘つけ! 俺の愛車(自転車)を犠牲にしちまっただろ!」


 明流の逃亡劇に大満足した車内、明流はため息を吐きながらソファに座る、ショルダーバッグを太ももに置き、釣竿を床に置こうとするとミルクが釣竿に興味を出す。


「コレなんじゃ?」


「投げ釣り用の竿……」


「まほうは出るのか?」


「魔法が出るのは茜さんに作ってもらいな、コレは普通の竿だから壊れる」


「むむぅ」


「樹海の湖用の竿があるからそれならミルクちゃんも使えるよ、試験用のをあげる」


「まほうか!?」


「魔法は出ないよ、魔法を使う前に釣竿をちゃんと使えないとダメだし、15歳にならないと魔法は使ったらダメ」


「むむ! 釣竿は使えるんじゃな!?」


「帰ったらあげるね」


 喜ぶミルクに疲れ果てる明流、茜は釣竿の耐久性をミルクでモニター出来ると勇也に説明する。


【ミッション•勇士同盟に見つからずに着替えを持ち出す】


 自転車を犠牲に成功(コンプリート)



 次の目的地は苗木と愛沙が同居する家、茜バスが走ること20分、明流の機嫌が直った頃、茜バスは停車する。


 窓から外を見ていた愛沙が何かに気づきプルプルと震え出す、それに逸早く気づいたのは勇也。


「どうした?」


 何気無く愛沙に声をかける。


 愛沙はチラッと勇也を見て更にプルプルと震え出す、一同の視線は勇也から愛沙に移る、怯えたようにプルプルと震えるのを見て冷たい視線を勇也に向ける。


「い、いや……」


「お前なぁ、怖がらせてどうすんねん?」


「ヌシ? 最悪だよ」


 勇也は愛沙に気を使っただけである、愛沙が何かに気づきプルプルと震えたから心配して声をかけただけだ。


「いや、プルプルは俺が声をかける前に……」


 チラッと愛沙が見ていた窓の外を見る。


「(そういう事か……)、愛沙? 大丈夫だ」


 一同が窓の外を見ると罰悪く茜バスを見上げる坊主頭の少年が11人いる。


「なんやアイツ等?」


「俺が話しを聞いてくる、蒼? 一応四臣家として来てくれ」


「わかった」


 勇也は立ち上がるとミルクを耕介に渡し蒼と一緒に外に出る。


 蒼が見る愛沙の畑は土が掘り起こされ、種から芽が出たばかりの新芽はプランターに植え替えられ、2代台あるリヤカーの1台には大量の土が入っていた。


 坊主頭の少年等はブレザー制服を着ている、泥だらけになり近くで見ないと制服だと解らない、勇也の視線はプランターと掘り起こされた愛沙の畑に向いている、蒼は少年等に問う。


「説明をして欲しいんだが?」


 少し威圧した感じに言う。


「いや、余計なコトだとは解ってたんだ」


「何が余計な事かを……」


「蒼、攻めるな、」


 蒼の言葉を止める、体格の良い少年を見上げると会釈をするように頭を下げる。


「ありがとう、感謝する」


「いや! 頭なんか下げるな! 俺等が勝手にやった事だ!」


「勝手じゃない、毎日この畑を見て気にかけてないと出来ない『手入れ』だ」


「頭を上げてくれ! 朱の血筋が頭なんか下げちゃいけねぇ!」


「朱の血筋とかそんなのは関係無い!」


 声を上げる、拳を握り更に続ける。


「俺がもっと話しを聞くべきだった」


「……いや、俺が言わなかったのが悪いんだ」


「どういう事だ?」


 蒼には勇也が頭を下げる意味が解らない、改めて畑を見るが新芽を盗んでいるようにしか見えない。


「昨日の晩に愛沙に会いに来ると言ったのは畑の『手入れ』の事だったんだ」


「手入れ?」


「昨日、講堂で話した時に愛沙に用があると言ってただろ? 愛沙は2年や3年に殺気を向けられて本当は怖くて外にも出たくない、『この11人は愛沙の人間恐怖症を知ってたから、夜の内に畑の植え替えを自分達がやっておく』、と愛沙に許可をもらうために言ってたんだ」


「なんであの時に言わなかった?」


 蒼は体格の良い少年に言う。


「言ったら俺等では無く四臣家がやるだろ? それか農化街出身者の慈桜家使用人だろ? 『枯れる畑』と解って藤野さんに気付かれないように生きた畑にする人間が四臣家と使用人にいるのか?」


「?、どういう意味だ?」


 体格の良い少年は専門的な事を言っているわけでは無い、愛沙の畑ひ枯れる、それを愛沙に気付かれずに生きた畑にする人間はいるのか? と言っているのだ。


 勇也は納得している、蒼は理解出来ないのを感じ取り体格の良い少年は話す。


「農化街育ちでも無く畑の知識がある訳でも無い藤野さんが、学慈街に来てから毎日朝早くと夜遅くに悩みながらも頭から煙を出して畑の手入れをしている、

 何で朝と夜に水やりをやるんだ? と聞こうとしたら怯えられて人間恐怖症だと解った、

 人と関わりたく無いから、朝露の上に水をやり、夜風の中で眠る新芽に水をやるしか無かったんだ、人がいない時しか昼間の手入れを出来ないんだと……」


 思い出すように話すと愛沙の畑に視線を向けて更に続ける。


「この畑はそれだけじゃない、土がまだ未熟だ、おそらくはその辺のマニュアル本の知識しか無いんだ、日に日に弱る苗や新芽を泣きそうに手入れしていた……、

 アドバイスをしようとしても怯えられるだろうし、俺等は余計なお節介と解りながら少しでも育つように、藤野さんがいなくなった夜中に俺等の畑の土を混ぜたり、ミミズを入れたりしてこの畑を生かしてた……」


「それでも枯れるのか?」


「枯れる、」


 間髪入れず答えると更に続ける。


「南の街の畑は俺等農化街出身者が実習する土だ、農化街の人間でも厳しいここの土を、土を見れない藤野さんは畑の形にしちまった、

 種からの成長が遅く苗は萎(しお)れる、目で見て解る症状に悩むが原因が解らない、土が未熟なのが解らないから手入れより前の堆肥の分量から間違えている事に気づけない、

 その畑に大量の栄養が必要な夏野菜の苗……本来なら土ごと入れ替えるレベルなんだ」


「それなら鉢に入ってるのは土を入れ替えた状態の苗って事か?」


「農化街の人間や多少でも知識のあるヤツがこの畑を見たら『やり直し』を進める、それだと今まで藤野さんが畑に込めた気持ちが無になっちまう、

 俺等が生きた土でプラントに植え替えておけば、後は慈桜家使用人がその土に合わせて藤野さんの畑に合う土を用意する、それで藤野さんの畑は生き返る」


「余計な事じゃ無いだろ」


 愛沙がどう思うかは解らないが、蒼が聞く分には余計な事では無く、愛沙を思っての行動だと受け取る。


 いや……と体格の良い少年は首を左右に振る。


「俺等は他人の畑に無断に足を踏み入れたんだ、どんな綺麗事を言ってもその事実は変わらない、ここは藤野さんの畑、俺等は余計なお節介をしていた、……」


 チラッと茜バスに視線を向けプルプルと震えながら自分達を見る愛沙を見る。


「嬉しかったんだ、親の畑に背を向けて農業から離れる農化街の連中がいるのに……1年では畑に向き合っているのは俺等だけなのに……農化街出身でも無い藤野さんが畑と向き合ってる、」


 拳を握り奥歯を噛み締めると勇也に視線を向けて更に続ける。


「余計なお節介でいいんだ、俺等は余計なお節介をしてるんだ、夏野菜が出来て藤野さんが喜んでくれるだけでいいんだ、農業に向き合って作った俺等の土はそれで生きるんだ、朱の血筋?俺等を……」


 カンカンカン! カンカンカン!


 消防信号板を叩いたような音が響くと11人の少年は次々と倒れ気絶していく。


「苗木! 何してんだ!」


 意表を突く苗木の攻撃に蒼は声を上げる。


 パッ!と現れる苗木は鼻水と涙をダラダラと流し号泣。


「寝不足なんだよ!」


「……気絶させる事ないだろ」


「アヤちゃんが愛ちんの客人にするんだよ! 慈桜家に愛ちんの畑を作らせるんだよ!」


「なっ!?」


 バッ!と茜バスを見る。


 車内にいる茜は外からは見えないと解っていてもバツ悪そうにサッと視線を逸らす。


 蒼は苗木に視線を戻す。


「全部聞いてたのか?」


「逐一(ちくいち)どっこいなんだよ!!」


 首に巻くタオルで涙を拭きブビー! と鼻水を吹き出す。


 勇也は倒れて眠る11人を朱い眼で視る、体格の良い少年の肩に手を添える。


「蘇体治療か?」


「これぐらいしか俺には出来ないからな」


「客人にするのか?」


「……愛沙が決める事だ」


「北には俺から言っておく、『東桜臣家の監視を前提にした西桜臣本家の判断だ』ってな」


「四臣家として問題無いのか?」


「西桜臣本家だけなら問題だが、東桜臣家が監視するなら『当主会』での決議が黒でも東桜臣家の預かりだ」


「悪いな」


「いや、」


 蘇体治療をする勇也の横に座り内緒話しをするように小声で続ける。


「東桜臣家は『藤野愛沙の盾』になるなら、としか考えていない」


「口に出したら意味ないだろ」


「これから意味あるモノにするのが勇也の役目だ、何か切っ掛けがないと『藤野愛沙は今のまま』なだけだからな、……勇也の好きなようにすればいい、その為に『俺がいる』、使える肩書きなんて使ってなんぼだ」


「肩書きを使ってなんぼか……同意見だ」


「ほどほどにな」



 愛沙の畑は未熟な土で作物が育たない状態だった、少年達は愛沙の気持ちが籠る畑を護りたい、という一心で、毎晩自分達の畑の土やミミズを分けていた。


 昨日、愛沙が慈桜家に引越しするという不安の槍が少年達の一心に突き刺さる。


 少年達は学園から下校、着替えもせず時間を惜しむように農具や堆肥をリヤカーに積み、自分達の畑の土をリヤカーに積む、愛沙の畑に着いた時には夕方、太陽が沈み春の冷たい夜空の下、夜通し新芽を一苗(ひとなえ)一苗(ひとなえ)丁寧にプランターに植え替えた、畑と向き合う愛沙の気持ちを『未熟な土』だと否定され今までの気持ちを無下にされないように。


 愛沙が慈桜家に引越すという現実は少年達には青天の霹靂だったに違いない。


 慈桜家では畑が作れるのか?


 慈桜家にはこの畑をこのまま生かせる人間がいるのか?


 慈桜家には……慈桜家には……と声に出したかったに違いない。


 毎日頭から煙を出し泣きそうになりながら畑を手入れする愛沙の姿が鮮明に脳裏に流れたに違いない。


 少年達は強行するしか無かった、余計なお節介から踏み外し、脱線した自分達の押し付けという手入れの強行を。


 愛沙の畑に向き合う気持ちを生かす道が押し付けになる事に拳を握ったに違いない。

 気持ち悪がられて自分達の手入れが無駄になるかもしれない。

 完全否定の拒絶に怯えていたに違いない。

 秩序と法律に裁かれ、朱の血筋に裁かれると覚悟していたに違いない。


 夜通し冷たい風に晒されながら暗い畑の中で小さな新芽を探し、冷たく固くなった土で指先の感覚を失いながら丁寧に植え替えていた。


 自分達は報われなくてもいい、藤野愛沙が少しでも喜んでくれるなら……と思いながら。


 11人の少年が目覚めたのはその日の夕方、見慣れない屋根、見慣れない綺麗な布団、高級品1人1台の青樽美酒、見慣れない広い総畳の部屋。


「起きたか」


「!、南介!」


 体格の良い坊主頭の少年の斜向かいに座るのは南桜院耕介。


「隊長を付けろ」


「どこだここ?」


「慈桜家仮屋敷の道場だ」


「広いな……、……いや!そんな場合じゃない! なんで俺等が慈桜家に!?」


「お前等は西桜臣本家に藤野愛沙の客人として迎えられ、東桜臣家の監視の下に藤野愛沙の畑を育てる事を許された」


「ほ、本当か?」


「本当だ、……だが、藤野愛沙本人は『何も言っていない』、お前等がやっていた事を知り、お前等の気持ちを知り、何を感じて何を思っているのかは解らない」


「そんなもん、困ってるに決まってるだろ」


「東桜臣家は、『とりあえず慈桜家には南桜院家と同行し『余計なお節介』をする事は出来るようにした、今後どうするかは自分達で決めろ』、と言っていた、どうする? お前等が余計なお節介をしたいなら俺は付き合うぞ?」


「藤野さんが困るだろ、南介がいたら畑だって生き返る、俺等の役目は終わった」


「あいにくだがネギ畑で俺に藤野愛沙の畑を見てる暇は無い」


「慈桜家が広いとはいえ南介なら1人で出来るだろ」


「広さが問題では無い、『ここの土は南の街の土どころじゃない』からな、俺でもタデ科以外は広範囲を見れない」


「砂壌土か!?」


「焼き畑の末路、農薬汚染の末路、それ以上のエリア内の荒地の土だ」


 少年達は空いた口が塞がらなくなる、額からは汗が流れ出し握る拳に手汗が滲み出す。


「よ、余計な、余計なお節介どころじゃないだろ、レベルが違い過ぎる、それこそ慈桜家使用人が手伝うレベルだ」


「慈桜家使用人は一切手伝う事は無い、慈桜家では代々そうやって『畑を作っている』、決めるのはお前等だ」


「そうやって? ……作ってる?」


「一般人も朱の血筋に認められたら慈桜家に入る事は出来る、そしてお前等が今いるのは慈桜家だ、藤野愛沙の為にどうするかはお前等が決めろ」


 バッ! と立ち上がる、自分達が浴衣に着替えているのに気づく、細かい事を考えている暇はない、布団をたたむと道場を後にし玄関に行く、裸足のまま靴を履き外に出る。


 視界に入ったのは夕日に照らされながら広範囲の土を耕す勇也と蒼とミルク、玄関横に折り畳みの近代的で重曹な釣竿がありモンペと腹巻がぶら下がる、視界の端に捉えたのは畳20畳程の範囲を耕す愛沙と美礼と苗木と礼実。


 少年達に気付いた礼実が振り向くと愛沙も振り向く、視線が合うとプルプルと震える。


「ふ、藤野さん、後からちゃんと謝る、今は……土を見せてくれ、ここの土は格が違う……」


「……、……。」


 プルプルと震える、返答が出来ない愛沙に変わり美礼が返答する。


「ええで」


 少年達は畳20畳程の愛沙の畑予定地に入ると膝を曲げて土を握る。


「まずいな……」


 1人の少年はおもむろに土を口の中に入れる。


「食いよった!」


「お腹壊すよ!」


 少年達はおもむろに土を口の中に入れる、味わいながら南側の庭を見渡す。


「全部だな」


「掘るか?」


「そうだな、とりあえずこの範囲の四角(よくかく)と中央だ」


 スコップを手に取り愛沙の畑予定地を2人1組になり掘り始める。


「なにしとるん?」


「土を見るんだ、『この土は樹海を広げないエリア内の土だ』、一切の植物を受け付けない」


「!、あかんやろ」


「そうだな……、俺も未体験の土だ、ここから畑となると…………どうしたらいいか解らない」


 !••••••愛沙は頭頂部から煙が出始める。


『60だ!』


 屋敷側の左角を掘っていた少年2人が声を上げる、すると屋敷側右角を掘る少年2人が「60!」と声を上げ、「80!」「80!」と残りの角を掘っていた少年達が声を上げる。


 体格の良い坊主頭の少年は自分が掘った所の土を口に含む。


「中央は70か……」


「何が70なんや?」


「エリア内の土では無い土、雑草が生える土が60•70•80センチ掘れば出てくる」


「掘り返したらええんやな?」


「掘り返してもその分の量の畑になる土は取れない、しかも慈桜家は土を盛った位置に建ててある、1メートルから下は畑で使える土じゃない、『運が良ければその下に壌土がある』」


「そこまで掘ったらええんやな?」


「盛ってある慈桜家の土を10メートルから15メートルを掘れば元の地面の土が出てくる、『運が良ければ1メートル前後が壌土になってる』、その壌土を外に出し、掘った分を埋め変える、簡単に計算したら更に20メートルから30メートル掘って埋め立てる」


「……ガチ?」


「ガチだ、土は汚染には敏感だから藤野さんの畑のスペースだけでは周りの土の汚染に襲われる、

 南側の庭全体を掘り返してエリア内の土を一番下に入れる、下と東と西の庭からの汚染を防ぐために防染シートを張り、埋め変えれば畑を作る環境を作れる」


「土木工事やな」


「……その通りだ、土が未熟なら成長させればいいが土が汚染されて死んでたら入れ替えるのが現代の方法だ、それからも病気には気をつけないとまた入れ替えになるし……これは難題だな」


 少年達は坊主頭を掻く、土と過ごしてきたから解る『無理難題』、この土を朱の血筋と同じ年に生まれた代々の農化街の大人達は生きた土にしたのか? と尊敬する。


「1メートルぐらい掘ってシートを敷いて土を入れ替えるか?」


「それしか無いだろうな……」


『お前等? この土から逃げる事しか考えてないのか?』


 現れたのは耕介、ピチピチのTシャツからはムキムキの暑苦しい筋肉を浮かせる。


「逃げるとはなんだ! 先人が畑にする為に考えた方法だろ!」


「土と生きるのが農家だ、先人が逃げずに土に挑んだから生まれた方法だ、

 お前等は汚染された土しか無い時代が来たら民を餓死(うえじ)にするのか?、

 その時代に生まれた農家に先人のように方法を残そうとは思わないのか?」


「ぐ、ぐぐ、南介のクセにまともな事を言いやがって……」


「隊長と付けるなら『方法』を教えないでもないぞ?」


「うるせえ! もうガキじゃねぇんだ! 俺等はお前から卒業した! 方法なんか聞かなくても見つけてやる!!」


「そうか、それなら南介隊長は『穴を掘らずに畑にする』」


「おぉ! 出来るもんならやってみろ! お前の脳筋で考えた方法で畑になるんなら苦労しねぇ!」


 耕介は鍬を担ぎ勇也等が土を耕す場に行く、少年達は耕介を見送り顔を合わせると体格の良い少年に視線を向ける。


「この場だけでも隊長と呼べば良かったんじゃないか?」


「ダメだ、学園に入ってまで隊長と呼んだら逆戻りだ、学園に行く前の地獄の日々を忘れたのか?」


「……だな」


 少年達は思い出したくない過去を思い出したように苦笑いをする。


「知り合いやったんか?」


「知り合いというか腐れ縁というか……物心ついたらヤツの隊員になっていた、七日七晩ぶっ倒れるまで開墾をやらされていた」


「開墾ってなんや?」


「荒地を畑にする事を開墾と言うんだ」


「ここを開墾したらええやろ」


「開墾は畑に出来る土地を探すところから始まる、畑に出来る土だから開墾が成り立つだけで……、……んっ?」


 ハッ! と何かに気づき改めて周りを見渡す、目線が止まったのは西の門。


「木だ! 芝もある!」


 他の少年も体格の良い少年の視線の先を見る、西の門の先には西桜臣家の屋敷の裏庭、庭園がある、一斉に動き出す。


「俺等は土と雑草を持ってくる!」


「頼む!」


 少年2人は一輪車とスコップを持って西の門に向かう、残った少年達はリヤカーにあるカラのプラントを5つ出して土を入れる。


「どうしたん?」


「西の屋敷と慈桜家の屋敷は土で繋がっているのに汚染されてない、樹海も広がらないだけで『土は汚染されてない』、違う理由があるんだ」


「どういう意味や?」


「樹海の土とエリアの土は同じ土なんだ、だが、樹海には草木がありエリアには無い、答えは簡単だ! 土の分量に対しての堆肥量! 畑にする為の肥料を見極めれば『この土は畑になる!』、エリア内の土は汚染では無く生物を寄せ付けない純粋な土なんだ!」


「微生物のいない土が絵の具の白! 自分達で試行錯誤して色を与えて好きな土の色にする! 初めてだな! 南介の言った事が役に立ったのは!」


「借りだと思うな! あいつは俺等にボランティアだと言ってバイト代をヘソクリしてたクソ野郎だ!」


「5つの鉢で何するの?」


「ここの土と西の屋敷の土を5対5、6対4、7対3、8対2、9対1で混ぜて雑草を植える、早ければ今晩、明日には雑草が枯れるか萎(しお)れる、その中で雑草が生きてる鉢が雑草の生える土、『そのまま堆肥を混ぜて畑に出来る可能性がある土だ』、それを畑の周りの土にする、後は成分を調べて畑の土にするだけだ」


「南介の意味不明な雑学が役にたったな!」


「借りだと思うな! 鍬で畑を耕す俺等の横でこれ見よがしにバイト代でリースしたトラクターを使っていただろ!」


「全部の雑草が枯れたらどうするん?」


「西の屋敷にある土を食べれば土に足りない成分が解る、この土で西の土と同じ土を作ればいいだけだ」


「最初から作った方が早いやろ?」


「畑だけならソレでいいが、西東北の庭は畑じゃないだろ? 開墾は余計に土地を荒す作業じゃない、それに畑に植える苗や種で土の種類も違う、

『何も生えないレベル0の土をレベル5にして雑草が生(な)るとしたら、レベル6にして牧草、レベル7にしてジャガイモのような土を成長させる野菜、レベル8にしてトマトのような強い野菜、レベル9にしてネギや大根の土の中の野菜、レベル10にして果物』、

 藤野さんの夏野菜は特に複雑だ、レベル6からレベル10のそれぞれの土を使い分けなきゃならない、いや、この土が藤野さんの畑を更に高みにするかもしれない、憶測だが可能性は0じゃない、その為の5つのプランターだ」


「エリアの土に植物は生らないと固定観念を持っていたから思いつかなかったが、西の屋敷を栄養豊富な樹海と例えて慈桜家を栄養皆無のエリアと当てはめれば、栄養素のある樹海を作ればいいだけだ、それなら俺等の得意分野になる」


 美礼と苗木には既に解らない話し、礼実と愛沙はなるほどと言った感じで普段通り微笑み顔と俯く暗い顔で聞いている。


 苗木は難しい話よりも気になる事がある。


「土って美味しいの?」


「畑の土は美味い、だからミミズが土を食べに来る、畑にならない土はまずい、だからミミズがいなくなる」


『持ってきたぞ!』


 少年2人が一輪車に土を入れて持ってきた、体格の良い坊主頭の少年はおもむろに土を握り口に含む、美礼と苗木も土を握り口に含む。


「レベル5だな」


「グワッ! ぺっ! なんや! 土やないか!」


「騙されたんだよ!」


「いや、食物じゃなく土だからな、……ついでだからレベル0のエリアの土を食べてみろ」


「……、」


 美礼と苗木は不信な顔を向けながら鉢の中にある土を口に含む。


「?、んっ!、……土やないな」


「うん! 土じゃないね! 苦いよ!」


「雑草の土とエリアの土の違いが解るなら、藤野さんの新芽を植えた土との違いも解る、試してみろ」


 美礼と苗木は愛沙の畑の土と植え替えた土、所謂、愛沙の畑の新芽や苗を生かす為に使った自分達の畑から持ってきた土を口に含む。


「むっ! なんやこれ! 土に土の味が付いとる!」


「しっとりだよ!!」


「土に土の味が付いてしっとりしているというのは良い表現だ、

 土に堆肥などの栄養分がふんだんに含まれ水分がしっとりと程良く入っていれば微生物が増殖する、それが畑の土の基本である壌土だ、

 藤野さんの夏野菜だと更に複雑になる、壌土や砂壌土などの5種類以上の土を使い分けなきゃならない、それぞれ味も見た目も違うぞ」


「ほんまや! 茶色から茶色から茶色から茶色から茶色や!」


「茶色だけど茶色だよ!!」


「土だから茶色だ、細かく言えば新芽と苗でも作物で土が違う、

 種から苗になり土の成長を毎日見て、病気になってないか、土には栄養分があるか、水は足りてるか、そうやって毎日見て、畑と一緒に成長していくんだ、

 野菜も家畜も人間みたいに会話は出来ないからこっちが悩んで勉強して気付いてやらなきゃならない、……おもしろいだろ?」


「食えたらなんでもええな」


「私は野草派だよ」


「子育て出来ないタイプだな」


「誰が母性の塊やねん」


 ツッコミ待ちの発言だが、美礼の危険性からどこまでのツッコミが許されるのか解らない体格の良い少年は期待に応える事は出来ない。


「まぁいい、とりあえず……」


 一輪車にある土をプラントの中に入れて行く。


「日も暮れてきたし俺等は土を入れたら帰る、明日の昼には土の分量をまとめたマニュアルを作れる、問題は色々発生すると思うけど……」


「なに言うとん?お前等はアレやで……」


『風呂入って飯にするぞぉ』


 勇也の声が届く、視線を向けると赤褌一丁の勇也とトランクス一丁の蒼とカボチャパンツとランニングシャツのミルク、そして白褌一丁になった耕介が玄関に向かっていた。


「ムキムキマッチョに聞いとらんのか? お前等は愛沙の客人やから畑を作らなあかんのやで?」


「だから土の分量を……」


「土の分量で畑は出来んやろ、土を作って苗を植えて畑やろ、愛沙をなめたらあかんで? 何種類も土があるなんて予定外や、学園に行かんと朝から晩まで土とにらめっこして3年が終わるで?」


「い、いや、俺等がいたら困るだろ……」


「アホか、困っとったら頭から煙出とるやろ、混乱したらボンッや、順番があるんやで?」


「順番?」


「プルプルするのはどうしたらええか解らんみたいな感じや、それから困って煙が出るやろ、バリエーションが何種類かあるけど困っとるだけや、それが自分で解決できなくてボンッや、今はプルプルがおさまっとるやろ?」


 少年達はチラッと愛沙を見る。


「見てもプルプルしないんやったら大丈夫や」


「いや、それは第三者がそう思ってるだけで藤野さんは……」


 愛沙はプルプルと震え出す。


「プルプルしたやろ?お前が見当違いな事を言ったからや、困ったぁ困ったぁて感じや、愛沙なめたらあかんで? 生まれてこの方、先日まで会話した事あるのは私と苗木ちゃんだけや、15年で親以外で2人や、

 急に男11人に畑を救われとったぁ、畑を作ってもらうぅ、考えただけで頭の煙で雲が出来るっちゅうねん、

 だから西桜臣本家のアヤちゃんがお前等を愛沙の客人にして迎え入れたんや、少しでも慣れた時にお礼的な感じをしましょう的な感じや」


「いや、お礼なんて勝手にやってた事だか……」


 愛沙はプルプルと震え頭頂部から煙を出す。


「お前? 愛沙のプルプルはネタやないんやで?」


「いや! ネタとかそんなのは! ……、ふ、藤野さん、本当に困ってないのか?」


「……、」


「「…………。」」……無言の間に少年達は額から一滴の汗を流す。


「……、」


「「…………。」」……無言の間に少年達は額から大量の汗を流す。


「はい、……ありがとう、ございます」


「そ、そうか、良かった」


「ほんなら風呂入って飯や、食わん言うたらプルプルするで、

 あと会話は気をつけなあかん、基本喋らんからな、愛沙の取り扱いは野菜や家畜以上に難しいで」


「わ、わかった」


「お前等はええ方やで? 視線を向けただけでプルプル、声を聞いただけでプルプル、声をかけられたら煙、全員何かしら愛沙と会話しとるけどそいつとだけは一言も会話もしとらん」



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