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朱の足跡 fast contact  作者: 有知春秋
皆藤愛沙編
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13/19

第三章 上 芯にある一本の刀

 

 カンカンカン~~~……と木製のククリ刀を叩く音が無くなる、それは同時に不思議少女が不良と判断した者達の全滅を意味していた。


 ステージ上から見る光景は。


 立っている人数102人、内訳は松庭美礼と南桜院耕介そして100人の少女。新入生約800人中約600人と二年生約150人は座席や床で静かに気絶する。


 パッ!と美礼の前に現れたのは南原苗木、約750人を気絶させた不思議少女である。


「美礼ちゃん!? 不良は怖いね!!」


「苗木ちゃんはほんまスゴイなぁ、正直キツかったから助かったわぁ」


「西桜臣分家?」


 美礼を呼ぶのは耕介、苗木を不思議そうに見る。


「この子が南桜臣本家か?」


「?、苗木ちゃんが南本(みなほん)?」


「?、私南桜臣本家じゃないよ」


「南桜臣本家はその役割から自分が南桜臣本家とは知らされない、失礼だが名前と出身地を聞いてもいいか?」


「秘密だよ!?」


「……苗木という名前は農化街に通じる名前だが?」


「南原苗木だよ!? 出身地は馬小屋だよ!!」


「馬小屋? 馬房なら農化街だな」


「海も見えるんだよ!」


 蒼も悩まされた『秘密だよ』から始まる苗木なりの警戒、耕介は気にする事なく話しを進める。


「漁師街だな、苗字が南原か……」


「なんや? 農化街と漁師街なら南桜院家の膝元やろ、知らん名前なんか?」


「南原は南桜臣本家の執行部隊の者達に与えられる苗字だ、『引越しも多く出身地も子供にしてみればあって無いようなものだ』、元々の出身地と苗字は別にある」


「執行部隊って虚無僧やろ?苗木ちゃんパパは不動産屋やで? 南桜臣本家やないんちゃう?」


「そうだな、不動産屋で苗字が南原なら苗木の親は不動産屋兼執行部隊となる、苗木は南桜臣本家では無い、本家の棟梁は『農化街住みの井上(いのうえ)』だからな」


「南桜臣本家は井上なん?」


「井上だ、……!」


「よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!! みんなで井上を探すで!!」


「南桜臣本家狩りだよ!?」


 美礼と苗木は気絶する新入生のブレザーや袴制服から生徒手帳を出して井上を探す、100人の少女は残りの約200人に生徒手帳を見せてもらう。


「思わず口を滑らせてしまった、」


 南桜臣本家の井上という苗字は、南桜院家としての耕介と南桜臣本家当主(棟梁)に接点があったから知るだけで、美礼や蒼の四臣家や他の四院家も知らない。

 思わず口を滑らせた耕介だが、南桜臣本家の井上君か井上さんは自分が南桜臣本家だと知らされていない、苗字を知られて新入生の中で探されるのは結構な大問題だが『表に出て来ないのが南桜臣本家』なので、この場にはいないだろうと予測する。


 耕介は山賊さながらに身包みを剥ぐ美礼と苗木に向けていた視線をステージ上に向ける。


「北桜臣家? 四院家の預かりで構わないか?」


「2年3年が引き下がらないようなら藤野愛沙の問題は解決しない、朱の血筋に全滅させられたくなければ『良い線引き』をする事だ、四臣家として聞く準備はしておく」


「了解した、」


 視界を2階3階に向ける、すぅと息を吸い込み大声で続ける。


「新入生! 2年! 3年に告ぐ!! 藤野愛沙の問題に物申したい者!! 南桜臣分家の応えに不満がある者!! このまま講堂に残り!! 四院家にその旨を話せ!!、

 後から問題を掘り返す! 独自の判断で動く! 四臣家や四院家を蔑ろにする者は遠慮なく去れ!! その者の処罰は朱の血筋に一任する!!」


 新入生200人に視線を向ける。


「新入生? 今の話しの通りだ、この問題の解決の仕方で自分達の将来を左右させられる者が2年3年にはいる、もちろん新入生の中にもいると思う、

 学園での勉強を楽しみにしていた者もいると思うが、明日から3日間学園を休校にする、各々で自分が思う事があれば四院家に話してくれ、悪いようにはしない」


「は、はい」


 頷く新入生、講堂の出入口の鍵が開く音が耳に届く、視線を向けると30代半ばの教師2人(朝に勇也達と会話した教師)とスクラブで統一した救命救急医を思わす集団が講堂内に入ってくる。


 男性教師は1階を見渡すと2階3階に視界を向ける。


「どうするんだ? まだやるなら止めないが『本当の決着』はつかずに泣き寝入りする事になるぞ?」


 2階3階では席から立ち上がり講堂を後にするグループとそのまま残るグループに分かれる。

 男性教師はスクラブで統一した集団の中にいる白衣を着た女性に視線を向け頷く、女性が了解というように頷き返すとスクラブで統一した集団はトリアージタッグと救急箱を片手に走り出す。


 新入生はチラチラとステージ上にいる勇也と気絶をする愛沙を伺うように見る、刀身を鞘に納める勇也、礼実に支えられる愛沙。


 新入生の中から体格の良い坊主頭の少年が出てくる、歩を進めて向かう先はステージ前、勇也を見上げる。


「朱の血筋?」


「?、なんだ?」


「……、いや、あぁ、悪い、なんでもない……」


「?、遠慮してんのか?」


「遠慮というか……藤野さんは娘の世話役なんだろ? 今後は慈桜家の屋敷に住むのか?」


 神妙な面持ちで愛沙の今後を聞く。


「愛沙の問題は大きいからな……愛沙の意思を尊重したいが2年3年がこの調子だと安全を優先するしかない」


「そうだよな、……」


「どうした?」


「いや、今晩屋敷に行ってもいいか?」


「?、愛沙に用があるのか?」


「そうだな」


「了解しかねる、」


 勇也と少年の会話に割り込むように真一が入る、メガネをクイッと上げると更に続ける。


「藤野愛沙は極度の人間恐怖症だ、本来ならば外に出歩く事さえも苦痛であり学園に通うなど皆無なんだ、

 四臣家は藤野愛沙に学園を卒業してもらう事を第一にしている、精神面に負荷のかかる来客は控えてほしい」


「わかった、悪かったな変な気を回せちまって」


 振り返ると背後にいる坊主頭の少年10人に頷く、体格の良い坊主頭の少年に応えるように頷くと11人は歩を進め講堂出入口に向かう。


 南桜院耕介はその11人の背中へ向けていた視線をステージ上の蒼が抱くミルクに向ける。


「娘っ子? ネギ畑は屋敷に作ったらダメなのか?」


「むむ? ワタキは世話になる身の上じゃ、勝手に畑を作れないんじゃ」


「そうか、」


 チラッと勇也を見ると続ける。


「作ったらダメなのか?」


「管理は?」


「俺が1から10まで教える」


「それなら大丈夫だ、ミルク? 明日から3日間は学園が休みだ、隊長にネギ畑の作り方を教えてもらうか?」


「大盤振舞じゃ!?」


「あっ……隊長は3日間忙しいか」


「藤野愛沙の問題は主に古白街の問題だ、俺は3日間暇になるだろうしそのつもりだった、明日の朝にでも行く」


「今からじゃ!? 今から畑作るんじゃ!?」


「今からか!! よしっ!! 今から畑を作りに行くぞ!!」


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 自分のネギ畑が持てる事に嬉しさが湧き出る。


 蒼は勇也に視線を向ける、頷くのを確認するとミルクを降ろす、ミルクはステージから飛び降り耕介にそのまま飛び掛かる。


 一同は講堂を後にする、西校舎の純和風な廊下を進み、西側大階段のある玄関から校舎を後にする。


 講堂から出て慈桜家仮屋敷に着くまでの間、愛沙は気絶、美礼はお姫様抱っこをするワイルドさを出す。


 ミルクは愛沙の代わりと言わんばかりに耕介にへばり付く、どんなネギ畑にしたいかをミルクなりに細かく話し、耕介は子供慣れしているのか一つ一つミルクに合わせるように返答していた。


 一時間後。


 慈桜家仮屋敷の一室、愛沙が眼が覚めた場所は客間、見慣れない部屋にプルプルと震え出す、布団の横には青樽美酒が身体に良さそうな白い煙を出していた。


 自分がいつ気絶したのか思い出す、ステージの上、向けらた威圧と殺気、怖さで涙が流れる。


「失礼します」


 襖の奥から声が届く、襖が開くとビクッと体を強張らせる、現れたのは礼実。


「お目覚めになりましたか」


 両手で持つ御膳の上には用意していたように急須と湯飲み茶碗、愛沙の元に行く。


 愛沙はプルプルと震える手で涙を拭き取る。


「……申し訳ありません」


「気持ちが落ち着きます、お飲みください」


 急須からお茶を注ぎ入れる、軽く湯気が出る湯飲み茶碗を愛沙に差し出す。


「……申し訳ありません」


「謝らなければならないのは私(わたくし)の方です、四臣家の保護下にあると教える為とはいえ、愛沙さんの心に傷を付けてしまいました、申し訳ありません」


 深く頭を下げる。


「!、あ、頭をお上げください」


 ゆっくりと頭を上げる礼実から視線を逸らし湯飲み茶碗を取る。


「いただきます」


 口の中を湿らす程度にお茶を飲む。


「今後のお話しをしてもよろしいですか?」


「……はい」


「愛沙さんの身の安全を第一に慈桜家に住居を移して頂きます、……」


 愛沙の反応を感じ取る、鼓動に変化は無く、こうなる事を覚悟していたと礼実は受け取る、返答がない為更に続ける。


「学園では四臣家と藤野家の関わりは問題視していません、帯刀していた刀がお父様『富士』が打った刀なのも問題ありません、

 問題視しているのは、勇也様が愛沙さんを『ミルクの世話役』だと言った事になります、

 刀屋藤野の跡継ぎが世話役になるのは、世話役を育てた家業である刀屋藤野が存続する事を意味します、

 朱の血筋と藤野家の繋がりが11年前に確立されていたと思われたでしょう」


「……私(わたくし)が、学園に通わなければよいだけです、最初から、通うつもりも無かったので」


「何故、制服を着ていたのですか?」


 もしも愛沙が最初から学園に通う気がなければ、朝に苗木の制服を届けに来た時に私服を着ている、俯く愛沙に礼実は確信に近い推測を続ける。


「学園には通いたい、通いたいけど通えない、と愛沙さんは思われているのでは?」


「……。」


「申し上げにくいのですが、勇也様が11年前の自分の罪を知れば、愛沙さんが学園に通わなくとも刀屋藤野を残します、民の声を聞かずに強行するでしょう、

 愛沙さんは『刀を打てない』と聞いております、将来、学園を卒業して家業の経営を継ぐ道か朱の血筋に強制される家業の道しか愛沙さんにはありません、

 前者ならば四臣家はお力になれますが後者は四臣家の力が及びません」


「……。」


「学園は3日間お休みです、勇也様が愛沙さんを学園に通い難いようにしてしまったので、四院家と四臣家で民との線引きに動く時間です、

 複雑な気持ちを整理するには少ない時間ですが、一つの覚悟を決める時間には十分、

 足りなければ3日とは言わず、気持ちが整理するまでここを我が家と思いながらお過ごし下さい、ミルクも喜びます」


「……親は、無断で住まいを変えた私(わたくし)を何と言っておりますか?」


 愛沙は四臣家の保護は学園内だけだと思っていた為、本来は西の街から学園に通う予定が家庭菜園をやりたい気持ちから苗木と住む事にした、親には言おうとしたのだが『いずれは西の街に戻る事になる』と思っていた為、余計な心配をさせないように連絡をしなかった、だが、問題は自分が考えていたよりも大きくなり今に至る。


「私(わたくし)が朝に愛沙さんだと解った後に北桜臣家様と忍(堀井竪郎)に伝えました、

 ですが、忍が苗木さんの能力に畏怖を感じ取り、身元をお調べになった際に愛沙さんに行き着き、私(わたくし)が伝える前に知るところにありました、

 ご安心下さい、親御様には一切伝えておりません」


「……御迷惑をお掛けしました」


 ドタドタドタドタと廊下を走る音が客間に近ずく、愛沙はビクッと身体を強張らせプルプルと震える。


「ご安心下さい、ミルクと美礼さんです」


 走る足音は美礼とミルク、礼実はそう捉えているがバンッ!と障子を開いたのは苗木。


「愛ちん!? ムキムキマッチョがすごいんだよ!!」


「愛沙!? おもろいアホがおるで!!」


「ビリビリのバリバリじゃ!!」


 首にタオルを巻きモンペにTシャツを泥だらけにする苗木、鳶職人が着る黒色の超超ロングと黒色の鯉口シャツを着る美礼、カボチャパンツにTシャツのミルクが現れる。


「行くで!?あのアホは見ないと損や!」


 愛沙の手を取り無理矢理連れ出す、その後に苗木とミルクも続き、客間には礼実だけが取り残された。


「……、……忍?」


「はい」


 礼実が出てきた逆側の襖から竪郎が現れる。


「四院家の線引きはどのように進んでいますか?」


「藤野愛沙に不穏ある者達はやはり古白街の名家です、西桜院家が言葉を先送りにしているのは『刀に興味を持った君主に持って行かれた刀匠富士の刀』を今尚使われている事です、朱の血筋と藤野家を繋いでいたのではないか?と」


「その者等は11年間朱の血筋が実用し、今尚刃が生きている事を解って言っているのですか?」


「刀を打てない藤野愛沙が研いでいたのでは……と」


「朱の血筋が11年間同じ刀を持ち、研ぎ師が刃を研いだらどのようになりますか?」


「刀ではなくなります、刀匠富士の名を末代まで残す価値が十分にあると思います、しかし……」


「違う刀を差し上げていたとでも言っているのですか?」


「はい」


「あの刀は11年前に勇也様が刀屋藤野から持ち出した刀に間違いありません、西桜院家に伝えなさい、『11年前の刀でも差し出された刀でも構いません、試してみなさい』と、

 それでも刀匠富士の刀が解らぬ恥さらしは忍が処分しなさい」


「かしこまりました」


 朱の血筋は政治をしない、そして勇也が竪郎に対して命令したのは『下がれ』のみ、朱の血筋は自分の手を汚す人間性である。

 真一が勇也に言った竪郎に対して暗殺の命令をする時は相手の実力を計ってから、と言うのも『朱の血筋(自分)でも敵わない相手の暗殺は諦めろ』と含ませていた事になる。


 その朱の血筋が諦める命令を南桜臣分家に命令するのが西桜臣家、正確には朱の血筋の結婚相手だ。


 だが間違えないで欲しい、『朱の血筋の政治を代行するのは北桜臣家の役割』、現在礼実が竪郎に対して命令したのは、北桜臣家の政治がより良く進む筋道であり、北桜臣家では判断出来ない方法である。


 簡単に言うと『朱の血筋を矢面に立たせて民に知らしめる』という意味だ、更に解りやすく言うと『勇也が完全不利な状況を民との交渉の線引きにして愛沙を生かし勇也を捨てるという事になる。


 礼実はミルクがいる前提で勇也を捨て、愛沙を生かす決断をあっさりとしたのだ。


 場所は変わり玄関前。


 シュ~~~……と頭頂部から白い煙を出す愛沙、その視線の先では。


「「どぅおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」


 猛烈な勢いで鍬で土を耕す3人、赤褌一丁の勇也、トランクス一丁の蒼、白褌一丁の耕介、圧倒的に耕介が勝り勇也と蒼が後を追いかけている状態だ。


「愛沙!? アレや! アレ見てみぃ!?」


 美礼が指を差した先には白を基調にした浴衣とブレザー制服が落ちている、その横に引き千切られたように散らばるブレザー制服。


「ムキムキマッチョが鍬を振り上げたらビリビリのバリバリだよ!?」


「セクハラやでほんま!?」


「ネギ隊長はスゴイんじゃ!!」


 ボンッ! と愛沙の頭から空気砲が放たれる。


「愛ちん!? 私等も耕すよ!」


 苗木は鍬を愛沙に渡すとミルクと一緒に土を耕しに行く。


 頭からシュ~~~と煙を上げる愛沙、鍬を持つ手に力が入っていない、そんな愛沙に美礼は話す。


「愛沙? 朱の血筋はアホやねん、とんでもないアホやねん、あの褌天パは特にアホや」


「?」


 頭に? を浮かべる、雰囲気から美礼が何かを伝えたいというのが解る。


「朱の血筋から見たら西桜臣家の人間以外は異性の区別が出来ん、嫌われても猫に無視された程度にしか思わん、解るやろ?」


「うん」


「天パだから愛沙に嫌われとる、愛沙を引越しさせる事にしたから嫌われる、そんな事を考えとんねん」


「私の事、話したの?」


「話しとらん、ネギ畑よりも愛沙の畑が先だ、ってミルクちゃんに言うた時はコイツほんまに朱の血筋か? って思ったで」


「……思い出したのかな」


「愛沙が寝とる時な、2年と3年がアホ天パと愛沙に殺気を向けとってな、お前は手を出すなぁ言うたんやけど、あのアホ天パはマイク取って愛沙に文句あるヤツ出てこいとか言いよった、

 おかしいやろ? 殺気を向けられたら間髪入れずが朱の血筋や、それに自分でなく愛沙に文句あるヤツ言うとる、……愛沙? 西桜臣家の血が入っとるんちゃう?」


「そうなの?」


「愛沙は藤やからなぁ、松か桜やったら西桜臣家の血が入っとるんやけどなぁ、これ内緒やで?」


「うん」


「他にもおかしいのがあるんやで、昨日今日で大勢が傷付いとるのに蘇体治療をしたのは明流だけや、

 西桜臣家の私以上に愛沙と明流には気を使っとる、気を使う時点でおかしいんやけど……あのアホ天パは朱の血筋らしくないねん」


「話すの?」


 美礼らしくない長話をする時は遠回しに気を使っている時になる、と愛沙は11年の付き合いで解っている。


「自分から知って暴れられるより、言って暴れたら斬る方がええかなぁ……なんてな」


「……明日、私から話してもいいかな?」


「大丈夫なん?」


「お孫様(勇也)の芯にある一本の刀を知りたいの」


「そんなんサビて折れとるで」


「打ち直し磨き上げるのが刀匠だけど……刀匠の芯にある一本の刀が必要か必要じゃないかはお孫様が決める事だから」


「朱の血筋やと言うのを忘れたらあかんで?」


「うん」


 美礼も蒼と同じく勇也の人間性が朱の血筋らしくないと感じていた、そんな美礼からの勇也の話しから愛沙は自分から11年前の事を話す決心をする、朱の血筋らしくない勇也だから『らしくない答え』を出す、と信じて。


「んっ? 明流やないか?」


「?」


 南門から両肩を落として猫背になる明流が現れる、右手にA4サイズの紙が一枚、トボトボフラフラと土を耕す庭を歩き進めると苗木の前で止まる。


「苗木さん、使ってない秘密基地使わせて」


「?、どうしたの?」


「どうしたんや?」


 美礼と愛沙が歩み寄る。


「……四面楚歌を初めて見た」


「四面楚歌?」


「俺の借りてるアパートの部屋、両隣上下っていうかアパートの部屋全部が1年のヤツ等の部屋だった」


「「?」」……頭に?を浮かべる美礼•苗木•愛沙•ミルク。


「それだけならいいけど……帰ったらポストにコレが」


 美礼に紙を渡す、その中の内容は。


「未智明流に安息(やすいき)は無い、朱の血筋から得る甘い汁は未智明流の血に変える?」


「美礼ちゃん、安息(あんそく)だよ」


「これなんて読むの!?」


「?、なんや漢字がいっぱいやな、愛沙? なんて読むんや?」


 愛沙に用紙を渡す。


「……、未智明流に安息は無い、朱の血筋から得る甘い汁は未智明流の血に変える、

 本日、我等は学園不合格者の無念を晴らす為、【勇士同盟(ゆうしどうめい)未智明流(みちあける)討伐隊(とうばつたい)】を結成する、

 我等に悪意は無い、将来漁師になるという未智明流の大義を認めている、だが、学園には漁師科目は無い、

 未智明流は生産者育成学校に通うべきであり、学園に入学出来ず苦湯を飲まされた数多い不合格者を愚弄した、

 苦湯を飲まされ涙を流した者達を代表し、我等が未智明流に苦湯を飲ませ無念を晴らす、心同じくする者の入隊を求む、……」


 額に汗を溜める愛沙、笑いを堪える美礼と苗木、ミルクには何を言っているか解らず口を開けて明流を見ている。


 明流はため息混じりに話す。


「玄関前でソレを読んでたら勇士同盟のヤツに見つかった、大声で人の名前を叫んだと思ったら全部屋から勇士同盟の連中が出てきた、どうやら俺の住んでたアパートは勇士同盟の本部になっていたみたいだ」


 ぎゃはははははははははははははははははははははははははは!!!!


 人の不幸は蜜の味と言わんばかりに大爆笑する美礼と苗木、そんな2人の大笑いに気付いた勇也•蒼•耕介が来る、愛沙はほぼ全裸の3人が近ずいてくるのを見るとポポポポポと頭頂部から輪っか状の煙を出す。


「これ見てみい! 明流の青春が熱血漫画になりよった!」


「楽しみなんだよ! 楽しみなんだよ!」


「なっ!? 笑い事じゃねぇよ!? 助けろよ!?」


 勇也は勇士同盟未智明流討伐隊人員募集の用紙を受け取る、覗き込むように蒼と耕介も内容を読むとぷっ! と吹き出し大笑いする。


「笑ってる場合じゃないだろ!? 四臣家と四院家で止(や)めさせろよ!!」


「明流?! コレは四臣家では無理だ! 第一、学園で将来漁師になるなんて言った明流が悪い! 自業自得に関与出来ねぇよ!」


「四院家も無理だ! 漁師科目の無い学園に漁師になると言って入学したのを不合格者が知ったら明流を狙って暴動が起こる! この勇士同盟は狙ってか狙わないでか不合格者等の暴動を抑止する集団になる!」


「見捨てんなよ!?」


「知らん知らん、土いじり再開だ、苗木にでも助けてもらえ」


「そうだな、四臣家四院家が出ると火に油だ、触らぬ明流に祟りなしだ」


 蒼と耕介は土起こしを再開、それにミルクが続く。


 苗木は背中から大量の鍵が繋がるリングとファイルケースを出す。


「明流!? 鍵と部屋の説明書だよ! 好きな所に住むんだよ!!」


「苗木さん? 助けてくれる?」


「飽きたら助けるんだよ!」


「ダメだ、まったく助ける気が無い……」


 リングとファイルを受け取るとため息を吐きながら地面に座る。


「住む場所だけでも安息の地にしなければ……」


「ここに住めばいいだろ?」


 ? ……一同は頭に? を浮かべる。


「住めるわけないだろ」


「なんでだ? 部屋余ってるぞ?」


「そういう問題じゃないだろ、本来なら一般人の俺が四臣家の門を通ってここにいるのもあり得ないんだ」


「それは四臣家や四院家の秩序や法律だろ? 明流は俺の友達だから出入り自由にしたんだ、それに俺が友達だって紹介したから問題が大きくなった」


「……。」


「それに勇士同盟がこんな紙を配ってたら住む場所なんて毎日変えないとダメだろ、ここに住んで何か問題なら一つ一つ片付けていけばいいだけだ、とりあえず出入り自由なんだから毎日泊まりに来るでもいんじゃないか?」


「大丈夫なのか?」


「美礼? 大丈夫じゃないのか?」


「大丈夫やないけど『たまたま』毎日泊まりに来るなら問題ないやろ、甘い汁や言うて文句あるヤツはおるけど、朱の血筋の友達はレアやからな、どうやったら朱の血筋と友達になれるかを知る教育にもなる、教育なら明流を護る100人のボディガードが『たまたま』おるかもしれん、『たまたま』やで?」


「『たまたま』ならいいみたいだ」


「『たまたま』毎日泊まりに来て、『たまたま』100人に護られればいんだな?」


「『たまたま』な」


「『たまたま』やで」



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