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朱の足跡 fast contact  作者: 有知春秋
皆藤愛沙編
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12/19

第二章 講堂の中の不信感

 

 光財学園校舎は大きく3つに分かれている。


 西校舎、古白街の伝統と文化を継いで行く為に必要な事を学ぶ、校舎内には風情のある純和風庭園や座敷などがある。


 東校舎、美岩街の科学を学び、新しい科学を生むために必要な事を学ぶ、校舎内は階段教室や研究室などがある。


 中央校舎、農化街にある農業や酪農を学ぶ、農業や酪農を学ぶのは基本的には校舎裏の敷地になる、校舎内は農業や酪農の知識と生体を学ぶ階段教室になる。


 そして南校舎は学園生徒が共同で使う『教室』が多々ある、その二つを紹介する。


 食堂、中央校舎の1階大階段の裏にあり1000人以上を収納出来る、美岩風•古白風•農化風の料理を学び、料理人や職人を目指す者の教室になる。食材は校舎裏で学園生が育てた作物や家畜になる。


 そして西校舎側の南校舎にある講堂——


 現在、学園生が集まる講堂は1階から3階までの吹き抜けになる洋館(オペラ)風のシックな大空間。


 1階にはステージと階段席1500席に新入生約800人が集まる(約200人は入院中)、2階と3階は1階を見下ろせるように三日月型になりそれぞれ1000席ある、2階には二年生3階には三年生がグループを作って疎らに座る。


 新入生は学園の門を通り校庭を歩き校舎内に入る、ごく普通の通学風景に心を躍らせていた。


 門の前では教師に「全校集会は一時間遅れる、講堂で待機してるように」と言われ、先日の入学式では入れなかった校舎内に入る。


 王宮を思わす広い玄関ホール、正面には大階段、左右には東校舎と西校舎に繋がる廊下、新入生は光財学園の生徒になったという感動が湧き出た。


『自分は勝ち組だ』と錯覚するには十分。


 1階の講堂出入口の扉を開ける、中に一歩入った瞬間、『自分達は学園(ここ)では負け組』というのを教わる。


 視界に入る1階1500席に座る同じ新入生は肩を落とし俯く、震えている者もいる、間違えないで欲しい、1階にいる新入生は各街で勝ち抜いて光財学園に入学を認められたその年で最も優秀な強者。


 だが、所詮は入学を認められた程度のレベル。


 扉から一歩講堂内に入り二歩目三歩目と歩を進める度に『上からの重圧が身体を襲う』、早足になり重圧から逃げるように席に行く、座ったからといって安堵は無い、上を見れない、正確には頭を上げるというただそれだけの行為も出来無い。


 重圧の正体は2階3階にいる上級生、低脳な不良が罵倒を浴びせている訳では無い、講堂内はザワつき一つなく静まり返っている、上級生は新入生を『ただ見ているだけ』だ。


 そのただ見ているだけという行為が重圧になり新入生にストレス性の吐き気を与える。


 しかし、新入生の中でえずく者はいない、咳払いする者もいない、えずいて咳払いした瞬間に全ての重圧が自分に向けられると思い、ただただ重圧に堪えている。


 扉がバタンと閉まりガチャと鍵が締められる講堂内に響く、新入生の頭に最初に過ぎった言葉は『逃げ道が……』だった、そこに——


 タタタタタタタと歩幅の小さい軽い足取りを踏む音がステージ上から届く、気になるが頭を上げる事は出来無い。


「ほあぁぁぁぁぁぁぁぁ!! いっぱいじゃあ!? いっぱいじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 この声は!! と思わず頭を上げる、ステージ上には先日元気一杯に現れたオカッパ頭の幼女。


 更に、ステージ横からタタタタタタタと足早に現れたショートボブの少女、興奮するオカッパ幼女を捕まえる。その時には1階2階3階の視線はステージ上の2人に集まっていた。


 オカッパ幼女は興奮して腕の中で大暴れ、ショートボブの少女はそのままステージ横に向きを変え歩を進める、ふと自分に向けられる視線に気づく、気弱なタレ目に涙が溜まり身体がプルプルと震えだす、『だ、大丈夫か』と思わず声をかけたくなる怯えを見る事数秒、ショートボブの少女はフラフラと立ち眩みをするように揺れ出し頭頂部からプシュ〜と白い煙を出す、『愛沙さん!』とステージ横から少女の声が届く、その瞬間、ボンッ! と頭頂部から空気砲が放たれた。


「な、なんだ今の……?」


「人間から煙が出たぞ……」


「東桜臣家のAIか……?」


 ザワつく講堂内、ステージ上では微笑み顔の少女が現れ2人に近づく、その後ろから『あかんであかんで』と言いながら微笑み顔の少女を追い越し、オカッパ幼女を抱くショートボブの少女を担ぎ上げる茶髪の少女、そのままステージ横に戻る。その後ろを落ち込みながら微笑み顔の少女は付いて行く。


 先日の入学式に参加した新入生は事情を知るため額に汗を溜める程度、2階3階の上級生は……


「なんだ今の幼女?」


「今年から保育授業でも始めたのか?」


「それは出来無いわよ」


「だよな」


「「(なんだ今の幼女?)」」


 困惑する上級生、少しだが気がまぎれた新入生、講堂内は疎らにだがザワめきが出る。


 新入生が内緒話しをするようにオカッパ幼女の話しをしているとステージ横から天パ頭の少年が現れた、その瞬間、2階3階からの重圧が先程以上に自分達を襲う、「ひっ!」と怯える声を上げた者が数人、その後は一瞬で静まり返り講堂内は下駄で歩く音のみが響く。


 上級生が見下ろし新入生がチラッと見るステージ上には朱の血筋慈桜勇也、白色を基調にした浴衣にオレンジ色の帯、黒塗りの刀を帯刀している。教壇を前に立つと1階2階3階と順番にゆっくりと見渡す。


 口元を笑わすと1階の新入生を見直す、そこには2階3階からの重圧でまともに自分を見れない新入生が大半、カチッとマイクのスイッチを入れる。


 朱の血筋の挨拶を待つように講堂内は静まり返っている、息を呑む音も無い、その講堂内に第一声が響く。


「なんだお前等? 上にいる連中にビビってんのか?」


 !……呆れるように言われる第一声、奥歯を噛み締める者はいるが言い返せる者はいない。


「仕方ねぇなぁ」


 ?……視界の中では勇也が鼻から息を出しながら2階3階に視線を向けている、その瞬間。


「おい、遊んでんじゃねぇぞ」


 効果音は無いが胸にドンッ!!!! と響く威圧を上級生は感じる。講堂内に立ち込めていた重圧はサァ〜と風が流していったように相殺された。


 勇也は口元を笑わせながら2階3階に向けていた視線を1階にいる新入生に向ける。


「楽になったか?」


 重圧に押し潰されていた新入生は上級生からの重圧が無くなったのを肌で感じる、重くなっていた身体が軽くなり深く息を吸う。


「よし、まずは自己紹介だな、今日からお前等のヌシになる慈桜勇也だ」


 2秒程空ける、先日のように向かってくる者がいないのを確認すると更に続ける。


「ヌシと言っても勘違いするな、俺には秩序は無いし法律も無いし科学も無い、あるのは俺がヌシであるという事実のみだ、弱肉強食の元に強い者は遠慮無く挑んで来い、だが、

 今みたいな上からの遊びでビビる程度では修行不足だ、正直に言ったら『この程度』なら遊びにもならない、解るな?」


 新入生の中で返答する者はいない、奥歯を噛み締め悔しさを顔に出す程度の抵抗しか出来無い。


「上にいる連中に悔しさがあるか? 俺に言われて悔しさがあるか? 自分の弱さに悔しさがあるか? 『俺は一度お前等を助けた』、この借りはデカいぞ」


 新入生1人1人を見て続ける。


「お前、悔しさがあるなら立ち上がれ、お前、奥歯を噛み締める暇があったら立ち上がれ、俺の縄張りにいるからには悔しさがある限り立ち上がれ、

 その悔しさがお前等を強くする、その悔しさが上にいる連中よりもお前等を強くする、その悔しさを俺は何度もお前等に与えてやる、」


 すぅ〜と息を吸い込むと更に続ける。


「三年間悔しさに堪え抜け!! お前等は上にいる連中が雑魚に見えるぐらいに強くなれ!! それで借りはチャラだ!!」


 疎らに立ち上がる新入生、拳を握り締めながら次々と立ち上がりステージ上の朱の血筋慈桜勇也を一点に見る。


「俺の縄張りにいる事を自覚すれ、

 俺の縄張りにいる事に自信を持て、

 俺がお前等のヌシだという事を理解すれ」


 朱い眼になり新入生を視る、上級生からの重圧とは桁違いの自覚と自信の強要、だが桁違いの強要は心地良い興奮を湧き上がらせ、新入生全員が立ち上がり拳を握り締め、湧き上がる興奮を吐き出す場を探すように勇也を見る。


「お前等!? 上にいる連中に負けんじゃねぇぞ!! 苦湯なら喜んで飲んでやれ!! 今いない連中にも言っておけ!? 三年後全員で俺に挑み!! 三年後全員で腹一杯飯を食うぞってな!? 解ったか!!!!」


 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!


 野次や罵倒は一切無い、興奮する1人1人が黒目に戻す勇也に拳を向け足踏みする、振動で講堂が揺れる、この時には上級生の重圧を気にする新入生はいない。


 解っているのだ、正確には思い出したのだ、朱の血筋がいる世代がどの世代よりも強く、朱の血筋のいる世代は例年通り『普通』には勝ち抜けない世代だという事を。


 2階から新入生を見下ろす二年生、日陰に追いやられたように端に固まる50人程度のグループ、影で姿ははっきりとは見えないがリーダー格であろう3人の少年と1人の少女は口元を笑わせる。


「上級生から新入生への第一試験、脱落者0、手間が増えたと言うべきか?」


 長髪の少年は隣に座る体格の良い少年に言う。


「毎年3分の1はいなくなって静かになるからな、楽しみが増えたと受け取るべきだ」


 体格の良い少年は拳を握り暑苦しく汗を流す。


「喜ばしい限りです」


 女袴の制服を着る少女は勇也を真っ直ぐに見る。


「問題はここからだ」


 白衣を羽織る少年は気だるそうに言う。


 他のグループを作る上級生も新入生を迎え入れるように口元を笑わせていた。


 勇也は盛り上がる新入生から2階3階に視界を向ける、自分が向けた威圧を無いモノとし変わらない気配に「さすがだな……」と呟く、そして「(簡単にはいかないな)」と自分をヌシと認めていない上級生に嬉しさが湧き出る。


 ステージ横から「勇也さん!? 台本と違います!?」と少女の声が届く、勇也が視線を向けると時刻表女渓谷茜が台本を丸め映画監督のように怒っている。


「悪い、思わず言いたい事を言ってしまった」


「仕方ありません! 次は四臣家です!」


 一時間で作った台本『朱の血筋の代表者挨拶』、その全ては「全て記憶した」という勇也に台無しにされる。


 ぶっつけ本番のワンオンステージ、アドリブでこれだけの盛り上がりを生んだのは朱の血筋ならではだが、次の四臣家の挨拶まで興奮させるべきでは無かった。


 勇也はマイクに口を近ずける。


「盛り上がっているところ悪いが俺の家族と友達を紹介する」


 講堂内は静まり返る、所々からピリッと張り付く空気が流れ出す。


「まずは家族、妻の礼実と子供のミルクだ」


 ぶっ!?……吹き出す上級生。


 ステージ横から白刃•村雨を左手に握る礼実とミルクが現れる、2階3階がザワつく、大半がミルクに視線を向けている。


 ミルクはキョロキョロと鼻息を荒くして講堂内を見る、礼実は教壇の前に立ち一礼する。


「西桜臣本家長女、桜庭礼実です、子育てに専念させて頂きます」


 スッと一礼し勇也の隣に行く。


「「(学園に来る必要があるのか?)」」


 礼実がミルクに対応出来無いと知らない新入生や上級生が、礼実に対して疑問に思うのは仕方がない。


 ガタガタ! と教壇によじ登るミルクの音をマイクが捉える、一生懸命に教壇によじ登るミルクに額から汗が流れる、登りきった直後ゴツン! とマイクに頭をぶつけるお約束、マイクが拾った音だけがエコーを効かせて響き渡る。


 ミルクは何事も無いように講堂を見る、心配そうに自分を見る講堂内、頭にマイクをぶつけた事をなかった事にしようと強がるように睨み付ける。


「「(強がってる!?)」」


 ミルクの視界が向けられた方向では気を使うように目を泳がせる。


「わっ!?」


 わっ!〜〜〜〜…………


 スピーカーから響くミルクのマイクテスト、どうした! と思った瞬間。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 スピーカーから出る甲高い幼女特有の叫び、先程の講堂を揺らした新入生の興奮に対抗している大音量だ、一斉に耳を塞ぎ「誰か止めろ!?」と言うが全ての声はミルクの叫びに消される、ステージ上にいる勇也と礼実を見るが我が子の成長に満足するように見守る親の顔になっていた。


「「親バカだ!!!!」」


 ミルクの叫びはピタッと止まる、子供の行動は予測が出来ない、朱の血筋の子供なら更に予測が出来ない、油断禁物、耳を塞いだまま待ち構える。


「ワタキはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 痛くないんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「「(痛かったんだな……)」」


「ワタキはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! ヌシを倒すんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「「(父親を倒したいんだな……)」」


「ワタキはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! ネギが好きなんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「「(なんのアピールだ……)」」


「ワタキはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!……」


 ピタッと渾身の叫びが止まる、「どうしたんだ?」と思いながらミルクを見ると、教壇から飛び降りスタッと着地、軽い足取りで勇也と礼実の足元に行く、新入生と上級生に向ける顔は大満足。


「「(自由だな!?)」」……心の中で叫ぶ。


 勇也は教壇を前にする。


 耳を塞いでいた手を下ろす、「次はアイツ等だ」と思いながら勇也を見る。


「次は友達だ、蒼、美咲、茜、明流、早苗、愛沙だ」


 ザワつく講堂内、ステージ横から現れる6人、V字前髪の蒼、布団(苗木)を担ぎ黒刃•村雨を握る美礼、V字前髪ツインテールの茜、見た目普通全て普通の明流、プルプルと震える愛沙、の順に出てくる。


 誰が東桜臣家で誰が西桜臣分家かは身長と黒刃•村雨で解る、上級生は誰が北桜臣家で誰が南桜臣本家と分家だ? と思っているが、新入生は入学式に北桜臣家里見真一と南桜臣分家堀井竪郎を見ている為いない事は解る。

 先日の明流の弱さから南桜臣本家で無い事も解る、まさかあの布団に包まれているのが南桜臣本家か? と思うがヨダレを垂らし布団に包まる姿に、あり得ないな、と視線をプルプルと震える愛沙に向ける、あり得ないな、と見た目から判断、まさか実は弱いフリをしてたんじゃないか? と明流を見る。茜は西桜臣家のお小姓としか思われていない。


 蒼は歩を進め教壇に向かう、後ろから「台本通りにだよ!」と脚本•監督の茜の声が届く、「わかってる」と一言、教壇を前に息を吸う、正面を見ると約1600人の視線が突き刺さる。


「(……、長ったらしい東桜臣家の話なんか聞くヤツいないな、台本通りには無理だ)」


 場の空気を読む、勇也が長ったらしい季節の感想や御機嫌伺いを飛ばし、本題も無視して新入生に喝を入れた気持ちを理解する。


 マイクを口元にたぐり寄せる。


「東桜臣家長男、渓谷蒼だ、先日に見た顔もあるが基本的に東桜臣家からケンカをふっかける事はしない、自分を見つめ直したいヤツだけ相手になってやる、以上だ」


 背後からは台本を無視した事による茜の怒り、正面からは殺意に似たピリつく空気、そのまま無視をして礼実の隣に行く。


 入れ替わるように教壇を前にしたのは布団(苗木)を担ぐ美礼、マイクを口元にたぐり寄せると正面を見る、突き刺さる視線に心地良さを感じるが——


「(……、ウケを狙う空気ちゃうな)」


 台本上では西桜臣家の話しをしながらウケを狙って空気を和らげる予定だった、勇也と蒼の台本を無視した気持ちを理解する。


「西桜臣分家、松庭美礼や、この寝とるのは南原苗木ちゃんや」


 突き刺さる視線に殺意を感じると更に続ける。


「私はアレやな、東と違って気にくわんヤツは斬るし私の前に立つヤツは容赦無く斬る、『たまたま』死んでも自分の弱さを怨むんやで」


 ピリつく殺意が増える講堂内を煽る発言、ザワつく中に野次は無いが明らかな殺気が混ざる。


 美礼は新入生の中に視線を向ける、その中に明らかな殺気を放つ少年、「なんや?」と殺気を含ませた切れ長の目を向ける。


「『たまたま一号』はお前か?」


「!、……。」


 視線を逸らす少年に合わせて「ヘタレが」と言いながら踵を返し蒼の隣に行く。


 入れ替わるように教壇を前に立つのは茜、礼実以外は台本通りに挨拶をせず、ミルクに関したら皆無、マイクをたぐり寄せながら自分だけでも四臣家として台本通りに、と正面を見る。


「(!……、コレは台本通りには無理だ)」


 季節の感想、御機嫌伺い、各家の話しからの所信表明、ウケ狙い、講堂内はそんな四臣家の話しは受け入れない、自分の中で作っていた台本という名の時刻表が狂う、内心では動揺するが表には出さない、一度狂ったら流されるがままだ! と割り切り突き刺さる視線に言い放つ。


「東桜臣家長女! 渓谷茜です! 年は皆さんの一つ下です! 飛び級という形で皆さんと共に学園に通い! 勉学に精進します! 趣味と特技は研究です! よろしくお願いします!」


 一礼する、台本を省略した丁寧な挨拶、上出来だ! と心の中でガッツポーズを取る。


 だが、西桜臣家の『お小姓』では無く、東桜臣家の長女と知った新入生の殺気は、茜が頭を上げた瞬間に跳ね上がる。


「(なっ!? 急に殺気が上がった!? なんで!?)」


 茜が美岩街で付けられる通り名は『兄殺しの狂科学者(マッドサイエンティスト)』、蒼の時に殺気が上がらなかったのは『研究をしないダラしない兄』に対しては美岩街出身者が無関心だっただけの事、東桜臣家としては蒼よりも茜が認められている、という事になる。


 茜は殺気に慣れていない、蒼のように強い訳でもない、狂(マッド)な科学者(サイエンティスト)なだけだ、そんな茜に殺気を向けようものなら……


 ポケットから茜BOMと書かれた手榴弾を出し、ピンに指を入れ新入生に向ける。


「実験!!!!」


「「狂科学者(マッド)だ!!!!」」


「待て待て!」


 咄嗟に止めに入るのは蒼、茜BOMのピンを抜かせない。


「先に手を出してどうする?」


「歴史は勝者が塗り替える! 先か後なんて問題無い!! それに実験ノートには実験材料(モルモット)としか書かされない! 過程はどうであれ……」


「わかったわかった」


 茜BOMを没収、そのままステージ横の古白街出身の100人の少女が待機している控え室に茜を連れて行く。


「「……。」」


 これぞ東桜臣家、と新入生と上級生に思わせるには十分な茜の自己紹介だった。


 蒼がステージ横から現れる、妹に振り回さる兄を見ている気持ちになる、額から大量の汗を流す明流の前で足を止める。


「次は明流だ」


「な、なんで俺まで……」


「さっきも言っただろ? 四臣家以外も朱の血筋と関わりが持てるというのを教える為だ」


「……、」


 講堂内の視線が自分に集まるのを感じる、「あいつが南桜臣本家か」という見当違いな声が聞こえる、胃が上がる程に体調が悪くなる誤解、俺は一般人だ、と呟きながら教壇に向かう。


 マイクを口元にたぐり寄せる。


「はぁ〜……」


 ため息を吐くと1階以上の殺気が2階3階から降りかかる、チーンと台本の内容が吹き飛び棒読みで自己紹介を始める。


「未智明流、一般人、南桜臣本家じゃない、漁師街出身、将来は漁師になる」


 明流の漁師街出身という発言に2階3階にいる上級生は向けていた威圧を静める、興味が無くなった、と言った方が正しい、だが、1階では逆に——


「漁師街?」「南桜臣本家じゃない?」「なんで漁師街のヤツが学園に?」「あいつ昨日一番最初に朱の血筋に突っ込んだヤツだろ?」「なんで朱の血筋や四臣家といるんだ?」、などなど波紋が広がるようにザワつく、すると何人かの新入生が立ち上がり明流に指差す。


「なんで漁師街のヤツが学園にいる!?」


「将来漁師でなんで学園だ!?」


「朱の血筋の甘い汁でも吸いに来たか!?」


「(ご意見ごもっとも……)」……言い返せない明流。


 一般人未智明流に対して新入生から罵倒が飛び交う、背後で控えている愛沙は次にこの罵倒が自分に襲い掛かると思い、堪え兼ねてボンッ! と頭頂部から空気砲、気絶寸前で礼実が支える。


 2階3階からの野次は無い、上級生の将来には漁師志望の人間は関係無く、学園生活でも支障はない。

 上級生は、漁師街がスポンサーや農化街から資金援助を得る為に未智明流を通して学園卒業生とのコネクションを取りに来たと単純に考える。

 その点だけを考えると、未智明流は朱の血筋や四臣家とのコネクションが出来上がり、将来は漁師街での勝ち組が約束された、と上級生は未智明流個人を高く評価した。


 言われるがまま流されるがままにステージに上がった明流は罵倒を受け、美礼を筆頭に背後では勇也や蒼の大爆笑、誰も罵倒を受ける明流を助けようとはしない。明流の学園生活は、世紀末ヤンキーに変わり果てる新入生のヒャッハァに怯える日常が確定した。


 同じく流されるがまま断る事も出来ずステージに上がった愛沙、プルプルと震えて自己紹介が出来る状態では無くなっていた、礼実はチラッと勇也の方を向く。


 勇也は礼実の気配に気づくと大笑いを止めて教壇に歩を進める、明流はズーンと肩を落とし元の位置に戻る。


 教壇を前にした勇也はマイクをたぐり寄せる、講堂内のザワつきは無くなり疎らに四臣家に殺気が向けられる程度になる。


「最後は藤野愛沙だ、娘ミルクの客人兼世話役だ」


 ?!……世話役は初耳と驚愕する愛沙。


 講堂内では「藤野家?ってあの藤野家か?」と疎らにザワめく、そのザワめきは2階3階にもある、愛沙は堪え兼ねてボンッと頭頂部から空気砲を放ち気絶する。


「おい、気絶しちまっただろ? 妖精愛沙は人間慣れしてないんだ、気を付けろ」


「「(妖精って)」」


 確かに終始怯えたようにプルプルと震え、悩むように頭からは湯気が出て、終いには視線に堪え切れずボンッ! と空気砲を出す始末、『噂どおりの害の無い藤野家の娘』、1階新入生は気絶する愛沙に気を使うように殺気が無くなる。


 だが、2階3階からは勇也と愛沙を威圧する気配が上がる。


「(気配が上がったな)」


『勇也?』


 ステージ下からの呼ぶ声、視界を向けるとメガネをクイッと上げる真一と中世的な顔立ちを2階3階に向ける竪郎がいた。


「おっ、真一に竪郎、遅刻か?」


 軽く声をかける。


 真一と竪郎は2階3階に視線を向けながらステージに繋がる階段から上がる、竪郎は勇也の立つ教壇を背にして2階3階を見上げ真一は勇也の前に立つ。


 竪郎はブレザー制服のボタンを外す、解放された瞬間、ブレザーが伸びたように錯覚させるクナイが編み込まれた鎖帷子が床下1センチまでジャラッと垂れ下がる。


 その刹那——


 竪郎は身を屈め、前方160度2階3階に向けて花火が散るようにクナイが飛散。


 2秒にも満たない竪郎が放つクナイ花火、ブレザーから垂れ下がったクナイは無くなり、威圧を勇也と愛沙に向けていた上級生に刺さる、かわしたりカバンや自分の武器で防いだ者もいる。


「君主に向ける不穏、君主が許したとしても南桜臣分家は許さない、『お嬢の御膳』で無くば死んでいたと思え」


 ブレザー制服の腰元に平行に帯刀している二刀の一刀に手を添える、懐から茜BOMと書かれた手榴弾を出し1階新入生を見る。


「お嬢のネギを用意していない者、遺言は無いか?」


「「(無茶言うな!!!!)」」


 ミルクを一度でも見たなら、大好物がネギというのを言われなくても解れ、と言うように明らかな殺気を向けられる新入生。


「こ、今後は気をつける」


 新入生の中の1人が言うとコクコクと頷いていく新入生、南桜臣分家が朱の血筋の事しか考えていなく、何を言っても話しが通じないのを解っているから起きる民の諦めだ。


 竪郎は帯刀している二刀の一刀から手を離す、懐からスッと太ネギを出しミルクの元に行く。


「お嬢、学園で栽培しているネギです、お口に合わなければ栽培した者をお裁き下さい。」


 太ネギに目を輝かせるミルク、間髪入れず竪郎から受け取りカプッと食べる。


「シャリシャリ、モグモグ、ゴクン」


「お嬢、お味は?」


「甘み成分が程よく出て粘りもあり心地よい苦味が後を引く上級品のネギじゃ、熱を通すと甘みがより一層増すじゃろうな」


「ありがとうございます」


「「(至高のネギを求める幼女美食家!!)」」


 竪郎は懐から竹皮で包んだ弁当を出す、紐を解くと中にはおにぎり2個と焼きネギ、ヨダレを垂らすミルクに渡す。


「「用意が良すぎだろ!!」」……声に出してツッコミを入れたい新入生だった。


 竪郎はスッと立ち上がる、ビクッと新入生が背筋を伸ばす中、2階席の端に視線を向ける、懐に手を入れ小切手を出す、体格の良い少年に向けて投げる。


「お嬢からの褒美だ、好きな額を書け」


 小切手は一直線に2階席の端にいる体格の良い少年の元に向かう。


 パシッと受け取る体格の良い少年。


「……、好きな額か」


 隣の長髪の少年からボールペンを受け取る、スラスラと小切手に書くとパタンと閉じる、「ほらよ」と言いながら竪郎に向けて小切手を投げる。


 新入生の頭上を通り過ぎる、竪郎はパシッと受け取り小切手をチラッと確認、パタンと閉じて2階席の端にいる体格の良い少年を見る。


「後日、北桜臣家から『言い値を払う』、お嬢からの御厚意と受け止めろ」


 体格の良い少年は立ち上がると手摺りから身を乗り出す、ブレザー制服を無理矢理着るその体格は肩幅が広く190センチを超える、顔立ちは短髪で清々しさある裏表のない成人男性、高校生には見えない。


『娘っ子ぉぉぉぉぉぉ!? ネギが好きなら作り方教えてやるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?』


 重低音の効いた割腹良い声でミルクに言い放つ。


 ギラギラに目を輝かせるミルクはバッとステージの先端に立ち体格の良い少年を見上げる。


「ワタキはぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 土地が無いんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


『土地がなんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!! その辺の道もネギ畑にしてやれぇぇぇぇぇぇぇい!!!! 俺が好きな分作ってやるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』


「ネギ代官じゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ネギ代官じゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


『南介隊長と呼べぇい!!!!』


「ネギ隊長じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ミルクが体格の良い少年改めネギ隊長に全幅(全腹)の信頼を向ける中、講堂内特に2階3階では竪郎の攻撃により殺気が上がっていた、新入生は生きた心地がしない、このままではいつ上級生が1階に雪崩れ込んで来るか解らないからだ、蒼はミルクに飛び火しないように隣に行く、真一と勇也は——


「勇也?藤野愛沙の事だが、ミルクの客人兼世話役で間違い無いんだな?」


「?、そうだぞ」


「そうか……」


「なんか問題でもあるのか?」


「問題無い、だが、藤野愛沙は何かと問題がある、四臣家の保護対象なのもその為だ、1年は問題無いが上級生は『このままでは帰してくれない』、俺に任せてもらってもいいか?」


「それは手を出してきたら俺も手を出していいという事か?」


「四院家がソレを許さない、藤野愛沙の問題は後を引く問題だ、お互いに納得する線引きをしなくては藤野愛沙個人が学園を不登校し自分から去る道を選ぶ、『勇也は藤野愛沙をミルクの世話役にしたならこの場では手を出さないでくれ』」


「……、」


 気絶する愛沙を見る、内心では無抵抗な愛沙に対して威圧し殺気まで向ける上級生にイラついていた。


 礼実は勇也のイラついている気配に気づく。


「『勇也様』、北桜臣家様にこの場は任せるのが今後の愛沙さんの為です、『これ以上愛沙さんを不幸にしてはなりません』」


「どういう意味だ?」


「ええんやって、お前は黙って見といたらええだけや、そもそもお前が手を出さんように南分(みなぶん)がおる、愛沙問題は四臣家に任せて……」


「……、」


 勇也が帯刀する日本刀を抜いた瞬間、ミルクはピクッと反応し蒼に飛び付く、講堂内の空気が一瞬で変わったのを新入生は感じ取る、もちろん上級生はその殺意が自分達に向けられているのが解る。


「悪いが向けられた殺気に引き下がる程人間が出来ていない、……竪郎? 下がれ」


「はっ」


 勇也は竪郎と入れ替わるように教壇前に行く、視線を向ける先は上級生、マイクを取る。


「藤野愛沙が学園にいる事に文句があるヤツは出てこい、出て来ないなら1人1人狩って行く」


 講堂内は静まり返る、その中で——


『朱の血筋!? その刀の刀匠は誰だ!?』


 大声で叫ぶのはネギ隊長、その表情は勇也を宥めるように笑顔を向けている。


「?、……刀匠は『富士』、11年前に命を救ってもらった女剣士の旦那が打った刀だ」


『それなら問題無い!! 文句を言うヤツがいるなら!!』


 手摺りを握る、『ふんっ!?』と力を入れた瞬間、バギィン! バギィン! バギバギバギィン!!!! と10メートルはある手摺りが外れる。


「南桜院(なんおういん)家(け)長男!! 南桜院(なんおういん)耕介(こうすけ)がネギの肥料にする!!!!』


 ネギ隊長改め四院家の南桜院耕介、興奮するミルクの声援を聞きながらゆっくりと歩を進める、行き先は自分に対して殺意を向ける二年生グループ、その表情は穏やかだが右手に握る手摺りを座席に振り落とす、手榴弾が爆発したように座席が弾け飛ぶ。


「四院家が預かってやると言ってるんだ、何か文句でもあるのか?」


「あるに決まってるだろ」


 耕介に殺意を向けるリーダー格の少年、立ち上がると少年の背後にいる男女含めた約150人が立ち上がる。


「どんな文句だ?」


「後輩からの挨拶(クナイ)があったんだ、先輩として返さないとダメだろ?」


「それは南桜臣分家の『応え』だ、その応えに文句があるという事は『俺を四院家として見てないという事だな?』」


「何が四……」


 ズガン!! とリーダー格の少年の顔面に手摺りがめり込む、テニスボールのようにリーダー格の少年は1階まで吹き飛ぶ、着地点の新入生は逃げる、だが、次の瞬間隕石が落下するように次々と二年生が降ってくる。


「二年が降って来た!!」


「死亡レベルだろ!?」


「とりあえず逃げろ!!」


 新入生は壁際まで逃げる、耕介に殴られ蹴られ手摺りで吹き飛ばされる二年生は次々と2階から降ってくる、2階は南桜院耕介対二年生150人グループの戦場と化していた。


 落下してきた二年生は殴られた箇所を押さえながら立ち上がる、「生きてる!?」という新入生の声に「あぁ? こんなんで死んでたら半日も持たねぇよ」と吐き捨てるように言い放つ。


『それならコレです!!!!』


 ステージ上からの声、新入生と落下した二年生が振り向くとそこには……


「実験!!!!」


 ……と叫ぶ茜、足元にある重曹で近代的なガトリング砲をリーダー格の少年に向ける、既に引き金は引かれ銃身は高回転し座席を破壊していく。


「マジか!!」


「これは死ぬんですか!?」


「バカか!! 当たり前だろ!!」


「お前等の事もモルモットとしか見てねぇぞ!!」


 !?……ガトリング砲の照準は無差別、正確には「実験実験実験」と狂科学者(マッドサイエンティス)になってはいるが茜は基本的に軟弱、ガトリング砲の振動に遊ばれるように照準が飛散している。


「やべぇ!!」


「先輩! なんとかしてくれ!?」


「あぁ!? 俺等はお前等がいなくなればそれだけ将来安定なんだよ!」


「俺等の為にも死んどけ!」


「使えねぇ!! この先輩等マジ使えねぇ!!」


「おいみんな!? こんな使えねぇ先輩やっちまえ!!」


「「おぉ!!!!」」


「「上等だコラッ!!!!」」


 1階では2階から降って来た二年生約150人と新入生約800人の乱闘がガトリング砲の弾丸の嵐の中始まる。


 数で圧倒する新入生だが、たった一年の差は学園にいるかいないかで差が大きく開く、一騎当千を思わせる二年生に次々と倒されていく。


 そんな中、2階から飛び降りてくる南桜院耕介が参戦、「南介隊長に続けぇ!?」という叫びと共に新入生は決起、やられながらも二年生150人に向かって行く。


 その乱戦をステージ上で見ている勇也、額から一滴の汗を流していた。


「……、これは止めた方がいいのか?」


 額からは一滴の汗、顔を引き攣らせる。


「だから言うたやろ? 愛沙問題にお前が首を突っ込んだらあかんって」


「四院家が朱の血筋に対して不穏ある連中を許す事は無い、こうなる前に話しを付けたかったんだが……まぁ仕方ない」


 メガネをクイッと上げながら勇也からマイクを受け取る。


「どうするんだ?」


「こんな状態だが言うことは言っておかないと後々面倒だからな」


 メガネをクイッと上げ乱闘を見ながらマイクを口元に近づける。


「北桜臣家長男、里見真一だ、乱闘したままでいいから話だけは頭に入れておいてくれ」


 誰も話しを聞ける状態では無いが構うことなく更に続ける。


「藤野愛沙は四臣家の保護対象だ、もしも藤野愛沙に対して不穏や狼藉があった場合は四臣家がその者に裁きを与える、以上だ」


「?、それだけ?」


「四臣家の保護対象とは朱の血筋と同じという事だ、藤野愛沙に不穏があれば南桜臣分家が暗殺、法律を犯せば南桜臣本家が暗殺、秩序を乱せば西桜臣家が教育的指導をする、北桜臣家として民に言っておかないと後々面倒なんだ」


「四臣家は四臣家の役割の中で動かなあかんって事や、まぁアレや……」


 口元を悪どくニヤつかせ切れ長の目に殺気を籠らせると更に続ける。


「愛沙問題で秩序が乱れとるからな、私の出番や、『たまたま』やで?」


 美礼参戦、布団(苗木)を勇也に投げて乱戦する観客席に突っ込む、同時にステージ横から100人の少女が現れ美礼に続く。


「わかったか?」


「……、俺が行ったら?」


「あそこにいる残り3人の四院家が参戦し四臣家も参戦する、

 どこかで身を潜めている南桜臣本家には『まだ大義が無い』、ミルクと藤野愛沙に手を出したら学園内とはいえ法律の元に暗殺を執行する、

 現南桜臣本家当主は学園内の無法律をいい事に暴れ回っていたみたいだが……勇也の代の南桜臣本家はその辺の良識はあるようだ」


「どう収集をつけるんだ?」


「どっちかが全滅するか美礼が秩序の元に全員を倒すかになる、だが……さすが二年生だな、両腕をまともに使えない美礼では苦戦している」


「どうするんだ?」


「うむ、どうしたらいいもんか……」


『むにゃ!?』


 勇也の持つ布団がビクッと動き出す。


「……、真一? この一手だな」


「この一手しか無いな」


「むに!? んっ!? 忍びの者か!?」


 苗木起床、視線の先は真一の上半身、寝ぼけているようだ。


「忍ではない」


「デカメガネ!! んっ? ヌシ!?」


「苗木? 不良が暴れて美礼と女等が止めに入ってるんだが?」


「にゃにぃ!?」


 バッ! と振り向き乱闘を見る、間髪入れずズボッと布団から抜け出る、服装は白色の短パンとTシャツの小学生の運動着(寝間着)、背中に両手を入れて木製のククリ刀を出す。


「不良がいっぱいなんだよ!!」


「あのゴツい男は味方だ、美礼と100人の女を見分けながら他を倒せるか?」


「上にも不良がいるんだよ!」


「上にいる連中は降りて来なければ大丈夫だ、とりあえず無抵抗な連中以外を倒せるか?」


「出来ないと言えば嘘になるんだよ!?」


 パッ! と消えた瞬間、消防信号板のようなカンカンカンという音が乱戦する中に向かって行く。


 先日カンカンカンという音に未知の恐怖を受けた新入生は飛散するように逃げる、もちろん逃げた者から順に気絶、更に乱戦の中で美礼や少女等が相手にしている二年生から気絶していく。


 ステージ上から見ている蒼、興奮するミルクを片腕で抱きながら勇也を見る。


「昨日から思ってたんだが苗木の背中からは壺や木刀や色々な物が出てくるけどどうなってるんだ?」


「?、科学じゃないのか?」


「朱い眼で視えない科学は無い、その朱い眼でもどうなってるか視えないのか?」


「服の下は背中だぞ、何も入ってるようには視えない」


「消える時に服も消えるように消してるのではないか?」


「それだと物理的に背中に収納が出来る大きさになる、質量による凹凸が無い時点で消しているとは誤変になる」


「……、人間なのか?」


「朱い眼ではどうだ?」


「姿を現してる時は一般的な普通の人間だ」


「それなら人間だ、透明人間になれる不思議人間だ」


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