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魔女という病 ~ヘンゼルとグレーテル異聞~  作者: 曲尾 仁庵
邂逅

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12/17

最初から、全てを

 ヘンゼルは部屋に飛び込み、素早く部屋全体を見渡します。魔女がヘンゼルをにらみ、ウサギが牙をむき出しにしてグレーテルに飛び掛かりました。グレーテルが目の前の机にある乳鉢を魔女に投げつけ、ヘンゼルは刃が半ばで折れた長剣をウサギに投擲します。砕けた鉱石の灰色の粉を浴びて魔女が目を閉じ、長剣はウサギの口を貫いて壁に縫い留めました。ウサギの目から赤い光が消え、その手足がだらりと下がります。


「鍋を!」


 グレーテルが叫び、ヘンゼルは大鍋を蹴り倒します。煮えたぎった液が地面にぶちまけられ、激しい蒸気が辺りを包みました。蒸気をかき分けるように手を振り、魔女が怒気をはらんだ声を上げました。


「やってくれたねガキども!」


 グレーテルは構うことなく、乳鉢の横にあるガラス瓶を手に取りました。ヘンゼルは壁に刺さった長剣の許に走ります。グレーテルはガラス瓶の蓋を外し、ヘンゼルが剣を壁から引き抜きました。蒸気の向こうに魔女の紅い瞳が浮かんでいます。グレーテルが瓶を投げつけ、ヘンゼルが振り返って身を沈め、蒸気が晴れ、目を血走らせた魔女がグレーテルをにらみ、


――ギヤァァァァーーーーー!!


 グレーテルの投げた瓶からこぼれた透明の液体を顔に浴びた魔女が両手で顔を覆って絶叫します。魔女の顔が焼け爛れ、周囲に異臭が立ち込めました。魔女がよろよろと後ろに下がります。


「おのれ、知っていたねこのペテン師が!」


 指の隙間からぎょろりとした目が覗き、ヘンゼルが床を蹴り、グレーテルが無表情に魔女を見つめ返して――


 ヘンゼルの長剣が、魔女の首を裂きました。




 魔女の目が信じられないというように見開かれ、首からはどす黒いものが噴き出します。ヘンゼルの頬にぬめりを帯びた雫が飛び散りました。魔女はゆっくりと右手を首に当てます。右手はあっという間にどす黒く染まりました。


――ハハハ


 魔女の口から笑い声が漏れ出します。


――ハハハハハハハ


 目を虚ろに見開いたまま、魔女は徐々に笑い声を大きくしていきます。グレーテルがわずかに目を細めました。


――アハハハハハハハハハ!!


 魔女は壊れた人形のように笑い続けます。ヘンゼルが手の甲で頬のどす黒い雫を拭い、顔をしかめました。ハッと息を飲み、グレーテルは呆然とつぶやきます。


「……私は、いつ、何を、間違えた――?」

――ぱしゃん


 グレーテルの自問に答えるように魔女の身体が輪郭を失い、黒い泥となって床に広がります。ヘンゼルが言葉を失って床を見つめました。天井が軋みを上げ、パラパラと埃が落ちてきます。グレーテルは視線を天井に向けました。黒い影が集まり、膨張し、歪み、やがて大きな一つの目となってグレーテルを見下ろします。赤く妖しい光を帯びた目に見つめられた瞬間――


『最初から、全てを、さ』


 糸の切れた人形のように、グレーテルの身体が崩れ落ちました。


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