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意外にも味方が善戦しています

 兵士たちが樽を片付け終わったとき、ついに戦闘がはじまりました。

 階段を上がりきった兵士が、どんどん塔に入っていきます。


「ローハン陛下、ソニア陛下、お下がりください!」


 二人を連れて、なんとか奥に逃れます。


「ローハン、ソニアちゃん、今のうちに逃げてね〜。あたしたちは少し遊んでいくから〜」


 バルサはわたくしたちに向かって、ひらひらと手を振ってきました。


 彼女は果敢にも強そうな騎士に挑んでいきます! ⋯⋯あ、違った。値段が張りそうな鎧を重点的に狙って傷つけ、相手の心をバキバキに折ってますね。

 サバサバはどこ行った? ジメッと感がすごくて、若干引いてしまいます。


 ゴォン!


 キランが木製のコップを使って、敵の手にある剣を叩き落としています。って、まだワイン持ってたんかい。


 でも、わたくしは感動していました。


 今は数名でも、これから狭い階段をぞくぞくと兵士が上ってくることでしょう。

 アラン直属の兵士数百人を相手にして、一歩も引かない二人の勇気は、称賛に値すると思うのです。


◇◇◇


 戦闘が始まってしばらくすると、馬のいななきが聞こえました。


「なっ、まだ追加の兵が⋯⋯?!」

「――いいえ、陛下。あの紋章は⋯⋯」


 アルジュンの紋章です!


 アルジュンの後ろには、馬に乗ったニーナの姿があります。わたくしと目が合うと、意味ありげに微笑んできます。


(――いや、だから流し目してくるの、やめてくださいって!)


 いずれにせよ、無事、救援を呼んできてくれたようです。


 やっと来た味方に、わたくしたちは喜びました。敵兵が、アルジュンの兵を見て逃げていきます。


「お、お前たち、何してる! 戦え! 戦うのだ!!」


 アランが焦ったように言います。


 でも兵士たちは頑張った方だと思います。さんざんバルサとキランに足止めされた上、やっと階段を突破したと思ったらアルジュンの登場です。心が折れても仕方ないと思います。


 この北方国では、国王を警護する大伯を頂点にして、砦を守る宮中伯たちが強い武力を有しています。


 アランは大伯に次ぐ実力者であり、花形と言える砦の宮中伯。個人の武もあるでしょうが、彼をそこに押し上げたのは、兵士たちの努力もあったはずです。


(それがわかっていたら、反乱など起こさず、別の未来もあったかもしれないのに⋯⋯)


 きっとアランは彼なりに、国のためを思って反乱を起こしたのでしょう。でも本当に国の行く末を案じていたなら、反乱を起こす前に陛下に進言するなり、ほかの方法があったに違いありません。

 先王陛下に心酔するあまり、ローハン陛下を受け入れられなかったアラン。少し哀れに感じてしまいます。


「腰抜けどもめ、ならば私自ら国王を討ち取ってくれるわ!」


 アランと騎士数名が、階段を一気に駆け上がってきます。ほとんど敵兵が逃げた後とはいえ、バルサとキランは交戦中でアランに対応できません。


 駆け上がった先にいるのは、国王夫妻とわたくしだけ。


「シャ、シャリニ⋯⋯」


 ソニア陛下が不安そうに震えています。

 ローハン陛下を見ると、結末が分かっているからか、余裕そうに笑っています。まったく、あなたの苦手分野を補うわたくしの身にもなってほしいものです。

 無言で燭台立てからろうそくを取り外し、握りしめます。


 階段をのぼりきりわたくしの姿を認めると、アランはほの暗く笑います。


「⋯⋯小娘、ちょうどいいところに。お前は前から目障りだった。国王夫妻とともに葬ってやろう」


 あー⋯⋯、やっぱりそれが本音ですか。

 口では「国を立て直す」とか言っていましたが、結局彼は先王の武を受け継がなかったローハン陛下と、彼を庇護するわたくしが邪魔だったと見えますね。


「天は私の味方のようだ⋯⋯。もっと手こずるかと思ったが、跳ね橋が降りていたおかげで籠城戦を有利に進められたからな。

しかもお前は丸腰。おおかた、堅牢な塔なら破られないと油断したのだろう。

お前はここで死ぬ運命。せいぜい、自分の油断と甘さを後悔すると良い」


 ソニア陛下がはっと息を呑みます。跳ね橋を降ろしてしまったことに、罪悪感を抱いているからでしょう。


 アランと騎士たちは、じりじりと間合いを詰めてきます。


「⋯⋯丸腰の相手を大勢で取り囲んで、楽しいのですか?」

「ばかめ、一流の騎士は勝てる勝負しかしないものだ」


 アランは勝ちを確信しているようで、にやにやと笑みを浮かべています。


「そうですね」


 わたくしも彼に同意しました。


「今(・)度(・)か(・)ら(・)、勝てるときだけ挑むと良いですよ」


 たんっと地面を蹴ります。


 カァンっ!


「えっ⋯⋯?!」


 ソニア陛下が驚きの声を上げました。

 わたくしが燭台立てでひっかけたため、アランの槍が遠くへ弾き飛んでいきました。


 ダメですよ、得物はちゃんと握っていないと。


「う⋯⋯うわああっ!」


 アランと騎士たちがいっせいに襲いかかってきます。騎士たちの化け物を見るような目が気になりますが、まあ良しとしましょう。

 アランは丸腰になったからか、やや腰が引けていますね。でも素手で立ち向かうその意気はあっぱれです。


 騎士の攻撃を避けつつ、燭台立てで一人ずつ殴っていきました。

 

 ゴッ!! ガツンッ!


 戦闘は、ものの10秒ほどで片が付きました。わたくしの足元には、アランと仲間の騎士たちが失神した状態で転がっています。槍も剣も敵の間合いに入ってしまえば、何ということはありません。


 その直後、バルサとキランがわたくしたちのところまで走ってきました。


「あ〜、一応助けに来たけど、やっぱりもう終わってたか〜」

「くっ、間に合わなかったとは、痛恨の極みッ!!」


 二人は、兵士たちをすべて退けたようです。あちこちにすり傷はあるものの、元気な様子にホッとします。


「バルサ、キラン。数百もの兵を相手に、よく耐えましたね」


 わたくしが労うと、二人が照れたように笑います。


「ふむ。勝つと分かっていたが、正直速すぎて見えなかった。シャリニはいったい、アランに何をしたのだ?」


 ローハン陛下が、あごに手を当てて尋ねてきます。


「単に距離を詰めて、燭台立ての台座部分で殴っただけです。筋肉量が少ない分、身軽なわたくしが有利でした」


 昏倒したアランたちはしばらく起きる様子がありません。今のうちに、縄でしばってしまいましょう。


 と、そこで、階段からバタバタと複数の足音が聞こえてきます。

 敵が戻ってきたのかと身構えましたが、現れたのは救援に来たアルジュンとその部下でした。


「ご無事ですか、両陛下⋯⋯! 大伯閣下がいらっしゃるとはいえ、気が気ではありませんでした」

「大伯?」


 アルジュンの言葉に、ソニア陛下が反応します。全員の視線がわたくしに集中しました。


「大伯? え、まさか⋯⋯シャリニが?」


 ソニア陛下はようやくわたくしの正体に気づいたようです。


 わたくしは苦笑します。


 ローハン陛下の乳兄妹のわたくし。幼少のころは、ローハン陛下があまりにも武芸ができないので、彼の鍛錬の相手をしていたものです。

 才能があったのか、ローハン陛下でなくわたくしの方が、メキメキと上達してしまいましたが。


 脳筋な先王陛下のせいで、わが国の昇進システムは「力こそすべて」です。

 剣を使わず、その辺の道具で敵をボコボコにするわたくしの戦闘スタイルが先王陛下のお気に召したらしく、あっという間に大伯になってしまいました。


「そんな⋯⋯ずっとシャリニは侍女だと思っていたのに⋯⋯」


 まだ混乱している様子のソニア陛下。


「ソニア陛下は、母国からお付きの者をお連れになりませんでしたからね。身の回りのお世話をする人が足りなかったので、わたくしもお手伝いさせていただいておりました」


 ニーナだけで王妃のサポートをするには限界があります。そこで、わたくしも微力ながら、侍女の真似事をすることにしたのです。


「しかし、大伯閣下は以前から侍女服を着ていらっしゃいましたよね?」


 アルジュンがわたくしの服を指差します。


「それは趣⋯⋯いえ、敵を油断させるためです」


 ドヤ、と胸を張ります。うん、我ながら上手く誤魔化せました。

 でも誤魔化せたと思ったのはわたくしだけだったようで、


「趣味か」

「趣味なのね⋯⋯」

「趣味だったのですかッ」

「あ〜、やっぱりね〜」


 む、なんですかその呆れ顔は。良いじゃないですか、可愛い服が好きなんだから。




次回、エピローグです。

明日12時台にアップします。

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