エピローグ
「⋯⋯くっ、殺せ! 私は謀反を仕掛けた身だ。情けは無用!」
アランは心底くやしそうに言います。とりあえず、決定事項だけを伝えることにしました。
「くっころはキランだけで十分です。それに情けじゃありません。
宮中伯の地位を失い、一兵卒としてやり直す――これが、謀反を企てたあなたに対する罰です」
アランが仕掛けた反乱は、奇跡的に死者・重傷者ゼロで制圧されました。
首謀者のアランをどう処分するかで議論が紛糾しましたが、陛下は彼を生かすことにしたようです。
今回の反乱で、近衛騎士はほとんど逃走してしまいました。近衛騎士は見目の良い貴族の次男三男から選ばれるので、鍛え上げられたアラン軍に対抗できなかったのです。
国王の親衛隊である近衛騎士が、反乱のときにまったく機能しなかった――これは、由々しき事態です。
彼を殺して国の防衛力を落とすよりは、騎士や兵士を育てるノウハウをアランから搾り取ろうということになりました。近衛騎士は全員、アランの指導のもと、鍛え直されることになったのです。
それに、ローハン陛下は「文官陛下」と揶揄されることが多いですが、人情家でもあります。先王陛下を慕うアランを殺すには忍びなかったのでしょう。
今回の反乱に関わった人物には罰を、功労者には褒賞を。
アルジュンとバルサは陛下の後押しのもと結婚して、今は新婚旅行中です。
バルサは旅行から帰ったら近衛騎士の育成にも参加したいと思っているようで、
「あたしサバサバしてるから、優しく鍛え直してあげるよ〜。
⋯⋯ところで、王宮の氷室ってどこにあるんだっけ?」
ええと、育成ですよね? 氷を使った拷問とかじゃなく。一抹の不安は残りますが、バルサが手加減してくれるのを祈るしかありません。
キランは酒のちょろまかしが(わたくしの密告のせいで)食糧庫の管理人にバレました。管理人は怒り狂っていましたが、手柄と相殺されてお咎めなしとなりました。その上、陛下からご褒美として良い酒を下賜されたそうで、大層喜んでいました。
――ちっ、運の良いやつです。
そしてわたくしへのご褒美は⋯⋯。
「いやああぁっ! ギル様が結婚するなんて!」
陛下が、ご褒美にわたくしの推しの宮廷楽士を呼んでくださいました。喜んだわたくしですが、なぜか対面の場にニーナがいます。聞けば、なんと二人は結婚するそうです。
「すっ、すまない。シャリニが喜ぶと思って宮廷楽士を呼んだが、配慮が足りなかったようだ。そなた、そんなに宮廷楽士のことが好きだったのか⋯⋯」
わたくしの嘆きに、ローハン陛下が沈痛な表情を浮かべます。
「違うんです! 恋愛的な意味で好きなわけじゃないんです! 推しが幸せになるのはファンの喜び⋯⋯。
でも演奏家としての彼を応援してるのであって、結婚相手とか、ギル様の私生活部分は知りたくないんです!! 推しはわたくしの知らないところで幸せになってほしいんですうぅ!」
「えぇー⋯⋯。めんどくさい⋯⋯」
馴れ初めを聞くと、アルジュンが部下とともに救援に来た夜。ギル様は目の前で起こった謀反に恐怖して、故郷の東国に帰ろうと思ったそうです。
『もうヤダ⋯⋯。国に帰ってスローライフを送りたい⋯⋯』
そこに颯爽と現れたのがニーナでした。ギル様のつぶやきを聞き、彼を叱咤激励します。
『あらぁ、あなたそれで良いの? 私も昨日まで、この国を出ようと思っていた。でもこの北方国で良き強敵に出会い、彼女の底知れない観察眼に驚嘆し、世界にはまだ見ぬ傑物がいるんだと知った⋯⋯。だから戻ってきたのよ。
反乱が起こるような混沌とした国だからこそ、成し得ることがあると思わない?』
いや、読み方がうっとうしいな?
とにかく、それを聞いたギル様はこの国に残り、今回の防衛戦を題材にした曲を制作、演奏していこうと決めたそうです。
そして、自分の目を覚まさせてくれたニーナにプロポーズ。二人はめでたくゴールインしました。
「なんでわたくし以外、みんな幸せになってるんですか?! わたくしは今回の反乱の事後処理で徹夜漬けなのに!」
「そこはほら、大伯だから⋯⋯」
ええい、こうなったら後継者を育てて大伯の座をさっさと譲るしかありません! 見ててくださいね! 反乱なんて起こす暇もないくらい、国中の騎士と兵士をしごき上げてやりますから!
◇◇◇
後の歴史書は、ローハン王の時代に起きた反乱をこう語る。
――反乱が起きたとき、城内で王を守ったのは、大伯シャリニを含め、ほんの数人の騎士だった。彼女らは助けが来るまで死闘を繰り広げ、見事に国王夫妻を守り抜いたという。
この反乱をきっかけに、宮中伯への武力と権力の集中を抑えるため、大伯シャリニによる大規模な後進の育成が推し進められた。
優秀な騎士と兵士が次々に現れ、宮中伯でなくても重要な砦を任せられるなど、身分にとらわれない登用が進んだ。これにより、ローハン王の御代はのちに「数百年の王朝の中で、もっとも栄えた黄金の時代」と評されるようになる。
大伯シャリニが育て上げた騎士と兵士たちは彼女を深く敬愛した。彼女のために「永世大伯」という役職を創設して、シャリニが生涯大伯でいられるよう取り計らったという。
謙虚な大伯は何度も永世大伯を返上して後進に道を譲ろうとしたが、弟子たちは頑として頷かなかった。
なお、反乱において、わずかな手勢で数百もの兵をどう退けたのかはいまだに歴史家の間で熾烈な論争がなされており、歴史上最大の謎とされている。
(完)
これにて完結です!
結末はどうしようか迷いましたが、よくある歴史書エンドになりました。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。




