第27話 ついに見つけた
地図を手に入れてから。
方位磁針を使うようになってから。
そして遠見筒まで加わってから。
三人の旅は、少しずつ変わっていた。
大きく変わったわけではない。
歩く速さが上がったわけでも、疲れなくなったわけでもない。
ただ。
迷う時間が減った。
それだけで、旅は思っていた以上に早くなった。
「次の分かれ道、右だな」
セインが地図を見ながら言う。
「方角は?」
ピエナが聞く。
セインは方位磁針を見る。
「東寄り。合ってる」
クリスが前を見る。
「じゃあ右でいいな」
以前なら。
分かれ道で立ち止まり。
看板を探し。
それでも分からなければ、人が来るのを待つこともあった。
今は違う。
地図を見る。
方向を見る。
決める。
終わり。
たったそれだけ。
なのに。
その積み重ねが、思った以上に大きかった。
昼前。
三人は小さな丘へ出た。
セインが地図を見る。
「この先、街道に合流する」
ピエナが周囲を見渡す。
「今度の近道はちゃんと近道だったね」
「前回がひどすぎただけだろ」
クリスが笑う。
「でも面白かった」
「面白かったけど、道としては最低だったよ」
「距離は短かった」
セインが言う。
ピエナが振り返る。
「まだ言う?」
「事実だろ」
地図は嘘をつかない。
ただし。
地図は、坂が地獄かどうかまでは教えてくれない。
丘を越える。
街道が見える。
遠くに人影。
荷車。
旅人。
セインが立ち止まる。
「ちょっと見る」
荷物から遠見筒を取り出した。
覗く。
街道。
その先。
人。
さらに遠く。
「どう?」
ピエナが聞く。
「旅人が何人か」
「勇者は?」
「分からない」
「もっと先見て」
「見てる」
「貸して」
「まだ」
「私も見たい」
「順番」
三人で一つの遠見筒を使っている。
便利になった。
効率化した。
ただし、順番待ちは発生した。
結局。
その場では勇者らしき姿は見つからなかった。
三人は街道へ降りる。
少し歩いたところで。
前から来た旅人へ声をかける。
「すみません」
セインが聞く。
「この先で勇者一行を見ませんでした?」
旅人が少し考える。
「勇者?」
「王国認定の」
「ああ」
三人が一斉に顔を上げる。
「見たんですか?」
「今朝な」
近い。
また近い。
「どこで?」
「この先の町だよ。たぶんまだいるんじゃないか?」
ピエナがセインを見る。
クリスも少し笑う。
セインはすぐ地図を広げた。
「この先の町って、ここか」
「そうそう。半日もかからんよ」
旅人が去る。
三人は地図を見る。
次の町。
距離。
街道。
脇道。
セインが指を動かす。
「こっちの道使えば、もっと早い」
ピエナが地図を覗く。
「また近道?」
「今度は大丈夫だろ」
「その言葉、前にも聞いた気がする」
クリスが言う。
「行けば分かる」
非常に頼もしい結論だった。
何も保証していない。
それでも。
今回の道は本当に普通だった。
多少細い。
多少草が多い。
その程度。
「普通だ」
ピエナが言う。
「普通だな」
セインも言う。
クリスが少し不満そうだった。
「何もないな」
「何もない方がいいんだよ」
「でも前の道の方が面白かった」
「旅に刺激求めすぎ」
三人は笑いながら進む。
途中。
セインが何度か地図を確認する。
方位磁針を見る。
少し高い場所へ出れば遠見筒を使う。
以前のように。
「たぶんこっち」
「きっとこの先」
ではない。
今。
どこにいるか。
どちらへ進んでいるか。
この先に何があるか。
少しずつ分かる。
それだけで。
三人は前より速く、前へ進めていた。
午後。
丘の上。
セインが遠見筒を覗いた。
そして。
止まった。
「……いた」
ピエナが振り返る。
「何が?」
クリスも足を止める。
セインは黙ったまま遠見筒を見続ける。
街道の先。
町の入口。
人だかり。
その中心。
剣を持った男。
周囲には何人かの仲間。
村人らしい人々が、その男を囲んでいる。
「セイン?」
ピエナがもう一度呼ぶ。
セインが遠見筒を外した。
顔が少し変わっている。
「勇者だ」
「本当に!?」
ピエナがすぐに遠見筒を受け取る。
覗く。
「人いっぱいいる!」
「見える?」
「剣持ってる人いる!」
クリスも横から見る。
「俺も」
「待って、まだ」
「早く」
「ちょっと待ってって」
再び順番待ちである。
感動の再会候補を前にしても、遠見筒は一つしかない。
ようやくクリスが見る。
しばらくして。
「それっぽいな」
「それっぽいって何だよ」
セインが言う。
「勇者見たことないし」
「俺もない」
「じゃあ一緒じゃん」
「でも人集まってるぞ」
ピエナが笑う。
「評判通りなら、あれじゃない?」
セインはもう一度遠見筒を受け取った。
今度は少し長く見る。
男は堂々と立っている。
周囲には仲間。
町の人間が何か話しかけている。
剣も立派。
装備も目立つ。
今まで聞いてきた話。
勇者。
魔物退治。
人助け。
町から町へ進む一行。
全部。
繋がる。
「やっと」
セインが小さく言う。
ピエナが横を見る。
「追いついた?」
セインは遠くの一行を見ながら頷いた。
「ああ」
クリスも笑う。
「じゃあ行こう」
三人は丘を下り始める。
今まで。
勇者の話だけ聞いてきた。
少し前にいた。
昨日いた。
今朝いた。
ついさっき通った。
その繰り返し。
あと少し。
あと少し。
その距離が。
ようやく。
見えるところまで縮まった。
セインは歩きながら、もう一度だけ遠見筒を覗いた。
剣を持つ男。
その周りに集まる人々。
間違いない。
たぶん。
きっと。
今度こそ。
「ついに会えるな」
セインが言う。
ピエナが笑う。
「どんな人なんだろうね」
クリスも前を見る。
「強いといいな」
三人の足取りは自然と速くなる。
これまで寄り道をするたびに。
少しずつ。
道具が増えた。
方向が分かるようになった。
道を選べるようになった。
遠くまで見えるようになった。
その積み重ねが。
ようやく。
一人の“勇者”の背中へ届こうとしていた。




