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第14話 配達人を探せ

 三人になって最初の朝。


 セインたちは、町務斡旋所にいた。


「こちらですね」


 受付の職員が、一枚の依頼票を机に置いた。


「昨日の朝、この町の配達商会から隣町へ荷物を届けに出た男性が、予定時刻を過ぎても戻っていません」


「予定だといつ戻るはずだったの?」


 ピエナが聞く。


「昨日の夕方です」


「じゃあ、一晩帰ってないんだ」


「はい。届け先への確認では、荷物もまだ到着していないとのことです」


 セインが依頼票を見る。


「道は?」


「東街道です。出発後、町から一時間ほどの地点までは目撃されています。それ以降の情報はありません」


「魔物に襲われた可能性は?」


「否定できません。ただし、この周辺で危険な魔物の目撃報告は現在ありません」


「荷車?」


「一台使用しています」


 セインは頷いた。


「なら跡が残ってるかもな」


「東街道なんだよね?」


 ピエナが確認する。


「はい」


「私たちも東に行くよね」


「行く」


 王国の勇者を追う方向と同じだった。


「じゃあこれにしよう!」


 クリスが嬉しそうに言った。


「探しながら進める!」


「今回は寄り道じゃないな」


 セインが言う。


「寄り道にも種類あるの?」


 クリスが聞く。


「目的地から外れたら寄り道」


「じゃあ目的地と同じ方向なら?」


「たぶん寄り道じゃない」


「便利だな!」


「何が?」


「考え方!」


 基準は早くも悪用されそうだった。


     ◇


「では、受託者のお名前をお願いします」


 職員が筆を構える。


「セイン」


「ピエナ」


「クリスティアン・フォン・アルディス!」


 職員の手が止まった。


「……アルディス?」


「はい!」


「王都のアルディス家でしょうか」


「たぶん!」


「たぶん?」


「アルディスって他にもいるの?」


「少なくとも私は存じませんが……」


「じゃあそれ!」


 職員が一瞬だけクリスを見る。


 それから何事もなかったように記入を続けた。


「クリスの家って、やっぱり有名なんだね」


 斡旋所を出てから、ピエナが言う。


「そうみたい」


「そうみたいって」


「家の名前って、自分で聞く機会なくない?」


「普通は自分の家が有名かどうかくらい分かると思うけど」


「そうなの?」


 ピエナは少し考えた。


「……いや、名家に生まれたことないから分かんないや」


「俺も」


 セインが言う。


「じゃあ誰も分かんないじゃん!」


 クリスは楽しそうだった。


 そういう結論ではなかった。


     ◇


 三人は東街道を歩いた。


 昨日の配達人が使ったという道だ。


 街道なので、当然ながら荷車の跡はいくつも残っている。


「これじゃ分かんないね」


 ピエナが地面を見る。


「ああ」


 セインもしゃがみ込む。


「昨日だけでも何台通ったか分からない」


「荷車って全部同じ跡になるの?」


 クリスが聞く。


「幅が違ったり、車輪の形が違ったりはするよ」


 ピエナが答えた。


「そうなの?」


「村でも荷車くらい使うからね」


「自分で乗ってた?」


「荷物運ぶ時とか」


「押したことも?」


「あるよ」


 クリスが少し驚いた。


「重くない?」


「重いよ」


「じゃあなんで押すの?」


「荷物運ぶためだけど」


「そうか!」


 ピエナがクリスを見る。


「もしかして、クリスって荷車押したことない?」


「ない!」


「荷物積んだことは?」


「ない!」


「降ろしたことは?」


「ない!」


「……乗ったことは?」


「ある!」


「そこだけなんだ」


「乗ったら目的地まで着いた!」


「便利だったでしょ」


「便利だった!」


 ピエナは笑った。


「それ、王都の人がみんなそうなんじゃなくて、たぶんクリスの家がそうなんだよ」


「そうなの?」


「王都の人だって、自分で荷物運んでる人はいっぱいいるでしょ」


「あ、確かに見たことある!」


「見てたんじゃん」


「自分でやったことはなかった!」


 知らなかったというより。


 自分の生活には必要がなかったのだ。


     ◇


「これ」


 少し先を歩いていたクリスが止まった。


「何?」


「この車輪の跡だけ、片方深くない?」


 セインとピエナも見る。


 街道の端。


 二本並んだ車輪跡のうち、右側だけが妙に深い。


「ほんとだ」


 ピエナがしゃがむ。


「こっちだけ沈んでる」


「荷物が右に偏ってた?」


 クリスが言う。


「それもあるかもしれないけど」


 セインが跡を追う。


「少し前からずっと右だけ深い」


「じゃあ車輪の方がおかしかった?」


「可能性あるな」


 三人で跡を追っていく。


 しばらくすると、その車輪跡だけが街道の端へ寄っていた。


「あっ」


 ピエナが指差す。


「外れてる」


 草地へ続いている。


「行ってみよう!」


     ◇


 跡は森の手前まで続いていた。


 そして。


「荷車!」


 傾いた荷車が一台。


 その横に男が座っていた。


「いた!」


 三人が走る。


 男が顔を上げた。


「誰だ?」


「町務斡旋所の依頼で探しに来た!」


 セインが答える。


「斡旋所?」


 男が目を丸くした。


「商会が依頼出したんだと思う」


 ピエナが言う。


「ああ……そうか。一晩経ってるもんな」


「怪我は?」


「ないよ」


 男が立ち上がる。


 少し足を振る。


「ずっと座ってたから、ちょっと痺れてるくらいだ」


「よかった」


 ピエナが息を吐いた。


 セインは荷車を見る。


 右側の車輪が外れていた。


「原因これ?」


「ああ」


 男が頷く。


「昨日から少しぐらついてたんだ。街道の真ん中で外れたら邪魔になると思って、端へ寄せたんだが……こっちまで来たところで完全に外れた」


「一人じゃ直せなかった?」


「荷車を持ち上げないと車輪を入れ直せなくてな」


 クリスが車輪を見る。


「これって、また付けられるの?」


「付けられるよ」


「壊れたわけじゃないんだ」


「軸は無事だからな」


 クリスは感心したように覗き込んだ。


「知らなかった」


「荷車の車輪が外れること?」


 ピエナが聞く。


「うん」


「まあ、自分で使わなきゃ知らなくてもおかしくないか」


「ピエナは知ってた?」


「外れるのは知ってる。でも直したことはない」


「セインは?」


「俺もない」


 三人とも男を見る。


「……俺が直すよ」


 配達人が言った。


「持ち上げてくれれば」


「それならできる!」


 クリスがすぐに答えた。


     ◇


 三人で荷車の右側に並ぶ。


「持つぞ」


 セインが言う。


「せーの!」


「重っ!」


 クリスの声が一番大きかった。


「荷物入ってるからね!」


 ピエナが言う。


「これ毎日運んでるの!?」


「そういう仕事だ!」


 配達人が車輪を持ちながら答える。


「すごいな!」


「今言うことか?」


「だって重い!」


「喋るなら持て!」


「持ってる!」


 荷車が少し浮く。


「もう少し!」


 配達人が言う。


「まだ!?」


「あとちょっと!」


「クリス、そっち下がってる!」


 ピエナが言う。


「腕が!」


「戦ってる時あんなに格好よかったのに!」


「荷車は攻撃してこないから避けられない!」


「避けちゃ駄目でしょ!」


「分かってる!」


 魔物相手にはほとんど攻撃を受けなかった男が。


 荷車相手には真正面から苦戦していた。


「よし!」


 車輪が軸にはまる。


「ゆっくり下ろしてくれ!」


「分かった!」


 三人が慎重に荷車を下ろす。


 今度は無事に地面へ着いた。


 配達人が何度か車輪を確認する。


「これなら町まで戻れる」


「隣町には行かないの?」


 セインが聞く。


「一度戻る。予定を一日過ぎてるし、商会にも無事を知らせないとな。それに、このまま荷物を運ぶなら車輪もちゃんと見てもらった方がいい」


「確かに」


「助かったよ」


 男が三人へ頭を下げた。


「ありがとう」


     ◇


 町への帰り道。


「配達って大変なんだな」


 クリスが言った。


「今まで知らなかった?」


 セインが聞く。


「荷物が届くのは知ってた!」


「それはみんな知ってるよ」


 ピエナが笑う。


「でも、誰かがああやって運んでるってあんまり考えたことなかった」


「クリスの家にも荷物届いてたでしょ?」


「届いてた!」


「誰が持ってきてた?」


「……」


 クリスが考える。


「分かんない」


「会ったことないの?」


「たぶんある。でも覚えてない」


 少しだけ間が空いた。


「今度から見る!」


 クリスが言う。


「何を?」


「持ってきた人!」


「そこからなんだ」


「だって今日知ったから!」


 ピエナが笑った。


「それでいいんじゃない?」


「いいの?」


「知らなかったなら、知った後に見ればいいじゃん」


「なるほど!」


「でもじっと見すぎたら怖いからね」


「どのくらい見ればいい!?」


「普通に!」


「普通が分からない!」


「そこから!?」


 話はまた少しだけ逸れた。


 ただし今度は、歩く方向までは逸れていなかった。


     ◇


 町務斡旋所へ戻る。


 配達人が無事だったことと、荷車の故障が原因だったことを報告する。


 職員は書類へ記入した。


「依頼対象者本人の帰還も確認できましたので、捜索依頼は完了となります」


「報酬は?」


 ピエナが聞く。


「依頼元の配達商会へ確認後、お支払いします」


「今日じゃない?」


「本日中に確認できれば、本日中です」


「よかった」


 ピエナは普通に頷いた。


 以前の依頼で、確認に時間がかかることはもう知っている。


 隣でクリスが聞いた。


「すぐ払わないの?」


「依頼が本当に達成されたか確認する必要あるから」


 ピエナが答える。


「なるほど」


「嘘ついて『見つけました』って言う人がいたら困るでしょ」


「ああ!」


 クリスが納得する。


「斡旋所ってちゃんとしてるんだな!」


 職員が顔を上げる。


「ありがとうございます」


「褒められた」


 ピエナが小声で言う。


「褒めた!」


 聞こえていた。


     ◇


 斡旋所を出る。


「今日は結構色々知った!」


 クリスが言った。


「荷車の車輪が外れる!」


「うん」


「配達人が自分で荷物運ぶ!」


「うん」


「依頼は確認してから金払う!」


「うん」


 ピエナが三つ数える。


「全部、普通に生活してたら割と知ってることだけどね」


「そうなの!?」


「たぶん」


「じゃあ俺、知らないこといっぱいあるな!」


 クリスは落ち込まなかった。


 むしろ少し楽しそうだった。


「面白いな!」


「何が?」


 セインが聞く。


「知らないことあるの!」


「普通嫌じゃない?」


「なんで?」


「分からないから」


「でも知ればいいじゃん!」


 あっさり言った。


 セインは少しだけ考える。


「……それはそうだな」


「だろ?」


 クリスが笑う。


「じゃあ次は何知るかな!」


「その前に勇者追うよ」


 ピエナが言った。


「あ」


「忘れてた?」


「ちょっと!」


「昨日仲間になったばっかりでしょ!」


「でも依頼してたから!」


「それはそうだけど!」


 セインは東の街道を見る。


「明日はちゃんと進むぞ」


「うん!」


「もちろん!」


 三人になって最初の依頼は終わった。


 新しい仲間は強かった。


 剣も上手い。


 魔物の動きも読める。


 そして。


 荷車については、今日からだった。

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