新しい依頼人
第9話です。
三人で仕事をすることにも、少しずつ慣れてきた直人たち。
それぞれの才能を活かすことで、仕事の見え方も変わってきました。
しかし、まだ始まったばかり。
直人は、この世界で本当に「人財屋」を続けていけるのか。
そして三人は、次にどんな仕事と出会うのか――。
小さな一歩が、少しずつ未来につながっていきます。
どうぞお楽しみください。
「その魔物を逃がしたでしょう?」
少女は弓を構えたまま、レオンを睨んでいた。
レオンは何も答えない。
「ちょっと待ってください」
俺は少女とレオンの間に入った。
「まず、弓を下ろしてもらえませんか?」
「嫌です」
即答だった。
「……ですよね」
「その魔物は、私が追っていたんです」
「追っていた?」
「ええ。私の薬草を荒らしていたから」
少女は森の奥を指差した。
「私が育てている薬草畑があります。その周辺に、あの魔物が何度も現れるんです」
「なるほど」
俺はレオンを見る。
「レオン、あの魔物が薬草を食べていた?」
「……食べていません」
「え?」
「薬草畑には近づいていました。でも、食べている様子はありませんでした」
少女が眉をひそめる。
「嘘です」
「嘘じゃありません」
レオンが静かに答えた。
「あの魔物は、薬草畑の近くにある木の実を食べていました」
「木の実?」
「はい」
「そんなの……」
少女が言葉を止める。
レオンが続けた。
「薬草を荒らしたのは、別の動物だと思います」
「どうして分かるの?」
「足跡が違いました」
少女は黙った。
俺は少し考える。
「その薬草畑、見せてもらえますか?」
「あなたたちを信用しろと?」
「いえ」
俺は首を横に振る。
「信用してもらう必要はありません。ただ、確認するだけです」
「……」
「もしレオンの言っていることが間違っていたら、そのときは俺たちが謝ります」
少女はしばらく俺たちを見ていた。
やがて、弓を下ろした。
「……分かりました」
森の奥へ進む。
しばらく歩くと、小さな薬草畑が見えてきた。
「ここです」
少女が指差す。
確かに、いくつかの薬草が踏み荒らされている。
「ひどい……」
セリアがしゃがみ込む。
「これ、薬草だけじゃないですよ」
「え?」
俺も地面を見る。
レオンがしゃがみ込んだ。
「やっぱり」
「何か分かった?」
「足跡があります」
泥の上に、小さな足跡が残っている。
「これは……」
「魔物じゃありません」
レオンが言った。
「ウサギ?」
セリアが首を傾げる。
「普通のウサギより大きいです」
「じゃあ、何?」
「たぶん、森ウサギです」
少女が驚いた。
「森ウサギ……?」
「はい。群れで動くことがあります」
レオンは薬草畑の周囲を歩いた。
「ここから入って、ここから出ています」
「どうして分かるの?」
「葉の折れ方です」
少女が唖然としている。
「……本当に?」
「はい」
俺は笑った。
「レオン、頼りになりますね」
「……ありがとうございます」
少女はしばらく黙っていた。
そして、小さく息を吐いた。
「分かりました」
「何がです?」
「あなたたちの話を信じます」
「ありがとうございます」
「それで……」
少女は俺を見る。
「この薬草畑を守る方法はありますか?」
「あります」
「本当に?」
「ただし、俺たちだけでは無理です」
俺はレオンを見る。
「レオンなら、森ウサギの動きを調べられる」
次にセリアを見る。
「セリアなら、魔道具を作れる」
「魔道具……」
セリアが少し考える。
「簡単なものなら、作れるかもしれません」
「じゃあ、決まりですね」
「何が?」
少女が驚く。
「仕事です」
「仕事?」
「はい」
俺は笑った。
「あなたの薬草畑を守る仕事です」
少女は目を丸くした。
「……あなたたち、冒険者じゃないんですか?」
「違います」
「じゃあ何?」
俺は少しだけ胸を張った。
「人財屋です」
「人財屋?」
「人の得意なことを組み合わせて、問題を解決する仕事です」
少女は不思議そうに俺たちを見る。
「……変な人たち」
「よく言われます」
セリアが小さく笑った。
レオンも少しだけ笑っている。
俺は改めて薬草畑を見る。
まだ小さな仕事だ。
報酬も、それほど大きくないだろう。
でも――。
これまでの仕事とは違う。
誰かが困っている。
そこに自分たちの人財を組み合わせる。
そして、その人の問題を解決する。
これこそが、俺のやりたかった仕事なのかもしれない。
「ところで」
少女が言った。
「あなたたちの名前を聞いていません」
「ああ、そうでしたね」
俺は笑って答えた。
「俺は桜井直人。こっちはセリア。そして――」
「レオンです」
少女は二人を順番に見た。
「私はミレイ」
それが、俺たちの三人目の依頼人との出会いだった。
そして後に、この少女自身が――。
俺たちの人財屋にとって、重要な存在になることを、このときの俺はまだ知らなかった。
第9話を読んでいただき、ありがとうございます。
直人たちの「人財屋」は、まだまだ小さな存在です。
それでも、一つ一つの仕事を通して、三人の信頼関係は少しずつ深まっています。
人の才能を見つけ、活かし、つなげていく。
直人が異世界で始めた新しい仕事が、これからどこまで大きくなっていくのか。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
Amane




