もう一つの才能
第8話です。
初めて三人で仕事をした直人たち。
セリアには魔道具の才能。
レオンには優れた観察力。
そして直人には、人の才能を見つけ、組み合わせる力がありました。
それぞれ違う才能を持つ三人が、一緒に仕事をすることで見えてきたものとは――。
どうぞお楽しみください。
森の中に、奇妙な静けさが広がっていた。
目の前には、一頭の大きな魔物。
右前足から血を流しながらも、こちらを警戒している。
そして、その魔物の前に立っているのは――レオンだった。
「レオン、危なくないか?」
「大丈夫です」
「本当に?」
「はい」
レオンは魔物から目を離さない。
不思議なことに、魔物もレオンを襲おうとはしなかった。
「直人さん」
セリアが小声で話しかけてくる。
「レオンさん、魔物の気持ちが分かるんでしょうか?」
「俺にも分かりません」
ただ、一つだけ気になる。
《人財鑑定》では、レオンの能力として「危険察知」「空間把握」「採取技術」などが表示されていた。
しかし――。
今の行動は、それだけでは説明できない。
「レオン」
「はい」
「その魔物、どうして怪我をしたか分かる?」
「……たぶん」
レオンは魔物の足を見る。
「罠です」
「罠?」
「この近くに、狩猟用の罠があります」
俺は周囲を見回した。
だが、何も見えない。
「どこに?」
「そこです」
レオンが指差した先。
草の中に、細い金属線が隠されていた。
「……よく見つけたな」
「魔物が避けていたので」
なるほど。
レオンは魔物だけを見ているわけじゃない。
周囲の環境そのものを見ている。
「じゃあ、この魔物は罠にかかった?」
「はい」
「助けられる?」
「やってみます」
レオンがゆっくり近づく。
魔物が低く唸る。
「大丈夫」
レオンが静かに声をかける。
「もう、何もしません」
魔物は動かない。
レオンは罠を確認すると、慎重に解除した。
魔物が足を引き抜く。
「……」
俺たちは息を止めて見守った。
魔物はしばらくレオンを見つめていた。
そして――。
森の奥へと消えていった。
「……行きましたね」
セリアが呟く。
「はい」
レオンが立ち上がる。
「レオン」
「はい?」
「今のこと、いつもできるのか?」
「……分かりません」
「魔物に近づくのは怖くない?」
「怖いですよ」
「怖いの?」
「はい」
レオンは苦笑した。
「だから、怒っているのか、怯えているのかを見るんです」
俺は黙った。
「相手が怖がっているなら、こちらが近づけば余計に怖がります」
「……」
「だから、少し待ちます」
その言葉を聞いて、俺はあることに気づいた。
レオンは魔物だけではない。
人間に対しても、同じなのかもしれない。
「レオン」
「はい」
「人と話すのは苦手ですか?」
レオンが少し驚いた。
「……得意ではありません」
「どうして?」
「何を話せばいいか分からなくて」
なるほど。
だからギルドでも、周囲から「役立たず」と言われても反論しなかった。
人と話すことが苦手だから、自分の能力を伝えることもできない。
でも――。
相手を観察する能力は高い。
これは単なる採取技術ではない。
もっと大きな才能だ。
俺は《人財鑑定》を使う。
レオンの能力が浮かび上がる。
【危険察知:A】
【空間把握:A】
【採取技術:S】
そして、新しい文字が浮かんだ。
【観察眼:SS】
「……これか」
「どうしました?」
「いや」
俺は笑った。
「レオンの才能が、分かった気がします」
「俺の……才能?」
「はい」
レオンは戸惑ったように俺を見る。
「あなたは、相手をよく見ている」
「……」
「人間でも、魔物でも」
「そんな大したことじゃ……」
「いや」
俺は首を横に振った。
「それは、誰にでもできることじゃありません」
セリアが頷く。
「私も、レオンさんが魔物の様子を見ていることに気づきませんでした」
「セリアさんも?」
「はい」
レオンが少し照れたように俯く。
「……ありがとうございます」
そのとき、俺の頭に一つの考えが浮かんだ。
「セリア」
「はい?」
「さっき採った薬草、見てもらえますか?」
「もちろんです」
「レオンが採る」
「私が調べる」
「そう」
俺は二人を見る。
「これが、人財を組み合わせるってことかもしれません」
「組み合わせる?」
「レオンは見つけるのが得意」
「はい」
「セリアは調べるのが得意」
「……なるほど」
今まで俺は、人財を一人ずつ見つけることばかり考えていた。
でも、会社では違った。
一人ではできない仕事も、二人ならできる。
営業が仕事を取ってくる。
事務が支える。
技術者が商品を作る。
それぞれの得意分野を組み合わせることで、組織は大きくなる。
「……面白くなってきた」
「直人さん?」
「いや」
俺は笑った。
「人財屋、少しずつ形になってきましたね」
その日の依頼は、予定より早く終わった。
薬草も十分に採取できた。
報酬を受け取れば、初めてのまとまった収入になる。
だが――。
帰り道。
森の入口まで戻ったところで、レオンが足を止めた。
「どうした?」
「……誰かいます」
「誰か?」
レオンが森の奥を見る。
「さっきの魔物とは違います」
俺も目を凝らす。
何も見えない。
しかし、レオンは確かに何かを感じ取っている。
「人です」
「敵?」
「……分かりません」
その直後。
森の奥から、一本の矢が飛んできた。
俺たちの目の前に突き刺さる。
「――動かないで!」
女性の声が響いた。
次の瞬間。
木の陰から、一人の少女が姿を現した。
弓を構えたまま、俺たちを睨んでいる。
そして彼女の視線は――。
俺ではなく、レオンに向けられていた。
「あなた……」
少女が呟く。
「その魔物を逃がしたでしょう?」
レオンの顔が強張った。
俺は少女とレオンを交互に見る。
どうやら――。
また新しい問題が始まったらしい。
第8話を読んでいただき、ありがとうございます。
三人で仕事をする中で、それぞれの役割が少しずつ見えてきました。
一人では大きなことができなくても、違う才能を持つ人が集まれば、できることは大きく変わります。
直人が目指す「人財屋」も、少しずつ形になってきました。
ここから三人の前に、どんな依頼や出会いが待っているのか。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
Amane




