人財屋の仕事
第10話です。
三人で仕事を始めてから、少しずつ依頼が増えてきた直人たち。
一つ一つの仕事を積み重ねたことで、思いがけないところから新たな依頼が舞い込んできます。
小さな人財屋だった三人の存在が、少しずつ周囲に知られ始めていました。
そして今回、直人たちの前に現れる依頼とは――。
どうぞお楽しみください。
翌朝
俺たちは、ミレイの薬草畑に集まっていた。
「昨日の話、本当にやるんですか?」
セリアが周囲を見渡す。
「もちろん」
俺は畑を眺めた。
問題は単純だ。
森ウサギが薬草を荒らしている。
なら、森ウサギが畑に入れないようにすればいい。
ただし――。
「殺すのはなしで」
俺が言うと、レオンが頷いた。
「分かりました」
「どうして?」
ミレイが尋ねる。
「森ウサギが薬草を荒らす理由が分かっていないからです」
「理由?」
「食べ物を探しているだけなら、追い払っても別の場所でまた畑を荒らすかもしれません」
俺は周囲を見る。
「だったら、畑に入らなくても生きていける環境を作ったほうがいい」
ミレイは少し驚いた顔をした。
「魔物を追い払うんじゃなくて?」
「はい」
俺はレオンを見る。
「森ウサギがどこから来ているのか調べられますか?」
「やってみます」
レオンは畑の周囲を歩き始めた。
俺とセリアは、その様子を見守る。
しばらくすると、レオンが戻ってきた。
「やっぱりです」
「どうだった?」
「森の奥に、森ウサギが集まっている場所があります」
「食べ物は?」
「少なくなっています」
なるほど。
「だから、この畑まで来ているのか」
「はい」
俺は少し考えた。
「セリア」
「はい」
「森ウサギが嫌がる音とか、光を出す魔道具って作れます?」
「……できます」
「本当に?」
「昨日よりは、ずっと簡単です」
セリアが少し自信ありげに笑った。
「ただ、強すぎると森の他の動物にも影響します」
「じゃあ、弱くしましょう」
「はい」
セリアが作業を始める。
その間、俺はミレイに尋ねた。
「この薬草って、何に使うんですか?」
「傷薬です」
「需要はあります?」
「あります。王都の薬師に卸しています」
「なるほど」
俺は畑を見る。
思ったより、この仕事には可能性がある。
薬草を守る。
薬草を育てる。
それを薬師に売る。
もし生産量が増えれば――。
「ミレイさん」
「はい?」
「薬草、もっと作れませんか?」
「え?」
「畑を広げるとか」
「できますけど……人手がありません」
俺は笑った。
「そこは、俺たちの仕事です」
「……?」
「人手を探します」
その言葉に、ミレイが目を丸くする。
これだ。
俺がやっていた仕事。
人を探す。
仕事を作る。
そして、人と仕事をつなぐ。
異世界でも同じことができる。
「できました!」
セリアの声が響いた。
振り返ると、小さな魔道具を手にしている。
「これです」
「どんなもの?」
「森ウサギが嫌がる音を出します。ただし、人間にはほとんど聞こえません」
「すごいな」
「試してみましょう」
セリアが魔道具を設置する。
しばらくすると、森の中から小さな影が現れた。
森ウサギだ。
しかし、魔道具に近づいたところで立ち止まる。
耳を動かし、すぐに方向を変えた。
「……成功です」
セリアが嬉しそうに笑う。
レオンも頷いた。
「これなら、畑には入ってきません」
ミレイは畑を見つめていた。
「本当に……」
そして、こちらを振り返る。
「本当に助かりました」
俺は笑った。
「依頼達成ですね」
ミレイは報酬として金貨一枚を差し出した。
「これは多すぎませんか?」
「それだけの価値があります」
「でも……」
「受け取ってください」
俺は金貨を受け取った。
金貨の重さを手のひらで感じる。
たった一枚。
それでも、俺にとっては特別な一枚だった。
日本で会社を経営していた頃とは違う。
誰かに雇われているわけでもない。
誰かの会社を経営しているわけでもない。
自分で仕事を見つけ、自分たちの力で解決して、その対価を受け取った。
「直人さん」
セリアが声をかける。
「はい?」
「嬉しそうですね」
「……分かります?」
「はい」
レオンも笑った。
「俺も、少し嬉しいです」
「私もです」
三人で顔を見合わせる。
まだ三人しかいない。
小さな仕事を一つ成功させただけ。
それでも――。
「人財屋として、最初の仕事ですね」
俺がそう言うと、セリアが頷いた。
「はい」
俺は王都の方向を見る。
あの街には、まだ俺の知らない人がたくさんいる。
才能を持っているのに、自分では気づいていない人。
能力があるのに、活躍する場所がない人。
そして、人手が足りずに困っている人。
だったら。
「もっと仕事を探しましょう」
「はい!」
「分かりました」
二人の返事が重なった。
俺は笑った。
勇者じゃなくてもいい。
特別な戦闘能力がなくてもいい。
俺には、人を活かすことができる。
そして――。
この世界でも、経営者として生きていける。
人財屋の仕事は、始まったばかりだった。
第10話を読んでいただき、ありがとうございます。
三人の仕事が少しずつ知られるようになり、人財屋として新しい段階へ進み始めました。
まだ小さな一歩ですが、一つ一つの仕事が次の出会いにつながっています。
ここから直人たちは、どんな人財と出会い、どんな仕事を作っていくのか。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
Amane




