最初の評判
第11話です。
少しずつ依頼が増えてきた人財屋。
その評判は、三人が思っていた以上の速さで広がり始めていました。
しかし、仕事が増えれば、それだけ考えなければならないことも増えていきます。
直人は経営者として、どの依頼を受けるべきなのかを考え始めます。
そして、新たな依頼が三人のもとへ――。
どうぞお楽しみください。
ミレイの薬草畑を守る仕事を終えてから、数日が経った。
「直人さん」
朝食を終えたセリアが、一枚の紙を差し出してきた。
「何ですか、これ?」
「昨日、ギルドに行ったときにもらいました」
紙には、いくつかの依頼が書かれている。
「依頼……?」
「はい」
俺は目を通した。
薬草採取。
荷物の運搬。
魔道具の修理。
商店の在庫整理。
そして――。
「ずいぶん増えましたね」
「はい」
セリアが嬉しそうに頷く。
以前なら、一件の依頼を見つけるだけでも苦労していた。
それが今では、こちらから選べるほどになっている。
「どうして急に?」
「ギルドの受付の方が教えてくれました」
「何を?」
「私たちのことを聞いた人が増えているそうです」
俺は紙を見つめた。
どうやら、ミレイの件が口コミで広がったらしい。
たった一件の仕事。
それでも、誰かの困りごとを解決した結果が、次の仕事につながった。
「……これが評判ってやつか」
「評判?」
「日本でもありましたよ。仕事をきちんとやると、次の仕事を紹介してもらえるんです」
「なるほど」
セリアが依頼書を並べる。
「どれにしますか?」
「全部は無理ですね」
「そうですよね」
俺は一枚ずつ確認する。
そのとき、レオンが依頼書を覗き込んだ。
「これ……」
「どうした?」
「この依頼は、やめたほうがいいです」
レオンが指差したのは、商人からの荷物運搬依頼だった。
「理由は?」
「依頼場所が、森の東側です」
「何かある?」
「最近、魔物の動きが変です」
俺は依頼書をもう一度見る。
「具体的には?」
「昨日、森の入口近くで普段見ない足跡を見ました」
「危険度は?」
「分かりません」
レオンは少し考えた。
「でも、今行くのは危ないと思います」
「分かった。これは後回しにしましょう」
セリアが驚いた顔をする。
「直人さん、依頼を断るんですか?」
「正確には、今は受けない」
「どうして?」
「利益だけを見て仕事を選ぶと、いつか無理が出ます」
俺は二人を見る。
「人財屋は、仕事を取ることだけが目的じゃない」
「……」
「俺たち三人が安全に仕事を続けられることも大事です」
セリアが頷いた。
「なるほど」
「じゃあ、こっちは?」
セリアが別の依頼書を出す。
「魔道具店からの修理依頼」
「これはいいですね」
俺は依頼書を見る。
依頼主は――。
以前、セリアが仕事をした魔道具店だった。
「リピーターです」
「りぴーたー?」
「一度仕事をした人が、もう一度仕事を頼んでくれることです」
「それは……嬉しいですね」
セリアが微笑む。
俺も自然と笑っていた。
会社を経営していた頃、何度も経験した。
一度の取引より、二度、三度と続く取引のほうが大切だ。
信頼は、一日では作れない。
仕事を一つずつ積み重ねることで、少しずつ生まれていく。
「よし」
俺は依頼書を手に取った。
「この仕事を受けましょう」
「はい!」
「分かりました」
三人で店へ向かう。
店主は俺たちを見るなり、笑顔になった。
「待っていたよ」
「今回もよろしくお願いします」
「こちらこそ」
店主が奥から魔道具を持ってくる。
「実はね、前に直してもらった装置を見た別の店からも相談が来ているんだ」
「別の店?」
「君たちに頼みたいと言っている」
俺は思わずセリアを見る。
セリアも驚いている。
「仕事が……また増えましたね」
「はい」
レオンが小さく頷く。
俺はその魔道具を見つめながら、ふと思った。
まだ俺たちは三人だけ。
拠点もない。
名前すら決まったばかり。
それでも――。
確実に前へ進んでいる。
「セリア」
「はい?」
「これから忙しくなりそうですね」
「……はい」
彼女は嬉しそうに笑った。
その日の夕方。
俺たちが店を出ると、見知らぬ男がこちらを見ていた。
「……あの三人か」
男は小さく呟く。
その視線は、俺たちの背中を追っていた。
まだ俺たちは知らない。
小さな人財屋の評判が、少しずつ王都の中で広がり始めていることを。
そして――。
次に俺たちの前に現れる依頼は、これまでとは規模が違うものになることを。
第11話を読んでいただき、ありがとうございます。
仕事が増えることは嬉しいこと。
でも、ただ依頼を増やせばいいわけではありません。
どんな仕事を受けるのか。
自分たちに何ができるのか。
直人は、これまでの経営者としての経験を活かしながら、一つずつ判断していきます。
そして次回から、人財屋にとって新しいタイプの依頼が始まります。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
Amane




