初めての仕事
第5話です。
セリアの才能を見つけた直人。
しかし、才能があるだけでは仕事にはなりません。
直人はセリアとともに、異世界で初めての仕事に挑みます。
果たして二人は、依頼を無事に成功させることができるのか。
どうぞお楽しみください。
翌朝。
「……本当に、これでいいんですか?」
セリアが不安そうに依頼書を見つめている。
「いいと思いますよ」
「でも……報酬が銀貨三枚ですよ?」
「十分じゃないですか」
俺たちが受けたのは、魔道具店からの小さな依頼だった。
内容は、店で使っている魔道具の調整。
どうやら最近、魔道具の一部が正常に動かなくなっているらしい。
俺自身には魔道具の知識なんてない。
だから、この依頼を見つけたときにセリアへ聞いた。
「できそうですか?」
「……分かりません」
「じゃあ、見に行きましょう」
それだけだった。
魔道具店は、ギルドから歩いて十分ほどの場所にあった。
「いらっしゃいませ」
店に入ると、白髪の男性が出迎えてくれた。
「ギルドから来ました。魔道具の調整の依頼を受けたんですが」
「ああ、君たちか」
店主は少し困った顔をした。
「実は、この魔道具なんだ」
案内されたのは、店の奥にある大きな装置だった。
「最近、火力が安定しなくてね」
セリアが装置をじっと見る。
「……触ってもいいですか?」
「もちろん」
セリアは杖を置き、装置を慎重に調べ始めた。
俺は少し離れて、その様子を見る。
さっきまでの彼女とは、まるで別人だった。
「ここ……」
「何か分かりました?」
「魔力の流れが、おかしいです」
「直せそうですか?」
「……たぶん」
セリアが装置の一部を開ける。
「この魔石が、少しだけズレています」
「それだけ?」
「はい。でも、このままだと魔力が均等に流れません」
セリアは魔石を取り外した。
そして、何かを考える。
「……これ、別の魔石に交換してもいいですか?」
「別の?」
「はい」
店主が首を傾げる。
「この装置は火属性用なんですが……」
「水属性の魔石を少しだけ使います」
「水を?」
俺も驚いた。
昨日と同じだ。
普通なら混ぜないものを組み合わせようとしている。
「大丈夫なんですか?」
俺が聞くと、セリアは少しだけ自信なさそうに答えた。
「……試してみたいです」
「じゃあ、やってみましょう」
セリアが魔石を組み込む。
しばらくすると――。
装置が低い音を立てた。
そして、赤い光が安定して灯る。
「……直った」
店主が目を丸くした。
「本当に直ったのか?」
「はい」
セリアが小さく頷く。
店主は何度も装置を確認した。
「これはすごい……」
そして、セリアを見る。
「お嬢さん、名前は?」
「セリアです」
「セリアさん。この魔道具、以前より安定している」
「……本当ですか?」
「ああ」
セリアの顔が明るくなった。
「ありがとうございます」
店主は依頼料として銀貨三枚を渡してくれた。
俺はそれを受け取り、セリアに見せる。
「初仕事、成功ですね」
「私……仕事ができたんでしょうか」
「できましたよ」
「でも、私は冒険者としては……」
「もうその話はやめましょう」
「え?」
「セリアさんは冒険者に向いてないんじゃない」
俺は銀貨を一枚、彼女に渡した。
「冒険者以外の才能があるんです」
「……」
「昨日、言いましたよね」
セリアが銀貨を見つめる。
「人には、それぞれ向いている場所があるって」
「はい」
「俺は、その場所を探す仕事をしたい」
「仕事……」
その言葉を聞いて、セリアが顔を上げた。
「直人さんは、何をする人なんですか?」
「それを今から決めるところです」
俺は笑った。
「日本では、人材を探して、企業に紹介する仕事をしていました」
「人材……」
「この世界では――」
少し考える。
俺は昨日まで「人材」という言葉を使っていた。
でも、この世界では少し違う気がした。
人は会社の道具じゃない。
それぞれに才能があり、人生がある。
「人財、かな」
「じんざい?」
「人の財産です」
セリアが不思議そうに俺を見る。
「俺は、そういう人たちを見つけて、活躍できる場所を作る」
まだ何もない。
会社もない。
顧客もいない。
仲間も一人だけ。
それでも――。
「人財屋……」
俺が呟くと、セリアが少し笑った。
「なんだか、直人さんらしいですね」
「そうですか?」
「はい」
店を出る。
王都の街並みを眺めながら、俺は銀貨を握った。
たった一件の仕事。
報酬は銀貨三枚。
それでも、俺にとっては大きな一歩だった。
勇者じゃなくてもいい。
剣が使えなくてもいい。
魔法が使えなくてもいい。
俺には、俺にできることがある。
「セリア」
「はい?」
「これから忙しくなりますよ」
「……はい!」
セリアが笑った。
こうして俺の異世界での仕事――
人財屋としての最初の一日が始まった。
第5話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回、直人とセリアにとって初めての仕事が始まりました。
小さな仕事ではありますが、直人にとっては大きな一歩です。
そして、直人がこの世界で始めようとしている「人財屋」の形も、少しずつ見えてきました。
次回は、新たな出会いが待っています。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
Amane




