彼女は、無能じゃない
第4話です。
「魔法が使えない」と言われた少女・セリア。
けれど、本当に彼女には才能がないのでしょうか。
直人は、セリアの中に隠されたものを見つけ始めます。
人には、それぞれ違った才能がある。
直人が初めて「人を活かす」ということに向き合う回です。
どうぞお楽しみください。
俺の目の前に、見慣れない文字が浮かんでいる。
いや、正確には――セリアの周りに浮かんでいる。
【対象:セリア】
【魔力操作:A】
【魔法構築:SS】
【魔道具開発:SSS】
【潜在能力:測定不能】
「……」
俺は思わず黙り込んだ。
これが《人財鑑定》。
人の能力を数値化するようなものなのか。
それにしても、さっきまで「攻撃魔法が使えない」と言われていたセリアの能力が、これほど高いとは。
「どうしました……?」
セリアが不安そうに俺を見る。
「いや」
俺は少し考えてから聞いた。
「セリアさんって、魔法を使うとき、いつもこんな感じなんですか?」
「こんな感じ……?」
「火球を使おうとしても、途中で別の魔法に変わったりします?」
「……はい」
セリアは申し訳なさそうに頷いた。
「だから、私は魔法が下手なんです」
「どうしてそう思うんです?」
「だって……」
セリアは杖を握りしめる。
「みんなは火球なら火球を出せます。でも私は、途中で違うものになってしまうんです」
「なるほど」
俺はもう一度、彼女を見る。
鑑定結果は変わらない。
だったら――。
「もう一度、やってもらえますか?」
「え?」
「さっきの魔法」
「でも……失敗します」
「失敗してもいいです」
「……本当に?」
「はい」
セリアは恐る恐る杖を構えた。
「じゃあ……」
魔力が集まる。
小さな炎が生まれた。
炎は徐々に大きくなり、次の瞬間、水のような形へ変化した。
俺はじっと観察する。
「……止めないでください」
「え?」
「そのまま続けて」
セリアが戸惑いながら魔力を流し続ける。
炎と水がぶつかる。
普通なら消えるはずだ。
ところが――。
炎が水の中で回転し始めた。
「これは……」
周囲から驚きの声が上がる。
セリア自身も目を見開いている。
「私……こんな魔法……」
「やっぱり」
俺は確信した。
この人は魔法が下手なんじゃない。
普通の魔法を使うのが得意じゃないだけだ。
「セリアさん」
「はい」
「火と水を同時に扱うことってできますか?」
「分かりません……」
「じゃあ、試してみましょう」
セリアは何度も失敗した。
炎が消える。
水が飛び散る。
魔力が暴発して、俺の髪が少し焦げた。
「す、すみません!」
「大丈夫です」
俺は笑った。
むしろ、面白くなってきた。
普通なら失敗する組み合わせ。
でもセリアなら、何かできる。
「もう一度」
「はい!」
今度は少し違った。
炎と水が混ざり合い、白い蒸気が発生する。
その蒸気が、セリアの杖の先で渦を巻く。
「……できた」
セリアが呟いた。
その顔には、驚きと喜びが浮かんでいた。
「私……できたんですか?」
「はい」
「でも……火球じゃないです」
「火球を作る必要があるんですか?」
「え?」
「火球が作れないから、魔法が使えない。それって誰が決めたんです?」
セリアは黙った。
「人によって得意なことは違います」
俺は会社で何度も言ってきた言葉を思い出す。
「営業が苦手だからって、その人に価値がないわけじゃない」
セリアを見る。
「事務が得意かもしれない。技術が得意かもしれない。人をまとめるのが得意かもしれない」
「……」
「セリアさんの場合は、魔法そのものを使うというより――」
俺は杖の先を見る。
「魔法を組み合わせたり、新しい魔法を作ったりすることが得意なんじゃないですか?」
セリアの目が大きく開いた。
「……新しい魔法」
「たぶん」
もちろん、俺に魔法の知識はない。
でも、人を見ることなら仕事にしてきた。
そして今は、《人財鑑定》がある。
俺はもう一度、セリアを見る。
鑑定結果には、はっきりと書かれている。
【魔法構築:SS】
【魔道具開発:SSS】
これが偶然だとは思えない。
「セリアさん」
「はい」
「今の魔法、もっと研究してみませんか?」
「私が……?」
「はい」
「でも、冒険者には向いていないって……」
「冒険者じゃなくてもいいじゃないですか」
セリアは目を伏せた。
「私は……何をすればいいのか分かりません」
「だったら、一緒に探しましょう」
「一緒に……?」
「俺も、この世界では何もできない人間ですから」
そう言うと、セリアが少しだけ笑った。
「直人さんも……?」
「剣も使えない。魔法も使えない。昨日は王宮でハズレ扱いされました」
「……勇者様の、お知り合いですよね?」
「幼馴染です」
「そうだったんですね」
少しだけ空気が柔らかくなった。
俺は手を差し出した。
「セリアさん」
「はい」
「俺と一緒に仕事をしませんか?」
セリアは差し出された手を見つめた。
そして、ゆっくり顔を上げる。
「……私に、できるでしょうか?」
俺は笑った。
「できるかどうかは、これから決めればいい」
そして思った。
俺の異世界での最初の仕事。
それは――。
最初の人財を見つけることだった。
第4話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回から、直人が異世界で「人財屋」として歩み始めます。
セリア自身も気づいていなかった才能を、直人は見つけることができました。
これから直人が、どんな人財と出会っていくのか。
そして、その人たちの才能をどう活かしていくのか。
少しずつ物語を広げていきます。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
Amane




