王都で仕事を探す
第3話です。
勇者ではないと告げられた直人。
それでも、この世界で生きていかなければならない。
戦う力を持たない直人が選んだのは、意外な道でした。
ここから、直人の異世界での新しい生活が始まります。
どうぞお楽しみください。
王宮を出て、三十分ほど。
「……広いな」
俺は王都の大通りを歩きながら、思わず呟いた。
石畳の道。
レンガ造りの建物。
馬車が行き交い、見たことのない服装をした人々が歩いている。
どう見ても日本ではない。
いや、そもそも地球ですらない。
「本当に異世界なんだな……」
昨日まで、俺は日本で会社を経営していた。
それが今は、剣を腰に下げた男が普通に歩いている世界にいる。
何度考えても現実感がない。
ただ、ひとつだけ現実的な問題があった。
「金がない」
正確には、少しはある。
王宮を出る際、銀貨を数枚渡された。
生活費として使え、ということらしい。
だが、異世界の物価なんて分からない。
そして何より――。
「凛は王宮に残ってるんだよな」
そう考えると、少しだけ胸が重くなる。
凛は勇者。
俺はハズレ。
立場が違いすぎる。
「まあ、仕方ないか」
俺は頭を切り替えた。
落ち込んでいても金は増えない。
仕事を探そう。
これは昔から変わらない。
困ったときは、まず仕事だ。
大通りを歩いていると、ひときわ大きな建物が目に入った。
看板には剣と盾のような紋章。
「冒険者ギルド……」
異世界ものでは定番の場所だ。
まさか自分が入ることになるとは思わなかったけど。
扉を開ける。
「いらっしゃいませ!」
受付から明るい声が飛んできた。
中には多くの冒険者がいた。
鎧を着た男。
杖を持った女性。
弓を背負った青年。
どう見ても、俺より強そうな人間ばかりだ。
「冒険者登録をしたいんですが」
受付の女性に声をかける。
「はい。では、こちらにお名前を――」
「すみません。俺、戦闘経験がないんですけど」
「……え?」
「剣も使えません。魔法も使えません」
受付嬢が困ったような顔をする。
「でしたら、冒険者登録はおすすめできません」
「ですよね」
俺は苦笑した。
そこで、壁に貼られた依頼書が目に入った。
「……ん?」
薬草採取。
荷物運び。
倉庫整理。
護衛の補助。
「こういう仕事なら?」
「はい。戦闘能力がなくても受けられる依頼はあります」
なるほど。
だったら何とかなる。
「登録お願いします」
手続きを終え、依頼書を眺めていると――。
「……すみません」
小さな声が聞こえた。
振り返る。
一人の女性が受付の前に立っていた。
薄い水色の髪。
大きな杖。
年齢は二十代前半くらいだろうか。
かなり小柄に見える。
「また、失敗したんです……」
「申し訳ありません」
受付嬢が困った顔をしている。
「でも、今回も魔法が発動しなくて……」
「セリアさん。何度も説明していますが、攻撃魔法が使えない状態では、冒険者としては――」
「……はい」
女性は俯いた。
「すみません……」
その言葉を聞いて、俺は少し引っかかった。
――まただ。
日本でもよく聞いた。
「すみません」
自信がない人ほど、何でも謝る。
もちろん、本当に本人が悪い場合もある。
でも、今の彼女は違う気がした。
「……ちょっといいですか?」
思わず口を挟んでいた。
二人がこちらを見る。
「この人、何ができないんです?」
「え?」
受付嬢が驚く。
「攻撃魔法です」
「どんな魔法を?」
「火球系の初級魔法を……」
「見せてもらえます?」
「直人さん?」
もちろん、今の俺に彼女の名前を知る理由はない。
受付嬢が紹介してくれた。
「こちらはセリアさんです」
「セリア……」
彼女が小さく頭を下げる。
「よろしくお願いします……」
俺は少し考えた。
「じゃあ、試してみましょう」
「え?」
「火球じゃなくてもいいです」
「でも……」
「失敗しても誰も怒らないから」
セリアは不安そうに杖を握った。
「……分かりました」
彼女が目を閉じる。
杖の先に、小さな光が生まれた。
弱々しい光。
それがゆっくりと形を変えていく。
炎になる。
水になる。
そして――。
「……え?」
俺は思わず声を漏らした。
セリアの魔法が、途中で奇妙な変化を見せた。
炎と水が混ざり合っている。
普通なら、そんなことは起こらないらしい。
周囲の冒険者たちもざわめき始めた。
「何だ、あれ……」
「魔法が混ざってる?」
セリア本人も驚いている。
「わ、私……こんなこと……」
その瞬間だった。
俺の視界に、見たことのない文字が浮かんだ。
最初は、目の錯覚だと思った。
けれど消えない。
透明な文字が、セリアの身体の周囲に並んでいる。
そして、その一番上には――。
【対象:セリア】
俺は息を呑んだ。
続いて、文字が一つずつ浮かび上がる。
【魔力操作:A】
【魔法構築:SS】
そして――。
【魔道具開発:SSS】
「……何だ、これ」
さらに最後に、見たこともない表示が現れた。
【潜在能力:測定不能】
俺は、しばらく言葉を失った。
さっきまで「才能がない」と言われていた彼女。
その本当の能力が、目の前に表示されている。
そして俺は、ようやく理解した。
これは鑑定だ。
ただの鑑定じゃない。
――人間の価値を、見抜く力。
俺の人生を大きく変えることになる力。
その名は――。
《人財鑑定》
だった。
第3話を読んでいただき、ありがとうございます。
直人は、この世界で自分にできることを探し始めました。
そして今回、物語の中で新しい出会いが生まれます。
次回から、直人の持つ「人を見る力」が少しずつ物語に関わってきます。
「人には、それぞれ活躍できる場所がある」
直人が異世界でどんな人たちと出会い、何を始めるのか。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
Amane




