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勇者とハズレ

第2話です。


異世界へ転移した直人と凛。

二人を待っていたのは、思い描いていたものとは少し違う現実でした。


ここから、二人の運命が大きく分かれ始めます。


どうぞお楽しみください。

最初に感じたのは、冷たさだった。


「……っ」


 頬に触れる硬い床の感触で、俺は目を覚ました。


「ここ……どこだ?」


 ゆっくり身体を起こす。


 さっきまで俺たちがいたのは、夜の住宅街だった。


 なのに今、目の前にあるのは――。


「……何だ、これ」


 石造りの巨大な部屋。


 壁には見たことのない紋章。


 床には、俺たちが立っていた場所と同じような魔法陣が描かれている。


 そして周囲には、剣や槍を持った兵士たち。


 さらに、その奥には白いローブを着た老人や、豪華な服を着た男たちが並んでいた。


「召喚……成功したのか?」


「二人いるぞ!」


「なぜだ? 召喚されたのは一人のはずでは……」


 ざわめきが広がる。


 俺は隣を見る。


「凛!」


「……直人」


 凛も無事だった。


 少なくとも怪我はない。


 それだけで少し安心した。


「ここ、どこだ?」


「私に聞かないで」


「だよな」


 俺たちが困惑していると、豪華な服を着た男が一歩前へ出た。


「異世界より召喚されし勇者よ」


「……勇者?」


 凛が眉をひそめる。


 男は凛を見る。


「あなたこそ、我々が求めていた勇者です」


「私が?」


「はい」


 その瞬間、周囲から歓声が上がった。


「勇者様だ!」


「成功した!」


「これで魔王軍に対抗できる!」


 話が早すぎる。


 俺は状況についていけない。


「ちょっと待ってください」


 手を上げる。


「そもそも、ここはどこなんですか?」


 一瞬、静かになった。


 すると、白いローブの老人が説明を始めた。


「ここはアルヴェリア王国の王城です」


「王国……」


「あなた方は、我々の世界とは異なる世界から召喚されました」


 異世界。


 言葉としては知っている。


 漫画や小説で何度も見た。


 でも、自分が当事者になるとは思わなかった。


「魔王軍との戦いにおいて、我々は勇者の力を必要としております」


 老人が凛を見る。


「そして、あなたには勇者の力が宿っています」


「……私に?」


「はい」


 凛は困ったように俺を見る。


 俺も何と言っていいか分からない。


「とりあえず、能力を確認させていただきます」


 そう言って、老人が水晶玉のようなものを取り出した。


 凛がその前に立つ。


 水晶が強く輝いた。


「これは……!」


 老人の声が震える。


 周囲がざわめく。


「勇者適性……」


 老人が息を呑む。


「SSランク……!」


「SS……?」


 俺には何が凄いのか分からない。


 しかし、周囲の反応を見れば、とんでもない数字なのだろう。


「素晴らしい……」


「これほどの適性は記録にも……」


 凛は困った顔をしていた。


「直人……」


「大丈夫だろ」


 俺は笑った。


「凛なら、まあ……勇者って言われても納得できる」


「何それ」


「昔から運動神経よかっただろ」


「そういう問題じゃないでしょ」


 凛が小さくため息をつく。


 次に、俺の番になった。


「では、あなたも」


「俺もですか?」


「もちろんです」


 水晶の前に立つ。


 老人が手をかざす。


 水晶が――。


 ほとんど光らなかった。


「……」


「……」


 沈黙。


 老人が何度か水晶を確認する。


「もう一度」


 同じだった。


「魔力……E」


 別の魔術師が記録を取る。


「戦闘適性……E」


「固有スキル……」


 そこで言葉が止まった。


「……なし」


 周囲の空気が変わった。


 さっきまでの歓声が嘘のように消える。


「スキルなし……?」


「異世界人なのに?」


「勇者召喚に巻き込まれただけでは?」


 俺は苦笑した。


「なるほど」


 妙に納得してしまった。


 昔から、凛は何でもできた。


 勉強も、運動も、人付き合いも。


 俺はどちらかと言えば普通。


 だから、こういう結果になっても不思議ではない。


「桜井直人……だったな」


 王国の男が言う。


「申し訳ないが、あなたには戦闘能力がありません」


「でしょうね」


「勇者の同行者として行動することも可能ですが……」


 言葉を濁す。


 つまり、役に立たないということだ。


「直人」


 凛が前に出た。


「私は直人と一緒に行く」


「勇者様、それは――」


「嫌です」


 凛の声が低くなる。


「直人を置いていくなら、私も勇者なんてやりません」


 周囲がざわついた。


 俺は凛の肩を軽く叩く。


「凛」


「何?」


「俺なら大丈夫」


「でも……」


「昔からそうだろ」


 笑う。


「お前は自分のやることをやればいい」


「……直人」


「俺だって、何もできないわけじゃない」


 人材会社を経営してきた。


 人を探して、仕事を探して、会社を回してきた。


 剣が使えなくても、魔法が使えなくても。


 生きていく方法くらい、自分で見つけられる。


「だから、行ってこい」


 凛はしばらく俺を見つめていた。


 そして、小さく拳を握る。


「……絶対に死なないで」


「分かってる」


「約束だから」


「ああ」


 凛が王宮の人間とともに歩き出す。


 何度か振り返る。


 俺はそのたびに手を振った。


 やがて扉が閉まる。


 静かになった部屋で、俺は一人になった。


「……さて」


 俺は小さく息を吐く。


「どうやって生きていくかな」


 魔法も使えない。


 戦う力もない。


 固有スキルすらない。


 異世界で完全な「ハズレ」。


 それでも――。


「仕事を探すか」


 俺は立ち上がった。


 不思議と、悲観はしていなかった。


 人間、仕事さえあれば何とかなる。


 そう思っていた。


 このときの俺はまだ知らなかった。


 自分の人生を変える力が、まだ眠っていることを。


 そして、それが目を覚ますのは――。


 もう少し先のことだった。

第2話を読んでいただき、ありがとうございます。


ここから直人と凛、それぞれの異世界での物語が始まります。


「勇者」と「ハズレ」。


同じ場所から始まった二人が、これからどんな道を歩いていくのか。


次回から、直人の異世界での生活が少しずつ動き始めます。


続きも楽しんでいただけたら嬉しいです。


Amane

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