人財屋という場所
【第二章 第38話】
人財屋を訪れる人が増えてきました。
そこは、仕事を探す場所だけではありません。
自分の可能性を探す場所。
そんな場所へと、人財屋は少しずつ変わり始めています。
数日後。
中央商会から、一通の手紙が届いた。
先日の新規事業についての報告だった。
結果は――上々。
小規模ながら、事業は予定どおり動き始めている。
ガルドは事業の方向性を考え、数字に強い担当者が収支を管理し、現場担当が運営を進める。
そしてエドが全体の進行を支えている。
一人の才能だけに頼らない。
それぞれの人財が、自分の得意な場所で力を発揮する。
俺たちが考えた形が、少しずつ結果になっていた。
「やりましたね」
エドが嬉しそうに言う。
「ああ」
「最初は、僕も本当にうまくいくのか不安でした」
「今も?」
「……少しは」
エドは苦笑した。
「でも、前ほどじゃありません」
その言葉に、セリアも笑った。
「それだけでも大きな変化ね」
レオンも頷く。
「人が変わるって、こういうことなのかもしれません」
俺は三人を見た。
気づけば、この店にもそれぞれの役割ができている。
セリアは人との接し方が上手い。
レオンは現場をまとめる。
エドは情報を整理し、全体を見渡す。
そして俺は――。
人財を見つけ、組み合わせる。
最初は自分一人で始めた仕事だった。
でも今は違う。
この店そのものが、一つの組織になっている。
その日の夕方。
凛が店にやってきた。
「また来たのか」
「何よ、その言い方」
「いや、最近よく来るなと思って」
「嫌なら帰るけど?」
「そうは言ってない」
凛は少し笑った。
そして店内を見渡す。
「なんだか、ここに来ると落ち着く」
「そうか?」
「うん」
少し間を置いて、凛が言った。
「王城にいると、私は勇者として見られるから」
その言葉には、少しだけ寂しさがあった。
「でも、ここでは凛としていられる」
俺は何も言わずに聞いていた。
「だから……ここが好きなのかもしれない」
その言葉に、胸の奥が少しだけ熱くなる。
昔の俺なら、何か気の利いたことを言おうとしただろう。
でも今は、無理に言葉を探さなかった。
「なら、いつでも来ればいい」
「……うん」
凛は小さく笑った。
そのときだった。
店の外から声が聞こえた。
「すみません!」
扉が開く。
そこには、若い女性が立っていた。
「ここが、人財屋……ですよね?」
「はい」
俺が答える。
女性は少し緊張した様子で頭を下げた。
「仕事を探しているんです」
「分かりました。まずは話を聞かせてください」
女性が椅子に座る。
そして、自分のことを話し始めた。
これまで働いていた場所。
辞めることになった理由。
自分が何をしたいのか分からないこと。
俺は黙って話を聞いた。
そして、ふと思う。
人財屋を始めたばかりの頃。
俺は「仕事を紹介する場所」だと思っていた。
でも、違った。
仕事だけではない。
自分の居場所を探している人。
自分の価値を見つけたい人。
何かを始めたいけれど、最初の一歩を踏み出せない人。
そんな人たちが、ここへ来る。
「大丈夫ですよ」
俺は女性に言った。
「一緒に探しましょう」
女性は少し驚いた顔をした。
そして――。
「……お願いします」
そう言って、深く頭を下げた。
その姿を見ながら、俺は思った。
ここを始めた理由は、もう思い出せないくらい遠くなっていた。
ただ生きるためだった。
この世界で居場所を作るためだった。
けれど今は違う。
ここは、人が自分の居場所を見つけるための場所になっている。
それなら。
この場所を、もっと大きくしてもいいのかもしれない。
俺は店の看板を見た。
そして、静かに決意する。
人財屋を――。
この世界で、誰もが自分の可能性を見つけられる場所にする。
それが、俺の次の目標だった。
第二章を通して、直人たちの「居場所」も少しずつ変わってきました。
仕事をする場所であり、仲間が集まる場所。
そして、誰かが新しい一歩を踏み出す場所。
これからも人財屋を、そんな場所として描いていきたいと思っています。
Amane




