見えない歪み
【第二章 第37話】
人財鑑定で見えるもの。
そして、見えないもの。
一人ひとりの能力だけでは、組織の歪みは解決できません。
直人は、新しい課題に向き合います。
翌日。
俺たちは依頼を受けた事業所へ向かった。
建物自体は、それほど大きくない。
従業員は二十人ほど。
一見すると、特に問題があるようには見えなかった。
「ここが、うちの事業所です」
依頼人の女性が案内してくれる。
「人手不足というわけではないんですよね?」
セリアが尋ねる。
「はい。むしろ人数だけなら足りています」
「それなのに、事業がうまく回らない」
「ええ」
俺は周囲を見渡した。
何人かの職員が仕事をしている。
帳簿を確認している者。
商品を整理している者。
客と話している者。
一人で黙々と作業している者。
それぞれが真面目に働いている。
それなのに――。
どこか噛み合っていない。
そんな印象を受けた。
「まず、全員と話をさせてください」
「分かりました」
一人ずつ、順番に話を聞いていく。
仕事内容。
困っていること。
得意なこと。
苦手なこと。
そして、今の仕事をどう感じているのか。
話を聞けば聞くほど、少しずつ原因が見えてきた。
「私は接客より、商品の管理をしているほうが得意だと思います」
「僕は数字を見るのが好きです。でも、今はずっと外回りです」
「人に教えるのは好きなんですが、今の仕事ではその機会がありません」
「私は……何をやっても中途半端な気がして」
それぞれが違う悩みを抱えていた。
そして、その多くは能力不足ではない。
配置の問題だった。
俺は一人ずつ鑑定していく。
接客能力が高い者。
分析能力が高い者。
管理能力に優れている者。
教育に向いている者。
危機察知能力が高い者。
中には、本人が自覚していない才能を持つ者もいた。
俺は鑑定結果を見ながら考える。
――やっぱりそうだ。
この組織は、人が足りないんじゃない。
人財が、適切な場所に置かれていない。
夕方。
俺たちは依頼人の女性と話し合った。
「結論から言います」
俺は資料を机の上に並べた。
「新しく人を採用する必要は、今のところありません」
女性は驚いた。
「え?」
「今いる人たちの配置を見直すべきです」
俺は一人ずつ説明していく。
営業を担当している人物を、管理側へ。
数字に強い人物を、経営補佐へ。
教育に向いている人物を、新人育成へ。
そして、本人が自信を失っていた女性には、接客と教育の両方を任せる。
「ですが……配置を変えると、本人たちが戸惑うのでは?」
「だから、いきなり変えません」
俺は答えた。
「まずは一部の仕事から試してもらいます」
小さく変える。
結果を見る。
本人の感想を聞く。
必要なら修正する。
「人を配置することが目的じゃありません」
俺は続けた。
「その人が力を発揮できる場所を探すことが目的です」
女性は黙って資料を見つめていた。
やがて、ゆっくり顔を上げる。
「……今まで私は、人が足りないと思っていました」
「多くの経営者が最初に考えることです」
「でも違ったんですね」
「少なくとも、ここでは」
女性は小さく笑った。
「人はいた。でも、活かせていなかった」
その言葉を聞いた瞬間。
また頭の中に、あの表示が浮かんだ。
【組織構築適性】
今回は、前よりはっきり見える。
そして、その下に新しい文字が表示された。
現在の適性値――未確定
「……未確定?」
俺は思わず呟いた。
「どうしました?」
レオンが尋ねる。
「いや……何でもない」
表示は消えた。
まだ分からない。
この能力が何を意味するのか。
なぜ今になって現れたのか。
俺自身にも答えはない。
帰り道。
レオンが口を開いた。
「直人さん」
「ん?」
「今回の仕事、今までと少し違いましたね」
「ああ」
「人を探したわけでも、採用したわけでもない」
「そうだな」
「今いる人たちの組み合わせを変えただけで、組織が変わった」
俺は歩きながら考えた。
人財を見つける。
人財を育てる。
人財を組み合わせる。
そして――。
組織そのものを変える。
人財屋の仕事は、いつの間にか最初に考えていたものより大きくなっていた。
そのことに、少しだけ怖さを感じる。
でも同時に――。
もっと知りたいとも思った。
「レオン」
「はい?」
「これから、もっと難しい仕事が来るかもしれないな」
「それなら、みんなでやりましょう」
レオンは当たり前のように答えた。
俺は笑った。
「そうだな」
一人ではできない。
だからこそ、仲間がいる。
その夜。
人財屋の扉を閉める直前、俺は看板を見上げた。
人財屋。
この名前が、これからどこまで広がっていくのか。
そして俺の力が、どこまで変わっていくのか。
まだ分からない。
人財鑑定が万能ではない、という部分も今回から少しずつ意識しています。
「能力が分かれば全て解決する」
そんな簡単な話ではありません。
人と人との関係や、本人の意思。
そうしたものも含めて考えることが、これからの直人に必要になっていきます。
Amane




