見知らぬ紋章
【第二章 第36話】
見たことのない紋章。
そして、人財鑑定に現れた新しい項目。
【組織構築適性】
直人自身にも、まだその意味は分かりません。
しかし、人財鑑定は確実に変化し始めています。
差し出された封書を、俺は慎重に受け取った。
見覚えのない紋章。
王城のものでもない。
中央商会が使っているものとも違う。
「これは……?」
「私にも分かりません」
男は息を整えながら答えた。
「ただ、こちらの手紙を届けるように言われただけです」
俺は封を開いた。
中には、短い文章が書かれていた。
――人財屋殿へ。
一度、お話を伺いたい。
詳細については、直接お伝えする。
場所と日時だけが記されていた。
「随分と簡単な依頼だな」
レオンが横から覗き込む。
「相手の名前も書いてないですね」
エドも首を傾げた。
セリアが腕を組む。
「怪しいわね」
「そうだな」
俺も同じことを考えていた。
依頼そのものは珍しくない。
でも、普通なら商会や個人名くらいは記されている。
それがない。
「直人、行くの?」
凛が尋ねた。
「ああ。ただし、一人では行かない」
「私も行こうか?」
俺は少し考えた。
「いや、今回は俺とレオンで行く」
「分かった」
凛は素直に頷いた。
その反応を見て、俺は少し安心した。
以前なら、彼女は「勇者だから」という理由で無理に関わろうとしたかもしれない。
でも今は違う。
自分が必要な場所と、そうでない場所を考え始めている。
それも一つの成長なのだろう。
翌日。
指定された場所は、王都の中心部から少し離れた場所にある古い建物だった。
「ここか……」
俺は建物を見上げた。
商会のような看板はない。
人の出入りも少ない。
「ますます怪しいですね」
レオンが小声で言う。
「ああ」
俺たちは中へ入った。
案内された部屋には、一人の女性が待っていた。
年齢は三十代くらい。
落ち着いた雰囲気をしている。
「人財屋の方ですね」
「はい」
「突然の呼び出し、申し訳ありません」
女性は立ち上がった。
「私はこの街で、ある事業を運営しています」
「ある事業?」
「ええ。ただ……」
彼女は少し言葉を止めた。
「最近、事業を続けること自体が難しくなってきました」
俺は黙って話を聞いた。
人手不足。
資金不足。
取引先との問題。
よくある経営上の悩みなのかと思った。
しかし――。
「一番困っているのは、人がいるのに、組織として機能していないことなんです」
その言葉に、俺は反応した。
人が足りないのではない。
人はいる。
なのに、うまくいかない。
俺が今まで見てきた依頼とは、少し違っていた。
「詳しく聞かせてください」
女性は頷いた。
「従業員は二十人ほどいます。でも、半分以上が自分の仕事に不満を抱えている」
「配置が合っていない?」
「おそらく」
「では、なぜ配置を変えないんです?」
女性は苦笑した。
「誰をどこに移せばいいのか、私にも分からないんです」
俺は少し考えた。
これは――。
人財屋の仕事そのものだ。
ただし、今までとは規模が違う。
「全員を鑑定してほしい、ということですか?」
「それだけではありません」
女性は俺をまっすぐ見た。
「この組織そのものを見てほしいんです」
俺は黙った。
人財鑑定で人を見る。
でも、組織を見ることはできるのか。
これまで俺がやってきたのは、一人ひとりの適性を見つけることだった。
そして最近になって、複数の人財を組み合わせることを覚えた。
その先にあるもの。
それは――組織そのものを設計することなのかもしれない。
「分かりました」
俺は答えた。
「一度、全員の話を聞かせてください」
女性の表情が少し明るくなった。
「引き受けていただけますか?」
「ああ」
その瞬間。
頭の中に、見慣れた鑑定画面が浮かんだ。
だが――。
いつもの表示とは違う。
これまで見たことのない項目が、一瞬だけ表示された。
【組織構築適性】
俺は思わず目を見開いた。
「……何だ、これ?」
すぐに表示は消えた。
隣にいたレオンは気づいていない。
俺だけが見た。
人財鑑定が、また変わった。
俺はその事実を、誰にも話さなかった。
まだ、何が起きているのか分からない。
ただ一つだけ確かなことがある。
俺の力は――。
少しずつ、俺の知らないところへ進み始めていた。
今回は、人財鑑定の新しい可能性を少しだけ出しました。
能力の詳細や、その理由については、まだ先まで明かすつもりはありません。
少しずつ謎を積み重ねながら、物語の大きな部分にも繋げていきたいと思っています。
Amane




