人財屋の次の一歩
【第二章 第35話】
人がいる。
それなのに、組織がうまく動かない。
今回の依頼は、これまでの「人手不足」とはまったく違うものでした。
直人は、組織そのものを見ることになります。
翌朝。
人財屋の扉を開けると、すでにエドが机に向かっていた。
「おはようございます、直人さん」
「早いな」
「昨日の中央商会の件、少し整理しておきたくて」
机の上には、いくつもの書類が並んでいる。
中央商会から依頼された新規事業。
必要な人財。
それぞれの役割。
そして、これからの進行予定。
以前なら、こうした作業は俺が一人でやっていた。
でも今は違う。
「どうだ?」
「まだ調整中ですが、役割はかなり明確になってきました」
エドが一枚の紙を差し出す。
「ガルドさんは事業の方向性を考える。数字に強い人が収支を管理する。現場経験のある人が実際の運営を担当する。そして教育担当が新人を支える」
「いいな」
「それと……」
エドが少し迷ってから続けた。
「僕は全体の進行管理を担当します」
「自分から言えるようになったな」
「……はい」
エドは照れくさそうに笑った。
「以前だったら、そんなこと言えませんでした」
俺はその言葉を聞いて、少しだけ嬉しくなった。
人財屋が成長している。
それは仕事の規模だけじゃない。
ここで働く人間自身が変わっている。
それこそが、俺がこの仕事を始めた意味なのかもしれない。
昼前。
中央商会から、ガルドたちがやってきた。
「直人さん、先日の件ですが」
ガルドは少し緊張した様子だった。
「俺、本当に責任者をやっていいんでしょうか」
「どうしてそう思う?」
「事業を考えることはできます。でも、人をまとめるのは……」
俺はガルドの目を見る。
「じゃあ、全部一人でやろうとするな」
「え?」
「君には事業を考える才能がある。それなら、それを活かせばいい」
俺は隣にいるエドを見る。
「そして、足りない部分は他の人財が支える」
エドが頷いた。
「一人ですべてをできる人を探す必要はないんです」
その言葉に、ガルドは黙り込んだ。
しばらくして、ゆっくり笑う。
「……なるほど」
「何か分かったか?」
「俺、今まで『自分一人で成功させなきゃいけない』って思ってました」
ガルドは仲間たちを見る。
「でも、そうじゃないんですね」
「ああ」
「だったら……やってみます」
その返事を聞いた瞬間、俺は確信した。
この仕事は、うまくいく可能性がある。
もちろん、失敗するかもしれない。
でも、それでいい。
最初から完璧な組織なんて存在しない。
大切なのは、失敗したときに修正できること。
そして、それを支える人財がいることだ。
夕方。
仕事が一段落した頃、凛が店にやってきた。
「今日も忙しそうね」
「ああ。少しずつ仕事が増えてきた」
「それって、いいこと?」
「どうだろうな」
俺は苦笑した。
「忙しくなるほど、俺一人じゃ何もできなくなる」
「でも、それって……」
凛は店内を見渡した。
セリアは来客の記録を整理している。
レオンは次の依頼先へ連絡をしている。
エドは中央商会との資料をまとめている。
「直人が一人でやらなくても、みんなが動いてる」
「そうだな」
「じゃあ、成長したってことじゃない?」
俺は少し考えた。
そして頷く。
「……そうかもしれない」
人財屋を始めた頃。
俺は、人財鑑定の力があれば何とかなると思っていた。
でも違った。
鑑定できることと、人を活かせることは同じじゃない。
人を見つける。
話を聞く。
役割を考える。
組み合わせる。
そして、信じて任せる。
それらすべてが揃って、初めて人財は力になる。
「直人」
「ん?」
「私も、いつかちゃんと役に立てるかな」
凛が聞いた。
俺は笑った。
「もう役に立ってるだろ」
「そうかな?」
「ああ」
昨日、商会で青年にかけた言葉。
あれは俺にはできなかった。
「だから焦らなくていい」
「……うん」
凛は嬉しそうに笑った。
その笑顔を見ながら、俺はふと思う。
人財屋は、もうただの店ではない。
人が集まり。
人が成長し。
人と人がつながる場所になり始めている。
ならば――。
次に必要なのは、もっと大きな仕事なのかもしれない。
そのとき、店の扉が開いた。
「失礼します!」
見覚えのない男が立っていた。
息を切らしながら、手に一枚の封書を握っている。
「こちらに、人財鑑定のできる方がいると聞きました」
俺は立ち上がった。
「俺です」
男は封書を差し出した。
「では、これを……」
封筒には、見慣れない紋章が刻まれていた。
王都中央商会のものではない。
俺は、その紋章を見つめた。
そして――。
まだ誰も知らない、新しい依頼の始まりを感じていた。
第二章も後半に入りました。
ここから「人財屋」という名前の意味が、少しずつ深くなっていきます。
人を見つけるだけではなく、その人たちが力を発揮できる場所を作る。
直人がどこまで成長していくのか、引き続き見守っていただければ嬉しいです。
Amane




