組み合わせる力
【第二章 第32話】
五人の候補者から、一人だけを選ぶ。
直人は、その考え方を捨てます。
必要なのは、最も優秀な一人ではない。
それぞれの才能を組み合わせることでした。
人財屋に戻ると、俺たちはすぐに会議を始めた。
机の上には、中央商会から預かった五人分の資料が並んでいる。
「さて、どう組み立てるか……」
俺は腕を組んだ。
今回の依頼は、単純に責任者を一人選ぶことではない。
新しい事業を成功させるための組織を作ること。
そこを間違えれば、どれだけ優秀な人を集めても意味がない。
「まずは、それぞれの強みを整理しましょう」
エドが資料を広げた。
「一人目は営業と交渉。二人目は数字の管理。三人目は現場の統率。四人目は人材育成。そして五人目が、ガルドさんです」
「事業を考える力、だな」
「はい。ただ、ガルドさんは計画の具体化が苦手です」
俺は頷いた。
「なら、そこを補える人と組ませればいい」
セリアが首を傾げる。
「でも、全員を新規事業に配置するんですか?」
「いや。今の仕事もあるからな。まずは必要な役割を決めて、どこまで人を割けるか商会と相談しよう」
役割を決める前に、人を当てはめない。
先に必要な仕事を洗い出し、その仕事に合う人を配置する。
経営者だった頃、何度も考えてきたことだ。
だが、今回はもう一歩踏み込める。
俺は五人の資料を見直した。
すると、ふと気づいたことがあった。
「……この二人、組ませたら面白いかもしれない」
俺が指差したのは、数字の管理に強い候補者と、ガルドだった。
「ガルドさんの構想を、数字の面から支えてもらうんですね」
エドがすぐに理解した。
「ああ。ガルドさんが考えた事業を、実現できる計画に落とし込む。そのうえで、営業担当が取引先を開拓する」
「現場の管理と教育も必要ですね」
セリアが続ける。
「そうだな。五人全員を責任者にするわけにはいかないけど、それぞれの強みを生かせる役割はあるはずだ」
レオンが資料を覗き込んだ。
「ただ、ガルドさんが本当に人をまとめられるかは、まだ分からないんじゃないか?」
「その通りだ」
俺は頷いた。
「だから、いきなり大きな権限を渡すんじゃなくて、まずは小さな計画を任せる」
「試験的に始めるわけですね」
「そう。計画を作って、数字を確認して、少人数で試してみる。そこで結果を見ればいい」
全員が頷いた。
少しずつ、考えが形になっていく。
人財鑑定があるからといって、答えがすべて分かるわけじゃない。
能力が高くても、経験が足りないことはある。
本人が望んでいない仕事なら、力を発揮できないかもしれない。
だからこそ、実際に話を聞き、働く姿を見て、必要なら役割を変えていく。
人財を生かすというのは、そういうことなのだと思う。
*
翌日。
俺たちは再び中央商会を訪れた。
会議室には、商会の責任者と五人の候補者が集まっていた。
「お待たせしました」
俺は一礼して、用意してきた資料を机に置いた。
「結論から申し上げます。今回は、一人を選んで終わりにするべきではないと考えています」
商会の責任者が眉を動かした。
「と、言いますと?」
「新規事業に必要な役割を整理し、それぞれの得意分野を組み合わせるんです」
俺は資料を開いた。
「ガルドさんには、事業の企画と構想を中心に担当していただきたいと考えています」
ガルドが驚いた顔をする。
「私が……企画を?」
「はい。ただし、計画の数字については、管理能力に優れた方と一緒に進めていただきます」
続けて、営業担当、現場管理、教育担当の役割を説明した。
商会の責任者は、黙って資料に目を通していた。
「なるほど……。一人の責任者にすべてを背負わせるのではなく、役割ごとに責任を持たせるわけですね」
「その通りです」
「しかし、意見がぶつかった場合はどうしますか?」
もっともな質問だった。
「最終的な判断をする責任者は必要です。ただ、その人がすべてを得意である必要はありません」
俺はガルドを見た。
「大切なのは、自分に足りない部分を理解し、他の人の力を借りられることです」
ガルドはしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと口を開いた。
「……私は、今まで自分の案を認めてもらうことばかり考えていたのかもしれません」
彼は隣に座る候補者を見た。
「一緒に考えてくれる人がいるなら、今度こそ実現できるかもしれない」
その言葉に、隣の候補者も頷いた。
「数字の面なら、私が協力できます。ですが、実現性のない案なら遠慮なく指摘しますよ」
「ぜひ、お願いします」
ガルドが笑った。
会議室の空気が、少しだけ和らいだ。
商会の責任者は資料を閉じると、俺に向き直った。
「人財屋さんにお願いしてよかった。正式な配置は社内で調整しますが、この方針で進めたいと思います」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
今回の仕事は、まだ始まったばかりだ。
実際に事業が成功するかどうかは、これからの努力次第。
それでも、最初の一歩は踏み出せた。
*
商会を出た帰り道。
「直人さん、今回の仕事、勉強になりました」
エドが言った。
「俺もだよ」
「能力を見抜くだけじゃなくて、組織全体を考えるんですね」
「ああ。誰か一人が優秀だからといって、組織がうまくいくとは限らないからな」
俺は空を見上げた。
この世界には、まだ知らない仕事がある。
まだ出会っていない人がいる。
そして、能力を生かせずに悩んでいる人も、きっと大勢いる。
人財屋として、できることはまだまだある。
「直人」
隣を歩いていた凛が声をかけた。
「ん?」
「私にも、何かできることはあるかな?」
俺は少し驚いて凛を見た。
「どうして?」
「直人たちが人の才能を見つけているのを見て、私も考えたくなったの」
凛は前を向いたまま続けた。
「勇者として戦うことだけが、誰かを助ける方法じゃないのかもしれないって」
その言葉を聞いて、俺はすぐには答えられなかった。
凛には凛の役割がある。
無理に人財屋へ引き込むつもりはない。
けれど――。
「そう思ったなら、一緒に考えてみよう」
「……うん」
凛が笑った。
人の才能を見つけること。
その才能が生きる場所を作ること。
そして、本人がまだ知らない可能性を、一緒に探すこと。
それが人財屋の仕事だ。
もしかしたら、凛にも。
俺たちがまだ知らない力があるのかもしれない。
ただ、それを知るのは、もう少し先の話だった。
今回のテーマは「組み合わせる力」です。
一人ではできないことも、違う才能を持った人間が集まれば可能になる。
人財屋という物語だからこそ、こうした組織づくりも今後の重要なテーマにしていきたいと思っています。
Amane




