才能の、その先に
【第二章 第31話】
五人の候補者。
その中に、直人がこれまで見たことのない才能がありました。
【事業創造適性――S】
人財鑑定に現れた新しい可能性。
直人は、その意味を考え始めます
中央商会の会議室。
俺は目の前に座る男性を見つめていた。
事業創造適性:S。
これまで人財鑑定で見てきた能力とは、少し違う。
営業や交渉、管理といった能力は、仕事を進めるためのものだ。
だが、この適性は違う。
何もないところから、新しい仕事を生み出す。
そんな力を示しているように見えた。
「……何か?」
男性が不思議そうに尋ねてきた。
「あ、いえ。失礼しました」
俺は慌てて表情を戻す。
いけない。
能力が見えたからといって、本人のことを理解したつもりになってはいけない。
それは、この人財屋を始めてから何度も学んできたことだった。
「まず、これまでのお仕事について聞かせてもらえますか?」
「もちろんです」
男性は背筋を伸ばした。
「私はガルドと申します。これまで十年以上、中央商会で働いてきました。主に新商品の企画や、取引先の開拓を担当しています」
「今回の新規事業にも関わっているんですか?」
「はい。ただ……」
ガルドは少しだけ表情を曇らせた。
「私は、責任者の候補から外されると思っていました」
「どうしてですか?」
「これまで、私が提案した事業の多くは採用されませんでしたから」
意外な言葉だった。
事業創造適性がS。
それなのに、新しい事業を任されてこなかった。
「提案が採用されなかった理由は、分かっていますか?」
「……実現性が低い、と言われました」
ガルドは苦笑した。
「自分でも、そうだったのかもしれないと思っています。アイデアを考えるのは好きなのですが、予算や人員の計算が甘かったこともありました」
なるほど。
才能があることと、その才能を仕事で発揮できることは同じではない。
アイデアを生み出す力があっても、それを形にするための計画や管理が苦手なら、事業は前に進まない。
だからといって、彼の才能を否定する理由にもならない。
「ガルドさん」
「はい」
「もし今回の事業を任されたら、何をしたいですか?」
彼は少し驚いたあと、真剣な表情になった。
「王都の外にある小さな町にも、商品を届けられる仕組みを作りたいと考えています」
「王都の外に?」
「はい。今の商会は王都での販売が中心です。しかし、地方には良い商品があっても、流通の問題で売れないものがたくさんあります」
ガルドの声に熱がこもる。
「地方の生産者と王都の商人をつなぐことができれば、双方に利益が生まれるはずです」
俺は黙って話を聞いた。
確かに、可能性のある構想だ。
ただし、輸送費や商品の保管、売れ残りのリスクなど、解決しなければならない問題も多い。
「その計画を、具体的な数字に落とし込んだことはありますか?」
「……いえ。まだ、そこまでは」
ガルドは俯いた。
「やはり、私は責任者には向いていないのでしょうか」
「いいえ。今の話だけで、そう決めることはできません」
俺ははっきりと答えた。
「ただ、事業を成功させるには、アイデアを考える人だけでは足りません。計画を立てる人、数字を管理する人、現場を動かす人。それぞれの力が必要です」
「それぞれの力……」
「ガルドさんが全部を一人で抱える必要はないんです」
彼が顔を上げた。
「自分の得意なことを理解して、それを支えてくれる人と組む。それも、立派な組織づくりだと思います」
隣でエドが小さく頷いた。
セリアも、真剣に話を聞いている。
俺自身、経営者だった頃には、何でも自分で判断しようとしていた。
自分が頑張れば何とかなる。
そう思っていた時期もある。
だが、組織が大きくなるほど、一人の力には限界があると知った。
人を生かすというのは、単に能力の高い人を集めることではない。
それぞれの得意なことが、互いの弱点を補える場所を作ることだ。
それが、俺の考える人財屋の仕事だった。
*
その後、残りの候補者とも面談を行った。
五人とも、優れた部分を持っていた。
営業に強い者。
数字に強い者。
現場をまとめるのが得意な者。
人を育てることに長けた者。
それぞれの話を聞き終えた頃には、昼を過ぎていた。
「直人さん、どう考えますか?」
商会を出た帰り道、セリアが尋ねた。
「まだ結論は出せないな」
「ガルドさんが一番ではないんですか?」
「才能だけなら、かなり面白い人だと思う」
俺は少し考えてから続けた。
「でも、適性が高いから責任者にする。それだけじゃ、また同じことになるかもしれない」
「では、どうするんですか?」
「五人の能力を、組み合わせて考える」
エドが資料を開いた。
「つまり、一人を責任者に選ぶのではなく、役割そのものを見直すんですね」
「そういうこと」
俺は頷いた。
「商会が本当に必要としているのは、最も優秀な一人じゃない。新しい事業を成功させられる組織だ」
レオンが笑った。
「なるほどな。人選だけじゃなくて、チームづくりから考えるわけか」
「ああ」
そのとき、隣を歩いていた凛が口を開いた。
「……直人らしいね」
「そうか?」
「うん。昔から、一人だけが頑張るより、みんなでできる方法を考えていたから」
俺は思わず凛を見た。
そんなことまで覚えていたのか。
「……よく見てるな」
「そっちこそ」
凛は少しだけ笑った。
「人のことばかり見て、自分のことは後回しにするところ。変わってないね」
「それは……否定できないな」
みんなが笑った。
その笑い声を聞きながら、俺はふと、先ほどの鑑定結果を思い出した。
事業創造適性:S。
今までは、人の能力を見つけることに意識を向けていた。
だが、これからは違うのかもしれない。
個人の才能を見抜くだけではなく、その才能が生きる組織を作る。
人と人を組み合わせることで、一人ではできなかったことを実現する。
もし、それができるようになれば――。
人財屋は、もっと多くの人を支えられる。
俺は歩きながら、小さく呟いた。
「……もう少し、考えてみるか」
人財鑑定に現れた、新しい適性。
その意味は、まだ分からない。
けれど。
今回の仕事が、俺自身にとっても新しい一歩になる。
そんな予感がしていた。
今回は「才能がある=そのまま成功するわけではない」という部分を描いています。
どれだけ優れた能力を持っていても、苦手な部分はあります。
だからこそ、人財屋として「組み合わせる」という考え方が重要になってきます。
ここから、直人の仕事の幅がさらに広がっていきます。




