その名前を聞いて
その名前を聞いた瞬間、止まっていた時間が動き始める。
「直人」
そして――。
「久しぶり、凛」
二人は、ついに再会します。
「直人さんのことですか?」
その名前を聞いた瞬間。
凛の胸が、大きく跳ねた。
「……はい」
声が震えないように、必死に抑える。
「直人さんは、ここを経営している人です」
「……経営?」
「はい。私たちと一緒に、この人財屋を立ち上げました」
凛は黙ってセリアの言葉を聞いていた。
間違いない。
同じ名前というだけではない。
この店。
人財屋という名前。
そして――この文字。
すべてが繋がっている。
「直人さんは……どんな人ですか?」
「どんな人……ですか?」
セリアは少し考えた。
「そうですね……」
そして、柔らかく笑った。
「人のことを、よく見ている人です」
「……」
「その人が何を得意としているのか。何をしたいのか。本人さえ気づいていないことまで、見つけようとします」
凛は俯いた。
それは、昔から変わらない。
直人は昔から、人のことをよく見ていた。
自分のことより、周りの人間のことを気にしていた。
「それから……」
セリアが続ける。
「困っている人を放っておけない人です」
凛の指が、わずかに震えた。
「……やっぱり」
「え?」
「いえ……何でもありません」
凛は顔を上げた。
「その人は……今、どこに?」
「もうすぐ戻ってくると思います」
「……そうですか」
心臓の鼓動が、どんどん速くなる。
会える。
本当に会えるかもしれない。
そう思った瞬間――。
店の外から、聞き慣れない男の声がした。
「ただいま戻りました!」
レオンだった。
続いて、別の声。
「報告書、こちらに置いておきます」
エドも戻ってきたようだ。
だが――。
凛は反応した。
店の外。
人の気配が一つ増えた。
そして。
「ただいま」
その声を聞いた瞬間。
凛の世界が止まった。
忘れるはずがない。
何年経っても。
どれだけ遠く離れていても。
その声だけは。
間違えようがなかった。
「……直人」
凛が、ゆっくり立ち上がる。
セリアが振り返る。
「直人さん、おかえりなさ――」
扉が開く。
そこに立っていたのは。
間違いなく――。
桜井直人だった。
直人も、店内にいる女性を見た。
最初は、ただの客だと思った。
だが。
その横顔。
立ち方。
そして――。
こちらを見る瞳。
記憶の中にある姿と重なる。
「……え?」
声が出なかった。
凛も何も言わない。
ただ、互いを見つめる。
数秒。
いや。
実際には、ほんの一瞬だったのかもしれない。
それでも二人にとっては、途方もなく長い時間だった。
「……凛?」
直人の口から、その名前がこぼれた。
凛の目に、涙が浮かぶ。
「……直人」
その声を聞いた瞬間。
直人は確信した。
夢ではない。
幻でもない。
ずっと会いたかった人が。
目の前にいる。
「……本当に、凛なのか?」
「うん……」
凛は小さく頷いた。
「私だよ」
直人は、言葉を失った。
異世界に来てから。
何度も思った。
もう会えない。
そう思っていた。
だからこそ――。
今、何を言えばいいのか分からない。
凛も同じだった。
ただ、涙を拭いながら笑った。
「……久しぶり」
その一言で。
止まっていた時間が、ようやく動き始めた。
直人は、ゆっくりと笑った。
「……ああ」
そして――。
「久しぶり、凛」
人財屋の小さな店内に。
二人の再会を告げる声が、静かに響いた。
ようやく再会です。
第一章の最後から続いていた「再会の予感」が、ここで一つの形になりました。
ただ、ここからが本当の意味での始まりです。
二人がこの世界でどんな関係を築いていくのか。
そして、それぞれがどんな道を歩んでいくのか。
引き続き楽しんでいただければ嬉しいです。
Amane




